31が悩んでるだけ
風魔法使いこと31は悩んでいた。
新技の開発?
違う。
補助魔法の上達?
違う。
くろがね屋に作ってもらう道具で悩んでいる?
違う。
命の恩人たる鴉使いさんに送る料理のことについて、である。
あの飛竜軍団が襲来してきた時。
炎飛竜が放ったブレスで、自分は大怪我を負っていたはずなのだ。
最悪の場合、死んでいたかもしれない。
そこを鴉使いさんの使い魔の鳥が助けてくれたわけだ。
しかもその前の吸血植物騒動の時、その使い魔が魔力回復薬を届けにきてくれた。
二つも恩があるわけで、半端なものでは恩を返し切る事はできない。
ワンナウト。
そこでふと気づく。
あれ?鴉使いさんといえば、吸血植物の時に共闘した。
その吸血植物騒動の時に魔力の使いすぎで倒れたはず。
あの時、宿屋までわざわざ運んでくれたニッパさんにもお礼をしていない。
ツーアウト。
まずい、これはまずい。
そういえば、街の復興の時にも倒れて足手まといだった。
炊き出しを手伝ったとはいえ、風魔法を使う余力を残していればもっと役に立てた。
スリーアウト。
31に重石がズシリとのしかかる。
あの時、二人以外に復興を手伝っていたのは、魔術師さんに、バリアの人に、武術家さんに、護衛の人に、顔文字…は早々に廃墟と化した留置所で爆睡していたらしいからまあいいか。ていうか気付けよ。
いや、やはり炎飛竜の弱点を見つけてくれた功労者でもあるし、除外しなくても良いだろう。
ネブラや鳥達にも何かしらしてやりたい。
ともかく、諸々の人に迷惑をかけてしまったわけだ。
思い出せば思い出すほど礼をしなければならない相手が増えていく。
あれ?多くね?おう、多い多い。
現実逃避を仕掛ける思考をとっ捕まえ、再び考える。
大人数で食べられる料理。
焼肉、とか?いや、それだと男性陣は喜ぶかもしれんが、魔術師さんはもっと軽めの料理の方がいいかもしれない。
いや、料理よりもお菓子の方が良いだろうか?
そもそも、個人個人に届けるべきなのでは?
いや、知らない!住所知らない!
武術家さんに至っては森の中に住んでいるそうだ。仙人かよ。
というか、各々の嫌いなものを把握していない。
あれ?俺、これまで色々作ってきたけどもしかしてやらかしてた?
皆、喜んでいるように見えて嫌いなものを食ってた??
そういえばミネストローネの時もグイグイ進めてしまったが嫌がってる人もいたんじゃないのか???
メガティブな方向に進もうとする思考を再び引っ掴んで戻す。
待て待て、ならば今回はちゃんとすればいいだけだ。
しかしどうする?
大人数で食べることができ、かつ女性も喜び、全員の好き嫌いを突破する事ができ、使い魔達も食べる事ができる料理…。
うーーーん。
そうだ、と31の頭に電流が走る。
あったじゃないか。あれなら出来るじゃないか。
忘れないように机の引き出しから紙と羽根ペンを取り出し、ガリガリと案と必要な材料を書き出す。
大人数で食べる事ができる。
女性も喜ぶ。
好き嫌いを突破できる。
使い魔達も食べる事ができる。
夥しい量の材料名とそれと同じ量の料理名が書き出された紙の一番上には、大きく案の名前が書かれていた。
【バイキング】
要は、全部やってしまえばいい、と考えただけである。
最早思考放棄に近い決断をした31は、早速あれこれ考え出すのだった。