20240509
ラウダは朝日差し込むベッドで目を覚ました。隣を見ると、ペトラの姿がない。
ラウダはベッドから起き上がり、部屋を出た。
いつもならペトラが朝食の支度をしている時間だ。しかしペトラの姿はなく、リビングは静まり返っていた。
少し不安になったラウダは、ペトラの部屋も確認する。「ペトラ?」ノックをしても返事がない。ドアを開けると、部屋は空っぽだった。ベッドはきちんと整えられたままだ。ラウダはリビングに戻ると、食卓を見つめた。テーブルの上は何も置かれていないし、冷蔵庫に貼ってあるペトラの手書きのメモにも目新しいものはなかった。ラウダは胸騒ぎを感じながら、外を探そうと玄関に向かった。
そのとき、玄関の開く音がした。
「あ、起きたんですね」
ペトラが買い物袋を手に、リビングに戻ってきた。
「ペトラ」
ラウダは安堵し、少し大きな声を出す。
「どうしたの、そんな顔して」
「起きたら君がいなくて、心配したんだ」
「ああ、ごめんなさい。卵が切れてたから、買いに行ったんです。10時までに行くと安いんですよ」
そう言ってキッチンに向かうペトラの後ろを、ラウダはついていく。
「そういえば最近、この辺りで窃盗団が出てるらしいですね。夜はあんまり外に出ない方がよさそう」
ペトラは買い物袋から食材を取り出し、冷蔵庫に入れながら言う。
「ああ、そういえばそんなニュースを見たな」
「怖いですね」ペトラは卵のパックを手に、ラウダに向き直る。
「ご飯作りますね。パンと目玉焼きと……」
ラウダはペトラの手元を見つめた。それからそっと、彼女の背中に触れる。ペトラはくすぐったそうに笑い、ラウダの方を向いた。
「どうかした?」
「……いや、なんでも」ラウダは目を逸らした。
ペトラはてきぱきと手を動かしながら、犯罪組織の洗練された手口について語り始めた。ラウダが、ペトラが犯罪に巻き込まれたんじゃないかと心配したと考えたのだろう。確かに犯罪者に襲われたら怖い。でもラウダが本当に不安だったのは、ペトラが自分の意志で出ていったのではないかということだった。
「家の中に侵入する前に、ターゲットの家の周りに小型カメラを仕掛けておくらしいですよ。住人の行動パターンを把握するために」
「そんなことまでするのか……」
「窃盗団の中にはITに詳しい人間がいるらしくて、大量に収集したデータをパターン分析にかけるんですよね。だから少人数で効率よく仕事ができる」
ペトラの話を聞きながら、ラウダは食卓を拭いた。
「卵に塩コショウして……、できました!」
ペトラは皿の上に目玉焼きを乗せ、それからテーブルに運んだ。パンが焼ける香ばしい匂いがキッチンに広がる。
「いただきまーす」
温かい朝食を前に二人で手を合わせる。幸せそうなペトラの表情を見て、ラウダもほっとした気持ちになった。昨日までと何も変わらない朝だ。