1週目ジョーカーと2週目双葉

1週目ジョーカーと2週目双葉


※ジョーカーの名前は「雨宮蓮」です


この年になって妹のような存在ができた。

東京での保護者代わりである、佐倉惣次郎の娘だ。名前は双葉という。娘といっても養子で、なんだか複雑な事情があるらしい。双葉はずっと部屋に引きこもっていたらしいのだが、蓮にはせいぜいインドア派の女の子にしか見えない。何せ、初対面からずっと双葉は懐いてくれるので。

学校から帰って屋根裏部屋にいると階下から惣次郎の慌てた声が聞こえてきて階段を降りると、眼鏡をかけた、髪の長い少女が座っていた。客かと思ったが、話し方やその内容が店員と客の距離感でないように聞こえて首を傾げていると、少女がこちらを向いた。

視線が合った時の、不可思議な表情は一体何だったのだろう。ほんの少しの間だけ泣きそうに瞳を揺らしたが、すぐにそれは消えて、代わりにぱあっと笑みが花開いた。

カチコチに固まりながら自己紹介をして、仲良くしてほしいという言葉を何回も噛んでしまって、その一生懸命な様子が可愛らしくて、蓮は思わず微笑んでいた。少しも似ていなかったが、少女は惣次郎の娘なのだろうと考えた。なぜ自分の下宿先が屋根裏部屋なのかもはっきり理解した。年頃の娘がいるなら、前歴がなくても男が同じ屋根の下に来ることを警戒するだろう。

そのとき、惣次郎があんぐりと口を開けていたことには気づけなかった。

双葉が帰ったあと、惣次郎から彼女について教えてもらった。彼女が養子であることも、引きこもりだったことも知った。家どころか部屋からも出てこないのに、急に外に出てきたので惣次郎もずいぶん驚いたようだった。もしかして知り合いだったのかと尋ねられたが、蓮は首を横に振った。本当に覚えがなかったからだ。SNS上に親しい友人がいるわけでもない。

双葉は初対面から蓮に好意的で、人混みが苦手だから一緒に繁華街や店舗へ行こうと頼んだり、わざわざ屋根裏部屋に来て一緒にゲームをしようと誘ったりしてきた。自室の中にも蓮を上げて、調べ物に夢中になっているから勝手に部屋の掃除をしたこともある。しかし人懐っこい性質なのかといえばそうでもなく、客が来ると隠れてしまう。惣次郎も、双葉が蓮に懐くのを不思議がりながらも温かく見守ってくれていた。娘が部屋の外に出るようになったことを、純粋に喜んでいたらしい。

双葉は怪盗団の協力者でもあった。転校してきたばかりのころ、鴨志田卓について知っているか聞くと「調べてやろうか?」と返答された。頼んでみると次の日には、表の顔から裏の顔まで調べつくされていた。プライベートも何もあったものでない。目を丸くしていると双葉は「褒めていいぞ」と胸を張った。それをきっかけにターゲットの情報を調べてもらうようになったが、なぜそんなことを調べさせるのかは一度も聞いたことがない。

何も聞かないのか尋ねると「お前のことを信じてるんだ」と、何か見透かしたような顔で笑う。時々、双葉は不可思議な表情を見せた。

「わたしは蓮を守りたいんだ」

膝の上のモルガナを撫でながら、双葉が言う。この猫が人の言葉を話し、異世界では姿を変えることなど知らないはずなのに、それさえ知られている気がする。守るってどういうこと、と尋ねると、

「蓮はすごく強いから、カミサマだってやっつけられるよ。でも、一人じゃそのあとに倒れちゃう。そんなことがないように、わたしが蓮を守るんだ」

双葉は不可思議なことを言いながら、何か遠くを見るような目をして、それから泣きそうに微笑む。言い返す言葉を知らない蓮は、曖昧に首を傾げるだけ。

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