黒歴史SS 2部-①

黒歴史SS 2部-①

胃が大変な赤犬


頂上戦争から約数ヶ月たった世界はかなりの変貌を遂げていた

まず白ひげはこれを機に四皇をやめると宣言しどこか静かな島へ隠居を始め、その後釜として新たな四皇黒ひげ"マーシャル・D・ティーチ"が誕生する

なんの皮肉か、仲間を殺しエースを政府へ差し出した張本人が海の皇帝となる

これにら元白ひげ海賊団は激昂した

だが怒り狂う息子たちを白ひげは宥め、他の時間軸とは違いあの悲劇は起きていない

二つ目は頂上戦争にて大暴れし火拳のエースを逃がすきっかけとなったローが王下七武海入りを果たしたこと

あれだけの損害を出したのに何故王下七武海入り出来たのかはよく分かっていない

ただ一部では元四皇白ひげと現四皇の赤髪のシャンクスの抑止力になるローを世界政府が欲しがったのではないか?という噂だ

兎にも角にも海兵からしたら恐ろしくてたまらない人間であるのはそうである

何せ七武海入りするために100人の海賊の心臓を直接届けに来るという暴挙を果たした男だ

底が見えない能力に恐れをなす海兵は多い

そして最後にセンゴクが海軍元帥を降り、代わりに赤犬が海軍元帥についた

センゴクは青雉を元帥に推薦し、青雉も普段の青雉とは思えないぐらいに元帥になることに賛同した

しかし世界政府は赤犬を時期海軍元帥に推薦し、海軍は対立する

その結果今は使われていない"パンクハザード"という島で二人の決闘は行われた

結果は赤犬の勝利

青雉はそのまま海軍を辞め、今は何をしているのか分からない

決闘に使われた島は戦いの影響で二つの気候がめちゃくちゃに混ざりあっており、人が住める環境ではなくなってしまった

だが世界政府はもう使われていない島ならいいだろうということで特に気にしていなかった

そこに気を配ることが出来たら、もう少し何かが変わっていたかもしれないのに


そんなローが七武海になってから数ヶ月

ついに海軍本部から協力要請が届いた


「……で、おれを呼び出して何の用だ?海軍」

「本当はお前に頼むのは嫌なんじゃがな……これは世界政府からの命令じゃけ、従ってもらうのぉ」

「……別に、七武海になったからにはこういうともあるだろうと思ってたからいい」

ある日いきなり海軍本部に呼び出されたロー

世界政府勅令の命令であるらしく目的のためには世界政府や海軍に悪印象を持たれる訳には行かないローにとって断れない

世界政府に従うのは腸が煮えくり返るが目的のためにもここは一旦唾を飲むしかなかった

「!ロッキーポートに襲撃を仕掛ける?正気か?あそこには"王直"が住み着いてるし他にも凶悪な海賊たちが大勢いるんだぞ」

「そんな事わかっとる。だがこれも世界政府の命令じゃけ。異論は認められん」

その言葉に少し眉をひそめたローだが赤犬の言うことは最もであることは理解している

世界政府直属の組織である海軍は世界政府の命令に逆らうことが出来ない

頭では理解しているがそれでも自由に出来ない海兵たちを哀れに思う

「……分かった。協力してやるよ。で、いつ仕掛けるんだ?」

「丁度来週の今日じゃ」

「もうすぐじゃねぇか!!!!なんてもっと早く知らせなかったんだよ!!!!!」

「こっちだって急に言われたんじゃ!!!!!そんなこと言われても知らん!!!!!」

本気で胃を痛めてそうな赤犬を見たローは「中間管理職って……大変なんだな……」と心底赤犬を哀れんだ

なんか可哀想に思えてきたローはそれ以上何も言わずにそっと胃薬を赤犬のデスクに添えて部屋を出ていく

赤犬はそっと差し出された胃薬を数秒眺め胸ポケットにしまった


(ロッキーポートに王直、か)

ローの母艦は潜水艦で海軍の軍艦より隠密性が高く速度が早いという詭弁性から先行してロッキーポートへ乗り込めという司令が出されていた

命令に従うのは不服だったが目的のためなら致し方まいと固唾を飲んで大人しく従う

そうしてローはゴーとポーラータング号からする排斥音をBGMに今回の司令であるロッキーポートへ考えを寄せていた

王直とはかつてのロックス海賊団のメンバーにしてかの四皇ビッグマムとカイドウ、そして世話になっている白ひげの元仲間

だが白ひげからは元仲間について聞いていないし、何しろ話を聞こうとすると渋い顔をされはぐらかされる

どうやらいい思い出が無いらしく無理矢理聞き出すのは幅かれロックス海賊団についてはそんなに知らない

今回の司令にあたって白ひげから情報を聞き出そうとも考えたが何となくやめておいた

世話になっている相手に迷惑をかけたくないというのは建前で存外負けず嫌いなローは誰の手も借りずこの司令を達成したかったというのが本当の理由だ

何より七武海としての初陣、他の人間から手助けを受けなければ何も出来ないと思われたくは無い

「キャプテン。もうすぐ着きますよ」

「……ああ。分かった」

ペンギンに呼ばれたローは座り込んでいた椅子からそっと立ち上がり壁にかけてあった鬼哭を肩に担ぐ

そうして海面へと浮上したローはマントをはためかせ今回の目標であるロッキーポートを睨みつける

どうもあの島からは何やら不穏な空気が漂っており嫌な予感がする

それでもどうしてもやり遂げなければならないことがあると、ローは一歩ロッキーポートへ踏み込んだ

これが世に語り継がれることになる"ロッキーポート事件"の始まりとなる一歩だった

「……」

(王直が住み着いてるって聞いてたから身構えてたが……堅気の連中かなり多いな)

ローは一旦クルーたちをポーラータング号に残し一人ロッキーポートの街を歩いていた

チラリと周りを見渡すと普通に過ごしている一般人たちが目に入る

まるでどこにでもあるような街で到底大海賊がいる島だとは思えない

考え事をしていたローは近づいてくる子供の気配に気が付かなかった

「いたっ!?」

「?」

ローは下半身に衝撃が走り何かが尻もちをつく音が聞こえたため音の発信源を見下ろした

そこには茶髪の幼い幼児が座り込んでいた

すると少女の母親らしき女が駆け寄ってくる

「こら!すみません。うちの子が……。お怪我はありませんか?」

「あ、ああ。なんともねぇ」

ローは自分で目付きが悪く堅気じゃない空気を醸し出していることは理解している

だからこそ怯えもせずにこちらに謝ってくる少女の母親に少し困惑していた

「ほら!アンタも謝りなさい!」

「お兄さん、ごめんなさい……」

「いや、気にするな。それよりもおれは用があるから先を急ぐ」

この親子の姿が、かつての自身の妹と母親に見えたローは早くこの親子から離れたかった

幸い用事があるということは嘘では無い

だが、何となくここが戦場になるかもしれないと思ったら胸が痛んで仕方がない

ローは一言断りを入れて早足で目の前の巨大な城に向かって歩みを進める

その表情はどこか寂しげで、どこか悲しそうだった

ローは現在目の前に見える巨大な城のような建物に向かって歩く

思ったよりも距離があるようで早足で向かっても中々辿り着かない

そうして海賊、しかも王下七武海がこんなに堂々と道を歩いていても住人たちは気にもとめなかった

ローとしてはありがたいことこの上ないが底知れない不気味さを感じる

少しの違和感を抱えつつも司令をこなそうと気を引き締め直すローの肩に何者かの手が置かれた

「よォ……久しぶりだなァ、ロー」

「!!!」

ローは大きく目を見開き錆びたカラクリ人形のように首を後ろに回す

喉がカラカラと乾き全身に冷や汗が流れる

その男は不気味な程ご機嫌そうで口角がつり上がっていた

「ゼハハハハ!そう怯えるな。何もおれはお前に危害を加えようと思ってるわけじゃねぇ」

「……っ!おれに、なんの用だ……!黒ひげ!」

「なぁに、ちょっとお前と話をしようと思ってるだけだ。さァ、楽しい歴史の勉強を始めようぜ」

ローは鋭い目付きで黒ひげを睨むが黒ひげは気にも介してないようで何事もないように笑っている

だがローは黒ひげから悪意を感じなかった

少し警戒しながらもここは大人しく着いて行った方が得策だと諦めて黒ひげに連れられとある宿屋の個室に案内された

「で、歴史の勉強ってなんだよ」

「ゼハハハハ!そう急かすな。そうだな、お前はワノ国って知ってるか?」

「?ああ知ってるが……」

ローは唐突にワノ国話を振られ眉をひそめながら首を傾げた

確かにワノ国は知っている。何故ならロジャーの日誌に書かれていたから

だが何故いきなりその話を……

「じゃあ光月家のことは知ってるか?」

「光月家?光月おでんのことか。知ってるけどだからなにを……」

「なら話は早い。おいロー。お前、ワノ国の重大な秘密……知りたいか?」

ゴクリと唾を飲み込むロー

黒ひげは興味を示し始めたローに計画通りだとほくそ笑んだ


ローは少し警戒しながらも気になることは気になるので話を聞く体制を作ってしまった

それが命取りになることを知らずに

「ポーネグリフは知ってるな?でもこれは知らないだろ。ポーネグリフには3つの種類があることを」

「3つの……種類……」

「普通のポーネグリフと本当の歴史が書かれているという"リオポーネグリフ"、そして最果ての島を示すという世界に4つしかない赤色の"ロードポーネグリフ"」

黒ひげは言い聞かすように一つ二つと手を前に出し指を一本ずつ折っていく

ローはまるで子供扱いされているような気分になり顔面をぶん殴りたくなったが何とか堪えて知らなかった情報に目を開いた

「ロードポーネグリフ……?」

「ああ。各地に点在している4つのロードポーネグリフ。それが無ければ最果ての島に辿り着くことが出来ない。現在そのロードポーネグリフのうち1つは四皇ビッグマムの手中にあり、そして1つはワノ国に存在してる」

「!」

「それともう1つ、ポーネグリフを作ったのがワノ国の光月家だ。ゼハハハ!!!おかしいと思わねぇか!?ポーネグリフを作った一族が国の頂点になってるなんてなぁ!?」

ローは驚き目を見開いた

驚きのあまりに声も出すことが出来ない

ローは光月おでんがかつて白ひげの船に乗りロジャーの船に乗ってラフテルまで行ったことは知っている

だがおでんがポーネグリフを作った一族の末裔であることはロジャーの日誌に書かれていなかったため知らなかった

否"書かれていたはず"だった

実はロジャーの日誌にはところどころ不明な点がある

その不明な点の一つが書かれていたはずのおでんの出自

おでんが仲間になったと書かれていたが不自然に一部だけが塗りつぶされており何が書かれているのか分からなかった

そして恐らくその塗り潰されている部分に書かれていることは先程黒ひげが言っていた光月家がポーネグリフを作った一族であるということ

「その顔は知らなかったって顔だな?存外お前もわかりやすいな」

「バカにしてんのか!!!!……いや、落ち着け。で、それだけじゃないんだろ?」

「ゼハハハハ!!!まぁな。しかし意外だな。ロジャーと関わりがあるお前ならこんなこと知ってるものだとばかり」

「……悪いか」

「いや、何も悪くはねぇ。少しびっくりしただけだ。気分を害しちまったら悪かったな」

そしてもう1つの不自然な点

それはラフテルについて書かれていたはずのページが全て破かれているということ

それまではラフテルに辿り着くのを楽しみにしている有無が書かれていたのに何ページが突然ページごと破かれていた

本来ロジャーは思い出を宝物とし何よりも大事にしてきていた

なのにそんなロジャーが宝とも言える冒険の記憶をそんな雑に扱うのか?

答えは"NO"だ

それほどまでにこの2つは重要で記録に残せないものであるということを裏付ける証拠

(ロジャーおじ様……貴方は一体、最果ての島で何を見たのですか?)

「ワノ国と言えば少し面白い話があってな。現在百獣のカイドウがワノ国を拠点として何やら怪しい取引をしてるらしい」

「……カイドウが?」

ローは片眉を上げ腕を組んだ

カイドウと言えば最強生物と呼ばれる正真正銘の化け物だ

そんな化け物がワノ国を拠点にしていることは知っていたが怪しい取引については何一つ知らなかった

黒ひげの話を信用するつもりは無いが何となく聞いておいた方がいいと思って大人しく話を聞く

「どうやらカイドウは"ジョーカー"とか言う闇のブレーカーを仲介人として人工悪魔の実"SMILE"とやらを仕入れてるんだとよ」

「人工悪魔の実だと!?」

ローはあまりの衝撃に地面に手を叩きつけ黒ひげに詰め寄る

黒ひげはゼハハハと笑いローに落ち着くよう諭す

上手く丸め込まれたことは癪だかここは固唾を飲み座り直した

「人工悪魔の実SMILE。食べたら動物の力を手に入れることが出来る代物だ。ただ最も覚醒は出来ずSMILEを食べたところで必ず能力を手に入れることは出来ない不良品だがな」

「必ず能力を手に入れることが出来ない?どういうことだ」

「ゼハハハハ!そのままの意味だ。SMILEを食べても大多数の人間は能力を得られない。しかも能力会得に失敗したら笑うことしか出来なくなると言う。だから奴らはこの人工悪魔の実に"SMILE"と名付けたみたいだな。まぁ能力会得を失敗してもカナヅチになることは変わらねぇから笑うことしか出来ない木偶の坊ってことで疎まれてる」

「……随分と、悪趣味だな」

ローは胸糞悪いと隠す気もせず顔を思い切り歪める

けれどそんなローを見ても矢張り黒ひげは笑うだけ

いっその事不気味に思えるほどの笑みにローは背筋に得体の知れない悪寒が走った

「もっと面白い話と言えばSMILEを作る原材料を生み出してるのはかつて"ベガパンク"共に働いていた元MADSメンバーの"シーザー"、そして闇のブレーカーとして裏世界を牛耳ってるジョーカーの正体はあの王下七武海、"ドンキホーテ・ドフラミンゴ"!!!」

「……は?」

ローは出てくるとは思いもしなかった聞きたくない名を聞き唖然とする

黒ひげがここまでこの話に詳しいから唖然としてる訳じゃない

己の因縁の相手である忌々しいあの男の名前が出てきたことを信じられない

「おい……。どういうことだ、なんで"アイツ"がこの話に出てくるんだよ!!!!!」

「おいおい。おれに当たられても困るぜ。おれァただ知ってる情報を話してるだけなんだぜ?」

ローは勢いよく黒ひげの胸倉を掴みあげ凄まじい形相で問い詰める

黒ひげは少々困ったようにローに話しかけ我に返ったローは黒ひげの胸倉から手を離したローはその後頭を抑え汗だくな顔を俯かせる

黒ひげはやれやれと思いつつ話を続けた

「おれもこれ以上の話は知らねぇよ。ただドフラミンゴとシーザー、そしてカイドウが手を組んで何か企んでることしかな」

「……それ以外の話は、知らないのか」

黒ひげはローの食い付きが良くなったことに益々悪どく笑う。わざとらしい演技で顎に手を添えてピコーンとなにか思いついたようであった

「そう言えばSMILEの話でこれまた笑える話があるんだ。ワノ国では今黒炭オロチというワノ国の将軍がいてな?ソイツがまぁ酷いのなんの。実はなSMILEにはまだ別の力がある」

「一口齧られたSMILEにはまだ"人を笑うだけのカナヅチにすること"が出来る効能が残ってた。ワノ国にはおこぼれ町という所謂"スラム街"と同じような場所がある。そこでは毎日のように人が死に嘆き悲しむ声が止まなかった。それを疎ましく思ったオロチが一口齧られただけのSMILEをおこぼれ町に流し、見事におこぼれ町の住人は全員笑うことしか出来ないカナヅチになっちまったんだよ!ゼハハハ!!!」

余りのおぞましさに声すら出ない

心底愉快だと言わんばかりに爆笑する黒ひげを理解出来なかった。理解したくなかった

ローはあの男のせいで生まれた悲劇にどうしようもなく、胸が痛んで掻きむしりたくなる

いや待てよ……"ワノ国将軍"とは誰だ?

ワノ国の将軍は光月家のはずだろう

ではこの"黒炭オロチ"とは一体……

「おい!ワノ国にはあの光月おでんがいるはずだろ!?なのに何故ワノ国はそんな惨状になってる!!!!」

「……?知らないのか?光月おでんはもう既にカイドウとオロチによって釜茹での刑に処されて死んでるんだぞ?」


「……は?」


……落ち着けトラファルガー・ロー

いきなりのことで驚いただけだ

よく思い出してみれば白ひげ屋たちも光月おでんが死んでることは知っていた

ならばコイツが光月おでんの死について知っていても何らおかしくは無い

……いや待て、何かがおかしい

確かに白ひげ屋たちは光月おでんが"死んでいる"ことは知っていてもその"死因"までは知らなかった

それも光月おでんの死を知ったのもつい最近とも言っていた

ワノ国は現在まで続く鎖国国家

しかもその土地の利便上入国することは不可能に近くそんな国から情報を仕入れることは困難を極める

例えワノ国の情報が入ったところで何十年ものタイムラグが発生し、断片的な情報しか入らない

なのに何故この男は"最近"のワノ国の内情までをここまで"詳細"に知っている?

「っ!?」

ローがここまで思考を飛ばした瞬間ゾクリと体の芯まで凍えるような悪寒が背筋に走る

前を見ると黒ひげがニタリと笑っておりローは反射的にそこから飛びずさる

「なっ!?」

なんと先程までローがいた場所におぞましい"闇"が渦巻いており、周囲にあったものを飲み込んでいた

あと一瞬でも反応が遅れていたらローごと闇に飲み込まれていた

どういうつもりだとローは口を開けようとするが途端にとてつもない爆音を立てて宿屋の壁が破壊される

破壊された壁からまるで巨人族のような巨大な手が伸びてきてローの体を鷲掴む

「うぐっ……!」

ミシリとローの体から嫌な音が聞こえる

もがいても抜け出せる気配すらしない

薄らと痛みを堪え目を少しだけ開く

ローはその姿を見て声は出せないものの目をこじ開けた

「おい黒ひげ。本当にこんな小僧がロックス船長を_____」

「ゼハハハ!間違いねぇ。おれを信じろ」

ローは少しだけ自身を握り潰す勢いの男の気が逸れた瞬間能力を発動させる

「……っ!room!!!!」

青白いサークルは宿屋の外にまで広がりローは手の中から宿屋の外へシャンブルズで逃げる

だが握り潰された体は思ったよりもダメージがあるらしくマトモに立つことも出来ず地面に腕を着いて倒れてしまう

「クソっ!肋数本持ってかれたか……!」

ローは肋の辺りを抑え何とか体制を整えようとするものの逃げ出したローを追って緩慢な態度で黒ひげと巨大な男が宿屋の外までやって来た

何とか顔を上げたローは目の前の男たちを睨みつける

「ほお。このおれを睨みつけるとは勇敢な若人だな」

───元ロックス海賊団メンバー"王直"

懸賞金17億8600万ベリー

王直の懸賞金額は王下七武海入りした時のローの懸賞金よりも遥かに高く危険度もかなりの物

そんな男が何故黒ひげと共に行動している……!

未だに立ち上がることが出来ず痛みのあまり油汗をかきながら顔を俯かせるローの耳に信じられない声が何個も聞こえてきた

「ウィーハッハッハッ!!!おい提督!確かコイツは"生かしとく"んじゃないのか!?」

「ゲホッ!これもまた巡り合わせ……」

「……随分とみすぼらしいガキだな。本当に役に立つのか?」

「ホホホ。提督がそう思ったなら私たちは何も言わず従うまでですよ」

「トープトプトプ!仲良くしなくてええのんか〜♡」

「おやおや。なんだい女じゃないのか。女じゃないなら来なくても良なったかもな」

ローは顔を蒼白にし脂汗では無い大量の冷や汗を流し始める

信じられない。黒ひげだけならまだ納得出来た

王直と手を組んでいても冷静でいられたはずなんだ

なのに、なのに……

「なんで、ここにいるんだ……!黒ひげ海賊団が!!!」

「ゼハハハ。このまま連れ帰ってもいいが暴れられるよだろうな。少し心苦しいが……腕の一本や二本、折らせてもらうぜ」

「……っ!」

ローはじわりじわりとこちらに近づいてくる黒ひげを見て覚悟を決める

痛みに震える体を深く深呼吸をし痛みを和らげ、黒ひげが自分の腕に足を上げた瞬間

「っ!?」

「オラァっ!!!」

ローは鬼哭を回転させながら空中へ投げ飛ばし黒ひげが鬼哭に気を取られてた隙をつき顎に向け肘打ちをかます

そして顎を揺らされたことにより脳震盪を起こし顎を抑えよろける黒ひげの腹に飛び膝蹴りをお見舞し、そのまま回し蹴りをする

吹っ飛ばされた黒ひげを他所に空へ投げ飛ばした鬼哭をキャッチする

唖然とする黒ひげ海賊団を尻目にローは走り去っていく

「はは……ははははは!!!おれを能力にかまけただけの小僧だと思ったか!?残念だったな!これでも近接戦闘はそれなりに仕込まれてるんだ!!ざまぁみやがれ!」

そうやって煽りながら背を向け逃げるロー

ただローは忘れていた

黒ひげのしぶとさを、敵に背中を見せる愚かさを

ここが……

─────一般人が住む普通の国であることを

ローは城下街に出て足を止める

先程まで明るく活気に満ち溢れていた街が、海賊に襲われ火の海に変わっていた

笑顔では走り回っていた子供は泣き叫び母の名を呼んでいた

子を失った母は廃人のようにくたびれていた

優しい表情で子供に菓子を売っていた老人は見る影もなく無惨に殺されていた

止まらない悲鳴に止まらない血飛沫

まるで地獄をそのまま持ってきたような惨劇

後ろから敵が迫って来てるのも忘れローは立ち竦む

そんなローの目に、海賊たちが掲げる旗に目を見開く

そこに掲げてある旗は、黒ひげ海賊団のものだった


あまりの惨状に立ち竦むローの背後に顎を擦りながらも笑って黒ひげがやってきた

かつてローはロジャーにこう言われていた

『いいか?ロー。海賊同士の喧嘩に、堅気は絶対に巻き込んじゃならねぇ。堅気には堅気の世界がある。そこをおれたちの勝手な都合で犯しちゃいけない』

青筋を浮かべ鬼哭が折れてしまうのでは無いかと思う程固く、固く拳を握りしめる

ローは凄まじい形相で後ろに立つ黒ひげたちをに睨みつけた

「おい!!!!何考えてんだテメェ!お前らの目的はおれなんだろ!?堅気は関係ねェ!!!さっさとこれを辞めさせろ!!!」

「おいおい、何言ってんだロー。おれたちは海賊だぜ?堅気から奪って何がおかしいんだ?」

「……随分と甘ェガキだな。どっかな誰かさんを思い出す」

黒ひげも王直も、他の黒ひげ海賊団もこれを当然のことだと思って、寧ろ一般人に気を配るローを嘲笑う

海賊としての価値観をロジャーによって全て構成されているローは一般人を巻き込む黒ひげ海賊団を許せなかった。否、許せるわけが無い

その価値観は凡そ海賊の考えでは無いのだろう

それでもローの本質はロジャーによって培われたもの

きっとこの場にロジャーがいたのならば、ローと同じことを思っただろう

そんなローの耳に劈くような悲鳴が聞こえてきた

「嫌ァァァァァ!!!!!」

ガキィン!っと鉄と鉄がぶつかりあう音が鳴り響く

悲鳴をあげた女性を庇うように抱きしめ女性に向け剣を振りおろそうとしており、それを鬼哭で受け止めた

女性はいつまで経っても痛みが来なくて暖かい何かが抱きしめてくれていることに気が付きおそるおそる顔を上げる

その瞳には凛々しく女性を庇うローの横顔が映る

一方迷いなく一般人を救ったローを全員が目を開く

だが黒ひげだけは面白いものを見たように気味悪く笑う

「な、なんで……」

「そんなことはどうでもいい!!!!ここはおれが何とかする!お前たちは早く逃げろ!!!」

「は、はい!!!!」

ローは自分の身を垣間みずに島全土にroomを広げ感知出来るだけの人間を即座に港の方へ転移させる

だがそれでも全員を飛ばせる訳ではなく矢張り何人かは取り残されてしまう

それを庇いつつこちらを取り囲む下っ端と王直、その他黒ひげ海賊団幹部を相手にしなければならない

それを一人で相手にするローの負担は図り知ることは出来ない

それでも、希望は紡がれている

「こちら海軍本部突撃隊!ただいまロッキーポートまで到着致しました!!!!戦いは既に始まっているようです!」

「おいコビー!着いたぞ!」

「……はい!」

「ゼハハハ。本当にお前は甘いなロー。一般市民を逃してお前になんの得があるんだ?」

「……そんなの必要ねぇ。堅気は巻き込まない。これがおれの、"おれたち"の信条だ」

"おれたち"に含まれているものが何なのか分かっているのかいないのかは分からない

それでも何となく不快なものを感じ取った王直は眉を顰める

痛みがあるはずだろうに何食わぬ顔で立ち上がるロー

「ウィーハッハッハッ!提督!ここはおれに任せてくれ!」

「……いや、ここはおれがやる。お前らは引っ込んでろ」

黒ひげの前に出てローとやり合う気のバージェスを押しのけ出てきたのは王直

自身を見上げるローを見下ろし無表情で佇む

黒ひげは何を考えているのか分からない二人を見て気分を害する訳ではなくただ笑っていた

「ゼハハハ!ああ好きにしろ王直。その代わり絶対に殺すなよ」

「……承知した」

その一言から苛烈な戦闘は続く

王直が右手をローに向け振り下ろし、パワーの分多少スピードが落ちているということを生かしローはスピードで勝負をする

王直のパワーは凄まじく腕を軽く振り下ろしただけで大地を砕く

これを食らってしまったらローとてタダでは済まない

だからこそスピードで翻弄し何とか互角のところまで押し込む

王直が完全パワー型だとするとローはテクニカル型

相性は悪くは無い

「ふんっ!」

「うぐっ!」

だがそれでも苦戦することはそうだ

roomを作ろうにもそれを許さぬ王直の猛攻

たった一度体を鷲掴みにされただけで肋が何本も折れてしまうレベルの怪力

一発食らっただけでアウトであるという緊張感からたった一つの"隙"が生まれてしまう

「だァ!まどろっこしい!おれも混ぜろ!」

「っ!?」

唐突に横槍を仕掛けてきたバージェスによりローは数メートル先の壁にぶち当たり血を吐く

王直は横槍を仕掛けてきたバージェスを睨みつけたあと黒ひげに向け口を開いた

「おい……おれに任せろと言ったんだ。……なんのつもりだ」

「おいおい。おれはなんも言ってないんだぜ?ソイツが勝手にやったんだ。言いがかりはよしてくれ」

王直は一度ふんと鼻を鳴らしたあと蹲って意識を朦朧とさせているローを見下ろす

今気絶させようと手刀を落とそうとする王直の耳にとある少女の泣き声が響いた

「うぇぇぇん!!!ママァ!!ママどこぉ!!!」

「……耳障りだ」

ローは息を切らしながら泣き声がする地点を見つめる

その少女を見た瞬間にローは目を見開いた

そこに座り込んで大泣きしている少女はここに着いた時ローにぶつかってきた少女だった

「なんで……なんでまだここにいるんだ……!」

腕で体を支えながらも何とか少女を救おうと藻掻く

王直は少女がこの戦いの場に不要と判断し一旦瀕死のローを捨ておき少女を始末しようと近づき、腕を振り上げた

「……。何故まだ抗う小僧。その何の役にも立たない有象無象を守ったところで何が残るというのだ」

「うる……っせぇ!それはテメェらが決めることじゃねぇ!!!!」

王直の振り上げられる腕を全力を持って鬼哭で受け止めるもののやはり体に限界が来て受け止めている腕の骨がミシミシと嫌な音を立てている

少女はどこかで聞いたことがあるような声にゆっくり目を開け声の先を見上げた

「さっきのお兄さん……?なんで……」

「そんなことどうでもいい!とっとと逃げろ!!!ここはおれがどうにかする!!!」

そう言ってローは再びroomを限界まで広げ少女のみならず今度こそこの場にいる一般人を全て港まで転移させる

これは今ロッキーポートまで辿り着いた海軍にもちゃんと見えており次の瞬間に瞬間移動してきた市民たちに驚きながらも即座に保護活動をしていく

「これで、邪魔者はいなくなったな……!さあ、続きを始めようぜ!!!!」

「つくづく愚かな小僧だ……。いいだろう。その心、二度と立ち上がれなくなるほどに叩き潰してやろう」

「手伝おう」

「……足は引っ張るな」

「……ちっ。劣勢なのは変わらねぇか」

そう。ローの敵は王直だけではない

ここにいる黒ひげ海賊団の下っ端と幹部たちをも相手にしなくてはならないのだ

王直だけならばまだ何とかなるかもしれないのに幹部たちまでもを一斉にいなさなきゃならないのは些か……いいや。下手したら死ぬ

それに加えローはもう満身創痍

優勢なのは、あちら側だ

「!?うぐっ……!いきなり、仕掛けてきやがって……!」

仕掛けてきたのはバスコショット

大量の酒をまるで津波のように起こしローの逃げ道を塞ぐ

「トープトプトプ!楽しくやらんか〜?♡」

「ウィーハッハッ!さっきは不意打ちしちまって悪かったな!今度は真正面からやり合おうぜ!」

「くっそ!多勢に無勢しやがって!!!」

何とかroomを広げ上空に逃げるが空中で自由自在に動くのは今のローでは難しい

そこからバージェスが脚力のみだけで上空に浮かぶローに近づき殴り掛かる

対応自体はできたものの威力は相殺することが出来ず体制を崩し、地上に落下していく

そこに畳み掛けるようにシリュウ仕掛ける

「取った」

「しまっ!?」

スピード特化のシリュウを目で追いかけることが出来ずローは斬られてしまう

血を吐きながら体勢を整えることが出来ず無様にも地面に叩きつけられてしまった

歯を食いしばり立ち上がろうとするも唐突に内部が破壊されるような痛みに襲われ悲鳴をあげてしまう

「カハッ!う、ぐっ……!なん、だこれ……!!」

「ケホッ!……無理して動かない方がいい。お前は今内臓が破裂している」

ローは現在ドクQの能力により内臓ごと破壊され尋常じゃない量の血を吐いている

得体の知れない能力の集まりに対応することが出来なければ勝つことは不可能

しかもこのレベルの幹部があと二人もいるという事実

そして1番警戒しなくてはならない男を、忘れてしまっていた

「……だから言っただろう。愚かであると」

「はな、せ……!!!ウグッ……っ!」

ギリギリと全身の骨を粉砕するつもりなのかと思う程にローを握り潰す王直

王直はローがかつて戦い、敗けさせられた相手に被って見えているのだろうか

何故だか王直はローを屈服させたくて仕方がない

「諦めて降参するんだな。小僧」

(こんな、ところで……!終わる訳にはいかねぇのに!!!……ロジャー、おじ様……)

少しづつ、ローの意識は薄れていく



「もう大丈夫ですよ!」

ロッキーポートの港にてローによって救われた住人たちを海兵たちが救出していく

何せ人数が多く戦いが始まっていることはわかっている

だがここを離れる訳には行かずに未だローの手助けに行けるような状況でもなかった

そんな海兵たちと一緒にコビーは住人たちを安心させるために奔走していた

そんなコビーに何やら泣きそうな少女が目に入る

「どうしたの!?そんなに泣いて……」

「お願い……!助けて……!お兄ちゃんが死んじゃう!!!!」

少女は、コビーにローを救って欲しいと懇願した

「は、……グッ……っ!」

(や、ばい……。落ちる……!!!)

首を掴み締め上げる王直の手を掴み返し何とか離そうとするものの悪足掻きにしかならず少しづつ、少しづつローの意識が薄れゆく

落ちると思ったその瞬間、何かが飛び出してきた

「ハァ!!!!」

「っ!?」

王直の腕を蹴り飛ばし唐突なことに王直は動揺し咄嗟にローを離してしまう

いきなりのことすぎて受身を取ることを忘れたローは派手な音を立てて地面に落ちる

喉を抑え何度も何度も咳き込む

そんな様子のローを飛び出してきた若い海兵"コビー"は慌てて近づく

「わわ!大丈夫ですか!?」

「ゴホッ……!お前、なんで……」

コビーは不思議そうに数回瞬きしたが笑顔でその理由を答えてくれた

遡ること数分前

───────

『お兄ちゃん?君のお兄ちゃんがまだあそこにいるのかい!?』

『違うの!白黒帽子の海賊のお兄ちゃんが私たちを助けるために1人で戦ってるの!』

白黒帽子の海賊という言葉を聞いて海兵たちは全員ザワつく

恐らくその白黒帽子の海賊とは先行してロッキーポートまで来たはずの七武海トラファルガー・ローであろう

だが何故そんな男が住人を助けたのだ

まだローを信用しきれていない海兵たちは「なにか思惑があるのではないか」と疑ってしまう

だが住人たちの意思は硬かった

『そうじゃ!!!ワシらのことは後回しでいい!今はあの子を助けてやってくれ!』

『私はあの人のおかげで助かったの!あの優しい人には死んで欲しくない!!!』

助けられた住人たちは口を揃え「トラファルガー・ローを救って欲しい」と懇願する

海兵たちからするとローは未だに信用しきれないを"海賊"なのだ

そんなローを助けるのは……

『……分かりました!!!彼は絶対助けます!皆さんはここで待っていてください!』

『ハァ!?マジで言ってんのかコビー!!!いくらなんでも!』

『ごめんヘルメッポさん!ここはよろしく!』

そう言ってコビーは戦場へかけてく

実はずっと聞こえていたのだ

助けを求める住人たちがあることをきっかけに希望の声に満ちる瞬間を

そして、信念を持ち住人を助けた真っ直ぐなローの声を

それだけでローを助けるに値する

『待てコビー!!!』

『すみません"スモーカー"小将!ちょっと行ってきます!』

──────

「と、言う訳で助けに来ました!!!ローさん!!!」

眩しいほどの笑顔でコビーは戦いに身を投じた

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