169氏より クソ親戚に女装させられる兄弟のss-5

169氏より クソ親戚に女装させられる兄弟のss-5



 キスの狭間に逆流してくる男の唾液が、喉を通って胃の中を侵し、そこから動脈や静脈にまで染み出してくるような感覚がする。

 それが嫌で食道が少し引き攣り、飲み込めなかった分の唾液と溶けたホワイトチョコ、中身のラズベリーリキュールの混ざり合った斑模様の液体が顎を伝い落ちた。

 横目に見下ろした極彩色。白と赤と透明のカラーリングに、野良犬にでも喰わせてやりたい初夜の思い出が蘇った。あの時も、押さえ付けられたシーツの上には自分の涙や唾液や男の汗が散らばって。好き勝手されて切れた内側からは出血していて、そこに何度も注がれた生暖かいものとぐちゃぐちゃにブレンドされた紅白の液体が内腿を超えて膝裏まで汚して。

 ああ、そうだ。部屋はとても暗くて。真っ黒で。ちょうど今着ているドレスのような深い深い闇の色で──。


 「────!」


 どっぷりと過去の記録に沈みかけた意識を、自分の手のひらに強く爪を立てる力技で引き戻す。

 今恐るべきものは追憶ではない。現状だ。ここで男を満足させなければ凛もコレをやらされるかもしれないというリアルだ。それ以上に怖がるべきものなんて無い。

 五臓を掻き回され引き摺られるに等しい感覚も、一度ごと穿たれるたびに霊魂に穴が空いて中から空気みたいに大事なものが抜けて行く心地も、あんなのは凛が同じことをされたらと考え、あまつさえそれを悪夢に見た時の脳髄の激痛に比べれば些細なことだ。

 古傷に囚われるなんて新しい傷を持たない安全圏の住人にのみ許される贅沢だ。自分はそんな時間の浪費をやっていい立場じゃない。


 「……ふふ。上手に食べさせてくれたね、冴ちゃん。僕達はこんなに仲良しなんだ。テレビの人達が言うようなコミュニケーション不足の心配も無いね」


 ケダモノが我が身を差し出す生贄を息のあるまま捕食するような、粘着質で執念深い猟奇的なキスが終わって。

 一筋、渡し合う唾液の橋。舌と舌で繋がった淫らなそれがぷつりと切れるのを見届けてから、男はニュースバラエティの内容に白々しいコメントを発した。

 顰めっ面を浮かべたい気持ちをぐっと堪えて、そうですね、と冴も同意した。相変わらずスカートの中で人の下半身をまさぐる指にも抵抗する素振りは見せず、従順に振る舞った。


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