3章⑩(終)

3章⑩(終)

善悪反転レインコードss

※3章はこんな雰囲気かなと自分なりのイメージを形にしてみたssです。

※キャラ付けや関係性などは筆者個人の妄想に基づいています。また、独自の補完があったりします。

※4章へ繋がる感じの描写がちらほらとあります。

※反転ヨミーとか反転ヤコウ達とかが誤った推測をするシーンがあります。

 彼らの知り得る情報的には恐らくこうなりそうだなと思って書いています。



 ユーマがヤコウの正気を疑ったも同然の行為を犯した為にヴィヴィアは殺気立ち、フブキは眉を顰め、ヨミーはヤコウの態度から逆算してユーマへのフォローは必要か否か逡巡していた。

 そんな折だった。

「あれれ? もしかして、もう解散しそうな空気になって……る、割には、一触即発っぽいね?」

「ッ、マ、マコトさん!」

「マコトでいいよ。トモダチだろ?」

 アマテラス社CEOマコト=カグツチが、気球から垂れるロープを握った状態で上空から現れた。空いた方の手で手を振って気さくな挨拶をしてくる。

『ヨシ! 来た! 確定で助かる! ……ハッ、まさかそれを見越してたんじゃないよね!?』

(い、いや……一回なら許されると思ったから、どうせなら……)

『肝の据わり方がエクストリームスポーツ系に進化しちゃった! もうBボタン連打してもキャンセル間に合わないー!!』

 実はハラハラドキドキしていたらしい死に神ちゃんは、『変わらずの石が欲しかったー!』などと訳の分からない事を叫んでいた。

 それはさて置き、事態は着々と進む。マコトは気球から手を放し、スッと地上へ着地した。

「これは、これは。最高責任者殿。如何しましたか」

「なんだか、トモダチが危ない目に遭っている気がしたから、ボクの部屋からこうして飛んで来たんだけどね」

「毎回、どこの筋から、そんな精度の低いガセネタを手に入れてるんですかねぇ」

 初見であっても、対応するヤコウの腰の低い態度や最高責任者の一言から、マコトの正体が察せられる。

 そしてその正体を鑑みると、ヤコウの纏う空気は失礼な程に刺々しく、慇懃無礼と称するにも抜けや甘さを感じられる。マコトとの対立を表沙汰にしまいとする社会的良識を示しながら、同時にバレても構わないと開き直っていた。

「以前約束した通り、心配せずともきちんとご報告しますよ」

「報告内容を事実として受け止めておくね、一応」

「一応、って。毎回書いてるのオレなんですけど」

「あはは。熱心だねぇ。たまにはゆっくりお風呂に浸かって、疲れを解きほぐしなよ。身も心も洗われるし」

「生憎、風呂よりシャワー派なんですよね。風呂だと考え事が止まなくなって、出るタイミングを失いそうなもんで」

「へー、それは大変だ」

 マコトもマコトで、ならば相応に対処すると言わんばかりに若干喧嘩腰で、結果、空気が相当軋んでいた。



 元居た世界での展開をなぞるように、マコトに先導され、ユーマ達はその後を負っていた。

 アマテラス社の最高責任者というインパクトによる、何となくという体による強制力は強大なのだ。

「ヨミー様。私をわざと置いて行きましたか?」

「……ああ」

「私は?」

「オメーは偶然だ」

「少しは悪びれろ!」

『ご主人様、見ちゃいけません。近づいちゃ駄目だよ』

(近づけないよ……ッ)

 その道中、遅まきながらスワロやスパンク、それからシャチと合流したのだが。

 どうやらヨミーはかなり強引に単独行動に移って真犯人を捕まえたらしく、その事でスワロから凄まれていた。感情的に捲し立てず、淡々と指摘するというスタイルで。

 スワロの探偵特殊能力の事もあるだろうが、ヨミーはさっさと観念し、素直に白状していた。

 なお、その割には疚しさ故に顔を思いっきり逸らそうとして、スワロの両手に挟まれて力ずくで戻されていっていた。

 そしてスパンクへの対応が雑なのは、そりゃ恋人とは扱いが違うだろう、という事で納得して良いだろう。たぶん。


「アンタ、ホントに最高責任者なのー?」

「本当だよ……あ、仮面を取ろうとしないで。この仮面はね、ボクの血族に纏わる曰く付きなんだ。ボクの血族はと言うとね、由緒正しい王家の一族だったんだけど」

「これ、着ぐるみの中に人が居るのを知ってる程度には世間擦れしてるよ?」

「だったら夢を壊しちゃいけないって大人の気遣いも知ってるよね?」

「誰の夢?」

「いいから、いいから」

 先導するマコトの周囲をちょこまかと追っているギヨームは、隙を見てマコトの仮面を外そうと腕を伸ばし、ちょっかいを出していた。

 マコトは声だけは涼しそうだが、いざ本当に腕を伸ばされたとなれば素早く必死に食い止めていた。

「…はぁ。止めてください」

「わっ! えーっ、最大の謎はあのお面だよー!」

「これ以上…敵を増やす気ですか、あなたは…」

 誰も止めないのか。そう言えばヨミーは彼個人の事情で現在スワロから軽く詰められているのだったか。じゃあ自分が止めるしかない。力仕事は誰かにやらせよう。

 ……と、セスが考えたかは定かではないが、セスはドミニクをけしかけ、マコト相手にフットワークが軽過ぎるギヨームをひょいっと担がせた。

「保安部を問題視してるならー、アンタの一声で何とかすればー?」

 なお、物理的な干渉を止めただけに過ぎず、ギヨームの口は動き続けている。

 とは言え、失礼な面がありながらもギヨームがサクサクと質疑応答を進行させているので、マコトからの情報収集自体は意外とはかどっていた。

「企業はそう単純じゃないんだ。下手を打てば、こちらが追放される危険性もある」

「超短期間だけワンマンCEOになれないの?」

「面白いことを言うね。衆愚による民主主義よりも天才による独裁国家の方がマシだって話をしてる?」

「あ、政治的な話はパスしまーす、はいヨミー様」

「おいここでオレを引きずり出すのかよ」

 現在進行形でスワロに凄まれているヨミーは、助け船とも余計な干渉とも言えるロングパスを微妙な立場ながら受け取った。

「その台詞、ヨミーくんとお話しろって意味?」

「カナイ区の難しい話題はヨミー様が専門で請け負ってるんだよー」

「……スワロくん。ヨミーくんをちょっとだけ貸してくれるかな?」

「…………構いませんよ」

「オレはモノか何かか? 本当に貸し出されるのかよ」

『眼鏡ビッチがまだキレてるけど、どういう撒き方したのさ天然ストレート』

 一連のやり取りに死に神ちゃんはヤレヤレと溜息を吐いていた。

 なお、この後の事件で、ヨミーは今回の件が可愛らしく映るくらいにスワロを激怒させるのだが、それはまた別のエピソードである。

「テメーと何を話せってんだよ。オリエンテーションじゃねーんだぞ」

「嫌そうな顔で言うんだね。ボクは悲しいよ」

 偶然とは言えスワロから解放されたヨミーだが、どうもモチベーションが上がらないらしく、気怠そうに肩から脱力していた。

「ヤコウが失脚した方が嬉しいんだろって話でもするか? その内テメーから依頼でも来んのかよクソ鬱陶しい拒否権を行使してぇ…」

「わぁ。その話題で盛り上がったら凄いよね。ボクも好きでヤコウくんと対立して社内の空気を悪くしてる訳じゃないんだ、勘弁してよ。あと私情で依頼を断るのは流石に問題があるんじゃないかな」

 だが、ギアは上げていた。

 受け取ったロングパスにトゲを仕込んでブン投げるような荒技だ。そしてマコトは易々とキャッチした。

 アマテラス社の最高責任者に対し、苛烈で攻撃的だ。無慈悲な客観的指摘になるが、そりゃ立場を悪くして部下達にも逃げられるわな……と思わせる説得力があった。

 ちなみに、スワロとギヨームはまぁやるわなと言わんばかりに肯定的で、スパンクとセスはビックリして引いていた。ドミニクは残念ながら分からないので保留とする。

(あ、あれ……信用してない、みたいだ……)

『仮面もだけど、超シンプルに怪しいからね』

 そしてユーマはと言えば、マコトなら快不快で手酷いしっぺ返しはしないだろうというある種の信頼があるので、意外と冷静だった。

 対保安部で毎回のように瞬間最大風速を叩き出す男は、気弱なのはガワだけで実際には再三述べられる程度には図太いのだ。






 以降、後日談となるのだが。

 まず、探偵側について。マコトからカナイ区の為にと奔走してくれた謝礼として、新たな潜水艦をプレゼントされたのだった。

 河川敷に潜水艦が戻ったのを目の当たりにしたヨミーは「……オレらに何をさせてぇんだ」と感謝するどころか薄気味悪がっていた。

 ヨミーは個人的にマコトをかなり警戒している。向こうは友好的に利害が一致していると宣うが、どれだけ利用もとい搾取されるのかと苛立っている。三年前に突如現れた正体不明のCEOとは言え、信用が無いものである。

 マコトの目的を思えば、ヨミーが彼を疎んでいるのは、彼から煙たがれそうな親心(?)が疼くような、疼かないような……。


 それと、『能力共有』によりフブキの能力が分かったという体で、所長であるヨミーに報告したのだが。

 ある意味嬉しい誤算として、ユーマの局所的な予言者めいたムーブを納得して貰えた。

 ユーマがギヨーム達の目の前でフブキとの『能力共有』を積極的に望んだのは、実は前例があったから。大惨事が起きた未来を無かった事にするべく奔走し、その一環で予言めいた立ち回りをしていた。

 そんな可能性を指摘された時、そういう推理があるのか……と意表を衝かれた。

 実際には壮大な勘違いとは言え、もしかしたら、展開次第では形振り構わずそうしたかも知れないな、と考えさせられた。

「……その場合、ボクは、レジスタンスの皆さんを助け損ねたことになりますね」

 都合の良い推理なので、有り難く便乗する。

 だが、その場合、助け損ねた者達が居るという事になる。

 便乗しておいて妙な所で生真面目なものだから、死に神ちゃんは『もっと都合良くフカシちゃいなよー』と呆れていた。

「オメーは自分が万能の神だとか己惚れた価値観で生きてんのか?」

「…………いえ」

「なら、それで話は終いだ」

 そしてヨミーは随分と物分かりが良かった。保安部と敵対する男だが、全員を助けられたのではと詰める程に青臭くは無かった。

「ユーマ。犯人の死については、これまでも不問だったからな、今回も不問とする」

「……そう、ですか」

『ドタバタでうっかり忘れてくれたワケじゃなかったかー…』

 あるいは、ユーマが謎を解いた事で起こり得る、不可解な突然死を思えば、その点で潔癖に詰め寄るのはお門違いだとブレーキが働いたのか。

 甲板に誘われ、二人きりの状況だったが(+死に神ちゃん)、他人の目も無いのにヨミーの態度は比較的穏当だった。

「もう共犯みてーなもんだし、だが感謝するのは違う。今回納得しねぇなら、じゃあ前回以前はどうなるんだよってクソ面倒臭ェ処理が挟まる。ただ、聞かせろ」

『すっごい迷いを感じるグダグダな言い方だね』

 クールダウン期間を経たのもあって、敵だと認定しているヤコウや警戒対象のマコトへの対応を思えば、確かに多少寄り道した物言いだが理性的な追及だった。

 自認の是非は別として、ヨミーの行動原理には気に入らないか否かという感情論が多分に含まれている。ユーマへの言及も方向性は同じである。

「死神の力が実在すると前提に置くが、殺人事件が起きる度に使わねーと呪われるようなノルマでもあるのか?」

 恐らく、ヨミーが疑問視しているのはユーマが自分の意思でやった点だ。謎を解けば自動的に発動するのか、自発的に発動させたのか。それを確かめるべく、多少遠回しな言い方をしている。

 それを確かめる事で、齎された結果は変わりはしないが、受け止め方は変わるだろう。

 死に神ちゃんは『そんな全自動卵割り器みたいなアナログ機械と一緒にしないでよー』と少なくともユーマの知識上には存在しない未知の機械を例えに出し、不貞腐れていた。

「…お答えすることは、できません」

「……面倒な契約でも交わしたか」

『合意の上だーい』

 ヨミーはフンと鼻白む。理解が早い。

「じゃあ、代わりにこれには答えられるか?」

「何でしょう」

「犯人。死んで良かったと思うか?」

「……いえ。犯した罪を思えば、極刑は避けられなかったでしょうが……それと、死んで良かったと溜飲が下がるかどうかは、違います」

「……オメーなぁ」

 予想の範疇内だが、本当に範疇に収まっていたものだから、ヨミーは呆れるような顔をしていた。

「楽になる方が辛いヤツかよ。生き辛そうだな」

「え? ……いえ、そんな、それほどでも」

「…ンだよ、その言い方」

 確かに面倒な生き方をしている自覚はあるが、結構な所で敵を作るヨミー程では無いと思うのだが。

 返答に混じった雑念を嗅ぎ付けられ、ヨミーから若干睨みつけられたのだった。




 レジスタンスは、保安部からの悪意や作意を考慮し、残されたメンバーで今後も活動を継続するのは危険だという判断から、シャチの宣言により解散された。

 しかし、シャチ自身は今後も似たような活動を続ける心積もりでいる。

 活動の規模という観点では解散は悪手だが、それでまた保安部からの度を越した策略で仲間を破滅させられては堪らない。

 だから彼は組織を解散し、自分一人だけで戦い続けると決めた。

 尤も、そんな彼に感銘を受けた多くの元レジスタンスのメンバー達も独自に活動を続けているので、そういう意味では、決して一人では無いのだが。


 ユーマは、ヨミーから簡潔な指示を受け、ドーヤ地区の一角へと向かった所、シャチと落ち合った。

 良くも悪くも身軽になってしまい、疲れも顔に出ているが、しかし眼差しの芯の強さは失われていない。

「碌に証拠もねぇ状況で、お前さんは最初からオレを信じてくれた。特別に何かしてやれることはないかと相談したら、じゃあ話をしてやれって言われたんだ」

「話を?」

「……保安部部長の、だ。オレは昔、アマテラス社で働いてたからな。少しは知ってる」

「……」

「とは言っても、分からねえことばかりだ。参考になるかは分からねぇ。それでも構わねえか?」

「…はい。お願いします」

 ユーマは頷いた。

 それから、シャチは順を追って説明してくれた。

 シャチが入社した当時、アマテラス社は社会貢献を見据えた優良企業だった事。それが、利益の追及へと傾き、統一政府からの依頼も増えていき、少しずつ腐敗していった事。

 極秘のまま展開するプロジェクトが増える一方で、それを暴いて正すような社内の自浄作用が疎まれた事。

 そこまで話し終えた後、間を置いてから、シャチは再び訥々と喋り始める。

「昔、保安部は窓際部署って扱いだったんだぜ。本来の仕事をしようとすりゃ、逆に怒鳴り込まれる。おかげで、適当な雑用が主な仕事に見えるような有様だった」

「それは……随分と、今とイメージが違いますね」

「ああ。部署もだが、ヤコウ本人も酷い言い草だが舐められてたな。ハララ達みてぇな部下が定着してからも、部下の方がおっかねえって評価だった」

「ハララさん達は、昔から恐れられてたんですね」

「それでも、今よりは断然マシな意味だったが、そうだな。そうだった、な……」

「……」

 平穏だった頃を意識的に思い出した所為だろう。シャチの言葉が少しばかり詰まりかける。昔と現状を比較し、その度し難い格差に絶望的な溜息ばかりが零れる。

「……それが、なんで、こうなっちまったんだろうな」

 憔悴したように、ぼそりと、零れ落ちるように呟いた。

「まるで、オレ達のことを得体の知れねえ化け物でも見るような目で見てきやがる」

「……」

「ただ、これだけは言える。今の有様は、昔のヤコウなら絶対に許さなかったことだ。昔のヤコウは、あんなツラはしねえんだ」

 それでも。

 分からないなりに、何かを成さねばならない。分からないからと立ち止まっていては、時間に置いて行かれてしまう故に。


 ヤコウが、自らの意思で、正気を以てして、行動しているならば。

 その正気の真意を、掴まねばならない。


 ◆


 フブキ曰く。一瞬で全く別の場所へ移動したのを把握した直後、時を遡ろうとして失敗したらしい。時を戻せる条件は整っていたはずなのに、だ。

 まるで、その段階で時が一旦区切られたような、不可解な壁にぶち当たったらしい。

 時の流れ纏わる事象で、あのフブキが不可解だと蒼褪めるような首を傾げる事態が起きていた。

 そしてそれにユーマが絡んでいる可能性があるとの事で、幹部全員の、特にユーマに対する警戒度が段違いに上がった。

 勘繰り過ぎだと諫める一方で、ヤコウ自身も意図的であれ偶然であれユーマが関与していると思っている。ユーマの人柄的に恐らく後者だろう。

 だが、幹部達としては知った事では無いし、ヤコウの対応は流石に呑気過ぎると直訴までされる始末だった。

 フブキの件を除いても、ユーマは他人が解いた謎に対しても死神の力を行使した。適応範囲が広がったようにしか見えない。それが余計に、もういい加減早急に対処しろと幹部達を焦らせていた。

(他人が解いた謎にも適応できるのか? うーん、ユーマくん自身に解かせた方が確実だよな……って、それどころじゃない、ヤバいなこりゃ……)

 見当違いでも推測を進めようにも、幹部達を宥めねば元も子も無い。

 無理矢理黙らせるだけでは、また独断で潜水艦を爆破されかねない。一度目も不本意だったのに、二度目など勘弁願いたい。

 幹部達の常軌を逸した忠誠はよく心得ている。ならばこそ、生き急いだ権力の掌握は上手くいったし、悪評塗れになっても未だに従ってくれる。

 その一方、ヤコウの為ならばと暴走しかねない一面もあって、それがもうそろそろ前回の比では無い程に爆発しかねない。

「……分かった、分かったよ」

 何が何でも、ここでガス抜きをしないと。どうやって。でもやらねば。

 表向きには、幹部達の直訴に屈したようにふにゃりと笑いながら、頭の中は忙しなく働かせていた。いつも働かせているけど、今は焼き切れそうな程に熱を帯びている。

「近い内にヨミーが何かしでかす予定だし、それに託けて……その、探偵の皆さんと雑談でもしよう。状況次第だが、ユーマくんを収容所へ案内できるかも知れない。それでいこう。な?」

 本当にやるかどうかは兎も角、幹部達を宥める為にヤコウはぺらぺらと喋った。

「当然の報いを受けたと折り合いを付けられたら、そもそも何も起こらないぞ」

「あぁ、分かるよ。元殺人鬼の死刑囚の為に人生を投げ捨てるなんて、そんなことあるワケねぇだろーって思うよな?」

 発言し終えた後、ハララから指摘された。

 その指摘は予想の範疇だった。一般の多くの者達とて、同じ事を思うはずだ。幾ら友情が芽生えていたとしても、流石に無いだろう、と。

 ヨミーは穢れた一線を越えた者の為に命を懸ける程、幾ら何でも愚かでは無いだろう、と。

「あると思うから、安心してくれよ~。な?」

 ヤコウは言い切った。

 愚かだから、安心して欲しいと言うも同然の笑顔で。


 ——あの日、『ヨミー』は、現在立ち入り禁止区域に指定されている、あの場所に居た。

 刑務所に収容されているはずの人物が、その付近にある地下研究所になぜか移動させられた事を突き止めて、どうしてなのかと調べる為だった。

 だから、カナイ区の住民の中では、とても早い段階で亡くなった。

 重要な実験施設を警護するという名目で居合わせた者として、彼の末路を知っているからこそ——他の住民に対してもだが、助けられなかったとも言える訳で、嗚呼、頭が痛い——、確信を持って断言できるのだ。


 とは言え。

 はて、さて。

 是非とも、自分に都合の良い方向へと、事態が好転して欲しいのだが。




(終)

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