>>140 カード交換

>>140 カード交換


未だ未来の海賊王と歌姫が幼い頃、二人はウタワールドでビブルカードを交換していた。交換と言ってもそれは本物ではなくウタワールドにおける紛い物で、またウタが詳細を知らぬが故それは本物と異なる性能をしていた。

それは他者との心の共有。ビブルカードを交換したルフィにはウタの、ウタにはルフィの記憶や感情が流れ込むようになっていた。


赤髪海賊団出港後ルフィは突然激しい心の苦痛に襲われるが、ウタとシャンクスの問題に深く関与してはいけないとそれを少しずつ己の内で癒やしていくことに務める。

悲しみを半分請け負ってもらいなんとか自我を見失わなかったウタは、流れてくる優しい感情と記憶を頼りになんとか日々を歩んでいく。

そして常に互いを思い続けて幾星霜、二人は遂に夢の中で再会する。


「ルフィ……助けて……!!」

「当たり前だ!!!!」



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未来の海賊王と世界の歌姫が幼い頃の フーシャ村

その日も赤髪の娘ウタは自らの能力で創り出した歌と夢の世界の素晴らしさを 村の少年ルフィに伝えていた


「どう!この広い海!! 綺麗でしょ〜」

「ん〜なんか窮屈!!楽しくねェ」

「はぁ〜?……そうだ!!」

「だったらこの世界でしかできないことを見せてあげる」


ウタはなにか作ろうとしていた

この世界でしか作れない"特別なもの"を

"特別" "ふたりだけのもの" このふたつを少女は頭の中で意識する

だからこそか……ふたりの体が光だし…


それぞれの体から一枚の小さな紙切れが 飛び出した


「なんだこれ?お前が作ったのか?」

「そうだよ 何かはわかんないけどこの世界でしか作れないものだよ」

「こ〜んな紙切れ作ったってこの世界はおれには退屈な____!?」

ウタの体から飛び出した紙切れを拾い上げたルフィの脳に突然電撃が走った


「なんだこれ…ウタの……記憶?」

少年の脳に流れるは作成者の少女が体験してきた物語 そしてそのほとんどを少年は知っている

なぜなら少女の冒険談を聞くことが少年の楽しみのひとつでもあったのだから

ただ紙を持つまで知らなかったのは少女の心情だけ

____ただそれも紙切れを持つことで少年は知ることとなったのだった


「お前はいつも楽しんでいたんだな!!」

「急に何言ってんのよ?」

「お前もおれの紙を持ったら分かるよ!!ほらこれ」

「……?」

「____あっ…」

小さな紙切れを受け取った少女の小さな脳にも流れ出した

目の前の少年の記憶と感情その全てが


「なんか面白いもの作れたな〜 でもこの後に私が眠ったらこれも消えちゃうんだよね」

「せっかく作れたのに勿体ないよな」

「しょうがないよ それがこの世界の法則なんだから それにまた作れるようがんばるよ!!」

「そっか! ……それとさ」


「この世界も面白いことはあるんだな!」

「____ありがとう ルフィ」

少女が眠り 歌と夢の世界は崩れだした




「____やっぱり無いか」

現実世界で目を覚ました少年は手元を確認した

夢の中が崩れ出しても手に握り続けていた一枚の紙切れ やはり現実世界には持ち込めなかったようだ


「ウタの手元にも無ェ……」

「____なんか変な体験したな……」

少年は眠りについた少女を背負って丘の上から村の酒場へと歩いた




そして時は翌日へと____

「いいな〜おれも船に乗せてくれよ!」

「ルフィ お前は船番できないだろ 大人しく帰りを待ってろ」

「むーっ!!けちシャンクス!!!!」

「帰るまでには機嫌治しなよ〜 じゃあねルフィ〜!!」


「____なんでだろう…少し寂しい どうしてだろ?」

本来船の上なら彼女は寂しさなど一切感じない

家族も仲間も船の上に居て、彼女の家はこの船なのだから

それに航海が終わればルフィに会えると少女は分かっている だから寂しさなど いつも感じていなかった

____ならなぜ急に寂しさを感じたのだろうか


「____これは"ルフィの寂しさ"?」

少女は意識を歌と夢の世界へと移す

その世界の少女は紙切れを持っていた

もう消えてしまったと思っていた…ルフィの体から作られた小さな紙切れを

「そうか これがあるからルフィの感情が私に流れてきたんだね」

寂しさを感じるのならその紙を手放す

____そんな選択肢など少女には無い


「____ならこの紙を持っていれば 私の楽しさはあいつの元に届くのかな?そうなればルフィの寂しさは無くなるのかな?」

優しい彼女は彼の悲しい気持ちを自身の明るい気持ちで塗り替えようとしていた


____少女は優しかった




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時は残酷な水流を選びウタという少女が帰らない残酷な世界の時間が流れてしまった


そしてその時間の中で赤髪海賊団とルフィの別れの日がやってきた

彼は別れの悲しみから涙ぐみながらも 友達から受け取った大切な麦わら帽子を掴みながら彼らの船を送り出した

____彼らの背中が小さくなっていく


「____いぎっ!? 何だこの痛み!!」

「なん…で シャンクスたちの背中を見てると胸の中が……いだい!!」

彼の流す涙は悲しみからか痛みからか…そしてこの痛みはどこからやってきたのだろうか?

彼が痛みで目を瞑ると脳にある物が浮び上がる

それはかつて少年が探していたもの

ウタが夢の中で作った少女の体から作られた紙切れだった


「もしかしてウタの悲しみか」


「____深く考えるのはやめよっと シャンクスとウタの問題だからな」

「あいつの気持ちがこっちに来るなら おれの気持ちもウタに届くはず」

「なら楽しい気持ちをあいつにあげよう!それが今のおれがウタにしてあげれることだからな!」


少年もまた優しかった

彼女に負けず劣らずなほどの優しさの持ち主であった


________________


時のイタズラにより残酷な人生を歩ませられた少女は十年の孤島暮らしを送っていた

たったひとりの生存者と共に


「__ウタ今日もレッスンするかい?」

「うん ゴードン お願い」

彼女は父親に置き去りにされたが、それでも心を閉ざさずに今できることを彼女ができる限り毎日行っていた

____置き去りにされたのになぜ心が保たれているのか?

それは彼女の心が強いからという訳でもヤケになっている訳でもない


いつも彼女の心に流れてくるのだ

……ルフィが抱く優しい心が


だからこそほんの少しだけ立ち向かえる

彼女に立ちはだかる辛い現実の壁に


そしてその日の夜 夢の中で奇跡のようなことが起こった


「____あれは……ルフィ!?」

「ん?…ウタか?……ウタ!?」


「大きくなったね〜…って!なんで私の世界にあんたがいんのよ?」

「あ?これおれの夢の中じゃねェのか?お前は本物のウタなのか?」

「何言ってんのよ……もしかしてあんたの夢が私の夢の世界と繋がったの?」


____じゃあ目の前のルフィは本物!?


「____ルフィ〜!!!!」

「ウタ……久しぶりだな」

「うんうん!!」


「そうだ!おれさ、お前に伝えたいことがあったんだ」

「なに?」

「おれ明日船出するんだよ 海賊王になるために」

「……そう…なの?」

「そうだ!だからお前にも応援……」

「ルフィ!!なら私を迎えに来て!!」

「……歌手にならなくていいのか?」


「それはあとでも出来る 今の私が本当にやりたいことは」

「シャンクスに会って私を置いていった日の真実を聞くことなの!!」


「……そうか…分かった だったら島の名前を教えてくれよ」

「すぐにでも必ずお前を迎えに行く」

「うん "エレジア"で待ってる」


「____それとね今の私がいるのはあんたが優しい気持ちを送ってくれたおかげなんだよ……ありがとうルフィ」


「ししし!そんなもんこれからだっていくらでも送ってやるよ!!」


残酷な時の流れによって地獄を生きる 彼女だったが何もかもが悪いという訳ではなかった

そう……彼女にも救いはあった




そしてそして____


「迎えに来たぞ ウタ」

「__久しぶりだね ルフィ」



「あれがルフィの言ってた女か」


「へぇ〜……派手な格好してるわね」



あの夢からしばしの時が流れたが

……約束は無事に果たされた


そしてこれはひとつの始まりでもある

それは娘が父に会うまでの長い長いお話



END




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