1・唇での触れ合い

1・唇での触れ合い


3日目。

あれから一昼夜が過ぎ、またフルルドリスは侯爵の屋敷へと訪れていた。

侯爵から連絡があったためだ。

昨日は彼の手で体を触れられたことを思い出し、少し恥ずかしい思いをしたが、そこまで気は重くはなかった。自分を大切に扱ってくれていたため誠実な人間であることがわかったし、大神祇官と話して書簡の内容を改めてくれるよう願ってくれているだろう。先日のよくわからない内容の命は一体何かと思ったが、もう気にする必要もないだろう。

そう思っていた彼女に、侯爵は言葉を発した。

「では、先日の続きをやろうか」

「———えっ?」


困惑するフルルドリスに、侯爵は言い聞かせる。

大神祇官に書簡の内容を確かめたところ”内容に誤りはない”と言われたこと。

この理由を聞けば、「聖女フルルドリスにはいずれ子を成し、その奇跡の力を後の世代へと引き継がねばならない。だが、彼女は異教徒との戦いに明け暮れる日々を過ごしており、男女のことへの知識に欠ける。故に、経験が豊富で信頼のおけるものが彼女を導かなければならない」とのことである。

「なっ……、な……っ」

「私とていかがなものかと思ったが、下手に市井の者に任せればよからぬ噂が立ちかねない。大神祇官様からも内密にするようにと釘を刺されてしまったし、私も腹をくくるしかなくなったのだ…」

顔を赤らめて言葉も出ない様子のフルルドリスであったが、侯爵は伏せていた顔を上げ、彼女を見据える。

お互いに選択の余地はなかった。


「んっ……」

再び男の手がフルルドリスの体へと触れる。向かい合って立つ2人。侯爵は彼女を腕の中に抱いている。侯爵は彼女の腕や背中を触っていたが、ゆっくりと片手を彼女のヒップへと伸ばした。豊かな曲線を描くそれは撫でられるときゅっと縮こまり、彼女の警戒心を現しているかのようだった。

「大丈夫。力を抜いて…」

侯爵はフルルドリスにささやくと、彼女を引き寄せる。彼女の体は侯爵へと密着し、二人の体で挟まれた胸はその圧力で形を変えた。侯爵の胸板はゆっくりとした呼吸による動きを彼女へと伝え、彼女の体のこわばりを解きほぐしていく。彼女の体がもとの柔らかさを取り戻したのを確認すると、侯爵は彼女の体を撫でる手に少しずつ別の役割を与えた。

パチリ、しゅる…

彼女の体のシルエットを隠すスカートや袖、それらが1枚、また1枚と支えを失い床へと落ちていく。フルルドリスはそのたびにびくりと震えるが、そのたびに侯爵の手は優しくその緊張を治めるのだった。

やがて、彼女は体を包むインナーとタイツのみの姿になる。露わになった体が描く豊かな曲線は抑えがたい色香を放ち、見たものをその美しさで魅了する。だが、侯爵は興奮を見せることなく、彼女の肩を抱くと椅子へと誘った。


「ふ……っ、んぅ……」

フルルドリスは横抱きにされ、椅子に座った侯爵にもたれかかる。侯爵の手は彼女の体を支えるとともに腿や肩の地肌に触れ、掌の温度を伝えていく。彼女はじっとしてその愛撫を受け入れるが、その呼吸は熱を帯び始めていた。かすかな熱が彼女の中で揺らぎ、もどかしい気分にさせる。いつしか彼女は核心に触れられたいと思うようになっていった。

侯爵は不意に彼女の顎に指をかけると、伏せられた顔を上に向かせる。彼女の顔は赤らみ、その瞳は潤んでいた。侯爵はそのしどけなく開いた唇に自らのものを重ねる。

「……—————っ」

この日も、始めは異性を拒むように緊張をしていた彼女であったが、幾度も優しく撫でられ力を抜かれた結果、彼女の体は弛緩して侯爵の行動に対して強い反応をおこせなくなっていた。現に唇を奪われた瞬間も、びくりと四肢が跳ねたにもかかわらず、彼を押しのけたり拒絶の言葉を発することができていない。

「んっ……ちゅ…、む……ん……っ」

重ねられた唇は密着したかと思えば離され、触れ合ったかと思えば感触を確かめるかのように優しく挟まれる。時たま彼女の呼吸は侯爵によって遮られ、彼女の脳は少ない酸素でやりくりするためにその機能を落としていく。

いつしか彼女は侯爵にその身をまかせ、陶然と唇の感触に没頭していった。

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