169氏より クソ親戚に女装させられる兄弟のss-2
サテンシルクのチョーカーの嵌められた喉をごくりと鳴らして相手の行動を見据える。布地だけでなく薔薇のチャームと細いチェーンのネックレスも一体化したデザインのそれは、少し身じろぎするだけでじゃらじゃらと音をたてて鬱陶しいことこの上なかった。
男の感性では自分たちがプリンセスに見えるらしいが、どちらかといえば魔女の装いだろうと冴は思っている。あるいは豪華なだけの喪服だ。かつて幼稚園で読み聞かせられた絵本にこんな彩度の低いお姫様はいなかった。
「かわいいお姫様たちには、やっぱりかわいいお花やお菓子が似合うよね。さぁ、ティーパーティーにしよう。今日は有名店のスイーツも用意してあるんだ」
ひとしきり撮影会をしてひとまず満足した男が、一眼レフをキャビネットの上に置く。気味が悪いほどの笑顔で兄弟を手招く先にあるのは、ホテルのカフェのアフタヌーンティーのようなセットが並ぶリビングのテーブルだ。ご丁寧にキラキラとした糸の織り込まれたテーブルクロスまでかかっている。
冴は逆らうことなく凛の手を引いてそちらに向かった。自分が王子様のつもりなのか、紳士的に椅子を引いて男が待っていたので「ありがとうございます」と頭を下げてから席につく。家の中で敬語を使うのにも慣れた。凛も無言でペコリと兄の真似事をする。いとけない仕草。男もニコやかだ。
3段のティースタンドには一口サイズのケーキが数種類にマカロンやクッキー、2人でも名前を知っている高級店のロゴが入ったチョコレートもある。傍らのティーポットやティーカップは如何にもな少女趣味で、持ち手が金細工になっていた。絵柄は宗教画の天使。作者は知らない。
「さぁ、どれでも好きなものを食べて良いよ! 僕がかわいい君たちのために買って来たものだからね!」
同じく椅子に座った男が両手を広げて笑顔のまま勧めてくる。……既製品なら、いつぞやのように男の×液や俗に媚薬と称される興奮剤が混ぜられているとは思わないが。とはいえ100%の安全は保証できないから、冴はまず最も不純物を入れるのが容易であろう紅茶を毒味すべくティーカップを手にとった。
万が一何か入っていたら凛には飲ませず自分だけで完飲しよう。今更ちょっとやそっとで穢れるような純潔は持ち合わせちゃいない。ぶつけられる欲望の意味もわからず混乱したのは最初の数日だけだ。