>>26様より
その瞬間、グラスの瞳から感情が消えた。手にした薙刀を、思い切り振り上げる。数秒後には、仇の首は胴と今生の別れを成すだろう。
「────やめて!!」
刹那、グラスの目の前に一人のウマ娘が立ちはだかる。よく知っているその声に、グラスの手が止まる。
スペシャルウィーク、グラスに取っては無二の親友。今となっては、決別した過去のハズだった。
「私もこの人のことは何があっても絶対に許せない。でも、グラスちゃんがそうするって言うなら私を斬ってからにして」
「どうしてそんな事を言うのですか?私の怒りも苦しみも、貴方だって十分知っているでしょう!?」
その表情にかつての大和撫子の面影は無い。まるで橋姫か般若と見紛うような、怨嗟に塗れた表情だった。それでも、スペは一歩も退かず、大切な親友をその瞳に映し続ける。
そして、決意と共に震える口が動いた。
「それでも、私は大好きなグラスちゃんに、人殺しになって欲しくないよ」
刹那、グラスの脳裏に閃光が走る。そこにあったのは、今はもう居ない、あの人の面影。
『グラスの薙刀はいつ見ても凄いな』
『あら、貴方こそ、剣道は続けていらっしゃるじゃありませんか。偶にはお手合わせでも?』
『いやあ、やめておくよ。グラスを犯罪者にしてしまいかねないからね』
『……その冗談は笑えませんよ?』
『いや、冗談じゃないかな。グラスがそんな風になったら、俺が悲しいから』
『ふふっ、安心して下さい。貴方の隣に居る私は、清らかな乙女であり続けます』
『グラスなら、そう言ってくれると思ったよ……愛している』
『……私も、貴方を────』
小さな思い出の欠片が、胸いっぱいに広がっていく。その瞬間、グラスの表情がみるみる内に歪んでいった。張り詰めていた糸は切れ、手から薙刀がこぼれ落ちる。
そして────。
「あ、嗚呼……あ、なた……」
「グラスちゃ────」
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁっ……!!!! ああああぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!」
そこに、怨嗟に塗れた復讐者の姿は無かった。そこに居たのは、大切な人を失い、慟哭を上げる一人の少女の姿であった。
哀しみに暮れる少女に、スペシャルウィークがそっと歩み寄る。彼女は一切の迷い無く、目の前の親友を抱きしめたのだった。