20XX:ターン・ワールド・クイーン

20XX:ターン・ワールド・クイーン


 中央トレセン学園の片隅、ゆったりとした寝息の響く常磐ソウゴのトレーナー室に1人のウマ娘が入室した。

 部屋全体を一瞥し目的の人物を発見したそのウマ娘は、淀みない歩調で部屋の奥まで進まむと、書類の積み上げられたデスクの向こう側で気持ちよさそうに眠りこけるウマ娘の肩に手を置いた。

「シリウス先輩?」

 名前を呼ぶ声と体を揺すられた感覚に反応した意識が浮上する。

 嘆息と共に背もたれに寄りかかっていた上体を起こすと霧がかった思考が晴れて自らの状況を理解出来た。

「悪い。少し寝ちまったみたいだ」

 眉間のシワを伸ばしながら謝罪を述べるとシリウスを先輩と呼んだウマ娘は、腰に手を当てて詰め寄る。

「また勝手にトレーナーさんの椅子を占拠してたんですか?」

「人を盗っ人みたいに言うなよ。ちゃんとビリヤードで勝ち取った権利だ。それにこの椅子の心地良さはそう手放せるもんでもねぇしな」

 肘掛を撫でながら言い分を述べるシリウスに言い返せなかったのか、彼女は口を尖らせながらそっぽを向いてしまった。

「気持ちはわかりますけど……あ、そうだった。トレーナーさんが呼んでましたよ。何でも至急話したいことがあるからグラウンドまで来てくれって」

「子犬ちゃんが?分かった今行く」

 シリウスが席を退くと彼女は待っていましたと言わんばかりに素早い動作で座席に飛び込む。

 そして間髪入れずに背もたれをこれでもかと倒すと幸せそうな表情で瞼を閉じ、入眠の体制に入った。

 その図太さというか逞しさに感心したシリウスは小さく溜息を吐き出しながらその場を後にした。


 グラウンドへの道中、呼び出された要件を考えながら歩みを進める。

 この時期に呼び出しと言う事は凱旋門賞へのスケジュールの調整に関する事だろうか。ようやく皇帝を排し世界に挑む時が来たかと思うと口角が吊り上がり獰猛な笑みが浮かぶ。

 逸る気持ちを抑えつつ出来うる限りのスピードでグラウンドに辿り着くと、そこにはこちらに背を向けた男が立っていた。

 その男はこちらの気配に気付くと徐に振り返ってその顔を顕にした。

「やぁ、待っていたぞ。シリウスシンボリ」

 妙な猫なで声とその中に隠しきれない勝ち誇った愉悦。三日月状に曲げられた口元からはドス黒い復讐の色が滲んでいた。

「なんで、お前が」

 そこで待っていたのは加古川飛流。逆恨みを端に発する反骨心からソウゴに幾度となく挑み、その尽くを返り討ちにされた僭称の王。

 シリウスが思わず零した問に飛竜は下卑た笑みを崩すことなく右手を差し出しながら答えた。

「なぜだと?そんなこと決まっている。この俺こそがお前のトレーナーだからだ」




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