16年越しの咆哮

16年越しの咆哮

ホビルカIFの人

・ホビルカIF妄想

・復讐の獣ローside

・原作スートの間にて



心に空いていた穴がゆっくり満たされていく感覚と同時に大切な弟を忘れていたと言う事実にゾッと嫌な汗が背を伝い血の気が引いた。

(パンクハザードで感じた違和感はこれか…)

忘れていた膨大な記憶が頭の中に流れ込んでくる。

(あいつは、ルカは今どこに…)

こんな場所にいるはずもないが探さずにはいられなかった。

キョロキョロと視線を彷徨わせていると、トレーボルから報告を受け、怒りに震えていたはずのドフラミンゴが突然笑い出す。

あいつは楽しそうに笑いながらおれに問う。

「おいロー、ルカはどうした? 助けに来ねェなんて薄情な弟だな?」

「テメェには関係ねェ…」

ギロリとドフラミンゴを睨みつけ会話する気は無いと、視線を床に落とす。

すると、見覚えのある1体のぬいぐるみが目の前に立っているのに気がついた。

胸元に『LUKA』と刺繍のされたぬいぐるみ、そいつがおれを守るかのように立ち塞がる。

その姿は橋の前で会ったときよりボロボロで汚れやほつれが目立つが確かにあの時、おれの足にしがみついてきたオモチャだった。

「お前は……」おれが声を掛けようと口を開くと突然ぬいぐるみの形が変わり始めた。


そいつは見る見る大きくなり可愛らしいフカフカだった縫いぐるみから、

フードを被った茶髪の青年へと姿を変えた。

「──っル、カ……」

聞きたいことがグルグルと脳内を駆け巡る。なんで、どうして。しかしそのどれも形にならず、ただ一言弟の名前だけが口からこぼれ落ちる。

ルカが声に反応しチラリとこちらを向いた。その顔を見た瞬間おれは異質な空気に包まれ息を呑んだ。

(──っ、ここまで殺気立ったルカは初めて見たな…)

目は獲物を狙う動物のようにギラギラと血走り瞳孔が開く。こちらに顔を向けてはいるが、その瞳はおれを映してはいなかった。

口からは荒い息が漏れ出し、わずかに残る理性で必死に抑えているように見えた。

この場にいる全ての生物を威嚇するように放たれる殺気が肌に刺さる。

まるで取り憑かれたような弟の変わりように、おれは目を疑った。


「あぁ、そんなとこにいたのか…探す手間が省けたぜ。さっきの言葉は取り消してやるよ、兄思いの弟をもって幸せだなァ!ロー!!」

「──フッフッフ、ルカ…お前もわざわざおれに処刑されに来たのか?」


【兄さまをかわいがってくれた礼をしにきた】


そう書き殴られたノートを投げ捨て人獣型になっていく。


(─ダメだ、いくな…お前まで失ったらおれは……)


「やめろ!!」


おれはルカを止めなければと無意識に声を荒げ叫んでいた。

しかし、おれの声が届く前にルカの足は床を蹴る、行き場のなくなった手を下ろせば、はめられた海楼石の手錠がジャラリと重く冷たい音を立てた。



(おれを繋いでいる手錠が海楼石で無ければ引きちぎって能力を使いルカを遠くへ…)

いや、きっとそんなことは望んでいないだろう。目の前で傷ついていく弟を止められなかった己の不甲斐なさに、自嘲を含んだ笑いがこぼれる。


ルカの実力を信用していない訳ではないが、それはあくまで普段ならの話。

今のルカは怒りに飲まれ、本能的に暴れているだけのように見える。冷静な判断が出来ていないから、動きも大雑把で隙がデカい、本能的に致命傷は避けてはいるようだがダメージは確実に溜まっているのが動きの端々から見て取れる。

それに覇気も一発目からあんな最大出力で使ってればいつまで持つか……。

嫌に冷静な頭で戦いを眺めていれば、


(──ッ!!まずい)


そう思ったときにはもう、ルカの体は吹き飛ばされ転がり、壁にぶち当たっていた。


まだまだ余裕そうなドフラミンゴがルカを猫のように掴み上げる。


「なァルカ、いつまで喋れねェ振りを続けるつもりだ?おれをコケにするのもいい加減にしろよ」


「やめろ!ルカは本当に声が出ねェんだ!!」


声の出ないルカの代わりに、とっさに否定の声を上げ、ドフラミンゴの意識をおれに向かわせる。


「お前には聞いてねェ…少し黙ってろ」

「ぐあァ!!」


狙い通り意識を向けさせる事には成功したが、糸で銃創をえぐられ痛みに声が漏れる。


「兄弟仲良く地獄に送ってやろう!!」


(クソッ!!おれが囮になってルカだけでも……)


覚悟を決めようとした、そのときルカの異変に気がついた。


しきりに口をパクパクと動かし苦しそうに息が上がり始めている。何か策でもあるのか?そんな風にルカを観察しているとバチリと目が合う。

怒りの炎はまだチラついているが、しっかりと意思の宿った琥珀色の瞳がおれを映す。


「にィ゛…さ、まは…」

冷静になったルカを見て少し安心したのもつかの間

聞き慣れない声に首をかしげる。この場にいる誰の声でもない、じゃあこの声は一体?


おれは、おれのことを兄さまと呼ぶ奴は1人しか知らない。


「兄゛さまは…」


おれはルカから目が離せなかった。


「兄さまは、ぼくが守る!!!」


おれがどれだけこの日を待ちわびていたと思ってやがる。

思い出すのは幼いボーイソプラノ。しかし今のルカは声変わりも終わったのか少し大人びた、しかしあの頃の面影が残る声に変わっていた。


(ったく遅ェ、何年待ったと思ってやがる……よかった。本当に…ルカ)


おれが持ちうる医療技術すべてを駆使しても戻ることのなかった声がいま帰ってきた。


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