10:3号とオリジナル 融和

10:3号とオリジナル 融和

3号の人

「LP-029 スレッタ・マーキュリー

 ファラクト・レヴェリ 出ます」

「LP-041 スレッタ・マーキュリー

 …ザウォート 出ます!」

「これより決闘を執り行います。

 決闘方式は1対1。

 勝利条件は通常通りブレードアンテナの破壊とします。

 立会人は、セセリア・ドートがつとめまーす。

 両者、向顔」


「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず」

「操縦者の技のみで決まらず」

「「ただ 結果のみが真実!」」

「フィックス リリース!」

ーーー

「うーん デミトレーナーともちょっと感覚違うなあ」


GUNDフォーマットのエアリアルとも、授業で使うデミトレーナーとも異なるザウォートの操作感に戸惑うスレッタ。グラスレー戦で破損したエアリアルを改修作業に出してしまったので、間に合わせの戦力である。


『スレッタ、ザウォートは可能な限り仕上げた

 思う存分使ってくれ』

「はい!」


地球寮のメカニックみんながこの決闘のために、同じくグラスレー戦で破損したザウォートの修理をしてくれたのだ。無駄にはできない。


ーーー

「…スレッタさん、あなたはどうして、私なんかに構うんです」


先に口を開いたのは、意外にも3号だった。


私の気持ちを話す、あの子が決闘に賭けたこと。

でも、本当は私が自分からやらなきゃいけないこと。だから、勝敗に関わらずあの子の望みには応えたい。

直接顔を合わせないモビルスーツ同士なら、まだ話せる気がした。

問いかけに対するオリジナルの返答を待つ。


「友達、だからです。あたしの初めての」

「!」


「で、でも私はあなたなんか友達じゃないって…」

「だからどうしたと言うんです!」

「え…」

「あたしは認めてませんから!

 勝手に友達辞めるなんて!


 それに…泣いてました、スレッタさん」

「!」

「何か抱えてるんですよね?苦しいんですよね?

 …だったら、頼ってくださいよ

 少しくらい、あたしにも背負わせてください!」


この子は相変わらず勝手だ。私の気も知らず、自由気ままに進んでくる。そういうところが…


「…そういうところが、

 あなたの、そういうところが嫌いなんですよ!」

「…?!」

「いつも自由で…希望でいっぱいで…

 家族、友達、夢…

 私と違って何でも持っているのにっ…!」


なんで私に近づくの。私なんかに何があるっていうの。

私みたいな空っぽの存在に…!


ーーー

「なんの意味もないわ。あなたには」

「最初から興味無かったのよ」

ーーー

プロスぺラの言葉が脳裏にちらつく。


「あなたには、何にもないって言うんですか?

 そんなこと…」

「そうですよ! 私は…私には何にも…」


だからせめて、あなたをガンダムから遠ざけたかったのに。

あなたに何かできればと思ったのに。

それすら、私は…


何とか真っ直ぐ話し合いたかったが、3号は卑屈な気持ちを抑えられない。


ーーー

そんな風に思ってたのか、この子は。

3号の思いの吐露にオリジナルも答える。


「何にもないって言うなら、これから作りましょうよ、あたしと!」

「!」


3号の脳裏にかつての4号との記憶がよぎる。


ーーー

「僕には、何にもないよ」

「なら、作りませんか? 私と!」

ーーー


4号さんと話したくて、つい勢いで言っただけの言葉。

でも、それ以来4号さんは少しずつ私に心を開いてくれて…


「あたしだけじゃありません

 ミオリネさんも、地球寮のみんなも、

 あなたを待ってます。」

「私を…?」


私なんかを…


 「…それに、あたしが沢山得られたのは

 あなたのおかげなんですよ」

「…え」

「あなたに会ったから学校に行きたいってより強く思えたし、

 ミオリネさんと会えたし、色んな人と仲良くなれた。

 あたしの世界を拡げてくれたのは、間違いなくあなたです、スレッタさん

 …だから、今度はあたしが助けたい

 あなたがあたしを嫌いでも」


そっか。

ぜんぶ私が勝手に思い込んでいただけだったんだ。

自分には何もないって、何にもできなかったって。

勝手に諦めて、ぜんぶ拒絶して、自分だけの世界に閉じこもっていた。

欲しいものは最初から目の前にあったのに。


「ありがとう…ございます、でも」


「助けたい」この子からそう言われて思ったことは、

「嬉しい」と「来て欲しくない」だった。

やっぱり私好きなんだな、この子のこと。

だから、尚更勝たなきゃいけない、この決闘に。

ガンダムの呪いは、私だけでいい。


操縦レバーを握る手に力が入る。

3号の駆るファラクトがオリジナルのザウォートに急接近し、重い刃の一撃を叩き込む。


「…すみません。やっぱり勝たせてもらいます」

「ぐっ…」


すんでのところで躱すも、衝撃にふらつくザウォート。


「どうして、ですか?

 あたしじゃ…頼りないですか?」

「違います!私は、あなたに辛い思いをして欲しくない、幸せに生きて欲しい。

 そのために私は…」

「それは…あたしも…同じです!

 あなたにも…笑っていて欲しい」


この時、オリジナルには異変が起きていた。


「ハア…ハア…」

「スレッタさん、あなたの気持ちはとても嬉しいです。

 でも、私も譲れないことがあります。だから…」


「ハア…うう」グラッ

ガシャーン

「え…?」


突然オリジナルの乗るザウォートが倒れる。


『搭乗者のバイタルに異常あり。決闘を中断します

 繰り返します。この決闘は中断します』


ー医務室ー

「皆さん…すみません

 せっかく機体の整備してもらったのに…」


申し訳なさそうにスレッタは言う。


「私たちのことはいい

 それより体調は大丈夫なのか?」

「大丈夫です…今は落ち着きました」


「そっか、良かった

 …ちょっと外出てくる」

「?」


ニカが席を外す。


ー医務室の外ー

オリジナルの体調を心配して、3号が壁越しに会話を聞いていた。


プシュン 扉が開く


「うぇ?!」

「…あなたもスレッタに会ってあげてくれない?」


突然出てきたニカに驚く。


「え…でも」

「もうじれったいなあ…行くよ」

「えちょっ」


...

「お待たせ」

「あれ、その子…」


3号を引き連れて戻ってきたニカに驚く室内の面々。


「そ、そういやザウォートまた派手にぶっ壊れたし、修理しないと!な、ニカ姉!」

「え、でもスレッタが」

「おら、いくぞお前ら」


ニカの意図を察したチュチュがみんなを病室から追い出す。

医務室にはオリジナルと3号の2人だけが残された。


「…」

「…」(き、気まずい…)

「「あ、あの」」

「ど、どうぞ」

「…どうしても話せませんか?

 あなたの悩み」

「…すみません」


私はあなたの代わりで、ガンダム実験の駒…なんてこと、言える訳がない。


「じゃあ、毎日あたしに会いに来てください」

「え?」

「それだけでいいです

 ただ、前みたいにお友達でいてください

 あなたのことは、あなたが話せるようになるまで待ちます」

「でも…」

「あたしの学園生活には、あなたも一緒にいて欲しいです」

「分かり…ました」


それがこの子の望みなら、私ができる数少ないことなら、私の意味になるなら。

3号はそう思った。

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