28番の地元の集落
ニッパ・集落
北東の海と森に囲まれた場所にある、魔法を厳格に制限した集落。
掟に定められた種類、規模の魔法以外の使用を禁じている。
(例:火魔法は原則点火、ランタン内での維持のみ。治療魔法は重傷以外での使用不可)
魔法使いも居住しているが、必ず特定の仕事を担う二つの家のどちらかに所属している。また、外部から移住した魔法を使えるものもどちらかに加わらなければならない。
「防人」と呼ばれる警備を担う特殊な一族がいる。
この地での暮らしを与えてくれたものとして、既存の宗教以外に「むつあし様」と呼ばれる存在に対する信仰がある。毎年5月の初め頃に祭りを開き作物や外から来た品物を海辺の洞穴に捧げる。
掟さえ守れば余所者も受け入れる。その為噂を聞いてやって来た、魔法が苦手な人が移住することもある。
外貨は魚や周囲の環境で採れるもの、工芸品等を行商人経由で売って得ている。

集落の歴史
およそ640年前、とても大きな戦争が起きた。魔法と武器兵器が用いられ、国は荒れ、沢山の人が犠牲になった。
ある指導者がいた。彼は従者と友人の技術者、そして「穏やかな魔法使い」と共に人々を率いてそこから逃げてきた。長い旅の果て、海と森に囲まれた僻地に彼らはたどり着く。彼らは木を切り出して家をつくり、やわらかい土を探して畑を作り始めた。
ある日、猟師と魔法使いの弟子の「影」が外れにある岩場で恐ろしいものを見たと報告してきた。指導者と従者、技術者と「穏やかな魔法使い」がそこに行くと、鳥と虫を掛け合わせたかのような六足のいきものがいた。
いきものは不思議な箱を介して彼らに語り掛けた。彼らの生き様を見せて欲しい、代わりに欲しいものを与えよう、と。未だに終わらぬ戦争を恐れ、そこで振るわれる魔法を嫌っていた彼らは、それを退ける力をいきものに求めた。
いきものは魔法を消す力を持った「防人」とその力を有効的に使うための道具と文書を彼らに与え、この地で暮らすための知恵も授けた。
それからこの集落は防人が守る魔法を制限した場所になり、人々はいきものを「むつあし様」と呼び、毎年感謝の祭りを捧げるようになったのだ。
無力化した襲撃者への対応
月に1,2回のペースで襲撃があり、亡くなる防人は年に一人程。
襲撃の大半ははぐれ魔獣の類いで、例外を除き駆除する。集落では主に魚介類でタンパク質を補っており、家畜の肉を食べるのは冠婚葬祭の時が多い。そのため魔獣も貴重な資源として使うだけではなく、食用にできるものは食べていた。
僻地にあること、魔法を使わない人々が住むという噂を聞きつけて「導いてやろう」と思う自称天才魔法使いが来ることが昔からある。
人間系の襲撃者の半数は最寄りの自治団体に引き渡したり、所持品の多くを取り上げた上でその辺に放置する。
どうしようもない奴は即刻片をつける。そのままにしとくと獣を呼び寄せてしまうので、少し離れた場所にある岩場の上から投げる。
ガチでヤバかった時代
逆恨みに等しい報復を警戒していたので徹底的な方法をとっていた。
更正の余地がある者は身ぐるみを全て剥いだ後、僅かな金銭と食料を乗せた筏で海に流す。これは襲撃者の裁きを神に任せる意味合いもあった。
どうしようもない者は見せしめとして、集落への唯一の街道沿いに置いておいた。身動きがとれない檻に入れて吊るしたまま放置するだけではなく、かつて魔法使いから受けた仕打ちを再現するかのような刑罰を与えてから公開する場合もあった。
・防人一族
一定範囲内の魔法をすべて無効化する能力を持った一族。
外見はほぼ一般的な人間だが両性具有。見た目はゴリゴリの男から細身の可愛い系美人まで幅広く差がある。
普段は集落を囲む見張り台に常駐しており、無効化魔法を応用して集落全体の魔力を弱めている。
防人は集落が出来てからつくられた一族で、0から99までの番号が割り振られている。余った番号が新しい防人に与えられるシステム(例:10代目84番)。
数字を示す刺青を就任の際に首元に入れられる。(現在はイニシエーションという事になっている)

若い時間が長く、任期は基本30年から50年。
金属製品が集落では希少なため、防具は革や木、布の比率が多い。金属パーツはよく使いまわされる。盾とさすまたや槍、棍棒が主な武装。
基本的に悪い魔法使い相手には無効化→物理攻撃のクソコンボをすることが常識になっている。
初めの個体が製造された時に埋め込まれた本能と教育によって「悪しき害を与える魔法使いや魔法生物を滅する」という思想がどの個体にも少なからずある。
誰かや何かを守る守れることが価値とされている。
怪我で引退した個体等は番号の周囲に引退を示す刺青を追加で入れられ、集落で暮らすか「防人の島」で暮らすか選ばされる。

繁殖に適してると判断された個体は「父」もしくは「母」を示す刺青を追加で入れられ、そちらの管轄にまわされる。
反逆心を持った個体などは「正気を失った」と扱われ、ただの「種」・「胎」として使用される。
子がいない者は島で雑務に就く。子の世話の手伝いなども行う。
毎年生まれる個体は10人以下。寿命は人間とほとんど変わらない。生まれた子は5~10年「母」と共に過ごし、そのあとは防人候補として育成されるか繁殖用個体、補佐雑務員として基本的に島で暮らす。
数年に一度、集落から選ばれた若い男女が一名ずつ一族に嫁がされる。
これらの風習は集落をつくった当時の指導者が、恒久的に「防人」を維持するためにつくったもの。
初めの個体は薄緑の髪に赤い目と伝わっており、人間との混血であってもどちらかの特徴が発現する。
現在の防人達の半数近くが人間との交雑種であり、特に28番は9割人間成分でできている。
亡くなると海辺の洞穴での儀式の後、還される。
防人の成り立ち
集落が出来てから10年が経ったある日、ついに恐れていたことが起きました。防人が一人、魔獣に襲われて死んだのです。魔獣は残った防人と魔法使いの弟子「獣」が倒しましたが、指導者は不安に苛まれたままです。
確かに防人は人間ととてもよく似ています。食事や睡眠をとりましたし、集落の人々ともちゃんと受け答えをします。あまり望ましくはありませんが成長や老化の兆しもありました。ですが防人は普通の人間よりも遥かに強靭な体を持っています。周囲の魔法を無効化するだけではなく、酒や毒にも強く、病気にも滅多にかかりません。そして男でも女でもありました。またとない存在であることは集落の誰の目にも明らかでした。
指導者は「むつあし様」から頂いた彼ら30人がすべていなくなることを恐れ、穏やかな魔法使いと技術者に彼らを維持する方法を考えるように命じました。
二人は防人を観察し考えました。そして、彼らが「父」にも「母」にもなれるだけではなく、普通の人間の間にも防人の形質を持った子供をつくれるという事を明らかにしました。
こうして集落を守る防人の人数を100人に維持することができるようになったのです。
無効化魔法
一定範囲内の魔力魔法をすべて無効化する。一点に絞れば離れた場所にも作用する。
この力を抑えるには専用の呪文が刻まれた道具が必要になる。
デメリット
本当に「魔法、魔力の無効化」しかできない。
治療魔法が効きづらい、魔法で動く乗り物にも乗れない、抑えてやっと他の人並みに魔法が効くようになる。
発射の時点でバフが掛けられた投石や矢の超遠距離攻撃、魔法とかじゃない火炎放射なんかには弱い。
自然災害とか不慮の事故には当然意味がない。
・この集落の魔法使い
「穏やかな魔法使い」は指導者の友人。「闇」「獣」「影」の3人の弟子がいる土の魔法使い。彼らは優しく道中で何度も人々の命を救った。それでも恐怖の目を向けられることにただただ悲しさを感じていた。
彼らの子孫は2つの家に分かれている。防人の維持管理と農作業や家畜関係を担当するのは「獣」と「影」、建築や物品の制作を補助するのは「土」と「闇」。
魔法使いの家の敷地内では魔法の制限が弱い。しかし防人がすぐに制圧に行ける範囲内に双方とも屋敷がある。
彼らは防人達を事実上の家畜として扱い、それを当たり前のこととしつつ人として接するという矛盾に何十年何百年と苛まれ続けてきた。しかし自分達の生活は彼ら無しではもはや成り立たず、代々続いてきた職務を放棄するわけにはいかない。
彼らはこれを「あの時人々を救う事が出来なかった罪の罰」として個々の程度はあれど受け止めている。
・異界の者
こちらを観察している者がいた。海辺の洞穴を窓として長年にわたり生物や自然環境を見ていた。
ある時そこに人間の集団がやってきた。この一帯には時折魚や魔獣を狩りに人間が来ることはあったが、これほどまでの人数が一度に訪れることはなかった。しかもどうやらここに住もうとしているらしい。ますます興味を持ったので観察を続けることにした。
こちらの時間で数日が立った頃、あることに気が付いた。この世界には魔法という技術が存在する。人間達の中にも使える者が最低4人いることが確認できたが、彼らは魔法を限界まで使おうとしない。不思議に思ったので直接接触してみることにした。警戒心が強そうな魔法が使える人間と好奇心が強そうな武器を持った人間が一緒にいたので、視界に入るようわざと洞穴から身を出すと思っていた通り人間は寄ってきた。
彼らは姿を見ると恐れおののき、魔法が使える人間は魔法を使おうとした。だがその瞬間、もう一人の人間はさらに恐怖の表情を見せ、それを見た魔法を使う人間は魔法を使うことなくもう一人の手を引いて洞穴から逃げ出した。
しばらくして指導者らしき人間たちがやってきた。かつて作られた翻訳機を介して聞いたところによると、魔法によって故郷を追われ親類や友人を失った者達と安心して暮らせる新天地を求めてきたとのことだった。
彼らがこの世界において魔法をできるだけ使わない生活をしようとしているという話を聞いて面白そうだと思った。もう少しは観察を続けたかったので何が欲しいか尋ねると、彼らはいずれこの地にもやってくるであろう危険な魔法使いを迎撃できるものが欲しいと返した。
少し意外な答えが返ってきたのがさらに面白くて、丹精込めて彼らに似せた魔法を消し去る力を持った生命体をつくることにした。更に長く観察できるように少しサービスもすることにした。
それから約600年。今でも彼らの生活を眺め、向こうから「還って」くるものを分析し続けている。

「むつあし様」
鳥と虫を掛け合わせたような異界の生物。この個体は科学者もしくは錬金術師のような仕事をしており、こちらの世界を観察し研究していた。
「データ採りたいから使い終わったら返してね」という感覚で自信作をあげたら、ちょっと目を離したすきに勝手に繁殖させててびっくりした。
でも個体が死ぬごとにちゃんと全部丁寧にこっちに渡してくれるから、データに困らなくて喜んでいる。
還ってきたものは外見や服装から構成内容、脳から抽出した記憶まですべて調べた上でデータ化している。
不要になったもの(こちらの世界の物質)は分解して返却している。これはとても良い肥料になるからと集落の人間が信仰する理由の一つになっている。
2023/5/2 追記