13番目

13番目

読むほどに斬鉄好きになっちゃう

「このままじゃ……負けるぞ、凪・斬鉄(ニートコンビ)!」


REST ART!


「えー、良いじゃん別に。1回くらい負けたって」


御影からのボールを返しながら、凪はそう言ってみる。


「絶対ダメ! 玲王・凪(おれら)は最強であり続けるんだよ!」

「厳しいね教官。」


でも、それはそうだ。御影を最強でいさせるために、凪が『天才』なんだと思わせるために、2人は勝たなくてはならない。


「(そのためには──)」


チームメイトを経由して送られたパスの勢いを消して、


「(──斬鉄をっ、使う!)」


剣城に、ボールを送った。


「! どーゆー風の……使い回しだ?」

「吹き回しね。行っちゃえ歯医者さん」

「……フン。おコトバに甘えて」


パスを受け取った彼は、そのままスピードを速める。


「疾っ……!!」

「ヤバコイツ……!?」


疾走、疾走、疾走。凄まじいドリブルテクニックで敵も味方も置き去りにしていく。


「させねーよ! お前のドリブルは研究済みぃ!」


このままシュートを決めてもおかしくなかったが、簡単にはいかない。ザザッと鰐間兄弟が阻止してきた。


「(あ、コーナー飛んだ)」


結局、ボールは軌道がズレてしまった。やっぱり、この兄弟はサッカーが上手い。


「やるなぁ、ワニワニ」


そう感心していると、御影が後ろから走ってきた。


「おい凪! なんで斬鉄(あんなバカ)にパス出した!? 出すなら俺に出せよ!」

「…………。斬鉄さぁ、『世界一』になりたいんだって」

「は?」

「レオと同じ夢だよ。だから俺はパスする役で、面倒くさいゴールは……レオ・斬鉄の新コンビに任せたいなって思った。そしたら俺、サボれるし」


それも本心ではある。青い監獄で同じ夢を追いかけている2人なら、今のチームの間、気が合うだろうし。


「(ま、本当は、斬鉄にパス出しとけば、試合中になんかイイ感じになるかもって思っただけなんだけど)」


つまりは直感である。


「なんだそりゃ……。なんで、俺がバカメガネと一緒に夢追わなきゃなんねーんだよ!」

「そりゃこっちのセリフだ。断固拒否る!」


剣城は百歩譲って、御影は『働け』と言っていた気がするんだけれど。ここに来たんだから、今は一緒に追いかけているも同然な気がする。単純に断る意味がわからなくて、凪は尋ねた。


「え、なんで? レオ頭良いし、めっちゃ優秀だよ?」

「知らん。俺はお前は好きだがコイツは嫌いだ」

「なんだコラてめぇコラ」

「もったいないよ、レオ。斬鉄の能力は認めてるクセに」

「……いやまぁ」


本来、凪は2人を取り持つようなキャラでは無いのだが、格好良い2人が共闘するのを見てみたいのだ。しょうがない。

すると、妥協したのか、御影が「わかったよ」と顔を上げた。


「じゃあ一応、俺に視えたコト話すぞ! 勝つためだ、聞け!」

「知らん」

「聞け」


そっぽを向く剣城の顔を御影の方にグイッと向けた。手間のかかる男である。


「剣城斬鉄。お前の特性は、その超加速の爆発的スピードと、『左利き足から撃ちだす強力なカーブシュート』だ」

「(やっぱりレオはすごい)」


剣城の能力の説明を聞きながら、凪は改めて思う。まだ試合も2回目、それもあまり協力したくないと思っていた奴のことなのに、ここまで視ている。あまつさえ、剣城にわかるように説明してみせるのには、心の中で舌を巻いた。これでもう大丈夫だろう。


「そんでもって、自分の射程と角度を身体に染み込ませりゃ、もっと強力な武器に」

「知らん」

「あ?」

「(あ)」

「俺をバカと呼ぶ奴の話は、絶対聞かん。お前の話はつまらん」


ダメだった。


「だぁー!! もぉこれだからおバカ様は嫌なんだよ!! 合理性の欠片もねぇ奴ぁ勝手に堕ちてけ! 社会の負け組ベロべー」

「知らん。つまらん」

「ありゃっ、いいコンビだと思うのに……」


剣城も途中まではちゃんと話を聞いていたから、大丈夫だと思ったのだが。


とにかく、コーナーキックである。あの様子だと御影は凪に出すだろうことはバレバレだった。


「(何人か俺に来るだろうから……)」

「自由に飛ばせるな!」

「! ……でしょーね」


予想通りの陣形でもらった御影からのボールを、誰もいないポイントに蹴る。


「凪!?」


御影の驚く声が聞こえる中、凪は静かに呟いた。


「そこでしょ、斬鉄の射程」

「え」

「頭使うより、走る方が得意なんっしょ? レオの言う通りやってみな。超加速BOY」


刹那、ドッと加速した剣城。やすやすとボールを取ってみせる。


「バカが!! ゴールは後ろ向き! 詰めろ!」


目の前には2人の敵。だが、彼は全く焦っていなかった。


「凪が言うなら聞いてやる……。『ゴールキーパーの触れない角度から曲げて、ゴールに向かって右から撃てば、もっと強力な武器になる』……」


そして、


「はーい斬鉄くん、」


炸裂。


「大変よくできました。」


GOAL!!


御影の言う通り、剣城は強烈なシュートを決めた。

これで1-1、試合は均衡を取り戻したのだった。

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