117氏より 凛ちゃんの独白ss

117氏より 凛ちゃんの独白ss


 

 兄は弟を綺麗だと思っているけれど。

 たとえば曇り一つない透き通って輝く宝石が此処にあったとして。

 その宝石の無垢と清廉とを守るために強淫と暴虐に汚れて必死に戦っている人がいても、はたして、そこまでの犠牲を払って庇護された宝石は本当に美しく純潔なんだろうか。

 水が無いからと血を分け与えられて咲きながらなおも純白であり続ける花は、傍らで傷だらけになって真っ赤に咲く花を悪戯に弄ぶ輩の指先よりも、もっともっと悍ましいのではないだろうか。

 そんなことをふと考えては……だが自分が清らかでなければ兄は何のために汚れたのか分からないから、と弟はそこで思考を打ち切る。

 兄の地獄での努力を無駄にする。それだけは決してあってはならない。

 恐怖と屈辱に満ちた生活の中で、兄にとっての唯一の希望は弟が毒牙にかからないまま育っていることだけなのだ。

 弟が救われていることが兄の救いなのだ。ならば自分は、救われていることに感謝しなければならない。

 こんな風に救われているくらいなら兄と同じ地獄で汚れたほうがマシだなんて──そんな思いは、心の片隅にあるだけでも罪なのだ。

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