黒歴史SSまとめ⑪
頂上戦争編・完!そんなマルコの予感とは裏腹に実に平和的に一日が過ぎ去る
ハンコックは相変わらず警戒しているのかあまりに近づいてこなかった
ただルフィの兄であるエースと、ルフィを助けてくれたローやジンベエ、マルコに関してはそこまで敵対心を持っていないらしく、この四人はハンコックに話しかけてもそこまで邪険にされたりはしない
ルフィを通じてあの男嫌いで有名なハンコックが少しでも心を開いてくれるとは思いもせず、益々マルコはルフィが何をしたのか分からずなんとも言えない表情を晒していた
「!あの寝坊助、ようやく起きたか」
「肉─────ッ!!!!」
ポーラータング号から聞こえてくる大声
その声に全員びっくりしたが、直ぐにしょうがねぇなと顔を見合せ笑いあった
「船を破壊されたら堪らねぇな……イゾウ、迎えに行ってくれよい」
「はいよ」
そうしてルフィはイゾウに連れられエースの横にドカりと座り込む
何故かエースのことを一発ぶん殴っていたがそこまで力は入っていないためダメージは少ないようだ
エースは殴られて一瞬ポカンとしていたがルフィの泣きそうな表情にフッと笑った
そんな兄想いの弟をエースはそっと抱きしめ、こう言った
「愛してくれてありがとう」と
ルフィはギュッと顔を顰めたあとエースを抱きしめ返し顔を肩にうずくめて泣き始めた
そんな兄弟たちをみんな微笑ましいように見守っている
ジンベエもいつの間にか起きていたらしく、遠目で二人を眺め緩く口元を緩めているローの横に胡座をかいて座る
だがジンベエはローの笑顔が少し寂しそうに、かつ悲しそうな表情をしていることに気が付き、そっと頭を撫でた
まるで「お主は一人じゃない」と言わんばかりに
ローはジンベエのその気遣いに気づき「分かってるよ」と帽子の鍔を下げ俯いた
「ルフィ〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡」
「おっ!ハンコック!エースから聞いたぞ!おれたちを匿ってくれるんだろ?ありがとな!」
「はうっ!ルフィにお礼を言われた……♡これが、結婚!!!」
「いや違うだろ」
ルフィが起きたことを一体どこから聞きつけたのだろうか
ハンコックはルフィが目覚めて数十分としないうちにやって来た
ハンコックの余りの荒ぶりに白ひげたちは若干引いている
あんなにツンケンしていたハンコックの影など今や見る影もない
あの海賊女帝をここまで骨抜きにしたルフィにドン引きの視線を送る
「おいルフィ。お前これからどうすんだ?仲間とはぐれたんだろ?」
「ん〜……確かにアイツらと早く会いたいんだけどなぁ……」
肉を食べながらルフィは少し真剣な顔をして口篭る
ルフィのことだから今すぐシャボンディ諸島に戻ると言うと思っていたエースは少し驚きながらも肉に齧り付く
ちなみにこの大量の食料はルフィとその兄であるエースしか手をつけることを許されなかった(ハンコックに)
そんななんとも言えない空気の中、白ひげが唐突に立ち上がり得物の長薙刀を海に向ける
「?どうしたんだオヤジ」
「……来る」
「来る?来るって何が……」
ザッパーン!!!!と巨大な波飛沫が白ひげたちに襲いかかる
瞬時に白ひげは身を屈め能力を使い波飛沫を薙ぎ払う
波飛沫から現れたのはとてつもなく巨大な海王類と……
「おお!済まないな。驚かせたか?」
シャボンディ諸島にいるはずの元ロジャー海賊団副船長、"冥王"シルバーズ・レイリーだった
「あ!レイリーのおっさん!」
「んぐ。冥王屋じゃねぇか。シャボンディ諸島にいたはずじゃ?」
「おお!やはりここにいたか!ルフィくん、ロー!」
レイリーは白ひげたちに一瞥するせずにルフィとローに近づく
ちなみにさっきまでローはマルコに渡されたリンゴに齧り付いていた
ルフィとローは何事も無かったかのようにレイリーと話していたがそれ以外の者たちは全員間抜けな顔をして固まっていた
「いやいやいやいや!!!!おかしいだろ!?どうやって来たんだよお前!!!!」
「おお!確か君は白ひげのとこのイゾウだったか?久しぶりだなァ!」
「いや質問に答えろよい」
レイリーはイゾウの鋭いツッコミをそれはそれは見事にスルーをし笑顔で挨拶をする
そんな中マルコは真顔でショリショリとルフィとエース、ローの果物を剥いていた
白ひげはこの一連の動きでレイリーに敵意がないことに気がついて長薙刀を地面に置いてドカりと地面に座り込む
白ひげ海賊団のクルーは困惑しながらも白ひげが敵対行動を辞めたことに各自戦闘態勢を解いていく
「うーむ、やはり女の勘というのは怖いものだな。まさかシャクヤクの言う通り女ヶ島にいるとはな」
「おいレイリー!いくらそなたと言えども女ヶ島へ許可なく立ち入ることは許せんぞ!」
「ははは!悪いなハンコック。だが許してくれ。これもルフィ君のためなのだよ」
「む、それならいい」
「「「「「いいのかよ!!!!」」」」」
髭を擦りながらレイリーはシャクヤクの言う通りにことが進んでいる事に少し驚きながらも慣れた様子でハンコックのイチャモンを受け流す
あまりの慣れた様子に白ひげは怪しげな表情をするが踏み込んでは行けない領域と人生経験の豊富な白ひげは感じ取り、さりげなく酒を煽る
そしてあっさりと言い負けされたハンコックに一同のツッコミが冴え渡る
海賊王の右腕だった男だ。常識など通じない
それはローで痛いほど味わってる白ひげ海賊団たちは胃を痛めながらもなんとか順応していく
慣れというものは非常に恐ろしい
「……そして君が…そうか、君がロジャーの……」
「……」
そして遂に、過去の因縁を払拭する時が来た
「……アンタが、海賊王の右腕だった男か」
「……ああ、そうだ。君はエースだったか、手配書でよく見た事がある顔だ」
なんとも言えない空気が二人の間に流れる
ローも、ルフィも、白ひげも、誰一人として言葉を発せない
気まずい沈黙が続く中、ふとレイリーが口を開いた
「私は……ロジャーに息子がいたなんて知りもしなかった」
「!」
「だからシャボンディ諸島で君がロジャーの息子だと聞いた時は耳を疑ったよ」
そう言ってレイリーはエースから背けていた目をそっと合わせる
エースは決して目を逸らさなかった
「ロジャーの子供ということだけで処刑されかけたんだ。今まで、辛かっただろう」
「……確かに、おれが海賊王の血筋を引いてるって聞いてる時は荒れたよ」
ポツリポツリと今までひた隠しにしてきたエースの本心が暴かれる
「ジジイとダダン……おれの母親代わりの女が話してた会話を聞いて、初めておれは海賊王の息子だと知った。そのことをジジイに聞いたらアッサリと暴露しやがった」
「初めは信じられなかったけど、次第に本当のことなんだと認めたくなかったのに認めざるを得なかった」
「それで聞いてみたんだ。ひたすらに。もし……」
───海賊王に子供がいたらどう思う?って
「笑えるだろ?みんな同じこと言うんだ」
自嘲気味にエースは続ける
「"そんなの、即打首だ。海賊王の血筋なんてろくでもない"だとよ。生まれただけで罪な存在なんだって言われた気がした。それが苦しくて辛くて、その度暴れ回った」
話を続けるエースの目に光が少しずつ消えていく
みんな、何も言えなかった。まさか、エースにこんな過去があったなんて思いもしなかった
こんなにも……思い詰めていたなんて
「だからおれは海賊王になってアイツらを見返してやるんだってムキになってた。きっとおれが海賊王になったらみんなおれのことを認めてくれるはずだって……」
「けど、鬼の血を引くおれは愛されないって心のどこかで思ってた。今回処刑されそうになったのも心の底ではホッとしてたんだ。もう苦しまなくてもいいんだって」
「けど、おれはみんなのおかげで気づくことが出来た」
だがエースが背負う雰囲気が唐突に変わった
顔を上げたエースの表情はとても明るく、眩しい太陽な笑顔
「おれが本当に欲しかったのは、富でも力でも名声でも無い」
「ただ、愛してほしかっただけなんだって」
その言葉に全員目を見開いて固まる
目を閉じ穏やかに笑うエースは先程までとは違いまるで憑き物が取れたかのようで、本心で言ってることが分かった
本来"愛されたい"という感情は生きている人間なら誰しも思うこと
けれどエースは"海賊王の息子"という値札を貼られ、そんなことを思う権利を奪われていたのだか
そんな負の過去を振り払い今、笑うことが出来ていることはどれほどの幸運なのだろう
「おれは今まで胸を張ってこんなこと言えなかった……でも今は言える」
「おれは幸せだって!」
そう言って太陽のように明るく笑うエースに白ひげ海賊団の面々は全員涙ぐんだ
大事な末っ子が、あんな思いを抱えながら生きてきて幸せだと思ってくれているだけで胸が張り裂けそうになる
白ひげはあの戦争時、エースが言った言葉を思い出して自分は"良い父親"でいられたんだなとようやく思えた
「おれの父親はオヤジだけだ。誰がなんと言おうとおれの父親は四皇エドワード・ニューゲートだ!……ああ、でもそうだな」
「おれを産んで、みんなに出会わせてくれたってことだけは感謝してやる!」
「!……はははは!そうかそうか!」
そうやって爆笑するレイリーの傍で、同じように笑う"父親"がそこにはいた
あらかたエースとの対談を終えたレイリーは一旦岩に座り込み白ひげと話をしていた
白ひげから話を盗み聞きするなと釘を刺されているから何を話しているのかは分からないが、白ひげの表情から決して穏やかな話では無さそうだ
そうして話が終わったらしい白ひげは立ち上がり、いつもの席に戻り樽にある酒を胃に流し込む
「オヤジ。なんの話しをしてたんだよい?」
「……これからの、"新時代"のことだ。グラララ……まぁアイツから話があるそうだ。とりあえず聞いてやれ」
「悪いな白ひげ。……さてと、ルフィ君。君はこれからどうするつもりだ?このままシャボンディに戻るか、それとも……」
「何を言っておるレイリー!!!ルフィは仲間の元へ戻るために頑張ってきたのじゃぞ!?いくらレイリーとは言え、ルフィを傷つけるのならば容赦はしない!!!」
「待てハンコック」
レイリーにこれからのことを聞かれ考え込んだルフィ
ハンコックはルフィはいち早く仲間の元へ戻りたがるだろうとレイリーに噛み付いたが、そこでまさかのルフィが止めにかかる
「ルフィ!?」
「……おれは、あの戦争で気づいたんだ。海軍の奴らに、イワちゃん、ジンベエ。みんな強かったけど……」
「おれは!!!弱い!!!」
ルフィは今回の戦争で自身の力の無さに気がついていた
それ以前にシャボンディ諸島で黄猿率いるパシフィスタ軍団に惨敗したことも
世界最高峰の戦いを目にルフィは、このまま航海を続けても生き残れないと感じた
だからルフィは、一つの判断をする
「だからおれたちは強くならないといけねェ!!!頼むレイリーのおっさん!!!おれを鍛えてくれ!」
「……己の限界を知ることも、一つの成長。とてもいい兆しだ。ああ、いいだろう!私の修行は厳しいぞ?君について来れるか?」
レイリーはルフィの判断力に期待通りだと笑い、ルフィの中に宿る覇王の気配に益々期待が高まる
そうしてルフィから感じるかつての相棒と似た雰囲気に、少し感慨深くもなる
この敗北から何を学ぶのか、確実に言えることはルフィは"新時代"担う新たな嵐になることだ
レイリーとルフィは話し合いに話し合いを重ね、マリンフォードに突撃し仲間にこれからのことを伝えるという滅茶苦茶なことをするらしい
もっともレイリーやジンベエが付いているのなら心配はしなくてもいいだろう
白ひげ海賊団とハートの海賊団に関しては"ルフィが目覚めるまでの間"だけ女ヶ島への滞在が許されていた
だがルフィが目覚めた今、女ヶ島へ滞在することは出来ない
よって白ひげ海賊団とハートの海賊団はこれを機に各々の航路へ戻ることになる
「白ひげのおっさん!トラ男!今までありがとな!新世界で会えたらまたよろしくな!」
「グラララ!それまでにちゃんと鍛えておけよハナタレ小僧」
「お前を助けてやったのは気まぐれだ。感謝されるまでのことはやってない。……ただ、新世界で会ったら敵同士だ。そこを忘れるなよ」
「おう!」
白ひげは一度だけレイリーを横目で見たが、直ぐに目を逸らし背を向けた
ただ横にいたローの頭を去りざまにさりげなく一撫でし船に乗り込んだ
ローは少しだけ惚けていたが、まぁ基本いつもの事なので特に取り乱すことは無かった
そうしてローも己の船に乗り込もうと足を下げた時、レイリーに呼び止められる
「ロー」
「?なんだ冥王屋」
「いや、大したことでは無いんだが……これも何かの縁だ。私の電伝虫の番号とビブルカードだ。君に渡しておこう。何か困ったことがあれば直ぐに連絡をするんだ。どこにいようと飛んでいくよ」
「……?ああ、分かった」
ローは唐突に渡されたビブルカードと電伝虫の番号に暫く放心していたが、よく分かっていないがとりあえず適当に返事をしておいた
よく考えてほしい。どこにいようと飛んでいくというのは比喩ではなくこのオッサンなら本当に出来る
そもそもこのオッサンはシャボンディ諸島を出て船が大破しても泳いで女ヶ島へ辿り着ける化け物なのだ
そんな化け物がどこにでも飛んで行き助けに行くという。ただの恐怖である
しかし一般的な価値観をロジャーによって徹底的に破壊され尽くした深く考えずに受け取ってしまう
1度常識というものを一から学び直してほしい
「……ロー。これからの旅路は決して楽なものじゃない。それはよく分かっているだろう。ただの老いぼれの独り言だと思ってくれて構わない」
「生き残ってくれ」
その言葉に背を向けていたローは目を見開き、数秒そこに立ち止まった
少し数巡し、ローは顔だけ振り向き一言だけ返す
「……善処する」
そう言ってローは、ポーラータング号に乗り込んだ
「キャプテェ〜ン……本当に白ひげたちと離れてよかったんですか?もうちょっと一緒に居た方が……」
「あァ?お前らの船長は誰だ?お前たちは黙っておれに従え。安心しろ。取るべき椅子必ず取る」
「キャ〜〜〜!!!♡♡♡キャプテンかっこいい〜!!!!♡♡♡」
白ひげ海賊団から離れたハートの海賊団
どうやら白ひげ海賊団から遠ざかったことに不安を覚えていたようだがあれよこれよとローに丸め込まれてしまう
非常にチョロい
だがまぁローとてこの状態のまま何もしない訳では無いため、これからのことを考えなくてはいけないから呑気にドヤ顔をしている場合では無いのだが
かなりマイペースなローだが頭の片隅に残っている懸念点が今になって頭の大部分を占めてきた
己を慕い、健気に付いてくる船員たちを眺めローは柄にもなく申し訳なくなってくる
ローの目的は大恩人であるコラソンの本懐を遂げること
ローには他の海賊たちとは違い海賊王になることは望んでいない
ローにとっての海賊王はロジャーしかいないから
一旦そのことは見えない振りをして眠りにつこう
いつかきっと、自分の人生を見れるようになる時まで
「ところでキャプテン。さっき渡してきたビブルカードと電伝虫の番号なんですか?」
「あ?冥王屋から貰ったやつだ」
「へ〜。そうなんですk。……え?」
───現在地、マリンフォード
そこでは軍艦に乗り込み壊滅状態のマリンフォードに突撃するルフィ、レイリー、ジンベエ
これに海軍は先の戦争の敵討ちかと警戒するがルフィが目指す先は一つだけ
死した者たちを供養するための巨大な鐘
ルフィはそれを16回鳴らす
こんな暴挙を果たしたルフィはもちろん世界経済誌に載せられる
ルフィの右腕に刻み込まれているのは"3D/2Y"
ルフィの行動の意味を理解出来るのは、遠い異国の地で藻掻き続ける仲間のみ
───二年後、シャボンディ諸島で!