黒胡椒の新たな目覚め
モテパニ作者ある夜のこと、拓海は受験生らしく机に向かって勉強を、そんな中ダークドリームは拓海のベッドに腰掛け部屋にあったレシピ本を読んでいた。
ダークドリーム「この料理まだ習ってない、拓海ー、これ今度教えてー」
拓海「ん?あーどれだ?」
立ち上がり拓海に該当のページを見せに来るダークドリーム、拓海もそのページを覗き込むと、なんだかいい匂いがした。
すでにダークドリームは入浴を終えている、つまりこの匂いは、
拓海「なあダークドリーム、お前何で頭洗ってるんだ?」
ダークドリーム「え…?そういうものでしょ?そう習ったけど、…何か間違ってる?」
拓海「ああいや聞き方が悪かった、シャンプーはどうしてるんだ?俺のとは違うやつだよな」
拓海も女子と関わる事が多くなった影響か、前よりそういったケアについてこだわるようになった。
だからふと身近な相手がそういう事をどうしてるか気になったのだ。
ダークドリーム「あんが買ってくれたのを使ってるけど。試供品とかいろいろ試して今のが一番ちょうどよかったんだって」
拓海「へー」
今まであまり見てなかったダークドリームの髪を見る。
風呂上がりで乾かしたばかりだというのにサラサラな髪は妙に興味を惹かれた。
拓海「なあ、触ってみていいか?」
ダークドリーム「いいけど、ぐちゃぐちゃにしたら怒るからね」
許可をもらいダークドリームが再びベッドに腰掛けその後ろに周る拓海。
下から掬い上げるように持ってみる。
拓海「(おお…!)」
その感触はなんと表現すればいいか、その無数の集合体は気を抜けばこぼれ落ちていきそうなほど滑らかなのに、液体と違って確かにそこへ存在を感じさせる不思議なものだった。
拓海「ありがとう、もういいよ」
ダークドリーム「そう」
そう言って拓海は手を離し再び椅子の方に戻った。
ダークドリーム「じゃあ次私ね」
拓海「ん?お前も触るのか?」
ダークドリーム「まあ興味無いんだけどいちおうね」
ベッドから立ち上がり拓海の方へ再び近づき後ろへ周るダークドリーム。
ダークドリーム「拓海髪長く無いから同じやり方じゃ難しいわね」
なので髪の間に指を差し込むようにしてみる、結果的に撫でるような形になる。
拓海「なんかくすぐったいな」
ダークドリーム「そう?でも私も触らせてあげたんだから我慢して」
そうしてひとしきり触るとダークドリームは手を離す。
拓海「どうだった?」
ダークドリーム「うんまあ、そんなに楽しくもなかったかな」
そう言ってベッドに戻る、ただ流れでやっただけで大して意味は無かったようだ。
拓海「(それにしても女子の髪触ったの久しぶりだな)」
ダークドリームとのやりとりが終わって改めてそんな事を思った。
ダークドリームより前に髪を触った相手、それはもちろんゆい。
昔は撫でるついでに髪を触る事はよくあったのをダークドリームに撫でられて思い出した。
しかし今は、彼女を意識し始めてからはそうもいかなかった。
そして考え始めたら途端に意識してしまう。
もし今ゆいの髪を触ろうと思ったら…
拓海「……///」
すると顔が赤くなる。
ダークドリーム「拓海?」
拓海「ああいや、なんでもない。それよりそろそろ遅いだろ?部屋戻ったらどうだ?」
ダークドリーム「…まあそうね。じゃあ拓海、あんまり夜更かししちゃだめよ。おやすみ」
ダークドリームは少し訝しみながらも従い自分の部屋に戻ったのだった。
〜〜〜
そんな事があった翌日。
ゆい「デリシャスマイル〜」
夕方、拓海はゆいと二人でお茶とお菓子を食べていた。
週に一度程度ある誰も侵さないふたりだけの時間だった。
拓海にとって一番の至福の時間、しかし今日は落ち着きがなかった。
ゆい「拓海?どうかしたの?」
拓海「あ、ああいや」
昨日のダークドリームとのやりとりで急に意識してしまった、ゆいの髪を触りたいと。
そして今は絶好のチャンス。だが…
拓海「(髪触りたいって言って、引かれないか…?)」
好きな子に堂々そんな事を言えるほど、拓海は成熟した男ではなかった。
しかしせっかくのこの時間を悶々だけして終わるのは嫌だった。
悩んだ結果、拓海はゆいを信じた。
拓海「ゆい」
ゆい「ん〜?なに〜?」
拓海「ちょっと変なこと言うけど、いいか?」
ゆい「えっ?うん…いいけど」
変なことと言われて少し身構えるゆい。
しかし相手が拓海なので了承した。
拓海「ゆい、髪を触らせてくれ」
ゆい「えっ………髪?」
予想してなかった一言に固まるゆい。
ゆい「なんで髪?」
拓海「いや、まあ、ちょっとな」
ゆい「ふーん、でもいいよー。拓海に触られるの初めてじゃないし」
許可はあっさりと降り、ゆいは拓海に頭を差し出した。
そしていざその時になっても拓海は緊張していた、なかなか手を出せないでいた。
ゆい「まだー?」
拓海「ッ!あ、ああ」
促され意を決して手を延ばし、拓海はゆいの髪を掬った。
ゆい「んんっ…」
拓海「ッ!ど、どうした?」
ゆい「んっ、んーん。なんでもないよー」
嘘である。
ゆいは拓海に触られて反応したのだ。
人は集中することである程度感覚が鋭くなる。
髪そのものには感覚などはほとんど通っていないが、その先の毛根が過敏になれば当然触覚に刺激が走るものだ。
つまりゆいも意識してか無意識かはわからないが、緊張していたのだ。
そしてゆいより緊張して髪より感覚が通った手を通してゆいに触れているこの男も当然。
拓海「(な、なんだこれ!?)」
ダークドリームの髪とはまた違った感触、そしてそれに重なって感じている感覚。
それは多幸感。
拓海は確かにゆいの髪を触り幸せを感じていたのだ。
そしてゆいも…
一瞬にも、永遠にも感じた時が経ち…
ゆい「ふあ…」
拓海「ッ…!そろそろいいよ!」
ゆいが発した声をきっかけに終わりを迎えた。
ゆい「あっ…もういいの?」
拓海「う、うん…」
その後二人は時間が許す限り静かだが、それでも決して嫌じゃ無い時間を過ごした…
〜〜〜
そのさらに後日。
あまね「髪フェチに目覚めたらしいな品田ぁ!」
拓海「(面倒なやつに知られた…)」
あまねに呼ばれて嫌な予感がしながら来てみればこれだった
経験上誤魔化してもしょうがないと思って聞く。
拓海「どこで知った?」
あまね「ゆいから聞いたが?」
拓海「(またやっちまった)」
どうもゆいとのひとときは後の事を忘れてしまう。
そしてゆいは口止めしなければ普通に言ってしまう、だから毎回こうなる。
あまね「品田、私も髪には自信があるんだが、どうする?」
拓海「別に、いいよ」
あまね「ふむ、触りたいのはゆいだけという事か、このスケベ」
拓海「な、く…」
いつもなら反論するのだが、今回ばかりは否定しにくかった。
あまね「そんなムッツリ髪フェチ品田のために今からみんなで髪型アレンジの会を開いてやろう。特等席で見せてやるぞ、ありがたく思え!」
拓海「アレンジの会…?」
あまね「うむ、みんないつもの髪型から変わった髪型にしてみようという会だ。髪コン品田には垂涎の会だろう?」
拓海「…」
正直知らぬ間に話が大きくなっていて追いつけないが、今の拓海は…
拓海「参加、してもいいのか?」
あまね「ふっ、髪マニアの品田ならそう言うと思っていたぞ」
そうしてあまねは拓海を連れて行く。
あまね「さあ行くぞ!髪オタ品田ぁ!」
拓海「とりあえずその呼び方更新は辞めてくれ」
そうして拓海は新たに目覚めかけたものを自覚するのだった。