36日目①
鳥飼天竜人窓ガラスが叩き割られる様な音で目を覚ます。
またD.Dが暴れているのか。
しかし、強化ガラスが割れるような事態は今までで初めてだ。
恐る恐る扉を開く。
割れた窓から吹く風でカーテンがそよぐ。
そこに鳥の気配は無い。
部屋は既に間抜けのからだった。
D.Dが脱走したのだ。
そう気づくまでに時間はかからなかった。
私は寝起きのまま家を飛び出した。
兎に角走らなければ、走らなければD.Dの速度には追いつけまい。外の世界には危険が溢れているのだ。万が一のことがあったら…。
思わず溢れそうになる涙を必死で堪える。慣れない場所へと移され、さぞ不安だっただろう。その心を理解してやれなかった私の責任だ、D.Dになんて詫びよう。
無我夢中で名前を叫びながら、ひたすらに走る。まだそう遠くへは行っていない筈だ。間に合う、追いつける。その時、道の右奥で大きなどよめきが起こったようだった。私は天竜人達の悲鳴が聞こえたほうへ舵を切った。
静かな運河のそば、D.Dは我関せずといった顔で桃色の羽をはためかせている。
周囲の天竜人は銃を次々に発砲した。
私がやめてくれと叫ぶより早く、D.Dは彼等に牙を向く。
恐ろしい程の覇気が一帯を覆い尽くしていく。
次々と気絶する天竜人や海兵達、鳴り響くサイレン。阿鼻叫喚とはこの事か。
私はすぐさまD.Dに駆け寄る。
怪我はないか、奴等に怖い思いをさせられていないか、どうして逃げ出したのか。
聞きたいことは息の荒さにかき消され、何一つ喉を出てこない。
D.Dは私に背を向けて走り出す。
私もそれを追おうとした、その時だった。
神の騎士団が、D.Dの腹部を撃ち抜いたのだ。