18番目

18番目

やっと読めた小説の感想:凪ヤベー

「奴隷じゃないし。俺はレオの相方(パートナー)だし」

「あ? 平和ボケも大概にしとけよ、フニャチン共が。世界一は”独りの王”って意味だ。二人一組(ニコイチ)で仲良しごっこしてぇなら、地元でやってろ奴隷コンビ」

「な……」

「別に俺、アンタみたいにサッカーやりたいワケじゃないし」


御影が言葉に詰まるのを横目に、凪はそう言い返す。なんだろう、言葉のどれを取っても苛つく。


「は?」

「暴論ふりかざしてレオフッ飛ばした、アンタのその面倒くさいところがムカついただけ」

「……お前もお揃い(ペアルック)でフッ飛ばしてやろーか?」

「あ?」

「はいはいストーップ凪くん」


何それフザけんな。掴みかかろうと近付きかけた凪を、御影が止めにかかる。え、殴っちゃダメなワケ? という意を込めて御影を見ると、ちょっと引き攣らせた笑みで凪を宥めた。


「スコアじゃ全然勝ってんだから。ほっとけ、こんな勘違い王様は。勝ち負けはプレーで示しましょー」

「…………」


まぁ、それはそうだ。御影の言葉に頭が冷える。というか、ここで殴ると試合に負ける。


「イエッサー」


……勝てば良いんだ。御影のプレーを信じれば。凪はそう考え直して、ボールを蹴った。


KICK OFF!!


「あと2点取って、高級ベッド獲得だろ!?」

「うん、わかってる」


御影からのパスを受け取って、凪は答える。


「ちょっと余所見しただけ」


GOAL!!


そして、冷静にゴールを決めた。……のだが、馬狼の「ハッ」という声に、感情がジリ、と焦がされる。


「そんなつまんねぇゴール決めて満足か?」

「別にー。ゴールはゴールでしょ。つまんねぇとか関係ないし」

「下民の思考だな、ゴミクズ」


REST ART!!


「何ソレ? どーゆー意味さ」


馬狼と並走しながら尋ねる。


「……お前のゴールは全部……あの紫髪のご主人様にコントロールされた奴隷ゴールなんだよ……。ひとりじゃ生きられない依存体質が」

「(…………)」

「良いか、奴隷人間」


パスがこちら側に来る。


「おっしゃ抜けた! ドンピシャ!」

「(わ)」

「!?」


凪と馬狼のチームメイトを押し退ける馬狼。


「世界一になるストライカーってのはな……死ぬまで孤高なんだよ」


そして、強烈なヘッドシュートを叩き込んだ。


GOAL!!


「誰かに服従するぐらいなら、死んだ方がマシだぜ」

「…………」


孤高。孤高か。つまんない? そう。


「気にすんな、チームX(あのチーム)はもう終わりだ。ひとりがどんだけすごくたって、パワハラ組織は崩壊する」

「(……あー)」


ムッカつく。


REST ART!!


「さぁあと1点取って、この試合締めますか……!? おい凪……!?」


ボールを蹴った直後に、凪は走り出した。感情のまま、身体の向かうまま。馬狼の元へ。


「んだてめぇ……」

「奴隷、行きます」

「ハッ、わかったよパートナー……」


後ろから、そんな声が聞こえてくる。流石御影だ。凪のしたいことを瞬時に把握している。


「おい!? 行ったぞ、凪後ろ……」

「うん」


わかってる。

寸止め踵トラップをして、馬狼の目をしっかり見る。


「これでも、つまんない?」

「殺す……」


殺意の篭った視線と共に、脇下を掴まれる。


「(負けたね、キング)」

「だぁおい!! クソファール! PK!!」


御影の声を背に、凪は馬狼の胸を押した。


「あーあー奴隷にヤられるとかアンタ……、王様失格。」


そうして、殴る代わりに、渾身のシュートを叩き込んだ。


「(ファール紛いのことまでしたのに、決められちゃったね)」


それはさぞ、悔しいことだろう、多分。

……トラップは賭けの部分が多かったのが事実だが、できなかったら恥どころの話じゃないので、できてラッキーとでも思っておこう。


試合の終わりの笛が鳴る。

5-2、チームVの勝利。


皆が駆け寄ってくる。御影が興奮したように凪の頭を撫でた。


「おいおい凪ぃ! 『面倒くさがり屋』にしては激しいゴールじゃんか! 俺のため!?」

「え……別に」


凪はただ苛ついただけなので、御影とはあんまり関係ない。剣城も凪の肩を抱いて、片方の手でサムズアップをしていた。


「いや最高! 馬狼に『ひと肌ふかせてやった』!」

「『一泡』ね」

「ダハハハバカ斬鉄!」

「とりま完全勝利だチームV!! フォー!!」

「(いやテンションすっげー)」


皆がテンションMAXな中、凪は逆に冷静さを取り戻した。……でも、勝利できたから、良しとしよう。




凪たちは、これが最後のチームVとしての栄光だとも知らず、ただ勝利を噛み締めていた。

Report Page