3章(余談)

3章(余談)

善悪反転レインコードss

※3章はこんな雰囲気かなと自分なりのイメージを形にしてみたssです。

※キャラ付けや関係性などは筆者個人の妄想に基づいています。また、独自の補完があったりします。


※4章への強い匂わせが単体で独立しています。



 雑居ビルから出て。

 言い出した張本人なのに信じられた事に困惑するユーマの腕を引っ張り、ギヨームは走り出す。当然ドミニクも追いかける。

 そうして三人の背中を悠長に見送った後、自分達も走り出す——その前に、ヨミーはセスの方を向いた。

「セス」

 肩をがしっと掴んで、顔をぐいっと近づけて、凄むように訴える。

 ひぃ、とセスが驚いて息を呑んでもお構いなしだった。

「分かってるとは思うが、オレは正気だぞ」

「……、…」

 自らの正気を敢えて自己主張する、その姿勢は。自らは果たして正気なのかと内心では自問自答している事実を、逆説的に証明していた。


 ——なぜ、ヨミー一人だけが遅れたのか。遅れている間、どこで何があって、心を痛めて、膝を折って、えずいていたのか。

 それを、屋上で待っていたセスは、事前に確認すらなく一方的に教えられた。

 一方的に教えてきた癖に、これだけ知らせてやったのだからと協力を……否、脅迫紛いに共犯を持ち掛けられた。


 ……そして、セスは、既に応じている身だった。

 ヨミーの気迫に疾うに折れてしまい、それでも出来得る限り対等で在ろうと努めながらも——いずれ来る時に備えて共犯関係と相成っていた。

 その上で、セスは先程ディスカッションを提案していた。否、演じていた。さも、看過できない時には出来得る限りの対応ができると言わんばかりに。

 既に、重大な看過を犯している身でありながら、白々しく普段らしさを装っていた。

「オレは、本当にユーマを助けてやりてぇんだ。信じてやりてぇんだ。『あいつ』には、してやれなかったからなァ……」

 目の前で、至近距離で、そんな事を言われて。本気で言っているのか、自らに言い聞かせているのか、その境界線が曖昧な言葉を紡がれて。

 その実、『テレパシー』による送受信が成立しながら、という状況でもあったので。セスの混乱はひとしおだった。

 オレの心の内を全部知れ全部全部知っておけ、と開き直ったが故の箍が外れた激情を返信され続けていた。

 セスはいっそ通信を切ってしまいたい誘惑に耐えながら、全部受け止めていた。

「……分かってくれるよな?」

「…………は、はい」

「よし。それでいい」

 次の瞬間、ヨミーはセスを解放した。表向きには、とても軽々しい動作だった。自らの心の内に決着を付けたと言わんばかりに爽やかだった。

 そんな事、無い癖に。

 心の内を知る権利を授けられ、その権利を行使しろと求められ、強要され、それ故に赤黒く凝った憎悪と悔恨を知り得るセスには、演技とも本音とも付かぬその態度が空恐ろしかった。

 心を読んでも良いと直々に許可された所で、その心から齎される情報量が膨大であれば、受け止める側が処理し切る事ができなければ、ひたすらに恐ろしさばかりが募る。


『……ヨミー様』

(……あ? “こっち”で会話? 聞かれちゃまずいことでも言う気か?)

『…スワロと話す時、どうか、気を引き締めてください』

(……)

 尤も、それでもセスは協力する所存だった。

 成し遂げるには一人では不可能だから、ヨミーは最低でも誰かを巻き込む必要があった。その誰かが、セスであった故に。

 ……それは。ヨミーが口で何と言い繕おうが、心の中で如何程に偽ろうが、セスなら最悪使い捨てても良いという証左だ。

 愛するスワロは絶対に論外だと断定された。つまりは、そういう事なのだ。

 その程度の疑念は既に抱いた。無念や失望は疾うに通り過ぎた。秘密の共有という甘やかさでは到底相殺し切れない、辛くて苦い現実だ。

『ヨミー様が現れないのは、保安部に捕まっているからで……我々への脅迫の道具に使われず、始末されるのではないかと……その不安を抑え、ヨミー様のマニュアルに従っていました』

 ——そして、それでも構わないと、それがヨミーから求められている立場ならと、セスは許容してしまっていた。

(遅れた理由の説明がお粗末だと、マジで保安部に……飼い犬どもと飼い主に捕まってたことを自白させられるとでも?)

『そう、です。不安の反動で、しっかりと『尋問』してくるはずです』

(……その『尋問』さえも発生しない状況に、最初から持ち込んどくか。まあ、そこら辺はオレが何とかする)

『…陰ながら、応援させて頂きます』

(…………任せろ)

 セスは、ヨミーを止める気は無いし、誰かに密告する気も無かった。そして、そんなセスだからこそ、選ばれたのだ。




(終了)

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