黒歴史SS 2部-②
原作だとまだ何にもわからないロッキーポート事件「弱者が何人集まろうが弱者は弱者。七武海の小僧は殺すなと言われているが貴様はそうでは無い。諦めて死んでもらう」
「っ!!おい死にたくねぇなら逃げろ!!!アイツは本気で殺すつもりだぞ!アイツらの狙いはおれだ!巻き込む訳には……!」
ローは痛む体を無理やり起こしてコビーを逃がそうとする
だがコビーはそんな生半可な気持ちで来た訳では無い
コビーは目を見開いたあとローが自身を気遣ってくれていることに気がつきフッと笑う
「……ありがとうございます。心配してくれて」
「あぁ!?おれは別にそんなつもりは……」
「でも僕は逃げませんよ。それに、貴方に助けられた住人に貴方を助けてほしいとお願いされた。だから引けません」
覚悟を決めているコビーの表情にローは暫く黙り深くため息をついた
「……ハァ。勝手にしろ」
「はい!勝手にさせてもらいます!」
諦めたローはコビーを戦闘に参加させることを決めた
コビーは認められたことに少し嬉しそうにし、笑顔で拳を構える
だが増援が入ったところで戦力差は埋まらない
それこそ港に集まる海兵たちがここに集まらない限りは
「この戦力差をたったその程度の強さで埋めようなど片腹痛い。随分とおれはナメられたものだ」
ボキボキと首を鳴らす王直
その周りにはニヤニヤと下品に笑う海賊たち
「行きましょう!ローさん!」
「足引っ張るんじゃねぇぞ!!!海兵!!!」
二人は肩を並べ敵に飛び込んで行き、コビーは王直に殴りかかりローはroomを広げ鬼哭で切り刻もうとする
だが王直は瞬時にコビーの腕を掴んで横に投げ飛ばし、斬られる前にroomから脱出し瓦礫を投げつける
ローは瓦礫に気を取られ瓦礫を王直の代わりに斬る
その隙を狙われ王直に地面に叩きつけられた
コビーは民家の壁により遠くに飛ばされることは無かったが下っ端海賊たちが立ち上がる前にコビーに切りかかる
間一髪で避けたものの如何せん数が多すぎて捌ききれない
王直の狙いはコビーとローの分断
ローを潰しさえすればコビーは何時でも潰せるし、なんなら質の低い下っ端だろうと数さえいれば始末できるであろうと言う考えもある
それに万が一この量の海賊を何とかできたとしても後ろには黒ひげ海賊団の幹部が残っているのだ
この二人に勝ち目などない
「残念だったな。所詮この程度。先程は邪魔が入ったが今度こそお前を連れていく」
「うぐっ!!!」
「ローさん!!!!」
ミシミシとローの首から嫌な音がする
コビーは100を超える海賊たちを一斉に相手にしていながらローに気を取られてしまった
その隙を海兵が見逃すはずもなくコビーは斬られてしまう
「うっ!」
「へっ!余所見するからだよ!!!」
「しま、った……!」
そう。"二人"だけなら勝ち目などない
だがもし、他の海兵たちが全員助けに来てくれたとするのならば……
「ホワイトブロー!!!!!」
「うわぁ!!!!」
「!」
「袷羽檻!!!!」
「ぎゃあ!!!!」
「!来てくれたんですね!!!!」
「ったく、クソガキが。一人で無茶すんな」
「全くよ。おかげで住民たちの避難は後回し。ヒナ、憤慨」
二人の小将の他にもあそこにいたはずの海兵、約567名が全員この場に集結している
スモーカー、ヒナ、ヘルメッポ、Tボーン、モモンガ、その他の名だたる海兵たちも佇み、今力の均衡が……
崩れる
「な、んでお前らが……!」
「……酷い怪我だなトラファルガー。……別にお前を助けに来たわけじゃねぇ。おれたちは海賊たちを捕縛しに来ただけだ」
(なんて言いつつ渋るみんなを説得してここまで来たのに素直じゃないわね。スモーカーくん)
ヒナは葉巻を吸いながら佇むスモーカーの横顔を眺め数分前のことを思い出していた
─────
『お、おい……どうする?』
『どうするつっても……』
コビーが先陣切って飛び出したものの他の海兵はまだ覚悟を決めきれていなかった
まさかこんなことになるとは思ってもいなかったのだ
しかも助けに行く対象はあの恐ろしい七武海、トラファルガー・ローなのだから
だがそんなに海兵たちを立ち上がらせたのは意外な人物
『……おい。テメェら。いつまでここでウジウジしてるつもりだ』
『そんなこと言ったて……!』
スモーカーは手に持っていた葉巻を折る
こんなに荒々しいスモーカーを始めてみた海兵は肩をビクッと揺らし押し黙る
『おれたちはここに何しに来た!?ここで蹲ることか!?違うだろ!!!おれたちは、"海賊"と戦いに来たんだ!!!!』
その言葉にこの場にいた海兵たちは全員目を見開いた
スモーカーはまだ言葉を続ける
『それでここにいる住人たちを救いに来た!だがどうだ!?おれたちが着く頃にはもう住人たちは救われてた!それをやったのは他でもない海賊の "トラファルガー・ロー"だ!!!』
『このまま海賊なんかに先を越されてもいいのか!?おれたちは、ここに何しに来た!!!!』
海兵たちは俯き拳を握りしめる
本当は、怖い
だけどこんなところで止まっている時間などない
だから海兵たちが出した回答は
『……おれたちは戦いに来た!!!お前ら覚悟を決めろォ!!!!!!』
『『『『『ウォォォォォ!!!!!』』』』』
海兵たちは各々の武器を掲げ雄叫びを上げる
そうだ。我々は救いに来たんだ
なら、こんなところで蹲ってる暇などない!!!
『……。テメェら!!!行くぞォ!!!!』
「おれは、おれたちは海兵としての責務を果たしに来ただけだ」
「……!」
その言葉にゆっくりと目を見開く
……あの人以外に、こんな海兵がいるなんて知らなかった
海兵なんてみんな、"アイツ"みたいな奴だと思ってたのに……
「それで、お前はなんで一般市民なんて助けやがった」
「……別に、ただの気まぐれだ」
「……そうかよ」
ローは一度深く深呼吸をし、少しでもダメージを受け流す
そうして前を強く見据え力強く立ち上がる
王直はそんなローと海兵たちが気に入らずビキビキと青筋を立てていく
「さぁ。これで力の差はほぼ無くなったぜ?」
「……っ!クソガキが……!!!」
黒ひげは少し面白くなさそうな顔をしたものの、こんなこともあるだろうと割り切る
寧ろ楽しんだ者勝ちだと思うことにした
「……あ、そうだ提督。"例のアレ"取りに行かねぇのか?」
「あ?……ゼハハハ!そう言えばそんなもんあったな。テメェらここは任せたぜ」
「ウィーハッハッハッ!任せとけ提督。この程度軽く捻ってやらァ!」
「ホホホホ。全員ぶち殺してやりますよ」
「!あ、おい!!!待て黒ひげ!!!」
「じゃあなロー。また会おうぜ!」
そう言って黒ひげはロッキーポートの裏へ消えて行く
追いかけようとするがそんなこと王直が許すはずもない
「ここから先は……一歩も通さんぞ!!!!」
「ちっ!!!とっととそこを退け!旧世代の海賊が!!!!」
「……白猟屋。おれは王直を相手にする。他の幹部たちを任せてもいいか?」
「ちっ。海賊の意見を聞くのは癪だがこの中でアイツを相手にやれるのはお前しかいねぇ。ヘマしたら承知しねぇぞ」
「ふん。誰に言ってやがる」
そう言ってローは王直だけを見据え鬼哭を鞘から抜き出す
スモーカーの能力は殺傷性が無く、完全パワー型の王直とは非常に相性が悪い
ならばスモーカーには他の幹部を任せるか、その他の下っ端を捕獲してもらう方がこちらとしても助かる
そして今回はオリオリの実の能力者であるヒナがいるから下っ端程度なら簡単に捕縛することが可能
それらを考慮するとローは一番厄介である王直を相手にし、他の海兵たちには下っ端と黒ひげ海賊団の幹部を任せるのが一番効率の良いやり方だ
「ホワイト・アウト!!!」
スモーカーの能力は殺傷性こそないが、"捕縛性"に非常に優れており、煙の能力は捕縛以外にも撹乱にも使え遥か格上相手でも隙を作ることが可能になる
もっとも相手が覇気を使えなければ、だが
「うわぁ!?くそ!なんだよ抜けられねぇ!!」
「ちくしょー!!!!白猟のスモーカーめ!!」
案の定覇気を使えない下っ端程度なら簡単に捕まえられる
だが、幹部クラスとなるとそう簡単にいく訳が無い
「ウィーハッハッハッ!!!おもしれぇ能力だな!!おれと遊ぼうぜ!」
「ちっ!覇気使いか……!」
「袷羽檻!」
「うぎゃあ!!!」
「なんだこの檻!!!くっそ!離せ!女の癖に!」
「……女だからって舐められるなんて……ヒナ、憤慨」
ヒナの方もスモーカーと粗方同じだ
下っ端程度なら赤子の手をひねるように捕縛可能
だがこの程度で事態を収められると思う程、ヒナは弱くない
「ホホホ。オリオリの実の能力ですか。初めてみますが中々厄介のようで」
「ケホッ!これもまた運命……」
「……やっぱりそう上手くいく訳がないわよね」
飛行能力があるラフィットとドクQはヒナの拘束を楽々回避し上空からヒナを見下ろす
二人から漂う只者では無い空気
もちろんこんなところで止まる訳には行かない
分かっているけれど四皇幹部を目の前にし、怖気付いてしまう
「直角飛鳥・ボーン大鳥!」
「!」
地上からいきなり飛んできた斬撃
喰らえば一溜りもないため、二人とも避けるしかない
「Tボーンくん……!」
「助太刀致すぞ!ヒナ嬢!」
「トープトプトプ!思い切り遊んでもええのんか〜?」
「なんだ女じゃないのか。あの桃色髪の女の方に行きたかったが仕方ないねぇ」
「ふん。大分舐められたものだな。貴様如き、このモモンガが斬ってやろう!」
「へっへっへっ!こんな下っ端海兵ぐらいならおれたちでやれるぜ!」
「お前ら!!!中将たちが幹部たちを相手にしてくれている!せめて部下たちは片付けるぞ!!!」
「「「「「おー!!!!」」」」」
戦いの火蓋があらゆるところで切って落とされる
邪魔者が消えたフィールドにローと王直が相対する
そこに乱入者が一人
「僕も、一緒に戦ってもいいですか?」
「……お前に気を遣う暇はねぇ」
「ええ。分かってます」
「なら、勝手にしろ」
「ありがとうございます!」
王直はずっと不愉快な気持ちで溢れていた
理由は分からない
だが目の前の"敵"が目障りで仕方がなかった
ギリギリと歯を鳴らす王直
この胸の激情は目の前の小僧たちを潰せば、無くなるだろうか?
……いいや、もうそんなことはどうだっていい
今はただ、二人との戦いを楽しみたい
この不愉快な気持ちに混じる高揚感
どこかで覚えた不思議な感情
どこでこんな感情を覚えたんだろうか
「それも、お前と戦ったら何か分かるのか?」
教えてくれ、______。
「……いいか?お前が奴の気を引け。その隙におれが攻撃を仕掛ける」
「分かりました」
王直は俯き動こうとはしなかった
そのことに警戒しながらもコビーにざっとした作戦を伝える
「……。昔にも似たようなことがあった。その時はガープと"奴"が相手だったな。"D"同士の戦い」
「!」
ローは王直の口から出てきた"D"と言う単語に目を見開く
一方コビーはDをただの名称だと思っておりローが驚いた様子を見せたことに少しだけ驚く
「何故だかトラファルガー。貴様からは奴らと似た気配がする。……まさかお前は、"そう"なのか?」
「……」
「……いいや。無駄なことを聞いた。どの道黒ひげが執着する理由がお前にはある。お前を捕らえたあと、じっくりと話すとしよう」
無言なままのローを数秒眺めたあと無駄な問答だと王直は切り捨てた
黒ひげがローに執着する理由など王直には分からない
それでも、ローから感じる気配にどこか懐かしい気分になるのはきっとローがロジャーと関わりがあるからでは無いのだろう
根本的な何かが"彼ら"と似ている
その謎もローを捕まえたら全て分かるはず
「手加減はしないぞ。精々死ぬなよ、トラファルガー・ロー」
「それはこっちのセリフだ!!!」
「大人しく捕まってもらいますよ!!!!」
──────
「ゼハハハ!!!アイツらおっぱじめやがったな!こりゃ急いで"アレ"を手に入れねぇといきうめになっちまう」
戦場から離れた黒ひげは現在ロッキーポートの地下に来ていた
上から伝わってくる振動から激しい戦いが行われていることが分かりモタモタしていたらおそらくこの地下は崩落するであろう
そんなリスクを求めてまで手に入れたいモノとは一体何なのか
コツコツと足音を響かせながら暗い、暗い闇の中を歩き進む黒ひげ
「……!やっと見つけたぜ、これが……!」
歯車が狂ってゆく
黒ひげが何やら見つけた時、ローとコビーは王直との戦闘になっていた
王直の強さは本物であり二人がかりでかかっても傷一つ負わすことが出来ない
それはスモーカーたち黒ひげ海賊団幹部たちと戦っているものたちも同じだ
一般海兵と下っ端は力が均衡しており戦力差が浮き彫りとなる
「お前たちとおれたちとじゃここまで戦力差がある。なのに何故そこまでして抗う?」
王直は鬼哭の刃を素手で掴みながらコビーの蹴りも意図も容易く片手で止めてみせた
この圧倒的な怪物に打つ手はないのかもしれない
けれど二人には、いいやここにいる全員止まれない理由がある
「おれは!ここで終わる訳にはいかねぇ!そのためにはお前が邪魔なんだよ!」
「僕は、僕たちは大切な人たちを守るためにここにいる!!!どんなに戦力の差があろうとも諦める訳にはいかない!!!!」
泥まみれで血に塗れながらも決して失われることはない希望の光
傷だらけでみっともない姿で尚戦い続けるスモーカー、ヒナ、Tボーン、モモンガ
それ以外の海兵たちも自分の信念を、大切なものを守るため戦う道を選んだ
ただそれだけのこと
「守るものも何もねぇテメェらに!!!おれたちが負けるわけには……!」
「いかないんです!!!!」
そう言ってローは鬼哭を引き抜き代わりに王直の腕に凄まじい威力の蹴りを入れる
王直の動きが少し止まった瞬間をつき一気に距離をとるロー
王直は少し痺れた腕を眺める
そしてコビーはこちらに意識が向いてないことを逆手に取り片足だけで王直の顔の辺りまで飛び上がり、そのまま掴まれていない片足を王直の腕に巻き付け捻りあげた
そのまま勢いよく地面に倒れ込み緩んだ拘束から抜ける
そうしてローとコビーはアイコンタクトを取って一斉に王直へ駆け走った
「注射ショット!!!!」
今まで出し惜しみをしていたが、もう使うしかない
ローは鬼哭に流桜を流し込み王直へ突き刺した
流桜はただの武装色とは違い相手を内部から破壊するもの
異常なまでに頑丈な王直ですらタダでは済まない
「うぐっ!?」
流石の王直もよろけ口から血を吐き出す
その瞬間を見逃すほど2人は甘くは無い
「今だ!!!!コビー屋ァ!!!!」
「ハァ!!!!」
ローの呼び掛けに答え、コビーが王直の横顔に蹴りを入れ込む
王直は咄嗟に腕で防御したものの先程よりも明らかに威力の上がった蹴りに……
「「!!!!」」
「すげぇ……!!」
「おい……嘘だろ……?」
「あの王直が!!!!」
「膝をついた!!!!!!」
「……」
「「ハァ…ハァ…」」
ローとコビーは息を切らしながら膝をついて俯く王直を見下ろす
不気味なまでに黙り込む王直に緊張感が走る
だが俯いたままの王直の口角が密かにつり上がった
「!なんだ……?」
「どこか、様子がおかしい……」
ソロりと揺れながら立ち上がる王直
王直から漂う異様な雰囲気にローもコビーも、顛末を見守っていた者たちも一歩後ずさる
顔を上げた王直の顔をは相も変わらずの仏教面
けれど漂う雰囲気は先程とは違う
「……おれに膝をつかせるとはな。お前たちを弱者と侮ったこと、謝罪しよう」
「はっ!いきなりなんだ?驚きすぎて気でも狂ったか?」
「……なんだか不気味ですね。……っ!?」
ズシンと王直が一歩地面を踏みしめた瞬間、バチンッ!と空気に電流が走るような感覚がする
一歩一歩ローとコビーの元へ足を進める王直
王直が歩く度に地面が揺れているが、果たしてこれはただの気の所為なのか?
それとも……
「っ!なんだ!?いきなり地面が揺れ始めて……!」
「!まさか、アイツここで"アレ"をぶっぱなすつもりなのか!?」
「"アレ"……?」
「おや……これはマズイですねぇ。彼が暴れるのなら私たちは早めに撤退した方が良さそうです」
「……巻き添えを食らう前に撤退とは……ケホッ!」
「!?なにいきなり!」
「何やら嫌な予感がします!」
「おやァ?アイツおっ始めるつもりかい。もう少し遊んでいたかったが死にたくないしね。ここら辺で置いたまさせてもらうよ」
「トープトプトプ!精々死なんようにな!」
「おい待て!!!!」
「……まさか、この力を使うことになるとは思いもしなかった」
「地面が揺れて……!?」
「いや、それだけじゃねぇ……!この威圧感……まさかコイツ……!」
「"覇王色"まで使えんのか!?」
バタバタと何かが倒れ伏す音がする
後ろを振り返ってみれば何も耐性がついていない海兵たちがどんどん倒れてゆく
スモーカーたちも気絶はしないものの余りの圧に頭を押えよろめいている
そして立つのもようやくな異常な揺れ
この力はもしや
「"悪魔の実"か!!!」
「そうだ」
─────さぁ、本番を始めよう
バゴォン!!!と王直が足を踏み下ろしたその瞬間、王直を中心として島全体に亀裂が走る
凄まじい揺れが起きた結果、地面がヒビ割れ逃げ遅れた者たちがその亀裂に飲み込まれた
「うわぁぁぁぁ!!!」
辛うじて意識を保っていた一般海兵たちもこの揺れに耐えきれず他の気絶した者たちと一緒に渓谷へ落ちてゆく
まるでこの世の終わりのような光景に唖然とするしかない
立つこともままならない異様に激しい揺れ
この揺れに、ローたちは心当たりがあった
「クソっ!間に合わねぇ!!!」
「キャア!!!」
「ヒナ嬢!」
「しまった……!このままではみなと分断されてしまう!!!」
スモーカーたちも他の海兵たちと同じく亀裂へ落ちるものだと思った
だが実際は……
「なっ!?」
「どうなってるんですか!?」
地表が盛り上がり巨大な土の壁に囲まれるローとコビー
壁の高さは様々で完全に分裂させられるスモーカーたち
王直一人によってここまでの惨状になるとは思わず唖然としてしまう
それにこんなことを出来る悪魔の能力なんて一つしかしらない
だがしかしその悪魔の実の能力を持っている人間はまだ生きている
ならばこの能力は一体なんだ
王直の持つ悪魔の実の能力とは___
「"ドシドシの実"」
ラフィットがそう呟いた
そう、これが王直の持つ悪魔の実の能力
「いやはや末恐ろしいですね……まさかたった一回の能力解放だけでこんな有様になるとは」
「……だがドシドシの実は使える場所がかなり限られる。今回は運が良かったな」
「ホホホ。そうですねぇ」
シリュウは高台に登り被害の出ない場所で高みの見物をしていた
ラフィットとは楽しそうに王直の作り出した惨状を見下ろしている
___ドシドシの実
王直が食べた超人系の悪魔の実
その実態はあの"グラグラの実"の相互互換の実
その威力はグラグラの実に負けず劣らず、下手したらグラグラの実よりも威力が高い
だがドシドシの実はグラグラの実のように危険視をされていなかった
何故ならば
「ドシドシの実の弱点は地面を踏み締めなければ能力を発揮出来ず、地表を丸ごと破壊してしまい海の上では使えないこと。船を破壊してしまいますからね」
「グラグラの実の相互互換と言うが、話を聞いた限りだのグラグラの実の方が汎用性が高い。本当にドシドシの実は強いのか?」
「……ホホホ。実際シリュウさんの言う通りですよ。グラグラの実の相互互換と言いつつも能力を使う上でグラグラの実の方が場所を気にせず使うことが出来ます。実質的にはドシドシの実はグラグラの実の下位互換の実と言えましょう」
「ですが……」とラフィットは口を閉じる
その後すぐにニヤリと口角を不気味なほど上げ笑うラフィット
「けれどその威力はグラグラの実に引けを取らない。条件さえ揃ってしまえばドシドシの実は"最強"になれる」
未だに揺れ続ける地面に何とか持ちこたえるローとコビー
揺れる地面と同時に油断すると意識を刈り取られかねん覇王色の覇気
先程までは食らえつけていたのに一気にまた形成を逆転されてしまった
「なんだ、この能力……!まるでこれは……!」
「……そうか。貴様は確かニューゲートと懇意にしていたのか。ならば分かって当然だろう」
そう言って王直は自身の能力を打ち明ける
「おれが食べた悪魔の実は"ドシドシの実'。グラグラの実の相互互換にあたる」
「!グラグラの実の……!?」
「そ、そんな……グラグラの実と同じなんて……」
二人はグラグラの実の危険度をその身をもって知っている
だからこそ、王直の持つ悪魔の実の能力が如何程に危険なのかを正確に把握することが出来た
王直は自分の掌を眺めかつての記憶を思い出す
「……だがこの力は地上でなければ発動することが出来ない限定的なものだ。だからこそおれはニューゲートの贋作だと言われ続けた。だが、条件さえ満たしてしまえばニューゲートなど敵では無い」
力強く手を握りしめ前を見る王直
王直にも負けられない理由がある
だからこそ、黒ひげと組んだ、"組んでしまった"
いつか後悔する日が来ようともそれでも構わないと
王直はもう……止まれないところまで来てしまった
「だから、諦めてくれ」
そう言って腰を低く下ろして冷たく言い放つ王直
だがそう言われて諦めるほど、二人は賢くない
「「嫌に決まってるだろ/ます!!!!」」
王直の目を見据え真っ直ぐ拒否をする
王直が止まれない理由があるようにローもコビーも止まれない理由がある
譲れないものを持つもの同士争うことは止められない
ならば勝て
それが出来なければ大人しく死を選べ
それが海に生きる人間の運命
「……そうか」
「ならば、容赦はしない」
(……とは言いつつ、どうしたものか)
チラリとローは横目でコビーの様子を伺う
コビーはタラりと冷や汗をかいており、良く見てみれば体が震えていた
ローは密かに目を見開き無意識に鬼哭を掴む手が強まる
コビーは王直相手に真正面から啖呵を切ったことから恐怖を抱いていないものだとばかり思っていたが、そんなことは無かった
ローは深く息を吐き、前を見据える
「コビー屋、行くぞ」
「はい!」
─────────
「クソっ!いきなりどうなってやがる……!」
スモーカーは頭を押えながらフラリと体を揺らしながら立ち上がった
そして周りを見渡したあと面倒なことになったと眉を顰めることとなる
スモーカーが見た光景とは高く盛り上がった平らな地表が約半径50m広がっているもの
まるでバトルフィールドのような真っ平らな地面にいや予感が止まらない
そしてその予感は当たってしまった
「ウィーハッハッハッハッ!!!まさか生き残ってるとは思わなかったぜ!!!また遊ぼうぜ!!!」
「……やっぱりテメェも生きてたか。絶対に捕まえてやるから覚悟しろ!!!」
─────────
「ヒナ嬢……!大丈夫ですか!?」
「え、ええ。なんとか……」
ヒナを支えながら心配そうに顔をのぞき込むTボーン
そんな二人の元にも矢張り、現れる死神たち
「おやおや。意外ですね。まさか彼の能力を食らってもまだ生きているとは」
「ケホッ!これもまた巡り合わせ……。今度こそ二度と立ち上がれないようにするまで……」
「もう……!いい加減にしてちょうだい!!!」
────────
「おやぁ?まだ生きてたのかいアンタ」
「雑魚の癖にようやるの〜♡」
「あまり舐めるなよ!!!このモモンガ、貴様らをインペルダウンにぶち込むまで死ぬ訳にはいかん!!!!」
────────
「……?」
ローはふと鬼哭を見下ろした
ただ一瞬、鬼哭が何かを訴えていたような気がしたのだが、ローは気の所為だろうと目の前にいる敵に集中する
今は、目の前のことだけを気にしていればいい
……本当に?
「いくぞ」
「!!!」
バゴン!と王直が少し足に力を入れただけで地面が抉れ凄まじいスピードでこちらへ向かってくる
唐突なことすぎて反応出来ずにコビーは硬直してしまう
いいや、唐突だったから反応出来なかったというのはただの言い訳だ
単純に王直のスピードについていけていないだけ
コビーが弱いのでは無い
王直が強すぎるだけなのだ
「ボサッとしてんじゃねぇ!!!死にたくなきゃ奴のスピードに順応しろ!!!!」
「は、はい!!!」
ガキン!!と鉄と鉄がぶつかるような音を鳴らしローは鬼哭の刃を下から上に向け王直の拳を受け止めた
まるで上から巨大な岩を押し付けられているような感覚でギシギシと鬼哭を支える腕がミシミシと悲鳴を上げる
余りの圧迫感に顔を顰めるしかないローに対して、王直は更に容赦なく責め立てた
「うぐっ!!!」
「だから言っただろう容赦はしないと。大人しくこちらに着いてくればいいものを。全く哀れだ」
片膝がガクりと折れ、ローは膝まづいてしまう
それでも王直の拳を受け止め続けるローの体には果てしない負担がかかり続ける
ローの周りだけ重力が重くなったようにローの膝がどんどん、どんどん地面にめり込む
そんなローを見て王直は言葉を投げかけた
その言葉は暗に「諦めろ」とそう言っている
だがローはこんな状況であろうともその口元に笑みを浮かべた
「……何故笑う。今がどんな状況なのかを理解しているのか」
「その言葉……そっくりそのまま返すぜ!!!もう一人、忘れちゃいねぇか!!!!!」
「!」
目を見開く王直の背後から覇気を纏った凄まじい威力の蹴りがお見舞される
完全に油断していた王直は武装色の覇気による防御を忘れそのまま吹っ飛ぶ
王直による圧力から開放されたローはゆっくりと立ち上がり王直を蹴り飛ばした犯人を睨みつけた
「おい。もうちょっと早く出来なかったのかよ。おかげであのまま圧死するかと思ったぞ」
「すみません……。でも、何とかなったでしょう!王直の気を引いてくれてありがとうございました!」
邪気もなく満面の笑みで礼を言われたローは少し分が悪そうにして気まずさから顔を逸らしてしまう
そんなローをニコニコと見守るコビー
ここだけ別世界のように平和だが、まだ終わっていない
その事に気がつくのは王直がぶっ飛ばされ瓦礫の山になっている場所が唐突に全て吹き飛んだ時だ
「……面白い。このおれを、ぶっ飛ばすとは……。こんな感覚久しぶりだ。この戦いによる昂り……嗚呼!」
「タマラナイ!!!!!」
狂気に満ちた表情で"ケモノ"は笑う
「クソっ!なんだコイツ!イカれてやがんのか!!!」
「もう既にダメージは相当蓄積しているはず……!なのに何故!!!」
コビーの言う通り、王直は今ローの流桜による内部破壊、コビーの覇気を纏う蹴り
ダメージを確実に負っているはずなのだ
実際王直は口から血を流し息を切らしている
なのに未だ倒れる気配がない
攻撃しても攻撃しても立ち上がってくる狂気に満ちたケモノに気をくれしてしまう
「よもやおれをこの迄楽しませるとは予想外だ。その礼と言ってはなんだが、全力で叩きのめしてやろう!!!」
「っ!コビー屋!!!」
「え……?」
瞬きをする間にコビーに一瞬で近づいた王直
余りのスピードに追いつけるはずもなくコビーの眼前にはこちらに向け拳をつこうとする王直が映る
「クソっ!room!シャンブルズ!!!」
「!」
だがなんとか王直のスピードに追いつけたローがroomを展開しシャンブルズでコビーと己の位置を入れ替え、鬼哭で王直の拳を受け止め弾き返す
大きく体をよろめかせた王直にローは懐に潜り込み手を差し出した
「カウンターショック!!!」
「グハッ!!!」
ビリビリビリビリと王直であろうとも痺れる威力の電流
だが直前に武装色の覇気でガードをした王直は痺れただけで実質ノーダメージ
どんな攻撃をしようとも全て効かないという絶望感が大きく二人にのしかかる
その二人を嘲笑うかのように王直は手を休めはしなかった
「!!まずい!!!逃げてください、ローさん!!!」
「しまっ!?」
二人が目にしたものとは鬼哭を持つローの腕を捻りあげ足を振り上げる王直の姿
その振り上げられた足は、容赦なくローに降ろされる