m無題

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「はぁっ……はぁっ……!たすけっ……」


それは、ある昼下がりのことであった。

この建物に転がり込んできた生徒が一人。


彼女に見覚えのないものがこの建物にいるはずもなかった。


トリニティのすべてを現在掌握しているであろう生徒。


だが、その姿にトリニティの掌握者としての威厳を感じるものはいなかっただろう。

傷こそないものの、彼女の服は懸命に逃亡を続けたのがわかるほどにドロドロで、都落ちした落伍者であろうことは、誰の目からも明らかだった。


そんな彼女が地面を這いつくばりながら、こちらへと必死ににじり寄る姿を見て、私たちもどうするべきかととりあえず上司へと連絡を入れようとしたその瞬間であった。


爆発があった。

連邦生徒会の所属するこのビルのガラス張りの入り口は、爆弾により破壊された。


「邪魔するわよ」


砕けたガラスを踏み砕く音。


その姿を見た我々は、思わず、悲鳴を上げそうになった。


追撃者の姿はボロボロであった。

火傷に、裂傷。片腕はおそらく折れているのか、だらんと力なくたれ下がっている。


陸八魔アル。

ゲヘナに所属する問題児の一人。


しかし、その姿を見たものの中に、彼女を敗者だというものは誰もいなかった。


彼女は、それほどの傷を負っているにもかかわらず。

まるで何でもないかのように、シャンと立って敵を。


彼女を見降ろしていた。


「カヨコ」


片腕で重そうなスナイパーライフルを持ち上げた彼女は、側近に装填を手伝わせる。


異常な光景のなか、静かに弾丸を込める音だけが響く。


逃げ込んだ彼女を助けようと動けるものは、だれもいなかった。

陸八魔アルの周りを囲む残りの二人が牽制しているのもあるが、その目。


獲物をただ見つめる彼女の瞳に怯え、我々は動けなかったのだ。


「できたよ」


「ありがとう」


どれだけの時間がたったのだろう。

息もできないほどに張り詰めた空気の中、装填は終わる。


再び、彼女の前進が始まる。

目に見えるだけでもボロボロな彼女の足は、ブレることなく少女との距離を詰め、彼女の胸元へと銃身を動かす。

定まった銃身は一寸のブレもなく、彼女の心臓の真上で停止する。


「いいの?!こ、ここでトリニティの重要人物である私を撃てば、あなたたちはキヴォトス中のお尋ね者!!生きていくのだって苦労するし、毎日を追われ、逃げ惑う日が待ってるのよ!!!」


そんな彼女が吐き出したのは、恐らく精いっぱいの脅しだったのだろう。


「そうね」


それが、この場で彼女が発せた最後の言葉であった。

五発の銃声は、一寸の狂いなく彼女の肉体に吸い込まれ彼女の意識を断ち切る。


返り血を浴びた陸八魔アルは、自身に飛び散ったそれを軽くぬぐうと、コートを翻し彼女に背を向ける。


「ムツキ、あれ、ばらまいときなさい」


「はーい☆じゃあ、連邦生徒会のみんなー?便利屋からのプレゼントだよー!」


再び。爆風がロビーに広がり、気が付いたときには彼女たちの姿はなく、残されたのは陸八魔アルに撃ち抜かれ心までへし折られた少女のこれまでの不正と悪行の確固たる証拠。


……この日、陸八魔アルと便利屋が指名手配を受けることはなかった

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