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わ

ん

く

っ

し

ょ

ん

擬人化学パロ時空です

青春しててほしいなと思って書きました

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『青の音、春の色』

音って、次元まで越えるんだなぁ。

流れてくる音に耳を傾けながら、ふとそう思った。

授業の時に忘れていってしまった、イクイの筆箱を取りにきた放課後。

夕焼け色が、ピアノの黒を、黒板の深緑を、制服の青を、壁のクリーム色を、全部染め上げていた。

「ね、このピアノ弾いてもいいかな？」

どこか嬉しそうに、どこか懐かしそうにイクイはそう尋ねてきた。

小さい頃習っていたらしい……のだか、実は一度も聞いたことがない。

「いいんじゃね？別に誰もこないだろうし」

なんとなしに、軽く答える。

重たそうな蓋を開け、その指が白い鍵盤に触れた刹那。

「音」は、「景色」に変わった。

奏でられるメロディに、色がついていく。

もの悲しげなそのラインは、何かの苦しみなんだろうか。

青藍、瑠璃、藤……アクセントに、臙脂。

景色が、夕焼け色の一色から、「悲哀」の青へと移りかわっていく。

……片思いしてる時、こんな感じだったなあ。

好きなんだけど、相手に受け入れてもらえるかわからない苦しみ。

そんな思いを気づかせたくないすれ違い。

ピアノを弾き終わったときの、不思議な静寂が空間を包む。

「なあイクイ、これ、なんて曲？」

「クライスラー作曲、ラフマニノフ編曲の『愛の悲しみ』」

ああ、感じたイメージは間違ってなかった。

人を愛するには、それ相応の「悲しみ」も、受け入れなきゃならない。

そう、言われてるようで。

「んー、でも、僕この曲あんまり好きじゃないんだよね」

え？と耳を疑った。好きな曲だから弾いたんじゃないのか？

そう、尋ねると＿＿

「指慣らしで弾けるから弾いたし、昔はふーん、ってかんじだったんだけどさ」

「ジオに抱いてた気持ちが『愛』だってわかってから、悲しみなんて弾きたくなくて。」

「だって、こんなに好きなんだもん。悲しい事がない、なんて言えないし言わないけど、それも含めて全部、側にいたいから。」

なんて言われてしまった。

自分の顔が真っ赤に染まる。予想だにしていなかった言葉に、どんな感情を向ければいいかわからず、俯いてしまう。

すると、

「ね、ジオ、ギター弾けるでしょ？……あのね、一緒に弾きたい曲があって」

と少しだけ頬を赤らめたイクイが言う。

「いいよ。チューニング手伝って。」　

「はーい」

壁にずらりと掛かっているギターの中から一本を取り出して、弦を鳴らす。

イクイが示す音に合わせて、ペグを回してチューニングをし始める。

恋はチューニングだなんて言うのも、あながち間違ってないな、なんて思った。

コードを綺麗に鳴らすためにお互い歩み寄る様は、まるで二人の愛のカタチのようで。

「チューニング、できたぞ」

「じゃあ、僕から弾くね。二番になったらジオが弾いて。」

「りょーかい」

ピアノの柔らかな音が聞こえる。

それと同時に、微かに揺れた、イクイの幼い声が響く。

『どうして　君が泣くの　まだ僕も泣いていないのに　自分より　悲しむから　つらいのがどっちかわからなくなるよ』

『ガラクタだったはずの今日が二人なら宝物になる』

『そばにいたいよ　君のために出来ることが僕にあるかな　いつも君に　ずっと君に笑っていてほしくて

ひまわりのような　まっすぐなその優しさを温もりを全部　これからは僕も　届けていきたい　ここにある幸せに　気づいたから』

二人とも怪我をして、外に出られなかった時に観た映画の主題歌。

二人して号泣して、オーソ先輩から呆れられたっけ。

あの時はまだ、歌詞の意味なんて理解できていなかったけれど、今ならわかる。

大切な人が悲しんでるのが、一番辛い。

大切な人が嬉しんでるのが、一番幸せ。

ずっとずっと、そばにいたい。

君に、笑っていてほしい。

そんな歌詞が、ピアノの柔らかな旋律にのせてイクイの優しい少し高めの声で歌われるととたんにメロディが具現化されるみたいで。

山吹、茜、薄紅梅、……あと、やっぱり向日葵。

次々と色へ変貌する音を、今度は自分のギターで捉える。

『遠くで　ともる未来　もしも僕らが離れても　それぞれ歩いていく　その先で　また　出会えると信じて』

『ちぐはぐだったはずの歩幅　ひとつのように　今　重なる』　

『そばにいること　なにげないこの瞬間も　忘れはしないよ　旅立ちの日　手を振る時　笑顔でいられるように

ひまわりのような　まっすぐなその優しさを温もりを全部　返したいけれど　君のことだから　もう充分だよって　きっと言うかな』

ギターのしっかりとした弦を弾く音と一緒に、メロディは景色に溶け込む。

ちらりと一瞬だけ目を合わせて、間奏に入る。

オレはコードしか弾けないので、メロディはイクイに託して、楽器だけの空間をつくる。

互いに、音で通じ合う。

ジオはここ、どうやって弾くの？

んー、オレならトレモロ入れたいな。イクイは？

僕は……アルペジオの雰囲気じゃないしスラーで伸ばし気味にいこうかなあ。

言葉を封じて、その「音」は感情を、考えを、意思を、想いを、＿＿「自分自身」を、伝えていく。

ラストのサビは、二人で一緒に。

『『そばにいたいよ　君のために出来ることが僕にあるかな　いつも君に　ずっと君に笑っていてほしくて

ひまわりのような　まっすぐなその優しさを温もりを全部　これからは僕も　届けていきたい　本当の幸せの意味を　見つけたから』』

二人でまた、笑いあう。

夕陽の色は、さっきよりもずっと色濃く、音楽室を染め上げていた。

「……なんか、くすぐったいね。ジオからのメッセージみたい。」

「ああ。オレもちゃんと受け取ったよ。イクイからの、メッセージ。」

ひまわりが咲く季節は、もう少し先だけれど。

この音楽室のワンシーンが、色が、音が、また見られるように。

喜びに満ち溢れた愛でいられるように。

「「約束、しよ」」

指切りの影法師が、夕日色の黒板に刻まれていた。