>>131 私があなたの腕になる
RED本編分岐のその後の話
ルフィはウタを最後まで手放さなかったが、両腕は黒ずみ腐り落ち二度と拳を握れなくなった
ウタはそんなルフィを救う為喉を切り裂き、二度と声を出すことができなくなった
そんな二人が海賊と歌姫を引退するのは必然で、世間から身を隠すため何もない島で夢を諦めた二人がひっそりと余生を過ごすしっとりとした日常話
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ウタウタの実能力ウタが歌うことで顕現する夢の世界でルフィ一行は、現実と歌の世界をひとつに繋げる魔王トットムジカを呼び出したウタに立ち向かい続けていた
____倒すためではなく助けるために
顕現した魔王の帽子の上にはふたりの姿ルフィとウタであった
「____もう止まれウタ」
昔の彼女をよく知るルフィは今の彼女の拳を受止め静かに伝える
「こんなのは新時代じゃねェ!お前が誰よりも分かってんだろ!!!!」
「……ルフィ…」グズッ…
彼の叫びを受けて冷静さを取り戻した彼女はこの状況を打破すべく動こうとした
____しかしそれを歌の魔王トットムジカは許さない
心が揺れ動く彼女の足元の魔王の帽子から黒のモヤが彼女の体に巻き付くように溢れだす
やがてそれはどこからか現れた黒の音符と共にウタウタの実の能力者の体を包み込んだ
「くっ!離さねェ!!絶対に離すもんか!!!!」
ウタの体が黒に包まれてもなお、ルフィは両腕で掴んだウタの体を離さなかった
____ウタを包む黒のカーテンがルフィの腕を黒く染め上げ……焦がした
「があっ!?」
現在いる世界が現実世界なのか、夢の世界なのか分からない ふたつの世界をひとつに繋げる歌の魔王の体の中でウタは見てしまった
目の前に落ちた両の腕を…
「____ちがう」
彼女が願った世界は誰もが平和で幸せになれる世界だったはずだ
「こんなのじゃない」
なのに夢の世界の観客は自分がおもちゃやぬいぐるみに変えて、現実世界では現実世界と歌の世界をひとつにするために呼び出した歌の魔王は救済とはほど遠い破壊という行動を繰り返している
そして自分を救おうとした大切な人の腕は引きちぎれた
____こんなのは私が……
「私が描いた新時代はこんな世界じゃない!!!!」
壊れろこんな世界!!!!
こんな世界を維持する歌の魔王を止めるべくウタウタの実の能力者であるウタはある決断した
歌の魔王はウタウタの実の能力者が楽譜に描かれた歌を歌うことで顕現する
___ならその能力者が歌えなくなれば
___たとえば喉が裂かれたのなら?
いつの間にかウタの手元には現実世界でルフィを刺そうとした時に持っていたナイフがあった
「____!!!!」ザクッ!!
____迷いはなかった
歌姫は自分の喉をナイフで切り裂いたのだった
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歌が大好きな女ウタは”声”を失った
歌声が失われたことで歌の魔王は消え去り、彼女の歌によって誘われる夢の世界にいた観客やファンの人々の魂は現実世界の肉体に引き戻された
駆けつけた赤髪海賊団によって彼女は一命を取りとめたが…もうひとつ不可解な現象が起きていた
夢の世界で焦げ落ちたはずのルフィの両腕が現実世界でも焼き焦げ、肩から下が無くなっていたのだ
それは現実世界で赤髪海賊団が魔王の攻撃からルフィの肉体を守れなかったからでは無い
歌の魔王の不可解な特性
夢の世界で受けたダメージが魔王を介して繋がっていた現実世界にも影響されてしまったのだ
…つまり彼はもう 拳を握ることが出来なくなってしまった
娘を狙う海軍を追い払った赤髪海賊団は重傷を負った”新時代を担うはずだった”ふたりをエレジア城の一室に連れ込んだ
……夜が明け赤髪海賊団と麦わらの一味はふたりの様子を見に、彼らがいる部屋に入室した
____しかしその部屋に人間はいなかった
あるのは机の上に置かれた手紙ふたつ
「________________
みんなへ
何も言えずに突然部屋から逃げ出してごめんね
私は歌姫を ルフィは海賊を辞めることにな▓▓▓▓▓辞めることにしました
これは怪我をしたからではなく私たちの意思によるものです
私は歌で人を傷つけてしまったから、 ルフィは▓▓▓▓▓▓▓▓
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ルフィの人生を奪ってごめんなさい
あの時私がもっと早く喉を▓▓▓▓▓▓▓▓
私たちはどこかの島で静かに暮らします
迎えはいりません 探さないでください
ウタ
________________」
涙と黒塗りによる訂正でくしゃくしゃの手紙……それを書いた主はウタであった
途中から文体が変わったのは前半だけ ルフィが指示を出しウタに書かせたからか、もしくはウタが取り乱してしまい ルフィの指示とは別の文字を書いたからか……
「________________
る ふぃ
________________」
もう一枚の手紙にはたったこれだけ
腕のないルフィがペンを口にくわえて書いたものだろう
しかし なぜその文字が血で描かれていたのだろう?
彼なりの仲間へのケジメを表していたのだろうか…?
娘がいない赤髪海賊団と船長がいない麦わらの一味はその場に立ち尽くしていた
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____数週間後
環境が整った小さな島にたどり着いたルフィとウタはその島で小さな家を買い、 ふたりだけで住むことにしていた
幸い 他の島との交流が一切なく自給自足ができる島だったため、ウタのこともルフィのことも知らない人しかいなかったのだ
更にその島の住人は優しい心を持っていたため喋ることが出来ないウタにも、腕がないルフィに対しても差別意識を持っていなかったのだ
そのためルフィとウタは余計なことに気を回さずに ふたりだけの生活を堪能できていた
「……」
「あ〜ん!! おいし〜! 今日もウタの作った飯は美味しいなァ〜」
「……」ニコッ!!
「……」
「いや おかわりはウタが食べ終わってからでいいよ ウタだって自分の分を食べたいだろ? 」
「……」むーっ!!
「ウタ……」
「!! ……」パクパク
ルフィが悲しそうな顔を見せると手が使えないルフィに手を使って彼の口に食事を運ぶウタは、その一口を自分の口の中に入れた
あいつが悲しむ顔はもう見たくない。
だからこそウタはルフィに逆らえないし、ルフィもウタに逆らえないのだ
「……」ニコッ!!
「おなかいっぱいになったか?」
「……」コクリ!!
「そうか! じゃあ頼む!!」
手が使えるウタはルフィの口に料理を運んだ
「……ウタ トイレ…」
「……」ヌギヌギ
「…後ろ向いててくれ…」シャー……
「……おわった」
「……」シュッ
「____ありがとう」
「ウタ…お風呂入りたいのか?」
「……」コクリ
「じゃあ 体洗ってくれよ」
「……」コクリ
「ありがとう 助かるよ」
「____ウタ 今日も寒いから抱き合って寝ようか」
「……」ウンウン!!
「……暖かい」
今のルフィには両腕が無い
それだけで ルフィは自分で料理を食べることも、服を着ることも、体を洗うことも、布団を被ることも…彼女を抱きしめることも出来なかったのだ
そして____
「……」グスッ
「____今日も泣いてる…」
眠りについたあとに彼女の目から流れる悲しみの涙を拭くこともできない
「____ごめんな おれが弱かったからお前の人生を壊しちまった」
「……」
___なんで……なんであんたが謝るの
悪いのは私の方なのに……
あんたは私を救ってくれたのに……
伝えたい…メモではなく 言葉で
この想いを全て伝えたい
もしも……優しさを伝える両翼があればあなたの悲しみごとその涙を拭えただろうか
…否 始めから翼が焦げ落ちていなければ 何一つ失わせることなく彼女を救えていれば今を生きる彼女にこんな悲しみしか生まない涙を流させずに済んだだろう
見えない優しさだけでは彼女の震える体を包みこむことなどできやしない
もしも……声があれば私とあなただけの世界に私も音を奏でることで彼の虚しい独奏を終わらせることが出来ていただろうか
……分からない たとえ再び言の葉を交わすことができたとして、それで彼の心を喜ばすことが私に出来るのだろうか
つまらぬ口争いの末に彼の両腕を失わせたこの私が____
ふたりの虚しい生活は…時間が許す限り いつまでも続いたのだった
そしてその時間が積み重ねるは二人の愛情ではなく、相手の人生を壊してしまったという後悔のみであった
END