海兵と歌姫と歌う骸骨
このssにはキャラ崩壊・設定捏造が含まれます
ご注意ください!
part8:希望の歌を歌って
巨大死体兵オーズモリアが撃破されたことに歓声を上げる被害者の会
そんな彼らを尻目にウタは、影が抜けた後倒れ伏していたルフィに元へと走っていた。
「ルフィ、大丈夫!私、ウタだよ!わかる!?」
「…ハア、ハア、…俺が、お前のこと、わからねぇわけねぇだろ…。ウタ…まだだぞ…。」
「わかってる!今はこれ食べて!」
そう言って、ポケットの中から、大きな腸詰の燻製を取り出すとルフィに食べさせるウタ。
肉が力の源と言っても過言ではないルフィの為に、常に携帯しているもの。海兵時代からの習慣であった。
…彼らはまだ戦いが終わっていないと考えていたのだ。
(ローラたちの影がまだ戻っていない…まだモリアの意識があるんだ…!)
悪魔の実の効果を無くすには、能力者自身が解除する以外にも方法があるが
大抵は体力の消耗などによる気絶、そして外部からの攻撃などによる失神である。
影が戻っていない…カゲカゲの実の能力が解除されていないということは…モリアの意識が途絶えていないということである。
「うわぁあああ!?モ、モリア!!?」
程なく、不気味なほどに色白な大男…モリアがオーズの影から出てきた。
「…中々やってくれるじゃねぇか、海兵。…苦労して復元したオーズを、よくもここまでぶっ壊してくれたなぁ…。」
「先に喧嘩売ってきたのはお前ェの方だろ!俺たちは、自分と友達の身を守るためにやっただけだ!!」
「そうだよ!モリア、あんたは負けたんだ!ローラたちの、いや今まで奪ってきた影を全部返せ!!」
影と同化していたからか、然程外傷が見当たらないモリアに対し、ルフィとウタは怯むことなく啖呵をきる。
そこに被害者の会たちが続く。
「そ、そうよ!先に手を出したのはそっちのくせに、恨み言いうなんて情けない男ね!」
「人の影を盗るだけじゃ飽き足らず、死体まで使うなんて罰当たりな野郎だ!」
「俺たちを何年も、こんな陰気くせー島に閉じ込めやがって!さっさと影を返しやがれ!!」
数年分の鬱憤を王下七武海の一人にぶつけるも、モリアはそれを一蹴する。
「負け犬共が…。海賊のくせに海兵の手を借りるとはな!野良犬のほうがまだプライドを持っているぜ!」
「ぐっ…!」
海賊が海兵に救われた…事実を突き付けられたローリング海賊団たちは怯んでしまう。
その反応にモリアが勢いづいていく。
「いいか!お前たちが生きていられたのは、お前たちが死ねばゾンビに入れた影が失われるからだ!!
お前らは、俺の都合で生かされていただけだ!自分の力で生き残っていたわけじゃない!」
「ローラたちは、ただ生き残っていたわけじゃない!」
それを遮ったのは、海賊を憎んでいたはずのウタだった。
「おなじ境遇の仲間を集めて、力を合わせて影を集めてきたんだ。いつか自由を取り戻せることを信じて!
それに比べてお前はどうだ!勝手に勝った気になって、やり返されたらつまらない御託を並べて!
諦めずに希望を叶えたのがローラたちで!全部ひっくり返されたのがおまえだろ!」
「ああ、そうだ!こいつらが集めてくれた影100体と、ブルックとノシシの影!それがあったから、俺はデッケェゾンビをブッ飛ばせたんだ!
こいつらがいたから、俺は勝てたんだ!」
「ぐ…おぉ‥‥!!」
どれだけ虚勢を張ろうと、ローラたちの数年間の努力が、モリアの野望を打ち砕く礎になった。
ルフィとウタに現実を突き付けられたモリアが、がっくりと首を落とす。しかし…
「海兵…お前が取り込んだ影……102体だったか。俺が奪ってきた影が、たったそれっぽちだと、本気で思っているのか…!?」
再び顔を上げるモリア。その顔には…狂気が浮かんでいた。
「"影の集合地(シャドーズ・アスガルド)"!!!」
「「「!!?」」」
地中…地面の下に潜っていたゾンビ兵の身体から影が抜け出ていく…。
夥しい数の影が、モリアの影と同化していく。
「キシシシ、200…300…600…700…。」
「こ、これは…!」
「そんな…ここまできてそりゃねぇだろ…!?」
その光景に恐れおののく被害者の会たち。
同化した影の数に比例して、モリアの身体はどんどん肥大化していった。
先ほどのルフィと同じ、いやそれ以上に。
「キシ、キシシシシシシ!!これが俺が奪ってきた影、1000体の影だ!!!」
スリラーバーグ中から集めた影1000体…それを取り込んだモリアの身体は、オーズにも劣らぬほど巨大化するのだった。
「終わった…何だよ、ありゃ!!?」
「折角影を取り戻せると思ったのに…陽の光の下に戻れると思ったのに!」
「俺たちは日陰の中で暮らすのがお似合いだってのかよぉお!?」
「大丈夫だ、お前ら!俺たちがなんとかしてやる!!!」
絶望する面々を鼓舞したのは、ルフィだった。
「き、希望の海兵…!?」
「む、無理だ!ただでさえボロボロなのに、あんな化け物相手じゃ!」
「大丈夫だよ!ルフィには、私がついてるんだから!!」
それにウタが続く。
その顔には、悪夢の島に来た時に浮かべていた後悔と自己嫌悪の表情は、微塵も存在してなかった。
「それに、ローラ!さっきモリアが言ったことは気にしなくていいよ!
私たち海兵は、海賊に脅かされる人たちを救うのが仕事なんだから!!ローラたちは安全なところに避難して!」
「ウタ…ルフィ…!」
ウタに笑顔を向けられたローラは、覚悟を決めた。
「あんたたち、今すぐ避難しな!私は、ここに残る!!」
「「「ローラ船長!?」」」
「勝手に希望託して、危なくなったら逃げるなんて、それじゃ私ら、モリアの言う通り負け犬以下だよ!
船長である私が残れば、仁義は通せる!だから、あんた達は…」
「そうはいかねぇよ、船長!!」
「!?」
自分が残って、船員たちの分まで責任をとる。
そんなローラの言い分に、船員たちは待ったをかけた。
「俺たちだった逃げるわけにはいかねぇ!見ず知らずの、しかも海賊の俺たちに、あそこまで言ってくれたんだ!」
「力になれるなんて思ってねぇけど!せめて最後まで応援くらいはさせてください!」
「希望の海兵、歌姫!俺たちも一緒に命をかけるぜぇ!!」
「おう!ありがとう、スゲェ心強い!!」
思い思いに自分たちの覚悟を叫ぶ船員たち、ルフィもそんな彼らの声援を受け止めた。
「ブルック!お願いがあるの! この楽譜通りに演奏して!」
「ヨホホ、お安い御用です。完璧に演奏して見せます!」
「ありがとう!…いくよ、ルフィ!!」
ウタは楽譜を取り出してブルックに見せた。
海兵時代から、肌身離さず持ち続けた楽譜だ。
自分の歌声が遠因で破滅してしまった、そう後悔する日もあったが、それでも捨てられずにいた歌姫としての矜持だ。
ブルックもまた、音楽家の命ともいうべき楽譜に応えるべく、全力でバイオリンを弾く。
「キシシ、そうはいくか…"欠片蝙蝠(フリックバット)"!」
カゲカゲの能力で生み出したコウモリたちが、モリアの耳を塞いだ。
ウタウタの能力を防ぐためだ。
しかし、ウタの狙いをはそれではなかった…。
「モリア、お前はもう俺には勝てねぇぞ!ウタが歌ってくれるなら…俺は最強だ!」
右こぶしを地面に押し付け構えを取るルフィ。
その身体から、エンジン音とともに蒸気が吹き出す。
「ギア2(セカンド)!!!」
悪夢の島、最後の死闘が始まった。
「オオオオオオオオオ~~~~~~~!!!」
悲鳴染みた雄たけびを上げ、拳を振り下ろすモリア。
その一撃が、島を真っ二つに砕いた。
「「「「「うわぁあああああああああっ!!!!?」
衝撃に倒れ、地割れに飲まれそうになるも、誰一人として逃げ出す者はいなかった。
宣言通り、全員が、希望を託した海兵の闘いを見守っていた。
そして、歌声が響き渡る。
♪さぁ、怖くはない 不安はない 私の夢は みんなの願い
「ゴムゴムのぉ!JETロケット!!!」
「ぐぉおおっ!?」
目にもとまらぬ速さで突撃するルフィ。
モリアは回避はおろか、防御すらできずに直撃する。
♪歌唄えば ココロ晴れる 大丈夫よ 私は最強
「砕けろぉっ!!」
島を割る剛腕を振るうモリア。
しかしその攻撃は、ただただ空をきる、そして
♪私の声が 小鳥を空へ運ぶ 靡いた服も踊り子みたいでさ
「JETバズーカッッ!!!」
「ブホォ!!」
ルフィの攻撃がまた直撃する。
その口から影が少しずつ零れ出ていく。
♪あなたの声が 私を奮い立たせる トゲが刺さってしまったなら ほらほらおいで
…モリアはミスを犯した。
いくらカゲカゲの実の能力者だとしても、1000体もの影を取り込むなど、無謀な話だったのだ。
先ほどのルフィたちとの問答で、完全に逆上…自らを図り損ねたのである。
♪見たことない 新しい景色 絶対に観れるの なぜならば 生きてるんだ今日も
一方のルフィも、オーズモリアとの戦いで消耗しきっていた。
今彼の身体を動かしているものは、モリアによって苦しめられた犠牲者たちの声援。そして、ウタだった。
♪さぁ、握る手と手 ヒカリの方へ みんなの夢は 私の幸せ
「JETバズーカッッ!!」
「ドあ!!!」
♪あぁ、きっとどこにもない アナタしか持ってない
攻撃の衝撃で、モリアの耳を塞いでいた欠片蝙蝠が消滅する。
ついに戦局が動いたのだ。
♪そのぬくもりで 私は最強
(モリア船長!早く行きましょうぜ!!)
(カイドウのやつめ!目にもの見せてくれるぜ!!)
「!!!!?」
♪さぁ、怖くはない? 不安はない? 私の思いは 皆には重い?
モリアの脳裏に、かつての思い出が蘇る。
もう戻らない、取り返すことのできない仲間たちの記憶。
…自分達こそ"最強"だと信じていたころの記憶だ。
♪歌唄えば 霧も晴れる 見事なまでに 私は最恐
「や、やめろっ!!その歌をやめろぉぉおおおおっ!!!」
聞こえた歌声に、必死に忘れようとした過去を呼び起こされたモリアが
ウタに向かって攻撃を加える。
「ウタ!「こっちは任せて!!」!?」
♪さぁ、 握る手と手 ヒカリの方へ みんなの夢は 私の願い
それを間一髪、ローラがウタを抱えて回避する
さらに船員たちが、壁になるように二人の周りに集まった。
♪きっとどこにもない アナタしか持ってない その弱さが 照らすの
「こっちは任せろ、希望の海兵!」
「おめぇの歌姫は、俺たちが死んでも守る!」
「モリアをブッ飛ばしてくれぇ!!」
「…!!ありがとうお前ら!あとは任せろ!!」
♪最愛の日々 忘れぬ誓い
(((モリア船長!!あんたこそが海賊王だ!!!)))
♪いつかの夢が 私の心臓
「やめろやめろやめろぉっ!!思い出させるなぁ!!!」
もはや半狂乱となって、両の手で耳を塞ぎ歌を、過去をかき消そうとするモリア。
それが勝負をわけた。
♪何度でも 何度でも 言うわ
「ゴムゴムの…骨風船!!」
ギア2(高速のギア)にギア3(巨人のギア)を重ねるルフィ。
この一瞬に、すべてを懸けた。
♪「私は最強」
「ゴムゴムのぉぉぉおおおっ!!」
♪「アナタと最強」
「"巨大猪砲弾(ジャイアントボアシェル)"!!!!」
「ブボボォォォォオオオオオオ!!!!?」
巨大な砲弾と化した海兵が、王下七武海の土手っ腹に深々と突き刺さる。
そして…
「あああァああああああああああ!!!」
倒れこんだ口から影が、今まで影を奪われた犠牲者たちの"自由"が解放されていく。
ある影はすぐそこの本体へ、またある影は海の彼方へと飛んでいく
(((モリア様…)))
意識を失う直前に、モリアの胸中に浮かんだのは…今を共に生きる仲間たちの声だった…
こうして…悪夢の島の闘いは終わりを告げたのだった…
To Be Continued