169氏より クソ親戚に女装させられる兄弟のss-3
紅茶を口に含んで舌で味を調べる。変な苦味や妙な雑味は無い。流通する時期には男が必ず好んで飲んでいるダージリンのファーストフラッシュだろう。ストレートで振る舞われており、ミルクやレモン、シュガーやシロップの甘みもしない。
……おかしい。何も入っていない?
ティーカップのフチに塗られている、なんてパターンも想定できなくはないが。それだけの微量で効果を発揮するのは毒薬の類くらいで、男は自分たちを辱めたくとも殺したい訳ではない。ならばスイーツのほうに注射器でも刺して混入させたのか。
注がれた分の紅茶を飲みきり、ティースタンドに訝しげな視線を向ける。凛はお利口なので、以前そう教えられた通り冴の許可が無ければ不用意に男の用意した物を口には入れない。ぎゅっと膝の上でスカートを握って不安そうに兄を見ていた。
「おや、紅茶ばかり飲んでいないでお菓子も食べて良いんだよ? もしかして嫌いな物でもあったかい?」
「……いえ。いただきます」
相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべた男に勧められ、仕方なく小さなケーキをフォークで取って皿の上で半分に切り分け、一切れを口の中に押し込む。生クリームとスポンジとシャインマスカットの味がするだけだ。美味しいし、やっぱり混ぜ物は感じられない。断面も自然だ。
「凛、あーんしろ」
「あーん」
弟に全く食べさせないのも男の機嫌を損ねる懸念があるため、安全の確認がとれたケーキの残り半分を口に持っていって凛に食べさせる。
餌付けされる雛鳥と餌を与える親鳥のような仲睦まじい光景に、男はうっそりと唇を歪めていた。そして含みのある語調で話しかける。
「仲良しだねぇ。僕も冴ちゃんに食べさせてほしいなぁ。……ああ、でもこんなおじさんと同じフォークを使い回すなんて嫌だよねぇ。でも素手だと冴ちゃんの指が汚れてしまうし」
「どうすれば良いと思う?」なんて白々しく小首を傾げて。とんとん、と人差し指で己の唇を意味深に叩く。
ああ、成程そういうことか。そういうことをさせたくて、だから今回は何も混ぜられていなかったのか。
凛は意味が分からずオロオロと男と兄を交互に見つめて。冴は意図が汲めてしまったから、無知を取り繕うことなくそれを実行に移した。