2012年ダ一ビ一1着×2着
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さて、約束の時間である。
ステイゴールドは我が息子フェノーメノから掛けられた電話を思い出す。夜10時から2時間の利用と、受付時にラブホの受付にいて欲しいとのことだった。普通ラブホに男を連れ込む時は親にはいてほしくないものではないだろうかと首を傾げたが、こちとら狂気の血統だ。一般論を問うのはよしておこう。
予定通りフェノーメノが現れた。連れてきたのは、おおよそ同じ体格の鹿毛の男。
---おいおい、ダービー馬様じゃねえか。
「フェノーメノ、ここ、ラブホだよな? お前一体どういう?」
鹿毛の男、ディープブリランテは困惑しきった顔でいたが、次の瞬間さらに狼狽えることになる。
ゴッ。と鈍い音。フェノーメノがブリランテをアタッシュケースで殴ったのである。アタッシュケースの中から札束が舞い散る。ノータイム暴力であった。
「おい何やってんだ!」
「親父、今ブリランテは俺の札束を受け取ったよな?」
「は?」
「受け取ったよな?」
フェノーメノの言葉で合点がいった。要するに息子は絶対に味方になってくれる証人が欲しかったのだ。
「そうだな」
「おら商人がいるぞブリランテ! 手前は今俺から種付け料を受け取ったんだ、金もらった分きっちり仕事するのが筋ってもんだよなァ!?」
可哀想に困惑しきったブリランテはただ口をハクハクとさせている。それをいいことにフェノーメノはブリランテに馬乗りになった。
「こちとらムチムチ保育士だぞ、興奮するだろ? しろ! 抱けよ!」
「い、いまここで2時間パックでか!?」
「おう今ここで2時間パックでだよ!」
「おいどうしたんだよフェノーメノ、急に、落ち着けって」
「落ち着けるかよ!」
フェノーメノの叫び声には、どこか切実さがあった。
「お前、俺からダービーの栄光奪っておいて、俺が手を届かなかったのに、俺なんてもうこれ以上子供を残せないのに、クソ、クソ、クソ!」
「そんな、逆恨みだろ!?」
それは去勢した自分から種牡馬として働く相手への嫌がらせのようであって、嫌がらせなら自分を抱くように命じる必要がないこともステゴは分かっていた。そうはならないだろうが万が一このまま受付でおっ始められたら目も当てられない。仕方なく口出しすることにした。「うちの息子が悪いな。そいつさぁ、お前に抱かれたがってるわけじゃねえんだ」
「……え?」
「お前の種付け料が安くて、繁殖が少なくて、馬産の評価が低いことにキレてんだよ」
「ちげーわクソジジイ!」
「違わねえだろクソガキ。だからオキャクサン、正解はこう。『こんな金を払われたってお前なんか抱く気になんねぇよカス!』……そしたらうちのバカ息子、少なくともあんた本人はきちんと自分の価値を分かってるって安心するから」
「そんなわけねぇだろクソジジイ殺されてぇのか!? 俺はこいつが、俺が届かなかったダービー馬の座を得たこいつが、海外で壊れていなくなりやがったこいつが、手が届かなかったこいつが!」
フェノーメノは叫んでいた。叫んで、唾が飛んで、そして涙も散らしていた。どんなに眉を寄せたって、涙は隠せるわけではない。ブリランテはフェノーメノの目元を拭った。
「馬鹿だなぁ」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
「性行為って、繁殖のためだけにするもんじゃないだろ。愛してるからすることだってあるだろ」
ブリランテは下半身にフェノーメノを乗せたまま腹筋で体を起こした。
「だから、今ここではお前を抱かないよ。フェノーメノ。今度、お前が次の日に仕事がない時に抱くよ」
見えるところにあると子供たちの教育に悪いからな、そう言ってブリランテはフェノーメノの型を剥き出しにして噛みついた。
「予約な?」