4番目

4番目

最初の文章たちを3番目に乗せれば良かった──

「行くぞ凪! 2人で世界一へ!!」

「(あー、面倒くさ)」


このとき、彼らは知らなかった。この試合を帝襟アンリが見ていたことによって、青い監獄へと招待されることを。そこで、常識も感情も友情だってブッ壊されることを。……それでも、今の言葉を忘れることなんて、無いことを。



改めて説明しよう。

これは、『天才』凪誠士郎が、自分でもまだ知らない、己の才能(エゴ)を自覚するまでの物語である。






「(いやいやいや、なんかスゲー勝ち進んでるけど、俺そこまでやる気無いから)」


スマホをいじりながら、まだ何も自覚していない凪誠士郎(高校2年生)は、困惑していた。画面に映るのはネットニュース。「白宝高校 またも、強豪校破る!!」と、でかでかと書いてある。


「(何、『彗星の如く現れた2人』って……。まぁ天才だと思われてんなら、まだ取り繕えてんのかな)」


良かったような後が怖いような。だが、実感としては、どんどん崖に追い詰められてきている感覚だ。


「このままじゃ、いつかボロが出る」


どうしようか。

本当は、御影に「サッカーなんて本当はできないんだ」と言えば良いのだろう。だが、なんとなく、彼にサッカーのことでは失望されたくなかった。


「(……ダメダメ天才ムーブするか)」


これまでも割とダメダメ天才ムーブだった気はするけれど、それは置いておく。天才なのにダメダメってなんだとか思いながら、凪は嫌われるために、天才ムーブを極めることにした。




やることは至って簡単。我儘になることだ。

例えば。


「喰うか?」

「えー、消化面倒くさい」


消化は勝手に体がしてくれるだろみたいな意味がわからないことを言ってみたり。


「あー、風気持ちぃー」

「うぇーい」


めちゃくちゃ疲れているはずの御影に自転車を漕がせてみたり。


「おい、ラスト一周!!」

「だー、もーヤダ。はい疲れた歩けませーん」


真面目にやらなくてはならない部活の練習をちょっとサボったり。


「ナギ・オブ・ザ・デッド」

「ったく……しょーがねぇなぁ」


……なのに。


「あー楽チン。レオリムジン(……全ッ然失望してくんないんだけど!! なんだコイツ!?)」


辞めろとか一言も言ってこない彼に、こちらがペースを乱されてしまっていた。なんで今韻踏んじゃったんだ。


「はい、今日もよく頑張りました」


御影も相当頑張っているはずなのに、たまに文句を言いながらも、しょうがないと凪の世話を焼く。ちょっと本当に意味がわからなかった。


「…………レオって変だよね」

「何それ? お前に言われたくねーけど」


でしょうね。というか、御影から見ても、凪は相当変人だったのか。凪は自分の行動の見え方が間違っていなかったことに安心した。


「だって、俺と一緒にいるの面倒くさがらないから」

「ハハ、全然許容範囲」

「(マジか)」


どこまで変人と天才を加速すればコイツは引くんだろうか? 凪は自分の欲望をプルスウルトラしなきゃならないのか。


「つーか、」


思考が変な方向に向かう凪をよそに、御影は続けた。


「お前といると、楽しいからな」

「(…………え)」

「お前は? そろそろ楽しくなってきたか?」

「…………んー、サッカーは別にやりたくないけど……、レオといるのは面倒くさくないから良い」

「楽しいって言えよ」


夕焼け空が2人を照らす。


「(そんなこと言われたの、初めてだ)」


……なんか、失望させるとか、どーでも良くなってきた。

凪は、これまで必死に嫌われるために奔走してきたのを全部放って、御影に体重を預けた。


「(……ま、失望させるまでの間は、一緒にいても、良いかも)」


されたらされたときの話。そのとき考えよう。今は、面倒くさくない方へ。


汗臭くて、熱くて、とても乗り心地が良いとは言えないけれど、レオリムジンに乗るのは悪くなかった。

Report Page