2024/1/20
かねて血を恐れたまえ
この一週間で生徒の失踪事件が四件発生している。どの生徒に関しても自らの意思で姿を消すような諸事情があったわけでもなく、第三者に攫われたような痕跡も発見できなかった。
奇妙なことにこの四つの事件がすべてある場所、トリニティ総合学園とゲヘナ学園の自治区に挟まれた、ビルゲンワース研究学園自治区を中心として発生している。
私はこの「ビルゲンワース研究学園」なる学校の名前を一度たりとも聞いたことがなかったが、この学園のことは色々と有名らしい。曰く、
「ビルゲンワース研究学園ですか……。歴史と考古学、それと医療の研究が有名な学園ではありますが、あまりいい話は聞きませんね。肝試しに行って泣いて帰ってくる生徒も多いので。
生徒の失踪事件に関係しているかもしれないと、それで先生はビルゲンワースに向かうんですか……。
先生の身を案じて忠告しておきます。行くべきではありません」
「ああそこかい。少なくとも私は行かないね。……もちろん、源泉があったとしても部を動かすことはない。
行きたい奴か行かせてるぞ。そんな世迷言をほざく奴は大馬鹿者か素質持ちの二択だからな。行ったら戻ってこないんだからどちらにせよ同じことだ。
……一つだけ言っておこう。行くのはやめた方がいい」
「ビルゲンワースですか……。ところであの学園の『医療教会』という組織についてご存じでしょうか。……では説明いたしましょう。
ビルゲンワース研究学園の何名かが『神の墓』と呼ばれる地下遺跡から持ち出した『聖体』、それを元に立ち上げられのが『医療教会』です。
はい、当時のシスターフッド、ユスティナ聖徒会はビルゲンワース研究学園と積極的に交流を行っていました。『神の墓』から持ち出される遺物、そして何より『聖体』、それらが教義の上でいかに重要なものになり得るか……それに関しては説明する必要もないでしょう。
しかしビルゲンワースの遺物は現在のトリニティにはとんど残されておりません。記録としてならいくつかありますが。——なぜ残っていないのか、ですか。それに関して正確な記録は残されていませんが、ビルゲンワース側で病魔が流行したために破棄されたそうです。
現在は『医療教会』がビルゲンワースの生徒会としてその役割を果しております。もしもビルゲンワースに赴かれるのでしたら『医療教会』を訪れてみたらよいでしょう。
……これはシスターフッドの長としてではなく、一人の生徒、歌住サクラコとして話しておきます。
あそこには行くべきではありません。たとえどんな理由だとしても」
何名もの生徒から警告を受けながらも、消えた生徒のことを調べないわけにもおけず、私はビルゲンワース研究学園に向かった。
ビルゲンワースの自治区に向かう電車は何十年も前に廃線となっており、自治区へ入れる唯一の街道を利用するしかない。午前中に公共交通機関とタクシーを利用して正午過ぎには街道の入口へ着くことができた。
「すみませんねお客さん。ここまでしか行けないんですよ」
‘‘ここから先のビルゲンワースに行きたい‘‘
「お客さん。怖いもの見たさならやめた方がいいですよ。ここでは人が消えますからね。新聞にも載ったんですよ。いくら貰ってもこの先には行きませんよ。ほら、降りた降りた」
そう言われた私はタクシーから降り、駆け足で消えていくそれを見送り、ビルゲンワースの街道へ目を向けた。
薄っすらとコケの生えた石が敷き詰められた街道は、怪奇小説の表紙にでも載っていそうな曲がりくねった巨木の森の中へ続いていく。斧が切り込まれたことのないであろう森には白い霧に包まれ、視界はあまりよくない。
あまり気持ちのいい場所ではなかったが、私は街道の方へ足を進めた。