169氏より クソ親戚に女装させられる兄弟のss
それぞれの家庭にそれぞれの事情がある。
とは言え、××家ほど事情……なんだったら明け透けに情事と言い換えても良いが、ともかく色々な問題と秘密を抱えた家庭はあまり無いだろう。
まず3人の内の2人はそもそも××家を家庭だと思っていない。籍もそちらにあるのだから自分たちは変わらず糸師家のままであり、遠い親戚であり現在の保護者である××××のことは髪の毛の一本分だって父親とは思った試しが無い。
これは糸師兄弟がドライだからではなく、そう思われて当然の所業を××××なる男が彼らにしているからだ。
自分たちを育ててくれている人に真っ当に感謝したり素直に接するのはなんだか恥ずかしい、という反抗心がある程度の年齢になると自然と芽生えるアレとは断じて異なり、人間は自分の尊厳を凌辱し大事なものに危害を加える人間に好意を抱かないという全くもって正当な反応である。
「かわいい。冴ちゃんも凛ちゃんも、とってもかわいいよ。まるでお姫様みたいだね。僕のかわいい姉妹のお姫様」
現に今だって、自分たちに女物の洋服を着せて満足そうに写真を撮っている男に兄弟は輝きの無い目を向けていた。
ゴシック&ロリータ。俗にゴスロリと称される、基本的には黒と白の生地にフリルやレースやリボンをたっぷりとあしらった手の込んだそのドレスは、男が通販サイトで注文しており今朝に受け取ったものだ。
ちゃちなコスプレ衣装ではなくブランドの本物に拘ったのか、伝票に記載されている商品の金額がヘッドドレスや靴下といった小物も含めれば6桁に及んでいるのを横目に見て2人でギョッとしたのを覚えている。変態の熱意は凄まじい。それを注がれる身の上としては傍迷惑なことに。
小さなティアラを模したお揃いの指輪をはめさせられた手を握りしめ合って、糸師兄弟はパシャパシャと頭上やローアングルから降りかかる一眼レフの光に無言で耐えた。
眩しくても目は瞑らない。上手く写真が撮れないと男は何をしてくるか分からないから。いくら今着ている服がジャボタイと十字架のブローチの付いたシャツだけで3万円以上しても、堕天使のような漆黒の羽飾りの付いたコルセットが2万円以上しても、5段ものティアードがミルフィーユのごとく層になったロングスカートが4万円以上しても、男が機嫌を損ねればこれらをビリビリに破いてこの場で押し倒されるから。