膝の上でスヤスヤと眠る凪を見ながら、玲王は少し途方に暮れていた

せっかくのお返しチャンス、しかしそれには問題があったのだ


玲王「(何したらいいか、わかんねぇんだけど…)」


凪が完全に寝てしまっていて自分一人だけだと、何をどうしたら良いのか分からず玲王は困ってしまっていた

とりあえず膝の上で気持ち良さそうに眠る凪を起こさないよう、ベッドの上にそっと仰向けで寝かせる


玲王「…(とりあえず、触ればいいんだよな、触れば!)」


そして、凪のパジャマのボタンを上から一つずつゆっくりと外していき、前を肌蹴させていく


玲王「…うっ(凪の着替え手伝うとか、いっつもしてんのに…なんか、今日はスゲー緊張する…)」


前までとは違い、この先の行為を少し知ってしまっているからなのか

いけない事をしているような気持ちのままボタンを全て外し終えると、間接照明の灯りの下に凪の鍛えられた胸筋と腹筋が晒された


玲王は手でそっと凪の胸に触れてみる


玲王「(…なんだろ、これ…身体触ってるだけなのに…すげぇドキドキする)」

いつもマッサージで凪の身体などしょっちゅう触っているのに、今は、何かが違う


玲王は凪からされた行為を思い出しながら、そっと唇を首筋につけて下の方へと滑らせていく



玲王「おそろいに、しよっか」


鎖骨に辿り着き、そこに自分と同じ様なキスマーク残そうと試してみる

玲王「(たしか、ちょっと噛んでから吸ってたっけ…)」


玲王は流れ落ちる自身の前髪を耳にかけ、凪の鎖骨の上の薄い皮膚に歯を立てて噛もうとするが、遠慮してしまっているため歯でその薄い部分の皮膚を上手く食むことが出来なかった


玲王「(どーしよう、こんな薄いとこ噛んだら…絶対痛いよな)」


暴走している凪はいつもお構い無しに玲王の肌をガブガブと噛んで跡を付けるのだが、玲王は優しすぎるためその行為すら躊躇ってしまっている


少しだけ噛んでしまったそこにチュ、といたわるように軽くキスをしてから、玲王は再び凪の首筋に顔を埋めてみた


玲王「(凪の匂いする…落ち着く…てか、この辺なら、上手く噛めるかも)」


今晩仮装したあの吸血鬼のように、玲王は凪の髪を軽く押さえながらその首筋に歯を立てカリッと咬みつく

そして、そこに舌を付けてチュッと時間をかけながらゆっくりと吸っていった


玲王「はっ…こんな、カンジ?」


顔を上げた玲王が見た凪の首筋には、しっかりと赤い跡が付いていた


玲王「…!(よしっ、できた!けど…)」


誰にも見られていないのに、玲王はキョロキョロと周囲を伺う

そして一人で凪の服を脱がせてしているその行為が急に恥ずかしくなり、肌蹴させていた凪のパジャマの前を閉じようと慌てて襟を握ったその瞬間———


玲王「うわッ!!」

玲王の視界が急転する


寝ていたはずの凪が突然動き、玲王を腕の中に抱きしめていたのだ


玲王「えっ、な、凪っ…!(起きてるっ!?)」

凪「んにゃ…」


玲王「へ…?」


凪「もぅ、レオ…早く…」

バクバクと心音を響かせながら、玲王が凪の腕の中からその声のする方を見上げる


凪「早く俺だけのメイドさんになってよー?…」

玲王「〜ッ!?もぉっ!どんな夢見てんだよ!?驚かせんなっ!」


玲王はたしなめるようにして凪の耳朶をガリッと軽く噛んでやる


凪「…ッ…?」

凪が眠そうにしながら身を捩るが、起きる様子はなかった


そして玲王はため息をつきながら、そのまま耳元で告げる


玲王「今度はちゃんと…最後まで教えて」


玲王は凪の胸元の肌に自分の顔をピッタリとくっつけて、凪のその体温と匂いを感じながら安心したように眠りについた




翌朝———



玲王「おはよー、凪」


凪「ん、おはよ、ハニー…」

玲王「誰がハニーだよ。もうすぐ朝食来るから、早く顔洗って来い」


凪「…?」


玲王の声にパチリと目を開けた凪は、知らない天井を見上げる


凪「えっと…どこだっけ、ここ…(確か、レオと昨日はお泊まりして…)」

まだ寝ぼけている凪は、ムクリと起き上がり首をぽりぽりと掻きながら昨日の記憶をたどっていた

ちなみに凪のパジャマのボタンは、早起きした玲王によって何もなかったようにちゃんと留められている


凪「なんか、昨日はスッゲェいー夢見た気がするんだよね…」


伸びをしようと動かした凪の手に、コン、と枕の下にあった箱が当たった


凪「あー…(そうだ…ベッドでもっかいエッチ誘おうと思ったのに…俺、寝落ちしちゃってんじゃん…っ!)」


凪「えっ、って、今何時ッ!?」

慌ててスマホを見るが、無情にも時刻は朝7:30を過ぎたところだった


凪「あー、マジで、マジでバカ…俺の超バカ…」

凪「(神様時間を巻き戻してください…ッ)」


ガックリと項垂れてた凪は今回も未開封のままで終わってしまった赤い箱を手に取り、悲しげに見つめる


凪「ごめんな、0.01mm…お前の出番、またなかったよ…」

玲王「おーい、なぎー?お湯出したから早く来いよー」


洗面所から凪を呼ぶ玲王の声が聞こえてきくる

顔を洗う凪のために、水を冷たすぎないよう適温に調節してくれているらしい


凪「えー、(レオ優しすぎ…)おんぶして連れてってよー?」

調子に乗っている凪は玲王にさらに甘えようとする

玲王「ダーメ、ここまでは自分で歩くの」


凪「じゃあ、キスしてくんなきゃ起きないよー?」

玲王「へぇー、じゃあ寂しいけど朝ごはんは俺一人で食べよっかなー」

凪「もぉー、起きるって!」


朝起きたら玲王がいる

くだらない会話にちゃんと返してくれる


その幸せを凪は噛み締めていた


凪「(毎朝、こーだったらいいのに)」


玲王を独り占めできるチェックアウトの時間まであと数時間


一分でも長く玲王に触れたくて、凪はのそのそと重い身体を起こして洗面所へと向かうが、玲王はシャワーを浴びに行ってしまったのかすでに姿を消していた


風呂場の方から水音が聞こえてくる


凪「お風呂入るんなら俺も誘ってよ!」


凪「…もぉー」


顔を洗おうとふと前を見た時、鏡にある物が映り、凪は思考が停止した


凪「…え、何、コレ…」




AM8:00


時間ちょうどに部屋のベルが鳴り、ワゴンで朝食が運ばれてきた


キャスト「御影様、おはようございます」

玲王「おはようございます」

キャスト「昨夜はよくお休みになれましたか?」


キャストが玲王と今日もお天気ですね、とか、場を和ませる会話を交わしながら、朝日の差し込む気持ちの良い窓際につけられたテーブルの上に次々と朝食が並べられていく


ミッ◯ーの形に折られたテーブルナフキン

スクランブルエッグとオムレツ、ソーセージとベーコンに、温野菜とチーズソース

フルーツジュース、サラダ、果物、ヨーグルト

パンはミッ◯ー型と、クロワッサン、チョコデニッシュの三種類だ


キャスト「それでは、ごゆっくりお召し上がりください」



玲王「美味しそー!いただきまーす」

凪「いただきます」

玲王「全部食べきれるかなー?」

目の前に並ぶ料理に玲王は嬉しそうな声をあげる


凪「昨日うどんしか食べてないし、俺は余裕だけど」

玲王「ハハッ、たしかに…」


そう言って顔を上げた玲王の瞳にある物が映る


玲王「ん、ブッ!」

凪「?」

玲王は、危うく飲みかけのコーヒーを口から吹き出しそうになった


玲王「(やばっ…!)」


寝室にいる時はよく見えなかったのだが、朝日の差し込む明るい窓際だと昨夜付けた凪の首筋の跡がハッキリと見える


玲王「(あ、明るいとこで見たら、めっちゃ目立ってんじゃん…!)」


凪「どうしたの?コーヒー苦かった?大丈夫?」

玲王「え?あ、あ、うん。だい、大丈夫…(神様…!凪が気付きませんように…!)」

玲王は何でもない様子を演じながら、ナフキンで口の端についたコーヒーを拭った


凪「外、今日も天気ちょー良いよ。今日はどーする?」

窓の外にはシーを象徴する火山が見えていた


夜と朝とでは、パークも見せる表情がまるで違う

昨日の玲王との出来事が、既に遠い過去の様に凪には思えた


玲王「え?あ、ラ、ラ◯ド行く?ベ◯マックスに会いに…って、行ったらいんのかな?」

凪「ナギマックスならここにいるけど…てか、レオさ、このホテルプールがあるから決めたとかって言ってなかったっけ」

玲王「え、あ、うん…言ったっけナー、そんなコト」


そう、玲王は二日目は朝からプールに入ろうと思って、ちゃんと二人分の水着を用意して来ていたのだ

自分には紫の競泳用水着、そして凪にはトランクス型でひよこさん柄がたくさんついた水着🐥を


しかし、キスマークをつけたままプールになんぞに入れるワケがなかった


玲王「あ、でも俺さ、お前にキスマつけられたからプール入れねーわ!やっぱダメ!無し無し!」

凪「へー、じゃあ俺だけ入って来ようかな。どんなプールか気になるし」

玲王「ぐっ…!?(嘘、だろ?)」


凪「…ねぇ、レオ。さっきから顔赤いよ?どうしたの?」

玲王「な、なに、がー?あ、俺ミッ◯ーのパンもーらいっ」


そう言って玲王が話題を変えようとパンの入ったカゴに伸ばした手を凪が掴み、恋人繋ぎのように指を絡めて「逃さない」と言ったようにその手を強く握り込んだ


玲王「…っ、な、何…?」

凪「顔赤いしさ…手も、ちょっと熱いよね。昨日長風呂だったから風邪ひいちゃった?」


凪が心配そうな目で玲王を見つめる


玲王「そ、そう、かも…」


凪「違うよね」

玲王「え」


凪「レオ、俺に言わなきゃいけないコト…あるんじゃないの?」


玲王「ッ!?」


「凪に、気づかれていた」

いつもと形成逆転した玲王の紫色の瞳は、どう言い訳したら良いのか分からず海底のコーヒーカップのようにグルグルと渦を巻いている


玲王「な、な、な、なに」

凪が繋いだままの玲王の手のひらを、親指でツーッと緩くなぞった


玲王「ぁっ…」


凪「伯爵様は、エッチだよね」

凪が自身のパジャマの襟元をグイッと開いて、玲王に首筋を見せつけてくる


凪「だって寝てる俺の首に…勝手にキスマつけてるんだもん」

玲王「ぅッ…!」


玲王はイタズラがバレてしまった子どもの様に顔を赤くして、さらに狼狽える


凪「これつけたの、レオでしょ?今の時季虫とかいないし、虫刺されとかの言い訳は通用しないよ?白状して。言うまでこの手、離さないから」


玲王「…」


玲王は観念した


玲王「え、あ…首筋噛んだ、だけ、」

凪「ほんとに?」


玲王の狼狽え方を見た凪は、軽くカマをかけてみる

凪「なんか身体に違和感あるんだけどなー」


玲王「え、あ、(もしかして、起きてた、の…?)じ、実は、胸とか、お腹とか、も…ちょっとだけ、触ってみたり…した」

イタズラが見つかって叱られた子どもの様に、気まずそうにして玲王が斜め下を見る


凪「へ、へぇー(マ、マジかよ…)他には?まだ、あるんでしょ?」


凪は努めて平静を装いつつも、「そんな大チャンスの時にスヤスヤ寝てんじゃねぇよ凪誠士郎ーッ!!」と叫び出したい気持ちになったのをグッと堪えていた

なぜならいつもは恥ずかしがり屋の恋人が、寝てる自分にしてきた少しエッチな行いを、今こうして一つずつ顔を赤らめながら語っているのだから


玲王「あ、あと、鎖骨、も、ちょっとだけ…噛んだ。ごめん」


凪「え」


玲王「跡、お揃いにしようかと思ったけど、その、うまく噛めなくって…首筋に、見えるとこに、つけちゃって、ほんと、ごめん、なさい…」


凪には見えるところに跡をつけるなと言いつつ、自分は思いっきり見える場所に跡をつけてしまった罪悪感から、玲王は泣き出しそうになってしまっている


凪「ちょ、ちょ、ちょ…ちょっと待って…」

玲王の言葉とその表情の情報量の多さから、凪のその天才的頭脳は久しぶりに処理落ちしそうになっていた


凪「(キスマの場所お揃いとかさ…それで、うまくできなくて見えるところに付けちゃったからって素直に謝ってくるとかさ…や、やることがイチイチ可愛すぎんだろッ…!!)」


眉を寄せて凪に何と言われてしまうのだろうと不安そうな様子の玲王の表情が、眩しいほどの朝日に照らされよく見える


その綺麗な顔を、自分にしか見せない表情を、余すことなく全て鮮明に映し出してくれる太陽の光

クルクルと表情のよく変わる玲王には、やっぱり海底よりも太陽の下が一番似合うと凪は思う


凪「大丈夫、怒ってないよ」

玲王「ほんと?」


凪「じゃあさ、鎖骨へのキスマの付け方、レオにちゃんと教えたいから——」

握っていた手を凪が両手で包み込む


凪「朝ごはん食べた後に、ベッドで昨日の続きしよっか?」


チェックアウトまでは残り数時間


夢の国から出た後も二人の熱い夢の世界は、まだまだ終わりそうにない———



〜第十部【完】〜


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