2月6日午前0時
![](/file/8df1161c77f0658311605.jpg)
ワ
ン
ク
ッ
シ
ョ
ン
※ハーレム時空というよりは個別CP時空
※両片思いくらい
※現実では雪降ってるけどこの世界では晴れてる
※ナデシコちゃん誕生日おめでとう!
2月5日午後11時23分。スマホがピコン、と通知音を鳴らした。と思ったら連続で音が鳴る。
<ウシュバ
外
出ろ
来て
暖かいかっこして
「え、え、え?」
気がつくと外からバイクのエンジン音がしている。
ナデシコはカーテンの隙間からそっと外を覗いてみる。すると、いた。
バイクに跨るウシュバが、窓から覗くこちらに気づいてちょいちょいと手招きする。
「き、きんじょめいわく…」
一体なんだっていうのか。こんな夜中に突然。
ナデシコは慌てて着替えて外に出る。空気が刺すように冷たい。月明かりさえひんやりしていた。
「なに、なんなのあんた」
「もう風呂入った?」
「え?うん…」
「そっか…湯冷めしないように」
「なに…わぷ」
暖かいかっこして、なんてわざわざ言われたからそれなりに厚着をしてダウンジャケットまで着込んできたのに、更に上から毛糸のポンチョを被せられた。
「どうし」
たのこれ、言い終わる前にヘルメットがナデシコの顔を覆う。
「だから何!」
声がヘルメットの中で響いた。
「乗って」
ウシュバがポンポンとバイクの座席を指す。
わけがわからない。わからないなりに、なんとなくそんな気はしていた。だから冷たい風に当たっても耐えられるように着込んできたつもり。
ナデシコはおずおずと言われたとおりバイクに跨る。
「しっかり捕まってろよ」
ウシュバがナデシコの手を取って、自身の体に腕を回させた。自然と密着する形になる。
ウシュバもヘルメットを被ってバイクを発進させる。
突き刺すような夜風が、けれどやたら体温が上がっているナデシコにはちょうどよかった。
心臓の音なんてどうせエンジン音がかき消してくれる。
「ねえ!どこに行くのよ!」
どこかの橋を渡っている。行き先は不明のまま。
「〜〜〜〜〜!」
風を切る音とエンジン音でウシュバの声は何も聞こえない。
もう、しょうがないなあ。ぎゅっと抱きしめるようにウシュバに捕まる腕に力を込めた。
どれくらい走っただろうか。ようやくたどり着いた先は海岸だった。
ウシュバが連れてきたかったのはここだろうか。
「ん」
バイクから降りたナデシコの腕を引っ張る。
「なになに」
砂浜に出る。足元の砂をぎゅうぎゅうと踏みしめる。コンクリートの上に砂を敷いた競馬場とはまた違う感触だ。
「ほら」
そうやってウシュバに案内された先に広がるのは、きらきらと月明かりが反射する夜の海だった。
「わあ………きれい」
「だろ」
「うん」
しばらくその光景を見つめる。道路を照らす少しの街灯と欠けた月の光だけが明かりだった。打ち寄せる波。水面に反射する月明かりに、もう最初のひんやりとした温度はない。
「おまえ普段、夜の海なんて見ないだろ」
「それはそうよ、こんな時間に出歩かないもの」
ん?ナデシコは首を傾げる。
もしかしてウシュバは、これを見せたかったのだろうか。この景色を見せるためだけに、ここにつれてきたのだろうか?
「なんでいきなりここに?」
「なんでっておまえ…」
言いかけて何かに気づいたようにスマホを確認するウシュバ。ふう、とひとつため息をつく。
ナデシコの目の前にスマホの画面を突き出してきた。
「今日、誕生日だろ」
2月6日、午前0時11分。
突き刺すような空気に負けないくらい、頬が熱くなる。
「誕生日…」
「これも一応、プレゼントだから」
最初にかぶせてきたポンチョをつんつんとつつく。
「あ…ありがと」
少しの街灯と、欠けた月の明かりしかないから、ウシュバがどんな顔をしているのかよく見えない。
惜しいなと思ったけど、良かったとも思った。自分もきっと、見せられないくらい真っ赤になっている。
砂浜に打ち寄せる波の音だけが、二人の間に響いた。と思ったら。
「…っくしゅ!」
「あ」
ウシュバが自分のネックウォーマーを外す。それをナデシコに付けてやろうとしたのをひらりとかわされた。
「いいわよ、あんたが寒くなるでしょ」
「俺は平気だよ、それよりナデシコが」
「私だって、走れば平気よ」
ウシュバから小走りで距離を取る。足元の感触を確かめる。
走る用の靴じゃないから、微妙かもしれないけど。
「この砂の厚さなら、私、あんたにだって追いつけないくらい早く走れるわよ!」
そう言って一気に駆け出す。ああやっぱり走りづらい。可笑しくて、笑いながら走る。ダウンジャケットも脱ぎ捨ててしまおうか。
「おまえなあ…舐めるなよ!」
ネックウォーマーもブルゾンも脱ぎ捨てたウシュバがナデシコを追いかけてきた。
「ああっ!ずるいわよ、待って待って、私も身軽になる!」
「待たないしずるくない!フライングしたのはおまえだろ!」
夜の海。波打ち際に響く笑い声。
何もかも独り占めにできた気分の、誕生日プレゼントだった。