3人目 狙撃手とホビウタ

3人目 狙撃手とホビウタ



おれは麦わらの一味の狙撃手、勇敢なる海の戦士ウソップ。

おれ達は今、愛と情熱とオモチャの国ドレスローザにやってきた。

動くオモチャがまるで人間のように街中に溶け込んでいる、たまげた光景だったがおれ達の仲間に動く人形で賞金首でもあるぬいぐるみのウタがいるため、やっぱそういう種族なのかと納得したぐらいだ。



おれの故郷シロップ村で初めてウタに会ったことを思い出す。

いつかの日に、カヤに魔女によってオモチャに変えられた不思議な国があるんだというホラ話をしたこともあって、本当に世には動くオモチャがいるのかと驚いたものだ。

ウタは人形だったけど強かった。

ビビって足が震えていたおれをペシリと叩いて大丈夫と言わんばかりに鼓舞してくれたこともある。


ウタは素直でいいやつだ、アラバスタに到着する前にナミから頼まれて作成し始めたプロトタイプのクリマタクトなんて一つ一つ手をたたいて誉めてくれた。

「ファイン=テンポ!」

鳩が出てくる仕様にした、ウタは手を叩いて喜んだ。後にナミは怒った。

「クラウディ=テンポ!」

銃のような形にした、棒の先からはお花が出る仕様にした、ウタはピョンピョンと跳ねて褒めてくれた。後にナミは怒り敵には不憫だと同情された。

「トルネード=テンポ!ってぁぁぁああああ!ウタァ!!」

『ギ~~~~~!!』


ボチャンッ!

色々と楽しくってつい宴会芸用の技が多くなってしまい、真面目にすごい技を考えたらウタが絡まって凄い音を立てて吹っ飛び海に落ちた。急いで泳いで助けに行ってら海獣が現れて食べられそうになり、ルフィとチョッパーが助けようと海に落ちてサンジに助けれながらゾロが海獣を切って助けてくれた。ちなみに海獣はその日の夕飯になった。


おれ達の合体技ウタヒメ星なんてものもある、ウタに持たせるやらせることで色んなバージョンもある技だ、よく使うのは音波攻撃をまき散らしたり衝撃貝をもたせたり、ワサビやからしとか、ハンマーとか……まあ、色々だ。エニエスロビーでも大活躍だった。その時にロビンをさらった悪役面の政府の役人に攻撃したせいかウタにも懸賞金が付けられていた。


2年間の修行の間、サニー号を守ってくれてありがとう。

サニーの芝生の庭も綺麗に整備されていて、ナミのミカン畑も害虫の被害もなく綺麗にミカンが生っていた。

冷蔵庫のパスワードを教えてもらっていた数少ないクルーのウタは、ちゃんと冷蔵庫の中身も整理していたらしい。サンジが恐る恐る冷蔵庫を開けて『おお~!!冷蔵庫の中身が綺麗だ!!しかも保存食も結構そろってる!!』と嬉しそうにしていた。


シャッキーが2年前、食材が腐る前にと一緒に整理してくれたというじゃないか。

代わりにとおれ達がシャボンディに来てから煮豆だの酒だのを沢山くれた。ぼったくられるかと思ったけどシャッキーはお代はもうもらった様なものだと言った。「フフフ、これはウタのバイト代みたいなものよ……看板娘として、そして用心棒としても稼いでくれたからね」ウタがその言葉を聞いてムフーッ!っと自慢げに胸をそらしていたのがちょっと気になるが……お前一体2年間の修行の間なにしてた??え?海兵や賞金稼ぎをちぎっては投げちぎっては投げ!?え?覇気をまとわせた石ころ投げ攻撃や音波攻撃できるようになった!?覇気をまとった拳や頭突きなどの物理攻撃以外に元々強力だった防御できない音波攻撃が覇気をまとってさらに凶悪に……まあ、頼もしい限りだ。


新世界に入り、魚人島での久しぶりの一味そろっての戦闘は不思議と楽しかった。

そして竜宮城で開いてもらったコンサート、海底のディーバと言われた人魚の歌はとろけるような歌声でウタも嬉しそうに体を揺らしていた。昔作ってやったカスタネットを鳴らしてブルックと一緒にスイングジャズオーケストラの面々と一緒に音楽を楽しんでいた。


パンクハザードでの冒険を終えて、目の下のクマが凄い元七武海、ルフィ命名トラ男を加えて、やつの言う作戦を遂行するために行ったドレスローザ。グリーンピッドという離れ小島の地下でおれとロビンはトンタッタという小人の国にたどり着いた。

レオ達小人族に連れられていった先にフランキーとウタがいた、コロシアムで出会ったという片足のオモチャの兵隊はレオ達の隊長だという。


そのオモチャの兵隊から、このドレスローザがリク王という優しい王様からドフラミンゴと言う海賊に乗っ取られてしまった話を聞いた。

町のあちこちに住民のように溶け込んでいたオモチャ達。

動いて、喋って、笑ったり、驚いたり感情を持ったオモチャを街中で見たときに、おれはここはウタの故郷なんだなと思った。きっとおれだけじゃない、他に上陸したメンバーも同じことを思っただろう。


ただ、一つだけ気になったのは、どうしてウタは喋らないんだろうってことだった。


オモチャの兵隊の話が終わった時、情に熱く案外涙もろいアニキ気質のフランキーは予想通り怒りに燃え、ロビンもドフラミンゴを許せないと静かに怒りをこぼした。怒りで熱くなる2人とは逆に、フランキーの大きく盛り上がった肩の部分に腰掛け小さく震えるウタを見ておれは背筋が凍り付くのを感じだ。


「お前らオモチャが本当は人間……?」


「そうだ、そして人々の記憶から我々オモチャが人間だった時の記憶は消えてしまうんだ……例え親友でも、兄妹でも愛を誓い合った恋人でも、仲の良い家族でも……オモチャになってしまったものは彼らの中から消えてしまう、そしてシュガーの契約内容によってドフラミンゴファミリーの者に逆らえないようにされたり、やつらの言いなりの奴隷になってしまう者もいる。そこの君と一緒に見た犬のオモチャに変えられたミロという者も家族からは忘れられていただろう?そして自分が人間であると伝えようとしても誰も信じてはもらえないのだ、だれも消えてしまった者のことを覚えていないのだから」


「そうか……おれ達が見た人間だって言っていたオモチャみたいに、人間だと言えば人間病を発症したと言われてスクラップ工場に送られるってことか、本当は人間だってのにスーパー胸糞悪い話だぜ」


フランキーが悔しそうに拳を前で握りながら話す。


「契約……それでオモチャ達はドフラミンゴ達に逆らないのね。兵隊さんは平気なの?」


ホビホビの能力者の契約についてロビンがオモチャに兵隊に確認をしていた。


「ああ、私は契約内容を口にされる前にシュガーから離れてリク王を連れて脱出したからな」


皆で敵の能力について考察をする中、おれは別のことを考えていた。


「なあ……じゃあ、ウタは?どうなんだ??」


ロビンとフランキーがハッとした表情でおれを見る、そしてオモチャの兵隊の話が始まってからずっと無言のウタを見た。

いつもなら、そういつもなら『キィ』という壊れたオルゴールのような音を出しながらジェスチャーも交えて感情を表現してくれるウタが、いつもならこの理不尽な国の状況を聞けば柔らかそうな腕を見た目とは裏腹にブォンブォンと振り回してやる気満々のウタが、髪をピョンと立てて「やってやろうぜ!」と言わんばかりにピョコピョコ飛び跳ねてアピールするウタが、今は髪をへにょりと垂れさせていてどこか怯えているように震えている。


「ああ……彼女がいつから君たちと一緒にいるのかは知らないが、同じオモチャ変えられた者同士断言できる、キミは……人間だね?おそらくシュガーの契約によって声を出せないようにさせられたんだろう……」


『キ……』


思いのほか優しい声で問いかけた兵隊の言葉にウタは小さく頷き肯定した。

肯定したその姿が、やけにスローモーションに見えたおれは昔ルフィから聞いた話を思い出した。


――お?ウタもおれの絵の良さがわかるか~?お前もなかなかにアーティストだな!にしても不思議な人形だな~?

――子供の時にシャンクス達に貰ったんだよ!もう10年以上の付き合いだな~なぁウタ?


それを聞いたのはメリー号に乗り込んで麦わらの一味の船を書いたと時に嬉しそうに手を叩いたり飛び跳ねるウタを見たときの話だ、つまり最低でも……。


「ッ!!ウタは!もう12年以上ルフィと一緒にいるんだぞ!お前ッ!そんな前からずっとっ!!オモチャにっ!」


ウタとの冒険の日々を思い出す。|東の海《イーストブルー》での冒険の日々、リヴァースマウンテン前の嵐の中で皆で夢を確認し合ったことを、ウタヒメ星なんていう合体技でウタを色んな場面で敵に打ち込んだこと、ウソップ工房でおれの発明品を楽しそうに見て手を叩いて喜んでくれたこと、布や綿が解れたりしたらおれやナミ、そしてロビンの所に来て治して欲しいとアピールしてきたこと。そしてウォーターセブンでウタに対して酷いことを言ってしまった日のことを。


どんな気持ちだったろう?ウタが正確にオモチャになった日のことは分からないが少なくとも12年以上、決して短くはない時間をオモチャとして生きてきた。

おれの中にずっとあった「なんとか隙を見て逃げ出そう」の考えは消えた。

大事な仲間の一大事、ここでやらなきゃ男が廃るってもんだ。

ウタ、もうちょっとだけ待ってろよ?必ずSPO作戦を成功させて見せるからな!……でもおれ様の援護はしてくれよな?いや!決して怖いわけじゃねーぞ!!


ウタおれ達が絶対お前を人間にもどしてやるからな!とりあえずおれ達の無事を神にでも祈っておきながら待ってな!!

まさか、このおれが後に神として色んなやつに崇められることになるとはまだ予想していなかった。



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