8人目 死んで骨だけ音楽家
私は死んで骨だけ音楽家ブルックです、どうぞよろしくー!!
元ルンバ―海賊団の音楽家兼船長代理、一度一味全員全滅してヨミヨミの実の力によって黄泉の国から蘇った……のが遅くなって、肉体が無くなって白骨となって復活を果たした麦わらの一味の最年長の毛根強いアフロの90歳でーっす!!
そんな私の長年の夢、いえ今は亡きルンバ―海賊団全員の夢は、約束の岬で再会を約束したラブーンと正面から会いに行くことです。
霧の深い海で何十年も一人っきり……そして影もとられて光の元へと出ることも叶わなくなったあの孤独の日々。何度も絶望しました、気が狂いそうになりました、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も数えきれないほど|音貝《トーンダイアル》に残る仲間の音楽を聴きました。
死を選びたいと思いました、それでも生きていたのは私の海賊としての意地でした。影をとられたあの日から、来る日も来る日も、影を奪った男の島、スリラーバークを目を皿にして探していました、私ガイコツなので目は、ないんですけどーっ!ヨホホッ。
麦わらの一味に入ったきっかけはルフィさんに誘ってもらったからです。
ルフィさんは、出会った時からとてもいい人で、出会って間もない私の事情を聞いて怒り、一緒に戦うと言ってくれて……私、胸が熱くなったんです、ガイコツだから胸はないんですけどー!ヨホホホホ!!
スリラーバークで影を取り戻し、ラブーンが私を待っていてくれているとルフィさん達から聞いたときの衝撃は忘れません。
ひょっとしたら私たちのことなんて忘れてしまっているかもしれない、もうあそこには居ないかもしれない、待っていてくれたらどんなに嬉しいでしょう、でも居なかったら私がこうして生き延びた意味があるんでしょうか?いや、仲間を見つけて幸せになっているのかもしれない、でもやっぱり私たちをずっと待っているのかもしれない……ずっと迷いながら生きていました、あっ私一度死んだんですけどヨホホー!
だけど、ルフィさん達のおかげで、今まで生にしがみ付いていた私のなんの意味のないと思っていた時間が意味のあるもに変わったんです。
そして、私の第2の海賊人生は死んでから約50年の時を経て再会しました。
霧の海を抜けて久しぶりに見たどこまでも広がる青い海に澄んだ空、心地よい潮風、そして船内に響き渡る人の声、孤独じゃないことを肌に感じることができて嬉しかった。私、肌はないんですけどーっ!
当時の麦わらの一味は、私を入れて10人の少数精鋭の一味でした。
愉快で明るい船長、クールで忠義に厚い私の影も取り返してくれた剛腕の剣士、麗しくそして手厳しい航海士、手先が器用なお調子者の狙撃手、男に対する口は悪いがとても優しいコック、とても素直でそれでいて凄腕のトナカイの船医さん、聡明な時々私のスカルジョークも真っ青なブラックジョークが飛び出す考古学者、見たこともない兵器を作る忘れた少年の心が躍るような船大工。
そしてもう一人、音楽を愛する不思議な動く人形。彼らが私の新しい仲間たちです。
人形のウタさんはとても不思議な存在でした、あっ!私もガイコツが筋肉もなしに動くから不思議な存在ですねー!っと失礼。
動くオモチャは長い海賊人生でも初めてと思いマジマジと見た時に私気づいちゃったんです。
ヨミヨミの力のせいなのか分からないのですが……彼女の|魂《テャマスィー》がなんとなく、その体に見合わない、そう思ったのです。ですがなんの確信もなかったので、私はその違和感をそっと胸にしまったのです、私骨だけなのでスッカスカなので胸なんてないんですけどー!ヨホホホホー!
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そしてサニー号に乗って初めての船番、その日の夜は凪の日の夜でした。初めての船番なのでウタさんが一緒にしてくれました。ジェスチャーやフランキーさんウソップさんの共同制作のホワイトボードで文字を書いてもらったりしながらコミュニケーションをとって夜を過ごしていた時に、ふと見かけた航海日誌をウタさんと一緒に読んだのです。
「これは……航海日誌、ですか?」
「キィ!……キィキィ」
「ウタさん??……これっ、ラブーンと出会った時ですか??……ラブーンっ、クロッカスさん!!」
彼らの冒険の日々が記された航海日誌、ウタさんがページをペらりとめくってくれて、ある一文をテシテシと叩くではありませんか、不思議に思ってその文章を読むと私、眼が飛び出しそうになりました!ガイコツだから、眼はないんですけどー!
そこには、『リヴァース・マウンテンを登り下った先に大きな山かと見紛うクジラが居た』という書き出しがあり、そして読み進めていくうちに、そのクジラの名前がラブーンと、確かに書き記されていました。思わず涙ぐむ私にウタさんはそっと私の肩に乗ってポスポスとアフロを撫でてくれました。それが何故か、とても温かいと感じました、私もウタさんも人間の体温なんて持っていないはずなのに、確かに温かったのです。
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一味の仲間に入れてもらって私はとにかく皆の迷惑にならないように、そして役に立つようにと焦るばかりで空回りをばかりをしていました。
ウタさんと一緒にサンジさんのお手伝いをしましたが、お皿洗いをウタさんとして、食器を片付けをしようとしたら、皿を高く積み上げすぎて落としそうになってサンジさんとウタさんが見事にキャッチしてくれたり、ナミさんの海図に紅茶をこぼしそうになったところをウタさんが身を挺してかばってくれたり、コーラ樽と間違えて醤油樽を持っていってしまってフランキーさん作の長距離方が暴発してその場にいたメンバーがコーラと醤油まみれになってウタさんも真っ黒に……ゾロさんの瞑想にお付き合いしようとして足がしびれて、あ、痺れる筋肉はないんですけどーヨホホッ!まあ、トイレに行けなくなってしまって漏らしそうになったと言えば、焦るゾロさんに抱えてもらったんですが、トイレの道のりを間違えそうになったゾロさんを叩いてトイレまでウタさんが先導してくれたり……、とにかく失態続きでした、あっトイレには間に合いましたよ。
私が麦わらの一味でいいのか??そんな不安はルフィさんが「おれが決めたからいいんだっ!」と一蹴してくれました。
サンジさんの美味しい料理を食べて、お腹いっぱい幸せになりながらゆっくりと昼寝をしました。耳を澄ませば一味のみんなの生活の音が聴こえてくる……それがどんなに嬉しいことか。
孤独だったあの頃、眠ればいつだって、かつての仲間が、別れた時の小さなラブーンの姿が浮かびました。そして目覚めた時の現実の孤独に絶望し静かすぎる船内に寂しさが増すだけだった。でも、今は違うんです、寝ても覚めても仲間がいる、なんて幸せなことでしょうか。
穏やかな午後には、心やすらぐバラードを。
穏やかな波をバックに、バイオリンで私はいつもの曲を弾きました、ルンバ―海賊団時代から、そして50年の孤独の時間の間に何度も何度も弾いた海賊の唄ビンクスの酒を、小さな歌姫のオルゴールの声と共に奏でました、久しぶりのデュエットに私、少し泣きそうになっちゃいました、ヨホホッ!
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ウタさんは、音楽の神に愛されている。
そう、思わせるほどの確かなセンスを持っているんです。
図書室兼、測量室にあった小さな椅子と机、フリーハンドで書かれた楽譜を見た時の衝撃と胸の高鳴りは忘れられません、私、高鳴る胸ないんですけどーっ!
初めて見る曲、メロディ、これでも私は音楽家、楽譜を見ればすぐにメロディが流れます。思わず震える私にこれはウタさんが作曲したのだとロビンさんに教えてもらいました。
ウタさんはどこか恥ずかしそうにモジモジとして他の曲も見せてくれました、人形の腕では書きにくかったのでしょう、どれもこれもヨレヨレの字でしたが確かに曲がそこには存在していたのです。
私はウタさんに許可をもらってロビンさんに紙とペンを貸してもらい、ウタさんに確認しながら一曲一曲を譜面へと起こしていきました。
定規を引いて、音符を一つ一つ紡いでいく、何年振りでしょうか?こうして曲を譜面に起こすのは……。
そうして出来上がった曲を見てメロディが頭の響いた時私は思わずウタの手を握っていました。
ウタさんはきっと、世界中にその名を轟かせるディーヴァになる。
ウタさんは音楽センスはまさしく神からのギフト、ですがそれはもっと磨くことができる……私が持つ音楽の知識を余すことなく伝えたいと思い、僭越ながらウタさんの音楽の先生という役目もいただきました。
ウタさんはその曲に歌詞も考えていたようでそれも、楽譜に書き込んでいきました。出来上がった曲をウタさんと一緒に演奏した時に、歌詞があるならブルックが歌ったらどうだと皆さんに言われましたが、それは私……したくありませんでした。
これはウタさんの歌、一番最初に歌うべきはウタさんだと思ったのです。皆さんにはウタは喋れないんだが、と言われました。でも、一番はやっぱりウタさんだと思ったのです。
ウタさん、私ね本当は少し予感がしていたんです。
あなたが本当はオモチャじゃないってことを。
だから、ドレスローザからの通信でウタさんが人間だったという話をウソップさんやフランキーさんから聞いたときに「ああ、やっぱりそうなんですね」と納得しちゃったんです。
ウタさん、貴女が人間に戻れたらどうしても伝えたいことがあるんです。
音楽について貴女と語りたい。
私がソウルキングとして新しい曲を作曲しようと思ったのは実は貴女の影響なんですよ?それまで思い出の曲ばかり、過去ばかりを見ていた私に新しい曲、未来を見ようと思わせてくれたのは貴女なんです。
貴女の今までの音楽に、あなたの声で、言葉で、歌で色を付けて欲しい、時には一味皆で合唱なんてどうでしょう?特にあなたが旅の最初に書いたという「ウィーアー!」で、きっと楽しいと思うのです。
麦わら一味の音楽家として、そして音楽の先生としてあなたに一番最初に言いたい言葉を考えました。
「一緒に音楽を奏でましょう?」「あなたの歌声を聞かせて欲しい?」きっとそのどれでもないことに気が付いたのです、一番最初に言う言葉それは……
「パンツ、見せてもらってもよろしいですか?」
に、いたしましょう!!ヨホホホホーッ!!
後に、これを言ったらナミさんから見事なハイキックとロビンさんから黄泉の国の冷気なんて目じゃないほどの絶対零度の眼差しをいただいちゃったりするんですが、それはあの、はい、すいません、お約束かと思ってヨホホホホッ!