21番目

21番目

箍が『1つ』外れる。

2点、3点、チームVは点を入れていく。徐々に絶望していくチームZの表情を見て、凪は何故か失望しかけていた。


「はいはい終わり終わり。結局どのチームも一緒なんだよ! べ♪」

「(一緒か、チームZ(コイツら)も……。なんだよ……、まだ、モヤモヤしてるのに……)」


勝てれば良いはずなのに、心がざわめく。こんなこと、初めてだった。


「良いね! 良いね! 楽しくなってきた♪」

「(──え)」


REST ART!!


無邪気な声が聞こえてきたのは、そんなときだった。仲間の制止や驚愕も無視し、口を凶悪に吊り上げる。8番──蜂楽は、とても楽しそうだった。


「俺の中の”かいぶつ”が言ってる……。『絶体絶命ってやつはビビる局面(とこ)じゃない! ワクワクする舞台(とこ)』!!」


予測不能なドリブルテクで、御影、剣城を突破していく蜂楽。


「3」

「(すご……なんだ蜂楽廻(アイツ)……)」

「2」


次々と抜き去って、あっという間にゴール前に辿り着かれてしまう。


「1」

「(──わ)」

「0(ボン)。ホラ、」


GOAL!!


「楽しくなってきたっしょ?」


凪は、仲間に囲まれる蜂楽を見て、先ほどの言葉を思い出していた。


「(”楽しく”……?)」

「……あれ? なんかチームZ(アイツら)……意気消沈?」

「意気投合な、バカ斬鉄……」

「終わってねーなー」

「面白ぇじゃん、完全に潰すぞ」

「…………えー、面倒くさ……」


御影と剣城の会話が、頭から抜けそうになる。


「(アイツらにとって、サッカーは”楽しい”んだ。”楽しい”なんて、思ったことないな)」


だって、凪にとってのサッカーは、『天才』を維持するために必要なものであり、わざわざ楽しむ意味が無かったから。


「(でも、もしかしたら、チームZ(コイツら)は知ってるのかな。俺の、このモヤモヤの正体を。熱くなっちゃう理由を──)」


GOAL!!


「ヤバ……チームZ(アイツら)10人のクセに……」

「追いつかれる……? フザけんな……」


知りたい。

アイツらがここまで戦える理由を。

知りたい。

”青い監獄”に集まった、ストライカーたちの理由(エゴ)を。

知りたい。

御影と会って、ここに来て、何かが明らかに変わってしまった、自分自身を。


「なんで潔く諦めないの?」

「!」


あの平々凡々の男──潔世一と並走し、そう問いかける。


「今まで倒した奴らと違って、キミたちは」


今までのサッカー(じぶん)を否定されるのは、身を裂かれる思いだろうに。


「なんでまだ向かってくるの? バカなの?」


否定されても、無下にされても、諦めないなんて、理解できない。


「理解できないなぁ……。俺がキミたちぐらいの才能なら、サッカーなんか辞めてると思うし」


本当は、サッカーの才能なんて無いけど。例えば、凪が『天才』を取り繕えなくなったら、すぐにサッカーなんか辞めてしまうだろう。

なのに、なんでコイツらは、ここまで必死に、凪が『天才』を演ることより必死に、サッカーをしているのだろう。


「ねぇ教えてよ。何がそこまで、キミを突き動かすの?」

「うるせぇよ天才。今いいトコなんだよ」

「(ありゃ、スゲー顔)」


さては潔世一、平々凡々でもなんでもないだろ。鬼気迫る表情にちょっと気押された凪は、そう思った。


「(教えてくれなかった……怒られた……)」


なんだあの生きもの。

訊いた質問の感想としては、これが正しい気がした。


「行けオラ!! お嬢!! ぶっちぎれ!!」


見ると、ボールを赤髪の彼──千切が受け取っており、走り出していた。彼はボールを大きく蹴り、剣城と競い合いに──


「え」


──今、凪は目を疑った。


「(斬鉄が、最高速(トップスピード)で負けた……)」


GOAL!!


「っしゃあ!! 追い付いた!! うらぁ!!」

「な……何やってんだよチームV(お前ら)!!? 本気出せバカ!! 10人相手に負けるとか恥ずかしくねーのかよぉ!!? タコぉ!!!」


久遠の声が虚しく響く。そう、10人相手なのだ。10人なのに、チームZの熱は凄まじく、このフィールド上を飲み込もうとしていた。


「黙ってろ、ゴミが……」

「(……レオが焦ってる)」


REST ART!!


「(凪・レオ・斬鉄(俺たち)、負けんのかな?)」


負ける。サッカーで負けるって、どういう感覚なんだろう。


「負けるのがそんなに怖いか? 無敗の温室育ちが!」


ハッとその声の方を見ると、顔が怖い人──雷市が、凶悪に笑っていた。


「『敗北(まけ)』っつう初めては、俺が奪ってやるよ!」

「ク……ソが……」

「レオ……」


レオも、あんな顔、するんだ。


「(──ぁ)」


気が付くと、凪は走り出していた。


「俺に渡せ!」


凪の言葉のせいで驚愕に染まった、御影の顔を見る。


「凪……」


パスを貰いながら、凪は自分がわからなくなる。


「(俺、レオの望む『天才』にはなれないのに)」


……『天才』には、成れないけど。

さっきの御影の顔が浮かんだ。


「レオ、俺、やってみる」


そう言って、凪は疾走する。


「来るぞ!」

「なんだ、急に!?」


アタマより、カラダが先走る。


「!(坊主頭来た、避けるには──こう)」


カラダより、ココロが加速する。


「(斬鉄に、パス)」


この『天才(ハリボテ)』を、ブッ壊したい。


「(で、来る)」

「シュートブロック!!」

「シュート来る!! 飛び込め!!」

「(そんで、ブッ壊して──)」


──『凡才(ホンモノ)』を試したい!!!!


GOAL!!


転がり落ちた凪は、身体中が、かつてないほど高揚しているのを感じていた。


「(なんだよ俺……。『天才』、あっさり辞めれるとか、嘘じゃん……)」

「凪……お前……」

「(あー、でも、ちょっとスッキリした)」


それはまるで、1つ箍が外れたような。驚く御影に、凪は漏らした。


「ねぇ、レオ。サッカーって面白いんだね」




『凡才』、覚醒。

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