黒歴史SS 2部-④
修行編「覇気が弱まってるぞ!」
「クッソ……!分かってる!!!」
ガキン!と鉄と鉄がぶつかり合う音が響く
ベックマンは数日前から聞こえるようになったこの音にコーヒーを嗜みながらよくやるなと思う
椅子に座るベックマンの前にペンギンが座り込む
「うちのキャプテンのわがままに付き合ってくれて悪いな……。しかもキャプテンたちだけじゃなくておれたちまで鍛えてくれるなんてありがたい」
「いや、気にするな。どのみちお頭が決めたことならおれたちは反対しようもないしな」
そう言って肩をくすめるベックマンにペンギンはわかる〜と思っていた
そうしてローとシャンクスの戦闘音だけじゃなく後ろから聞こえてくる爆音に冷や汗を流す
後ろではライムジュースやルゥ、ヤソップに扱かれまくるクルーたちの叫び声が聞こえてくる
ペンギンももうしばらくしたら戻らなくちゃ行けないのでハァと溜息をついて肩を落とす
そんなペンギンを微笑ましく思いながらベックマンは煙草をふかした
「ハァ…ハァ……」
「今日はここまでだな!段々動きよくなってきてるぞ!この調子で頑張ろうな」
「あぁ……」
息切れを起こし汗を大量に流すローを見下ろしシャンクスは数日前のことを思い出していた
『鍛えてほしいだって?』
『ああ。おれは数週間前に王直と戦った。……正直死ぬかと思った』
そう言って俯くローの頭に浮かぶのは圧倒的な強さを振りかざす王直の姿
深く息を吸ったローは改めて顔を上げてシャンクスを見つめる
『ここで苦戦をしていたからおれは前に進めない。だから頼む。おれを、鍛えてくれ』
『……』
そうやってシャンクスの目を真っ直ぐ見据えるローの瞳は本気そのもの
生半可な覚悟じゃないことは痛いほどわかった
ローの言うことにも一理ある
新世界には王直を超える化け物が沢山いるのだ
こんなことで苦戦しているようじゃ生きていけない
ならば己がすることは
『ああ!わかった!おれが鍛えてやる!ただしおれは厳しいぞ?やれるか?』
『ハッ!上等だやってやるよ』
挑発的なシャンクスの言葉にも強気に返しあくどく笑うロー
これは鍛えがいがあるな、と思いながらあることを思い出す
『鍛えるのは別にいいがローお前今七武海だろ?一応四皇であるおれに教えを乞いていいのか?』
『あ?黙ってりゃバレねェだろ。それにおれが強くなるってことは海軍にも実質的にプラスだろ。文句を言われる筋合いはねぇな』
ドンッ!と厚かましく言い放つローにシャンクスは苦笑いをする
こうしてローは四皇赤髪のシャンクスを師匠とし、二年間の修行をすることになる
※尚、そのことは海軍及び世界政府は知らない
「ふぅ……」
「ははは。お疲れ様だ、ロー。よく着いてこれたな」
椅子に座ってルゥに渡された紅茶を飲んで一息つくロー
そんなローを頬杖をついて見守る
だがふと思ったことを聞いてしまう
「そういえば王直を倒したんだよな?どうやって倒したんだ?」
「……それが」
ロー自身どうやって倒したのか理解しておらず、覚えいる限りのことを使える
だがシャンクスはその力に心当たりがあるのか「ふむ……」と顎に手を当てた
そして一度目を閉じたあとローの顔を真っ直ぐ見つめてその力の招待を伝えようと口を開く
「恐らく、その力は悪魔の実の能力の"覚醒"だな」
「覚醒……?」
そうだ、とシャンクスは頷いた
覚醒についてはローは何も知らないらしく首を傾げる
そんな姿を見てシシャンクスは何だか微笑ましくなり口角が緩んだ
「覚醒は一部の能力者のみが辿りつくと言われてるものだ。中には覚醒の力に器が追いつかずに悪魔の実に自我を奪われる……と聞いたことがあるけど見た感じローは大丈夫そうだな」
覚醒……と呟くローを見てシャンクスはとあること思った
「ローは能力者なんだから無能力者のおれに鍛えてもらうんじゃなくて白ひげに頼んだ方が良かったんじゃないか?」
「……白ひげ屋はもう海賊を引退して"家族"と幸せに暮らしてるんだ。おれの身勝手な事情に巻き込むわけにはいかないだろ。……それに、能力だけに頼ってちゃやって行けないこともわかった。だから赤髪屋。アンタに頼ったんだ」
その言葉に目を見開いて固まる
まさかローがそんなことを考えているなんて思いもしなかった
だがそんなローだからこそシャンクスの厳しい特訓にも耐えられるのだろう
ならば、自分はローの望み通りに鍛えるのが筋というものではないのか
ふっとシャンクスは笑いコーヒーを体に流し込む
「じゃ、次は実践だな!」
「実践……?」
「アイツらは?」
「最近おれたちにちょっかいをかけてくる命知らず共だ。相手にしてやってもいいが少し面倒くさくてな。今の今まで放置してたんだ。だけどローの特訓相手にはちょうどいいだろ」
そう言ってワハハと笑うシャンクスに呆れるロー
まぁ実践も大事だから従うがどうもやる気が起きない
「別にいいが……。いいのか?本当におれがやっても」
「いいに決まってるだろ?それに七武海って政府に報酬とか納めなきゃ行けないんだろ?アイツら無駄に懸賞金だけは高いからローの手柄になるし、お前の特訓にもなる。一石二鳥じゃねぇか」
そう言われたら黙るしかない。シャンクスの言うことは確かに一理あるし、七武海を続けるためには不服だが世界政府に貢献した方が安泰だろうから、少し憂鬱だがやるしかないか……
「ハァ……room、シャンブルズ」
シュン!と敵船まで瞬間移動したローに相変わらず便利だな、とそう思った。相手の懸賞金が高くてもローの方が何倍も強いから負けはしないと思うが、万が一ローが海に落ちてしまったことを考慮しベックマンを連れ敵船の甲板が見えるところまで移動する
「おー!ローのやつやってんな!」
「心配はしてなかったが、可哀想になるな。相手が」
手を額に当て授業参観の気分で見守るシャンクスと、煙草をふかしながら「容赦ねぇな……」と思いつつ口元は笑ってるベックマン。流石は海のクズ、自分の娯楽には目がないらしい
「K・ROOM……アナススィージャ……」
「おっ!」
ローは鬼哭にroomを纏わせ伸ばし、鬼哭にとりあえずroomに慣らせ、完全にroomが馴染んだら勢いよく相手に突き刺した。だが相手はすぐさまそれを避け、本来は刺さるべき場所に刺さり問題は無いのだが……。避けられたことで狙いが定まらず船を貫通した
「「「あっ」」」
完全に戦闘不能にするため少し力を入れたロー
つまり分かるな?この後どうなるかが
「「「「「ギャアアアアア!!!」」」」」
そう、答えは船が大破する
文字通り海の藻屑になった海賊たち
海に浮かんでいた瓦礫にトン、と降り立つロー
だがもう一つのデメリット体力の消耗によって
「「ア"ッ!?」」
「あ、ヤベ」
ツルっ!と足を滑らせ派手な音を立てて海に沈むロー
・・・と黙り込み数秒見つめ合うシャンクスとベックマン
そしてもう一度ローが沈んだ場所を見て
「「ロ────ッッッ!!!」」
絶叫した
その後何とかローを救出した二人はとにかく急いでレッドフォース号へ帰還し、海水まみれでベタベタなローを暖かい風呂へぶち込んだ
それとルゥに頼みホットミルクも用事してもらい風呂から上がって来たローにそっと渡す
「フゥ……。わりぃ、助かった。まさか落ちるとは思ってなかった。なんか覚醒技使ったら体に力が入らねぇんだ」
「うーん、ローは覚醒技を使うとかなり体力が消耗するみたいだな。その分威力が段違いだが実践で使うのはまだまだ早いな」
「それと見ていた限りあの技は素早くて比較的小さい相手には向いていないな。使うとしたら大柄で動きが比較的鈍い相手に使うべきだろう」
そうやって冷静に分析を始める二人の話を聞いてローはこの覚醒技はドフラミンゴ相手には相性が悪いな……、と思い覚醒技はドフラミンゴには使わないことを決める
だからその分覇気を鍛えるべきだろう
だがしかし覚醒技を使いこなせることに超したことはない
覇気と覚醒技どちらを優先するべきか……
「とりあえず、覚醒技を使っても戦い続けられる程度には体力を付けるぞ!とにかく経験だ!」
「ああ。分かった。それと覇気の方ももっと鍛えていきたいんだが……」
「じゃあ並行していくか。覚醒技と覇気を両方極めていくのはかなり苦労するがそれでもいいんだな?」
「ああ」
「じゃあ決まりだな!とりあえず今日は休んどけ。修行再会は明日からだ」
そう言ってローを部屋に戻し頭の中で修行スケジュールを組み立てる
だが唐突にそうだ!とローのクルーたちの様子でも見に行くかと思い立った
そうと決まれば行くしかないだろう
隣で暇そうにしてたベックマンとルゥを引き連れて相変わらず悲鳴が響く甲板へ向かう
「どうせだしアイツらもおれが直接鍛えてやるか!」
「お頭のやつ更に追い討ちかけようとしてるな……?」
「本人に自覚はねぇがな。アイツらには心底同情する」
ルゥとベックマンは絶望するペンギンたちの顔を想像し苦笑いをした
シャンクスの元で修行を続けること約一ヶ月
ローは覚醒技を使っても動ける程度には体力がついた
だが連続して使うことは未だに出来ず、ひたすらに鍛えている
覇気の方は素質があるのかかなり早いペースで上達しており未来視などは流石に出来ないがそれでもかなり上澄みレベルの覇気は身についた
クルーたちの方も一人一人確実に成長しており新世界でも問題なく活動出来るかもしれない……四皇がそう思うくらいにはみな成長している
しかしこれだけでは不安、というのが本音だ
シャンクスは膝に手を付き中腰の状態で流れる汗を拭っているローを見てあることを思う
「なぁ、ロー」
「?なんだ、赤髪屋」
「覚醒技も、覇気も大分使いこなせるようになってきてるから一つ提案なんだが……」
───神避のやり方を覚える気は無いか?
その言葉に目を見開くロー
神避とはかつてロジャーが使っていたものだ
ロジャーの日誌からシャンクスが使えることはなんとなく知ってはいたが本人からそんなことを言われるとは露にも思っていなかった
「使えるものなら使ってみたいが……。神避は覇王色を使えないと出来ないんだろ?おれは覇王色は持ってないから出来るとは……」
シャンクスはスっと目を細め、すぐに口角を上げる
まるで何か面白いものを見るかのように
「大丈夫だって!覚えるだけで何か損があるわけではないだろ?」
「それはそうだが……」
「……それに、」と何やら呟いたシャンクスだがローには聞こえず首を傾げる
「まぁ気にすんな!早速やり方教えてやるから行くぞ!」
「わか……ったって押すな赤髪屋!」
「ダハハハハ!」
───何、心配することは無い。何故ならお前は……
そんなこんなで修行を続け早一年が経とうとしていた
覚醒技も比較的制御出来るようになり覇気も成長している
ローの成長はシャンクスや他の赤髪海賊団クルーも舌を巻くほど早かった
そしてローはシャンクスから神避のやり方を教わったものの、やはり使うことは出来ない
何故シャンクスが神避を教えようと思ったのかはローには分からない
ただ何となくシャンクスが目的を持って教えていることは察することが出来た
それがなんかのか知らないし知るつもりもないが、自分を思ってやってくれていることは分かる
ハートのクルーたちもベックマンたちが鍛えてくれたおかげでかなり強くなった
それからホンゴウに医学などを教わり、純粋な戦闘力以外も知識がついたため赤髪海賊団に教えを乞たのは間違えではなかったようだ
さて、もう十分鍛えてもらったが赤髪海賊団にいつまで世話になるべきか……
「……!」
ふと唐突にあることを思い出した
一年前のあの日、ルフィが二年間の修行をするということを
なんでかは分からないが再び麦わらの一味が再開する年に何かが起こる気がする
人の行動で己の今後の未来を決めるのは少し気に食わないが、ここは己の感を大事にすることにしよう
「ようロー!今日も修行するか?」
「ああ、頼む。……ちょっと待ってくれもう少しで食べ終わる」
「そんな急がなくてもいいって……。そうだロー。最近白ひげに連絡してるか?」
その言葉にうぐっ!と言葉を詰まらせた
今のローの心情を表すと"完全に忘れていた"の一言に尽きる
ローの反応からシャンクスは何となく察し、「こりゃ白ひげ心配してんな〜」と愕然と思った
やっぱりどこか抜けてるところがあるローをほっとけないと思うのは仕方がないことだろう
「……」と黙りこくってるローの頭を笑いながらガシガシと撫で、いつものように修行へ連れていく
いつもなら聞こえてくる悲鳴も最近だとめっきり聞こえなくなっておりローだけではなくペンギンたちも成長していることを感じ、なんだか誇らしくなるシャンクス
(けど、もうすぐ終わるんだな。この関係も)
何となくローがもうすぐ度経とうとしていることを察しているシャンクスは少し寂しく思った
けれど同時に嬉しくもあった
だが出来ることならどうか、この子が傷つかないようにしてほしい
この世でたった一人だけの己の船長と、尊敬する人の忘れ形見なのだから
(……そう簡単には、行くわけねぇか……)
この後に待ち受けるであろうローの災難を案じ、シャンクスはそっと目を伏せた
あれから更に半年が経ち、ついに旅立つことにした
シャンクスたちにはこの一年半本当に良くしてくれたと思う
おかげで自分たちは比べ物にならないほど強くなった
だからこそ、行動を起こすのは今がいいと
「赤髪屋、今まで世話になったな。おれはまた海に出る」
「ああ。……もうちょっといてもいいんだぞ?」
「いや、流石にそれは……」
シャンクスは本音を零すが本気で嫌がられたため泣いた
ベックマンたちにドン引きされたが思い切り頭を引っぱたかれ切り替える
「いてっ!そんな本気で殴ることねぇだろ!……まぁいいか。ところで次の行先は決まってるのか?」
「次はゾウに向かおうと思ってる。まぁおれはゾウには行かねぇがな。行くのはクルーだけだ」
「?別行動ってことか?」
「まぁそういうことだ」
「クルーたちにはちゃんと話してるのか?」
「……今から、話そうとしてたとこだ」
バツが悪そうに目を逸らし声のトーンが落ちたことから「あ、コイツまだ話してないな」と察してしまうシャンクス
だが直ぐにしょうがないなぁと言うように顔を緩め、未だに気まずそうに目を逸らすローの頭にそっと手を置く
キョトンとするローを愛おしそうに見つめ優しく撫で続ける
「お前は、この一年半で見違えるように強くなった」
───だから大丈夫だ。だから胸張って行ってこい
その言葉にローは目を見開いた
目を潤ませ何かをこらえる仕草をするからシャンクスはこんな時にも意地張らなくてもいいのに、と思い笑う
そうして雑に目を擦るローはすぐさま仲間の待つポーラータング号に乗り込んだ
「じゃあ、行ってくる」
「ああ、行ってこい!」
そうやって海底に沈んでいく宝を乗せた宝船を見送り、少し寂しそうに笑うシャンクスの横にベックマンが並び立つ
「寂しくなるな、お頭」
「……そうだな。でもアイツらはきっと新世界での台風の目になる」
───その時が、楽しみでしょうがない
そう言って誇らしげに笑うシャンクスは正しく、"四皇"に相応しい気迫があった
「別行動……ですか?」
「ああ。お前らはゾウに向かえ。おれはパンクハザードに行く」
腕を組みそう言い放つローに対しクルーたちは目を見合わせて沈黙する
ローがこうして単独行動をすることは余り認めたくは無いがよくあることなのだ
しかし今回はなんだか嫌な予感がする
「ダメに決まってるでしょう。キャプテンが行くならおれたちもキャプテンについて行きます」
「そうだそうだー!いっつもキャプテン単独行動ばっかりなんだから今度こそ連れてってもらいますからね!」
「キャプテン。おれは最近入ったばかりの新参者だがみんなの意見に賛成させてくれ。キャプテンが行く場所ならどこへだって行く覚悟はある」
クルーたちから言われてもローは頑なに首を縦に振らなかった
本当はローだってクルーたちと離れたくはない
けれどもしクルーを連れて行ったらアイツが何をしでかすのか簡単に想像できる
……だからこそ、連れて行くなんて出来やしない
「……ダメだ。お前たちはゾウに行け。これは"船長命令"だ」
「キャプテン……」
不安そうに顔を歪め、今にも泣き出しそうなクルーたちを見て仕方ないと顔を緩ませる
「安心しろ。おれは必ずお前たちの元へ帰る。それにお前たちはこの一年半で見違えるほど強くなった。だからおれがいなくてもやって行けるはずだ。頼むからおれが戻ってくるまで生き延びろよ?」
その言葉で信頼されていることを感じ取ったクルーたちは有頂天になり、先程の空気から一転
完全にキャプテンを送り出すムードとなる
そんなクルーたちを見てペンギンは単純な奴らだな……と呆れてしまうがすぐに顔を引き締めローと向き合う
「その言葉、本当に信じていいんですね」
「ああ」
数十秒間目を見つめ合い、先に根気負けしたのはペンギンの方だった
「はぁ……」と溜息をついてフッと笑う
「分かりましたよ。アンタがそういうならおれは信じて待つしかないじゃないですか」
「……悪いな」
「いいえ、いつものことなのでいいですよ。とりあえずおれはアイツら落ち着かせてきます」
そう言ってクルーたちの元へ向かっていったペンギンの背を見て、眩しいものを見るかのように目を細める
なんだか騙してるような気分で非常に心苦しい
自分を信じて着いてきてくれたのにそれを裏切るような所業をしようとしていると知ったら彼らはどう思うのだろうか
(……考えてもしかたねぇか。今はただ、作戦を成功させることだけを考えろ)
そうやってローを送り出す宴をした後、クルーたちに見送られ一人パンクハザードに向かう
そしてこっそり持ち出してきた"とある電伝虫"でどこかに連絡を取る
「……もしもし」
『グラララ!!!ようやく連絡をよこしやがったか。今の今まで何してやがったんだ不良小僧』
「連絡をしなかったのは悪いと思ってる」
ローが連絡を取ったのは元四皇の一人である"エドワード・ニューゲート"
最近連絡を取っていなかったからか不良呼ばわりされてしまう
……まぁ、今のローは他の海賊やならず者たちからも恐れられるような海賊なので最早不良の域ではないのだが
元大海賊の白ひげからしたらローはまだまだということだろう
「そんなことよりも、アンタに頼みたいことがあるんだ」
『……なんだ』
連絡されなかったことの腹いせとしてこのまま揶ってやろうと思っていた白ひげだがプライドの高いローが頼み事をしてきたこと、電伝虫越しからでも伝わるローの雰囲気が普段と違うことから白ひげは態度を改め目を細めて話を聞く姿勢を取った
白ひげが話を聞く気になったことをちゃんと感じ取ったローは声のトーンを落とし、少し俯いて要件を伝える
「これからもし、おれの身に何か起こったときには……」
───アイツらを、頼んだ
『!』
目を見開いて声を出すことすら出来ない白ひげ
"アイツら"とは十中八九ハートのクルーのことだろう
ローとクルーたちは傍から見てもかなり良好な関係であり、自分と息子たちとの関係とは少し違うがそれでも"家族"と言われても不思議ではない程仲睦まじい海賊団だったはずだ
ローもそんなクルーたちを心の底から愛していたし、そんな大事なクルーたちをいくら信頼しているからと言って他人に任せるような人間では無い
それこそ、"自分の死"を覚悟していない限りは
『トラ小僧。お前、何をする気だ』
「……」
ローは答えない。否、答えたら絶対に止められるから答えられない
白ひげは無意識なのか電伝虫の受話器部分をキツく握りしめてしまい電伝虫の顔が苦痛に歪んだ
『まさかお前……』
「何、心配するな。もしもの話だ。おれはアイツらを置いて死ぬつもりはねぇよ。けどこの海に"絶対"なんてものはない。だから念の為アンタに頼んだだけだ」
ローは努めて明るく振る舞い取り繕う
何も知らない人間が見れば本心だと勘違いするだろう
けれど白ひげには分かってしまった
ローの裏に潜む本音を
『……分かった』
「……!…ああ。ありがとう」
了承されたことで安心したのか、はたまた受け入れてくれると思っていなかったのかローは一瞬息を飲んだあと、安心したように微笑んだ
……これでもし、最悪の事態になってもクルーたちは路頭に迷うことは無い
「じゃあな白ひげ屋。体には気をつけろよ。どうせ酒を飲み漁って不死鳥屋辺りに怒られてんだろ」
『余計なお世話だクソガキ。……お前こそ、気をつけろよ』
「……ああ。肝に銘じる」
ガチャリと切られた電伝虫
白ひげは切られた受話器をジッと見つめる
(トラ小僧の奴……。何を仕出かすつもりだ)
「オヤジ、入るよい」
「オヤジ!体の調子はどうだ?」
コンコンと扉をノックされそこから入ってきたのは愛しい己の息子であるマルコとエース
……もう前線から退いた己では何も出来ないかもしれないが、息子たちならもしや
「?あれ、オヤジ誰かと電話してたのか?」
「トラ小僧とちょっとな」
「へぇ。最近連絡来ねぇと思ってたがようやく連絡してきたのか」
やいのやいのとマルコとエースが雑談している様子を見た白ひげはある決断を下した
「マルコ、エース」
───お前たち、_______