10人の超新星

10人の超新星


「5億で買うえ~~!!!5億ベリーィ~~~!!!」

とんだ茶番だ。

会場のクズどもが、バカみてェに首を揃えて大口開けてやがる。かき集めた天上金の5億も、世界一のクズどもにかかればちょっとしたムダ遣い程度のモンらしい。クソみてェなこの世の縮図など、これ以上見物する価値もねェ。

律儀に時間いっぱいまで待つつもりのニヤついた主催者を見下ろし踵を返したその時、静まり返った会場に男の声が響いた。

「10億」

声の主を探して会場が一気にどよめく。今度はどこのクズ野郎だ。

「「キャプテーン!!!?」」

「これでダメなら諦める。"分かれて"ねえ女の人魚は前から欲しかったんだ」

「そういう問題じゃなくて!」

男の顔には覚えがあった。確か"麦わら"のバカ野郎が億に乗ったと同時に手配書が出ていたはずだ。

ハートの海賊団船長、トラファルガー・ロー。懸賞金はそう大した額じゃなかったはずだが。

「ちょっとどういうこと!?」

「聞いての通りだ、ナミ屋。人魚なら他をあたってくれ」

「ナミさん!ここは一旦…」

噂じゃ"麦わら"の別動隊と聞いてたが、一味と揉めているところを見るにそう単純でもないらしい。一度並んで暴れた顔なじみ程度の仲か、それともこれも時間稼ぎの芝居か。

「ああああああ!!!」

「何だ」

ざわつきの修まらない会場に突如、やたらと通る叫び声が響き渡った。続いて会場の大扉が吹き飛ばされ、クズどもが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「ルフィ!!!」

扉の残骸から立ち上がったのは麦わら帽子の男と、他数名。なるほど少なくとも、"麦わらのルフィ"の方は噂通りの大バカ野郎らしい。

"商品"の名を叫び突撃していく麦わらと魚人の登場に会場は大混乱。これで多少は面白くなりそうか?

「なんだ…その人魚、お前の友だちか?ルフィ」

「ロー!?そうだ!ケイミーは友だちだ!!」

「なら連れ出してやれ。鍵は持ってこさせる…聞こえたな!ディスコ!!」

立ち上がったトラファルガーの一声で、人間屋の男が首輪の鍵を取りに走った。10億の出処に心当たりがあるのか買い物を邪魔されて青筋を立てている天竜人の様子を見てか、みっともねェ早足だ。

「全く騒がしくてかなわんえ!チャルロス、人魚はまた今度にしておくえ」

「ぐぬぬぬぬ…」

元々"ムダ遣い"に否定的だった父親に声をかけられた天竜人は、これ以上好きに使える金がねェのかそれ以上何も言わず仕舞い。

他方で上がる歓声に視線を寄越すと、さっきまで奴と揉めていた麦わらの一味と魚人どもが諸手を挙げて喜び、トラファルガーの野郎に絡んでいた。本当に警戒心の欠片もねえな。

「ニュ~!い、いいのかあんた!?10億なんて…」

言葉の続きは、二発分の銃声が掻き消した。

倒れた魚人の体から、階段を伝って血が滴る。

「当たったえ~っ!!自分で捕ったからこれタダだえ?得したえ~~!!」

頭の悪いガキみてえなことを言いながら笑うクズの手には、銃が握られていた。

ギャーギャーと騒がしいクズに向かう麦わらを、撃たれた魚人が掴んで止める。バカな野郎だ。魚人族で元海賊なんてステータスが、クズに撃たれてやる理由になるとでも思ってんのか。

顔を歪めて涙を垂れ流すそいつの傷口を押さえる麦わらに、傍観していたトラファルガーが近付き悠長に止血を始めた。銃を構えたままのクズが見えてねえみたいに。

「!!!この下々民と魚め~!!!お前らムカツクえ~~!!!」

二人を庇うように立ち上がった麦わらは、クズに向かって距離を詰めていく。

制止の声にも歩みを止めず、そのまま目前で右の拳を構えた。

おい、本気か?

「ヴォゲァア!!!!」

勢いをつけたパンチは、そのままクズの頬を打ちぬいた。


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