🏔×🛷

ワ

ン　

ク

ッ

シ

ョ

ン

⚠️お品書き

🛷を甘やかしたい🏔とやたらと初心な🛷の🏔🛷です

「じいちゃんすごい顔してたな」

「……」

「きれいな部屋じゃん。海の中みたいで」

「……」

「これならお前もきれいな思い出残せるな」

「……」

「いつまでふてくされてんだよ」

「……」

「オーソ」

　外では聞けないような、どこまでも深く優しい声で呼ばれた。それだけで体の真ん中が熱くなる。

「なんだよお前…あんなスムーズに受付通っちゃってさ…俺なんて料金体系すらよくわかんなかったのに」

　2時間…4時間…普通はどれくらいで終わらせるのが一般的なのか。料金表を見てもちんぷんかんぷんで、そんなオーソの後ろからなんてことのない声で「朝まで」ときた。

　なにより代金全額この男持ち。ハイハイさすがの賞金王サマですね。拗ねるオーソ。

　賞金王ことウシュバは貝殻を模したベッドに腰掛ける。

「どーーーりで俺のこと童貞だの処女だのバカにするわけだ」

「オーソ」

　名前を呼ぶ。オーソが振り返る。

「おいで」

　手招きすると、素直に応じた。

　ウシュバの前に立つオーソの手を優しく取る。

「別にバカにしてたわけじゃないし…どうしても確認したくなるんだよ。お前が誰の手垢もついてないこと」

「……俺なんて、お前の手垢だらけだよ、ばか」

　とっくの昔にウシュバにファーストキスは奪われた。それ以上の事も割とされた。けれど最後の最後の一線だけはまだ越えてない。

「まあ、だから今日捨てに来たんだろ。処女」

「あの……っ、やっぱりその、俺がその……だ、だ、だ……かれる側、なん、でしょうか？」

「そりゃそうだろ。あんだけ俺に色々されておいて、俺以上のテクお前にある？」

「………」

「というか俺がお前をもう、めちゃくちゃに抱きたい」

「！！」

　反射的にウシュバの手を振りほどこうとしたが、許されなかった。

　青い照明が部屋を覆っているけれど、それでも隠しきれないぐらいオーソの顔が赤いのがわかる。

　ウシュバはオーソの手の甲を、親指ですりすりと撫でた。

「ま、とりあえず風呂でも入るか」

　ガラス張りで部屋から丸見えの風呂。自分が入ってる様を部屋から見られる方が何倍も恥ずかしいから、一緒に入ることを了承した。

　ウシュバは笑う。それ以上のことするためにここに来たってのにな。

「あ〜いい湯だなー。やっぱり日本人は湯船だよな。あれ？日本人？馬？まあいいか」

「じじくさ」

　そこそこの広さの浴槽だけど体格のいい二人、どうしたって距離なんか取れないのに悪あがきで縮こまるオーソ。

「大丈夫かよオーソ。のぼせない？」

　こくこくと首を縦に振るだけ。ガチガチに緊張してんじゃねえか…ウシュバは頬が緩むのを抑えられない。

　どうせ今日、オーソを抱けるなんて思ってない。

「脚伸ばすくらいの余裕はあるぞ〜ほら」

「ふわっ、わかったから！」

　オーソの脚を撫でる。ちょっと触られただけで過敏に反応するこの男が面白くないわけがない。けれどその面白みも、すっと心に氷が落ちてきたように萎えた。

　オーソの体にいくつか残る手術の痕に触れて。

「……やっぱり確認しときたいんだけどさ」

「なんだよ」

　ざばりと水面が揺れる。ウシュバはオーソの伸ばした脚の上を跨るようにして向かい合う。浴槽の縁に手をかけて、ぐいと顔を近づけてやれば、緊張を超えた恐怖が見て取れた。

「俺はお前のことめちゃくちゃ抱きたいけど、お前は俺に抱かれたい？というか俺のこと好き？」

「す…っ！」

　互いに互いの瞳しか映らないのではないかというほど近く。

　動揺に揺れるオーソの瞳は、けれどやっぱり海のようだとウシュバは思う。どんなに揺らいでも揺らいでも、決して折れないその心は嵐の後に凪いだ海のように悠然と構える。そんな心が宿る瞳。

「俺はお前に痛いとか辛いとか苦しいとか、そういうの一片も思ってほしくないわけ。俺はお前が俺に愛されたいってんならとことん愛して甘やかしてやりたいのもうどろどろに。で」

「………」

「オーソは、俺のこと好き？」

「す…す…」

　ここで、好きと言えないのがオーソだ。甘やかされるのを享受できないのがオーソだ。残念だけどそれはそれで仕方ない。少しでもオーソにその気がないなら抱く気はない。

　だから今日は、オーソを抱けるとは思っていなかった。

　オーソから距離を取ろうと、体を起こす。

「…………………………すき」

「うん、だろうな。じゃあ今日は………はえ？」

　オーソの口から聞き慣れない言葉を捉えて、理解するのに数秒は掛かった。

　思ったような反応を返されなかったのが堪えたのか、オーソは顔を真っ赤にして今にも泣きそうな、そう珍しく泣きそうな顔をしていた。

「すき…おれ、ウシュバがすき」

「ど、え、あ、うん？え？」

「………」

　バシャン、と一度顔を水面につけたオーソは、勢い良く顔を上げてそのままウシュバの両頬をつかむ。

「なんだよ！お前の未勝利戦からずっと見てたの俺は！なんだよ！なんだよおまえ…今はみんなから注目されてさ、賞金王だって？世界のウシュバだって？くそっ、手の届かないところに行きやがって！たまには俺のウシュバになれ！」

　一気に捲し立てたあと、噛み付くように不器用に口付けた。

　ウシュバは口付けられながら目を見張る。何も考えられなくて、けれどオーソの離れようとする唇が惜しくて、後頭部を押さえる。

　いいのか、これ？放さなくて。

　舌を入れて、空気まで奪うように、獣のように口付けた後、そこでようやく少し冷静になれた。

「お前なんて最初っからみんなに期待されてさ…同い年で同じ父親で、なんでこうも違うんだって。多分みんなお前に対してそう思ってたよ」

「そんな、わけ、あるかよ…」

　そうかも。そうかな。わからない。他の奴らの気持ちなんて。

　ウシュバはゆらりと項垂れる。心の奥底から湧き上がる、このゆらめきを抑えるように。

「あ〜〜〜やばいやばいやばいだめだ、一番最初が風呂はだめだろ…いや逆にいいか…？」

「……お前ってさ、なんか火みたい」

「……？その心は…？」

「…………………ひみつ」

　焦らし上手だ。

「あと」

「なに」

「俺は別にどっちでもいいけど、おまえがおれをだきたいってんなら、おれ、だかれてもいいよ」

「や〜じいちゃんお世話になりました」

「お、おう……お楽しみだったようで…」

「やだな、いくらじいちゃんでも俺のオーソの昨夜の詳細なんて教えないって」

「余計なこと言うなばか！」

「楽しみだな俺達の……ぶふっ！あかちゃ…！」

「わーーーっ！！！うわーーーーっ！！！言うなお前ぶっ飛ばすぞ！！！！！」

「そんな体力残ってんのかよ？」

「うるっさいばか！もう〜！ばか！ばーか！！じゃあねおじいちゃん！！」

「またねじいちゃん」

「あっ、父さんには言わないでよおじいちゃん！」

「……………いや客の情報は漏らさねえから」

　夏休みに田舎のじいちゃんちに来た小学生の孫たちかよ。なんとなくスイカが食べたくなったステゴだった。