20240418

20240418


「ラウダ先輩、これで書類は全部チェックしました。あとはサインを書き込むだけです」

ペトラがそう言って、整理された書類の束をラウダの前に置いた。

「助かるよ、ペトラ。いつも手伝ってくれて」

ラウダは疲れた顔で微笑んだ。最近はジェターク寮の寮長と決闘委員会の雑務に追われ、ろくに休む暇もない。そんなラウダを、ペトラはできる限りサポートしてくれていた。

「君がいないと、もう回らないよ」

そう告げると、ペトラは頬を赤らめた。

「そ、そんな……私はラウダ先輩の役に立ちたいだけで……」

顔を伏せるペトラを見て、ラウダは小さく笑った。書類の束に目を落とすと、そこにはジェターク寮の予算案や、決闘委員会の議事録など、さまざまな文書が並んでいる。ラウダはペンを取ると、一枚一枚丁寧にサインを書き込んでいった。

「ペトラ。君は……」

ふとペンを止めて、ラウダはペトラに視線を向けた。

「は、はい……?」

ペトラが顔を上げ、真っ直ぐにラウダを見つめる。その瞳に宿る期待に、ラウダは胸が高鳴るのを感じた。伝えたい気持ちはあるのに、なぜかうまく言葉にできない。ここ最近ペトラに対して抱く感情が変化していることに、ラウダは気づいていた。

「……いや、なんでもない」

結局、言葉にすることはできなかった。机の上の書類に、再び視線を落とす。

「そうですか……」

ペトラは少し落胆したような表情を見せた。

「じゃあ、私はこれで失礼します」

そう言ってペトラが部屋を出ていく。静かに閉まるドアを見つめながら、ラウダは胸の内で呟いた。

(ペトラは……僕のことが好きなんだろうか)

こんなに献身的に尽くしてくれる姿を見ていると、期待せずにはいられなかった。しかし、我ながら単純すぎるとも思う。好かれているかもしれないと思った途端にその相手が気になって仕方なくなるなんて、まるで子供のようだ。

同時に、もし全部が自意識過剰な勘違いだったらと考えると、不安で胸がいっぱいになる。ラウダは時折、ペトラやフェルシーがなぜ自分に付いてきてくれるのか不思議に思うことがあった。もともと彼女たちは、グエルの華やかな魅力と圧倒的な強さに惹かれ、グエルの周りを囲んでいたはずだ。それがグエルの失踪を機に、ラウダの側に集まるようになったのだが。

「はぁ……」

ラウダは深いため息をついた。自分はこんなにも臆病だったのだろうか。今まではただ兄の背中を追いかけているだけで良かったのに、兄がいなくなってからは強制的に自分自身と向き合わされることが増えていた。

ラウダの脳裏に、学園中が見ている前でスレッタに唐突なプロポーズをした兄の姿が思い浮かんだ。誰もが度肝を抜かれたあの出来事は、学園中の話題をさらったものだ。兄のグエルは、思ったことを躊躇なく口にする。それがたとえ人前であろうと、お構いなしだ。対照的にラウダは慎重で、思いを伝えることで人間関係が壊れてしまうのが怖かった。

窓の外を見やると、夕焼けに染まるキャンパスが広がっていた。木々の葉が風に揺れ、緑が茜色に染まっている。グエルは今頃どこで何をしているのだろう。失踪したきり、一向に連絡がない。

(どうか無事でいてくれ……)

そう願わずにはいられなかった。ラウダにとって、残された家族はかけがえのない存在だ。視線を書類に戻すと、そこには山積みの仕事が待っていた。寮長としての責務は、日に日に重くのしかかる。ラウダは意を決し、ペンを走らせ始めた。早く片付けてしまわなければ。

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