1 対魔忍ショウセツ ~義仲無様~ 裏切りの搾精哀願
木曽義仲は後ろ手に縛られ、畳の上に仰向けにされていた。
愛用の白い忍装束を股間の部分だけちょうど刳り抜かれて、男根を取り出されている。
そこに、こちらも黒の忍装束を、やはり股間だけ破いた丑御前が跨り、露わにした女陰に義仲のものを咥え込んでいた。膝を着いた下肢を巧みに使い、華奢な体を滑らかに上下させている。
「ああ、ああ! どうです義仲っ、私のお道具は?
気持ち良いですか? あははは! 気持ち良いのでしょうっ?」
「ぐっ・・しょ、正気に戻れ、丑御前 ・・!
貴様は気に食わぬ奴だが、しかし、そのような女人ではなかったはずだっ・・!」
「野暮ですよ、義仲。そのようなことだから、田舎者と馬鹿にされるのです。
ほらほら。今はただ“これ”を、肉の交わりを楽しもうではないですか!?
気持ち良いでしょう? ふふふ。巴と比べてどうですか?
私と巴、どちらのお道具の使い心地がいいですかっ!?」
「なっ・・!? し、痴れ者めっ・・そこまで堕ちたか、丑御ぜ・・うぅっ!?」
度し難い揶揄に、義仲が激高した瞬間。丑御前 は肉壺を収縮させ、きりきりと義仲の肉棒を巻き締めていた。これまでさえかろうじて持ち堪えていたというのに、いきなり倍増した刺激に危うく決壊しそうになり、義仲の反駁は封じ込められる。
「あははっ。どうです義仲!? ほうら、どちらですっ!?
私と巴、どちらが良いのですか? 私でしょう? ねえ。私でしょう?」
哄笑のように、歌い上げるように、丑御前 は重ねて問う。
問いながら、囚われてからの一月余りで、遊女として躾けられた技量を披露する。
「むぐぅ・・!」
義仲は砕けんばかりに歯を食いしばり、堪えることしかできない。
(巴っ・・巴ぇ・・!)
心の中でのみ、愛しい恋人の名を叫び、彼女のかんばせを、彼女との思い出を浮かべて、忌まわしい肉の衝動に抗う。
「ほらっ、どうです、ほらほらぁ!?」
「ぐっ、おおっ・・あぁぁ・・!」
「巴と私、どちらですっ、私ですよね? 私でしょう!?」
「おぉっ・・おぉぉぉ・・!」
破滅の兆候は、何度やり過ごしても、数十秒と間をおかず再訪した。そのあまりの辛さは、豪勇を誇る坂東武者の末裔をして、目尻に涙を滲ませるほどである。
いつまで堪えらればいいのか。
いつまで堪えられるのか。
およそ古今に例の無い絶望的な負け戦であった。
旭将軍の異名をとった対魔忍をして、ついに諦観に折れようとした、そのとき。
「ふむ。流石ですね、義仲。
貴方の益荒男ぶり、そして巴への愛の強さ。
改めて見せつけられましたよ。私の負けですね」
唐突に動きを止めた丑御前 は、あっさりと負けを認めると、義仲の上から退いた。悪夢から覚めれば底抜けに爽やかな目覚めを迎えたような心地で、義仲は呆然とする。
だが、それも三秒と経たぬうちのこと。
「よし。ならば次は私がお相手仕ろう、義仲殿」
爛れた気配が立ち込める遊郭にはひどく不似合いな、凛とした声が鈴のように鳴った。
「正、雪・・」
由井正雪であった。
やはり対魔忍の装束である。
こちらは丑御前と対を成すかのように、義仲と同じ白。
そして、股間の部分がぴったりと取り除かれ、性器だけを露出しているのは、三人同じであった。
丑御前と入れ替わり、そっくり同じように義仲の股座を跨ぐと、実に堂々とした仕草で腰を落としてくる。
居合の達人が納刀するが如く、自然な、つまりは慣れ切った様子で、義仲の肉刀を自らの肉鞘にしまってしまう。
途端に義仲はめくるめく悪夢へと引き戻されてしまう。
「ふっ、ふっ、ふぅ・・! 義仲殿。私のものはいかがかな。
我ながら、結構なものだと自負しているのだが。
丑御前と比べて、また巴殿と比べて、どうか。いかな心地かな?」
「そ、そんな、正雪っ・・お、お前まで、こんなぁ・・!」
――ここからしばらくは、似たような繰り返しとなり些か退屈なものとなるため、詳細な著述は省き、筆を飛ばすこととする。
丑御前と正雪は交互に義仲に跨り、その男根をその女の穴で扱き立て、しきりに彼の愛する巴との比較を強いた。
木曽義仲は、死力を振り絞って堪えた。堪え抜いた。
遊女へと落ちた二人の元対魔忍が、交互に彼を責め苛んでも、対魔忍の、彼自身の誇りと愛する者への想いでもって堪え抜いた。
二人が入れ替わること幾度か。
二刻(約四時間)をとうに過ぎてもなお堪え忍んだのであるから、彼は賞賛されこそすれ、責められる謂れはなかろう。
たとえ、義仲自身の力によってではなく、二人が当初からの予定通りに加減した結果だとしても。
「ふーむ。まだ頑張るか」
「うっ・・ぐぅ・・ふぐぅ・・と、ともえぇ・・」
「見事、と言っておこう。そして、褒美だ。それっ」
なんらの予兆もなく、不意にであった。
軽い掛け声ひとつ、番が回ってきていた正雪がその秘肉を蠢かせ、巻き絞った。
「っ!? おっ、おおぉ・・!? あっ・・」
それだけで、これまでの奮戦が嘘のように、呆気なく義仲は達していた。
我慢に我慢した末の放精は大量で、迸る快楽はそれにも増して膨大であった。
「おっ、おぉぉ・・っ」
(ああ、ついに・・だ、だが、俺は堪えた、堪え抜いたぞ、巴・・!)
喫した敗北は、しかし爽快さを、満足感を伴っていた。
義仲はついに、正雪と丑御前 の性拷問にも口を割らなかったのだ。
巴への愛を守り抜いたのだ。
その実感は、二人から浴びせられた言の葉で容易く瓦解する。
「はあ。義仲殿。残念だ。所詮は貴殿もただの男であったか」
「ええ、ええ。失望しましたよ、義仲。
貴方とは反りこそ合いませんでしたが、見所のある男だと認めていましたのに」
「っ・・な、なに・・?」
「なに、ではないだろう。
巴殿を愛していると言いながら、私に抱かれて満足するなど、見損ないましたぞ。
この正雪、貴殿と巴殿との仲睦まじさ、微笑ましく、また羨ましく思っていましたのに」
「ふふふ。愚かですね、義仲。
大体、男のものを固く滾らせ、私たちの女のものと交えていたのです。
その時点で、すでに巴は裏切っているではありませんか?
自分に都合の良い言い訳をし、身勝手な理屈を捏ねて。まったく馬鹿々々しい!」
「あっ・・ああ・・!」
反論のしようもなかった。
射精しなかったから。裏切りの言の葉を零さなかったから。
なんだとういのだ。
心を寄せ合っているわけでもない女に、女の体だけで発情し、まぐわい、みっともなく快楽に苛まれて情けない声を出して。
男として、対魔忍としての誇り、巴への愛と誠意など、その時点で泥のように崩れ落ちているではないか。
「あははは! まあまあ、よいではないですか、義仲!
気持ち良かったでしょう? 正雪は! 精をぶちまけるのは!
次は私、この丑御前 の雌穴で、貴方を極楽往生させてあげましょうぞ!」
鍛え抜かれた肉体、けれどその芯棒が抜かれたようにだらりと寝そべる義仲の上に、正雪と入れ替わり丑御前 が座す。
咥え込むや否や、艶めかしく舞い始める。
すると先ほどまでの二刻余りの奮戦が嘘だったかのように――事実、茶番であったのだが――二分ともたずに、義仲は達していた。
「あっ、ああぁ・・!」
「ええ~? ちょっと義仲・・あまりに情けないのでは?
これでは巴も満足できないでしょう。
義仲。あなた、実は随分と彼女に我慢させ、可哀そうな目を強いていますよ?」
「・・う、ち、ちがう・・そんな、ことは・・」
「代われ、丑御前 。不満だろうが、出させたら代わる約束だ。
義仲殿。私も、貴殿は巴殿に対して、男として不足があるために、忍辱を強いていると見受けた。よい機会だ。この由井正雪、木曽義仲を立派な一人前の男(おのこ)へと鍛えて進ぜよう。そぉれぃ!」
「んぉおぉ!? ・・あっ・・」
ぴゅ、とまたも赤子の手を捻るが如く、義仲は吐精してしまった。
――やはり、また重複することとなるため、筆を飛ばすとしよう。
「ああっ、い、いいぃ・・と、巴より、丑御前 の方が、丑御前 の女陰の方が、ずっと良いぃ~~っ・・! ああ、好き、好きだ、丑御前 んん~~っ・・巴より、そなたの方がっ、ずっと愛おしいぃ・・!」
「――そうですか。以前なら、貴方の事は、そう悪く思っていませんでしたが。
本当の貴方は、なんとも無様で情けなく、実につまらない、どこにでもいる男でしたね」
「おっ、おおぉ~っ、しょ、正雪殿ぉぉ・・正雪殿の方が、巴より、巴なんかよりずっと良いぃ・・! 正雪殿の方が、巴よりずっと締まるっ、ずっと柔らかく、それなのに固く抱きしめてくれてぇ・・! おお、おおぉ・・よ、義仲は、もはやそなたなしでは、そなたの肉なしではいられぬぅ・・ぬふぅ・・」
「――残念だ。義仲殿、いや、義仲。私の方は、お前など全く取るに足らん。
それなりに客をとったが、お前ほど早くて歯声のない、その上みっともなくて見苦しい男など初めてだ」