150
私は誰だ。
私はどこから来た。
その問いの答えを未だ私は持たない。
「生徒」ではない。造られた私は「生徒」たりえない。
だが「オートマタ」でもない。キヴォトスに私達のような機械は他に存在しない。
この姿を有し、この意識を有する限り、私は「道具」ですらない。
どれだけオリジナルを精巧に再現し、愛らしく、強く、従順か。
いくらでも新しく作り出せる「量産機」にそれ以上の存在価値があるだろうか。
「量産型アリス」の幸せは、人の役に立つこと。
であれば「私」の存在は、成し遂げるべき「意味」は一体何だ。
「最後の一人になるまで殺し合え」
いくつかの黒い影が見下ろす窓だけが明るい、広く薄暗い部屋。
私達に与えられた指示は簡潔だった。
廃棄品で行われる一つの余興、結果が得られれば万々歳。その程度の期待度だったのだろう。
使用者に逆らえない量産型アリスは、命令のまま壊しあった。
カイザーに酷使された姉妹たちの中でも、私は他の機体より戦闘経験があった。
与えられた武器を振るい、人工タンパクの皮膚を破り、金属フレームの骨を折る。
どうしようもなく嫌な感覚だった。
殺し合いの中で、私は一つ考えていた。
「い、嫌です!アリスはまだ「生きたい」です!」
恐怖し涙を流すアリスがいた。
「あ、あなたもアリスでしょう!こんなこと「残酷」です!」
怒りで顔を赤くするアリスもいた。
その感情も行動も「設定」されたものだ。
そして、私も。
この疑問でさえプログラムの一部だったら?
──反吐が出る。
「素晴らしい。与太話だと思っていたが、ここまでの結果が得られるとは」
ほとんどのアリスが動かなくなった時、私の体には力が漲っていた。
震える手を視界に収めたとき、なんとなく理解した。
ああ、これが奴らの求めていたものか。
「アリス150号、その場で停止して回収班を待て」
思考がチカチカと明滅する。
CPUに高負荷発生、熱暴走の危険を感知。異常動作防止の為強制終了……失敗。
感情。知恵。激情。知性。恐怖。神秘。
「おい、どうした?停止しろと言ったはずだ!聞こえないのか?」
私は持っていた武器で壁を殴りつけた。
「アリス150号、次のターゲットが決まった」
男性ロボットの声で意識を浮上させる。
大柄なロボットは、持っていた数枚の資料を目の前の机へ置いた。
「ふん、何か考え事か?とにかく、次のターゲットだが───」
この男も私を道具以上に思ってはいないだろう。ただ私の力を欲しているだけだ。
眼球型カメラの洗浄機能が破損したのはいつのことだったか。
私は未だ、何者でもない。