106氏より 初めてクソ親戚に凌辱された己の八歳の誕生日の回想をする兄ちゃのss-3

106氏より 初めてクソ親戚に凌辱された己の八歳の誕生日の回想をする兄ちゃのss-3



 数十秒の後。

 室内だというのにドアノッカーまでついた部屋の扉が開かれ、冴は背筋に今まで感じたことのない妙なヒリつきと違和感を抱きながら男の後に続く。

 ここに冴が来ることが分かっていたのに部屋の電気がついていないこと。前に家中を案内するためここに連れて来られた時はしなかった花の匂いがすること。冴が扉をくぐった瞬間に男がライトを付けるよりも早く鍵をかけたこと。

 それら全てが冴の脳髄に疑問の鎌首をもたげさせる。しかし、何の意図があってそうなっているのかは分からない。ただ警告音だけがガンガンと鳴り響いていて。体は知らず知らずの内に季節に合わないぬるい汗をかいていた。

 無意識の緊張で喉が渇く。口を開こうとして、けれど声帯が引き攣ったように声が出ない。頭の隅のほうで逃げろ逃げろと誰かが訴えている。数ある細胞が威嚇と恐怖を意図して痙攣し、それが己の指先に小さな震えという形で表れた。

 恐ろしい。嫌な予感がする。根拠なんて浅いのに。金縛りじみた深い怖気が身体を締め付ける。


 「冴ちゃん────…………」


 汚泥のような粘ついた声と共に、男の手のひらが冴の首筋を緩慢にすべり、肩を撫でた。

 背筋を駆け抜ける悪寒に、冴は喧しい心音を押さえ付けて無理やり口を開く。


 「あ、の。俺、やっぱりプレゼントいりません」

 「…………」

 「部屋に戻ります。凛がトイレに行きたがってるかもしれない」

 「…………」

 「だから、その。おやすみなさい。ケーキ、ありがとうございました」

 「…………冴ちゃん」


 踵を返そうとした冴の耳朶を、再び男の声が打つと同時。肩をさすっていた手の平がまた首に戻り、五指が喉を包むや否や力を込めて強引に持ち上げられた。

 途端に絶息する冴をそのままの勢いで何か柔らかい物の上に投げ飛ばす。暗闇に少しだけ慣れた目が正体を写した。ベッドだ。その上に撒かれている花が、不可解な香りの正体に違いない。



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