2人の肖像画
「肖像画を描いてほしいんだ」
ある日。ドレスローザにて人形から人間へと戻ったウタは、おれに向かってそう言った。
一番に頼む先がおれとはなかなかセンスがある。
まあウタは人形のころからルフィの航海に付き合ってきたんだ。そもそも旗に絵を描いたのが誰か分かって言ってきたんだろう。
「別にいいぜ。そんじゃあとりあえずそこの椅子に……」
「あ、待って。一つ注文があるの」
そう言って、ウタはにかっと笑いながらこんな注文を続けた。
「私と一緒に、人形だったころの私も描いてほしいの」
「なっ……!?」
驚くだろ。ウタはようやく人形に戻れたんだ。
人形の頃は眠れず、誰かに触っても何も感じず、何かを食べることもできない。そのうえ誰からも忘れ去られる。おれだってそんな状況、想像すらしたくない。
ましてやそれが10年以上続いたんだ。普通ならそんな時代を思い出すことすらしたくないはずだろう。
「何で私がそんなことを頼むのか、って顔してるね」
「そりゃあ……お前……」
ウタからはネガティブな感情は感じられない。
「……確かにね。人形だったころはずっと悲しかったし、辛かった。シャンクスからもルフィからも忘れられて、歌えないし喋れない。本当に、辛かった」
「何でよりによって私が~なんて、思わなかった日は正直ないよ。涙がもし出るのならずっと泣いてたと思う」
それでもね、とウタは笑った。
「それも私なんだよ。苦しかった日々の中でもみんなと一緒にいて光を貰った、私なんだよ」
そういえば、と思い返したんだ。人形になってから一番最初に自分のことを「ウタ」と呼んだのが、ルフィだったこと。
その思い出はずっと私の中で煌めいてるの、とウタが寝ずの番の時にあくびしながら話してくれたこと。
そうか。おまえは、おれたちと一緒にいて楽しかったのか。
「私は、過去の私を否定したくない。頑張った私を拒絶したくないんだ。だからさ、」
……そうしてできたのがこの肖像画だ、ルフィ。
どうだ、いい笑顔だろ、2人とも。