5号とティコ
スレッタ・マーキュリーに近づいてエアリアルのデータを奪取する。
そんな指名を帯びた強化人士5号は、とりあえずの取っ掛かりを求めて地球寮へと赴いていた。
末席とはいえ株式会社ガンダムの一員となったのだから、ごく自然な成り行きではある。
「こんにちは、誰かいないかな?」
ペイルや他の寮ではエントランスのようなものがきちんと設けられているが、この地球寮ではそんな気の利いたものはない。倉庫を改良したような質素な外観は、そのままハンガーや居住区へと繋がっている。
気の向くままに地球寮に赴いたが、誰もいないようだ。5号はまだこの時間は学園の授業中だということに気が付いた。
復学手続きはしているが、5号はいまだ授業を受けていない。一応ペイル社で必要な学習は済んでいるが、他の学生がいる中での勉強は、『エラン・ケレス』のフリをしなければいけない状況では面倒くさいだけだった。
「無防備だな~」
まだエアリアルは修理が完了せず、こちらへ戻ってきていないようだ。けれどあの機体が戻ってきても同じセキュリティレベルなら、データの奪取は簡単に行えるように思えた。…ハニートラップなどせずとも。
その時の為に、何か役に立つかもしれない。5号は遠慮なく誰もいない地球寮を探検することにした。
一通りハンガー内を見て回ると、次は居住区に行こうと奥へと進む。そこで5号はフロントでは嗅ぐことのないツンとした匂いを感じて足を止めた。
この刺激臭…動物がいる?
ハンガーから続く通路を進むと、簡易的な厩舎のように、檻がずらりと並んでいるのが見える。
地球寮は、動物の持ち込みもしているのか…。
見れば、ニワトリに、ヤギに、ヤクなんかもいる。持ち込むのは大変だったろうに、よくやる…。
半ば呆れながら近づいていく。5号の出自はアーシアンだ。小さなころは動物などは身近に存在していた。
「こんにちは、ちょっとお邪魔させてもらってるよ」
騒がしいニワトリ、警戒しているヤクではなく、リラックスした様子のヤギに話しかける。
彼女は5号を見ても逃げたりせず、逆に匂いを嗅ごうと近寄って来た。5号は制服に毛が付くことも厭わずにゆっくりと彼女を撫で上げる。
そうして気付く、これが地球寮のセキュリティなんだ。スペーシアンは動物に慣れていない、こんな大きくて騒がしい動物がいれば、堪らず逃げてしまうだろう。彼女はとっても、可愛いけれど。
「可愛い番人さん。僕は強化人士5号エラン・ケレス。本名は〇〇〇。これからよろしくね?」
動物だから構いやしない。機密事項をあっさりと喋った5号に返事をするように、ヤギの淑女は小さく鳴き声を上げた。