1%の運命

1%の運命


「ルフィ!そっち抑えて!」

「おう!任せとけ!」

 偉大なる航路のとある島で私とルフィは嵐の中1つの海賊団を追い詰める。

「"魔術師"バジル・ホーキンス。無駄な抵抗はやめて貰える?」

「それは無理な相談だ」

 その海賊団の名はホーキンス海賊団。その船長であるバジル・ホーキンスは追い詰められてるというのに顔色一つ変えず手元のカードを弄っている。そのカードは彼の大きな特徴の一つだ。よく当たる占い。それこそが彼をここまでの大物海賊にした理由の一つに他ならない。だが、それもここまでだ。占いなんかで自分の道を決める相手に負けるつもりなど私もルフィも無い。それに相手の背後は崖になっている。退路は私とルフィで塞いだ。

「そうか。なら行くぞ!」

 活気盛んなルフィは相手が大人しく投降する気が無いのを確認すると即座にその足を振るう。ゴムの体から放たれる回し蹴りはもはや鞭である。その鞭はホーキンス海賊団を打ち雑兵を薙ぎ倒していく。ホーキンスは余裕の表情でその鞭を受け止める。武装色と武装色のぶつかり合い。まるで素手と剣で撃ち合ってるとは思えない音が嵐の中響く。片手が空いた。私の位置からならホーキンスはフリーだ。咄嗟に腰にかけてた拳銃を早撃ちしホーキンスの左肩を撃ち抜くと彼の近くにいた海賊が左肩から血を流し倒れた。

「ワラワラの実…」

 私が言うのもなんだが厄介な能力だと思う。ストックが一つ削られたからなのかホーキンスは不意に立ち上がりこちらに武器を構える。それに、私もルフィも迎撃体制をとる。1番大事なのは逃がさない事なのだ。

「一つ言っておこう。お前らがそのまま一緒にいて幸せになる確率は1%だ。」

「え?」「は?」

 突然の話に私もルフィも一瞬思考が止まる。おそらくそれが狙いだったのだろう。次の瞬間にはホーキンスは部下を伴い崖から飛び降りていた。慌てて崖に駆け寄り下を覗くとそこには既に島を離れていくホーキンス海賊団。やられた。まさかあんな事で動揺するなんてと恥ずかしさを隠しきれない。

「大丈夫だ。ウタ。おれはお前を幸せにする。」

 彼らを逃し落ち込んでる私を見て、ルフィは勘違いをしたらしい。優しく肩を抱き寄せそんな事を言ってくる。別にそんな事気にしなくても私はルフィの隣に居れれば幸せなのに。


嵐の雨音が響き渡る


 少し夢を見ていたらしい。いつかの、懐かしい日々の記憶。

「ウタ?大丈夫か?」

 わたしに気付いたルフィがこちらに駆け寄ってくる。わたしは大丈夫だと言おうとしたところで頬を滴る違和感に気付く。これは涙だ。どうやらあの夢で泣いてしまったらしい。動揺したルフィは近寄ってくると同時にわたしを抱きしめる。離れないように。離さないように。

『一つ言っておこう。お前らがそのまま一緒にいて幸せになる確率は1%だ。』

 ふと、あの日彼が言った言葉を思い出す。いや、つい先程まで夢に見たのだから別の言い方の方がいいだろうか。

「ルフィ。大丈夫だよ。ちょっと怖い夢を見ちゃっただけ。」

 わたしを抱きしめるルフィを安心させるように言う。もしルフィがあの時わたしを庇わなければ彼は今頃海軍の英雄として祭り上げられてただろう。彼の事だ。多くの人に囲まれて大海賊時代を終わらせていたのかも知れない。そう考えると、あの日の言葉が重りのようにのしかかる。

『幸せになる確率は1%だ。』

 わたしの身勝手でルフィの輝かしい未来を奪ってしまった。それはわたしがシャンクスに置いていかれたあの日からずっと変わらない。いつか海賊として大きな事を成し遂げるであろう幼い少年の未来を奪ったわたし。海兵としてみんなに囲まれた幸せな未来を奪ってしまったわたし。こんな疫病神と一緒に居たのならなるほど、それは確かに1%であろう。寧ろ1%もあるのかと思いたくなる。けれども仕方ないだろう。

「ウタはおれにとっても大切な相手なんだよ…あの日から…だからよ…1人で抱え込まないでくれよ…おれに出来る事なら力になるからさ…」

 ルフィは人の感情を読み取るのが得意だ。だからだろう。わたしの不安定な感情も読み取ってしまったらしい。抱きしめられる腕に力が入る。安心させるつもりが余計に不安にさせてしまったらしい。それでも仕方ないだろう。だって、わたしはルフィに捨てられたら生きていけない。ルフィが居なければ生きてる理由が無い。いつからかルフィはわたしの中でそれほど大きい存在になっていたのだから。



 新世界のとある島でバジル・ホーキンスは1枚の新聞を読む。そこに書いてあったのは"英雄"と"歌姫"の悲劇。もう2ヶ月も前のものだった。その後の死亡記事が出てないという事はあの時戦った2人は生きているのだろう。そう結論付け、ホーキンスはあの時と同じ内容の占いをもう一度行う。

「あの2人が運命の相手同士である確率…100%」

 あの時、あえて言わなかったもう一つの占い結果。あの時から何度か繰り返したが覆らない100の確率。100%と0%は滅多に発生し得ない。だからこそこの結果にホーキンスは驚き、今もミスが無かったか繰り返し続けている。"運命の相手と一緒にいると幸せになれない"そんな結果を見てしまったのだから。

「運命の相手だから壁があるのか。壁があるからこその運命の相手なのか。」

 少なくともあの2人は今は幸せではないだろう。だが、今後あの2人が1%を乗り越えるのならば…そこまで考えてホーキンスは思考を止める。所詮そんな事考えた所で意味が無いからだ。ここまで彼が生きてこれたのは確率の高い道を選んで来たからなのだから…

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