黒歴史SSまとめ①
邂逅~フレバンス滅亡まで───今から約28年前
「いやぁ!!参ったな!まさかこの俺が病気になるなんてなぁ!」
「笑い事じゃないぞロジャー!!お前、もう身体中ボロボロなんだぞ!?」
「そう怒鳴るなよレイリー!まだ何とかなってるじゃねえか!」
ロジャー率いるロジャー海賊団
その船長の"ゴール・D・ロジャー"の身は病魔に犯されていた
もうロジャー海賊団の船員ですら治すことの出来ないぐらいロジャーの体はボロボロだった
海賊団のみんなはなんとかロジャーの病気を治せないかと調べ回り、1つ有力な情報を手に入れた
「レイリーさん!北の海の"フレバンス"って国にトラファルガーって言う凄腕の医者がいるみたいなんだ!」
「北の海……」
シャンクスから聞いた"トラファルガー"と言う凄腕の医者なら、ロジャーの病気を治せるかもしれないとレイリーは思った
だがロジャーは海賊だ
そのトラファルガーと言う医者が治してくれるのかは分からない
それでもレイリーは藁にもすがる想いでフレバンスに向かった
「トラファルガー先生!!海賊がこの国に来た!」
「……海賊が?」
ある日のフレバンス
フレバンスとはこの世界では珍しい内陸国であり海賊など滅多に来ない
それなのに海賊がこのフレバンスに来たということはただ事ではないとレスト(父ファルガーの名前を捏造)は思った
「そ、その海賊がここに向かってきてる!!」
「!?なんだって!?」
レストはガタン!と椅子から勢いよく立ち上がり病院から出ていった
(なぜ海賊がわざわざ病院に……!?これは、まずいことになるかもしれない)
そうして外に出てから数分後、病院に真っ直ぐ向かってくる人間が複数人いた
「お!?あれが病院か!?」
「……!?!?ロジャー海賊団!?」
これがトラファルガー家と海賊王ロジャーの何とも不思議な出会いだった
「……とりあえず、なんで君たちはこんな内陸国に?グランドラインで有名な海賊団が態々北の海まで来るなんて……」
レストはあのままだと騒ぎになると思い結局ロジャーたちを病院に連れてきてしまった
「ははは!実は……」
ロジャーは自身の病気のことを話した
話を続けて行く内に後ろに控えているレイリーたちの顔が悲痛に歪むのを見たレストはある決意を固めた
「と、言うわけであんたのところに尋ねてきたわけだ。だが俺たちは海賊だ。別に見たくないなら……」
「わかった。診察しよう」
「「「「!?」」」」
レストはあっさりとロジャーの体を見ることを承諾した
まさかこんすんなり受け入れてくれるとは思っていなかった一同は目を見開いてレストを見つめていた
「ほ、ほんとにいいのか!?俺たちを見るってことは……!」
流石にロジャーは海賊である自分を診ることが意味することを理解していた
だからこそ、レストを止めよう。そう思った
「それがどうした?」
「!!」
「私は"医者"だ。患者が目の前にいるのなら海賊だろうが海軍だろうが関係ない。医者の前ではみな、等しく患者だ」
その言葉に驚いたようにロジャーもレイリーたちも目を見開いてレストを見つめる
レストは真っ直ぐとした淀みのない瞳をしていて本気であることがわかった
「ほんとに、いいのか?」
「もちろんだ!」
レイリーの最終確認も込めた縋るような言葉
そんな言葉にレストはとても眩しい笑顔で承諾した
「……っ!感謝するっ!」
藁にもすがる思いでやってきたこの国に見えた希望にレイリーは瞳を潤ませてレストに頭を深く下げた
レイリーに習い他のクルーたちもレストに頭を下げていく
ロジャーは驚いたように目を見開いた後、大口を上げて笑った
「お前良い奴だなぁ!気に入った!」
「それは光栄だ」
ここからロジャーとレストには切っても切れぬ"縁"が出来た
ロジャーの診察が始まってから約2時間が過ぎようとしていた
その間レイリーたちは気が気じゃなかった
今この場にいるのはレイリー、シャンクス、ハギーの3人
そうして3人のいる部屋にロジャーとレストが戻ってきた
「!どうだった!?」
レイリーが直ぐに問いかけるがロジャーは笑っているもののレストは顔が硬いことにレイリーたちは疑問を覚えた
「はっはっはっ!そう焦るなレイリー!」
「……知らせなければいけないことがある」
「……わかった」
暗い雰囲気で告げられた言葉にレイリーたちは何となく結果を察した
「調べた結果、ロジャーの病気は私でも知らない"新種"の病気だった」
「!!新種の……!?」
「じゃあそれって!」
「嘘だよな……?」
レイリーたちは驚きと絶望に顔に影を落とした
「……残念ながら、私でもこのロジャーの病気を治すことは不可能だ」
「そんな……」
その言葉にレイリーたちは絶望に突き落とされた
藁にもすがる思いでやってきたのにロジャーを治すすべが無いことに
「だが」
「……?」
レイリーたちはレストの話を続けようとしていることに気がつき口を閉じた
「この症状に似ている病気を知っている。治すことは出来ないが"延命治療"だけはすることが出来る」
「!!」
レイリーたちはレストのその言葉に僅かな希望を見いだした
「!!それは本当か!?」
「ああ。もちろんだ」
レイリーたちの顔がようやく晴れた
「いやぁー!もうダメだと思ってたんだがまだお前たちと冒険を続けられるなんてこれ以上ない幸せだ!」
「「船長ーー!!!」」
がははは!とロジャーは豪快に笑った
シャンクスとバギーは号泣しながらロジャーに飛びついた
ロジャーは少し驚きながらもちびっ子2人を簡単に受け止め頭を撫で回した
「ほんとうに……っ!ありがとう!!このまま、ロジャー死んじまうのかと……!」
「そんなに気にするな!私は医者としてやるべきことをやったまでさ」
「本当に……ありがとうっ!!」
レイリーは深く、深くレストに頭を下げた
ロジャーたちは数週間物資の調達などでフレバンスに滞在することを決めた
フレバンスの皆は海賊であるロジャーたちにですら優しく迎え入れた
ロジャーたちはすっかりフレバンスという国が好きになっていた
……数十年後、この優しく美しい国が滅ばされるだなんてこの時は思ってもいなかった
フレバンスに滞在しているロジャー海賊団
滞在して数日レストの妻であるミラ(母ファルガーの名前捏造)と出会った
「夫がお世話になりました。私はこの病院の看護師をしています"ミラ"と申します」
そう言ってミラはロジャーたちに頭を下げた
「レスト!お前こんないい奥さんいたなんてなぁ!すごい美人じゃねえか!」
「これはこれは美しいお嬢さんだ」
「あら、お上手ね」
「妻を褒められるのは嬉しいな!」
レストは妻が褒められたことが嬉しく顔を綻ばせた
レイリーに美しいと言われたミラは照れくさそうに笑った
「……シャンクス?……!!お前、まさか……っ!」
「綺麗だなぁ……」
なんとシャンクスはミラに一目惚れをしてしまった
淡い初恋である
バギーは少し驚きながらも"まぁ綺麗だもんな……"と納得していた
たらミラはもうレストと結婚しているので叶わぬ恋ではあるが
「ロジャーたちはあとどれ位フレバンスに滞在するんだ?」
「ん〜……レイリー!あとどれぐらいで出航できるか?」
「物資の調達ももうすぐ済むからあと4日ほどで出航できる」
「……ってことであと4日だな!」
「そうか……なら残りの4日もフレバンスを楽しんで行ってくれ!」
「ああもちろんだ!」
それからロジャーたちはこの4日間フレバンスを満喫していた
フレバンスの国民はみんな気がよく道ですれ違えば挨拶をしてくれるし、何か買ったら毎回おまけもくれた
こうしてロジャー海賊団はフレバンスを満喫して過ごした
そしてついに出航の日
レストはわざわざ海までロジャーたちを見送りに来ていた
「なぁ、ほんとに一緒に来ないのか?」
「何度言わせるんだ私は行かないさ」
ロジャーはすっかりレストのことを気に入ってしまい航海に連れていこうとしていた
だがレストはそれを毎回断っていた
ロジャーは諦めなかったがレストの決意は硬かった
「確かにロジャーと航海するのは楽しそうだ」
「なら!」
「それでも」
「それでも"俺"には家族がいる。それに俺はこの国の医者だ。フレバンスから出ていく訳にも行かない」
「……」
ロジャーはレストのその言葉を聞いて納得した
一緒に航海出来ないのは悲しいが、これこそレストだとロジャーは思った
「……分かった!」
ロジャーは笑顔で諦めた
だが寂しいのはレストととて同じ
レストはある行動に出た
「これは、俺のでんでん虫の番号だ」
「?」
レストはロジャーにでんでん虫の番号を渡した
ロジャーはレストの意図が分からずに首を傾げた
「これで何時でも連絡してくれ。これなら遠い海でも繋がることが出来る」
「!!」
ようやくレストの意図を理解したロジャーは大きく目を見開き紙を握った
「……いいのか?」
一言しか言わなかったがレストは正確にロジャーの言葉の意味を理解した
ロジャーは"海賊と懇意にしていることを海軍にバレたらタダではすまない"
「ああ。構わないさ。だって俺たち"友達"だろ?」
そう言ってレストはイタズラが成功したかのように無邪気に笑った
「……!!やっぱりお前は最高だレスト!!」
そうやってロジャーは大口を開けて笑った
そうしてロジャーもレストにでんでん虫の番号が書かれた紙を渡した
「これで俺たちはいつまでの繋がっていられる!」
「ああ!」
そう言ってロジャーはレストに背をそむけ船に乗り込んだ
「いつかまた会おう!友よ!!」
「ロジャーを見てくれて本当にありがとう!!たすかったよ!!」
「レストさぁん!!今までありがとう!!」
「フレバンスのみんなにもよろしく言っといてくれよォ!!」
「俺たち海賊を懇意にしてくれてほんとにありがとう!!」
フレバンスに世話になったロジャー海賊団は口々にフレバンスとレストに感謝の言葉を告げた
「こちらこそ!!この数週間!!本当に楽しかった!!ありがとう!!」
レストと声を荒らげ手を大きく振りロジャー海賊団の出航を見守った
そうして声が聞こえなくなり船影が見えなくなった
レストはしばらく海を眺め、薄く微笑んでフレバンスに戻って行った
──さぁ、戻ろう俺の国へ。今日も忙しい日になりそうだ
あれから2年がたった
それからというものロジャーとレストは連絡を取りあっていた
そうして新たなクルーである光月おでんを白ひげのところから引き抜いて新たな航海を続けていた
そんなある日
「プルルルルルル」
「お!レストか!!」
ロジャーはいち早くそれに気がついて受話器を取った
「ロジャー!!!」
「うおっ!!」
受話器から爆音の声が聞こえて思わず片方の耳を小指で塞ぎ受話器を離した
「どうしたんだレスト。お前が声を荒らげるなんて珍しい」
「そんなことはどうでもいい!!ついに俺の子が産まれたんだ!!」
「なんだって!?!?」
ロジャーはドンッ!と机に強く手を置いてレストに聞き返す
「ロジャー!!さっきから騒がしいぞ!!」
「おう!!レイリー聞いてくれよ!レストのとこやっと子供産まれたらしいぞ!!」
「なんだって!?」
それを聞いたレイリーはロジャーから受話器を奪い取った
「おいレイリー!!」
「レストか!?ついに産まれたんだな!!」
「レイリーか!ああ!俺の子が産まれたんだ!!」
「レイリー!!受話器を返せ!!」
「うるさいぞロジャー!!我慢しろ!!」
ロジャーとレイリーはまるで子供のように取っ組み合いを始めた
レストは受話器越しにその騒音を聞いて苦笑いをした
「おぎゃあああああああああ!!」
「「おお!!」」
受話器から聞こえてきた赤ん坊の泣き声に取っ組み合いを辞めた2人は仲良く受話器をとった
「レスト!赤ちゃんの性別はなんだ!?」
「名前は!!」
「落ち着けお前ら……」
レイリーとロジャーは興奮しっぱなしで鼻息も荒く早口になっていた
そんな2人にレストは呆れたものの照れくさそうに笑った
「生まれた赤ん坊は男の子だ」
「男かぁ!強い子に育てばいいな!」
「出来れば見に行きたいんだが……」
レイリーは見に行けないことに心の底から落胆していた
「ははは。気持ちは嬉しいけど、仕方ないからな」
「それと、この子の名前は"ロー"だ!!」
「ローか!!いい名だな!」
「さすがレスト!いいセンスだ!」
「ああ、ありがとう2人とも!」
そこから3人は雑談をし、キリのいいところで電話を切った
「ありがとうロジャー、レイリー!楽しかったよ!」
「俺もだレスト!また連絡してこいよ!」
「今度また話せるのを楽しみにしてるた」
「ああ!俺もだ!」
そのままレストは電話を切った
そして愛する息子と妻のいる部屋へ向かっていった
ローは知らないがローの誕生を祝福してくれたのは何もロジャーとレイリーだけでは無い
ロジャー海賊団のみながローの誕生を祝福してくれた
愛は最高の呪いだ
ローを生かしてくれたのは、もしかしたらこの綺麗で美しい"呪い"なのかもしれない
ローが産まれて1年がたった
ロジャーは世間から海賊王と呼ばれる存在へとなっていた
ロジャーは既に船から降り、嫁のルージュと慎ましく暮らしてい
だが定期的に北の海まで赴きレストに逢いに来ていた
「よう!レスト!また来たぜ!」
「今日も来たのかロジャー!はは!ローが喜ぶよ」
ロジャーは毎日のようにフレバンスまでやってきてローの遊び相手になってやっていた
フレバンスも毎日のようにやってくるロジャーを快く迎え入れもはやフレバンスの住人のような扱いを受けていた
「ロジャーおじ様!!」
「おお!ロー!」
走りやってきたローを手を広げ迎え入れたロジャーはそのままローを抱き上げた
「また来たぞロー!元気にしてたか?」
「うん!ロジャーおじ様!今日はどんなことして遊ぶ?」
ローはロジャーを"ロジャーおじ様"と呼びよく慕っていた
ロジャーはそんなローが可愛くて仕方がなかった
「そうだなぁ……よし!今日は鬼ごっこをやろう!」
「ほんと!?やったー!」
「ははは!2人とも、楽しんで来ておくれよ」
「おうレスト!俺がいる限りローには退屈させねぇ!」
「父様もお仕事頑張ってね!」
「ああ。もちろんだロー。楽しんでおいで」
「うん!」
レストはローの頭を撫でて送り出した
ローは嬉しそうに笑ったのちロジャーに肩車されて外に向かっていった
楽しそうに笑い合う2人を見てレストは人知れず安心していた
きっと、またいつものように近所の子供や国民たちを巻き込んで盛大に遊ぶのだろう
きっと、きっと、この幸せはいつまでも続くであろうとレストはそう信じていた
今日もいつものようにやってきたロジャー
いつものようにローやほかの子供たちフレバンスの国民たちを巻き込んで盛大に遊んだロジャーたち
今日は珍しくレストと飲みたいと言ったロジャーにレストは快く受け入れた
「ぷはぁ!やっぱりフレバンスの酒は最高に美味い!」
「分かるぞロジャー!フレバンスの酒に叶うものはない!」
「違いねぇ!」
そうやって2人は酒を飲み交わしていた
くだらない雑談や世間話、2人は楽しい時間を過ごしていた
ふとロジャーは飲んでいた酒を机に置いた
「なぁレスト」
「ん?どうしたロジャー」
「おれぁ海軍に自首することにした」
そう言ってロジャーは酒を1口飲んだ
その言葉にレストは椅子を倒しながら立ち上がり目を見開いた
「自首って……それが一体どういうことなのか分かってるのか!」
レストは目の前にいるロジャーの肩を掴み必死に諭そうとする
「ははは!なんだ、心配してくれてるのか?」
「当たり前だろ!?俺たちは友達じゃないか!」
その言葉にロジャーは驚いたように目を見開き、その後嬉しそうに笑った
「どのみちもう決めてたんだ。どうせ俺はもう長く生きれない。なら、死に方ぐらいは自分で選びたい」
「ロジャー……」
レストはロジャーの目を見てこれ以上言うのは無駄だと確信してロジャーの肩から手を離した
「悪ぃなレスト……」
「なぁに。今更だな。お前の我儘はもう慣れてる」
「ははは!!ひでぇな!」
そう言って2人は最期の酒呑みを交わした
まるでこれから死にに行く人間とは思えない程穏やかな顔でロジャーは笑っていた
レストも一見愉快そうに笑っているがその目尻には涙が溜まっていた
「なぁ、レスト。最期に1回だけ、ローに会わせてくれねぇか?」
「……元よりそのつもりさ。この時間ならまだローも起きている」
2人はローの元へ向かった
そうしてローのいる部屋に着いたロジャーとレスト
そのままレストは部屋の扉の前に止まり中には入らなかった
コンコン。とロジャーは部屋の扉をノックして入っていった
「ロー?いるか?」
「!ロジャーおじ様!!」
ローは嬉しそうに顔を輝かせロジャーに飛びかかった
「うおっ!?あぶねぇだろロー。そんなに俺に会えて嬉しいか?」
「うん!ロジャーおじ様!」
「そうかそうか!」
ロジャーはローの頭を豪快に撫でてそっと床に下ろした
「今日はな、お前に渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?」
「ああ、そうだ」
そしてロジャーは持っていた鞄から多少古びている分厚い本を取りだした
「これなぁに?」
「これは俺が書いた航海日誌だ」
これはロジャーが航海をし始めてから書き始めた云わばこれまでの航海の記憶
ロジャーにとってこれは今までの思い出全てが詰まった"かけがえのない宝物"だった
「航海日誌?」
「ああ。ロー、これ受け取ってくれないか?」
「いいの!?」
「ああ!勿論だ!」
「やったー!!」
ローは嬉しそうにその航海日誌を受け取った
ロジャーはそんなローの様子を見て少し悲しそうに目を細めた
「ありがとう!ロジャーおじ様!これ大事にするよ!」
「おう。こっちも貰ってくれてありがとうな」
そう言ってロジャーは先程とは違い優しくローの頭を撫でてやった
ローは大きな手で撫でられたせいで片目が閉じてしまっている中、唐突に航海日誌を渡してきたロジャーに疑問を覚えた
「ロジャーおじ様。なんでいきなりこれくれたの?」
ロジャーはピクリと動きを止め、少し思考を回した
「……おれぁ、しばらくここに来れなくなる」
「そうなの?」
「ああ。だからローに俺の大事な宝物を預かってて欲しいんだ」
「必ず、その航海日誌を取りに来る。それまで、絶対に無くさないでくれよ?」
まだ、人の死についてよく分からないローのための優しい優しい嘘
ロジャーにとってローは年の離れた大事な友であり、子であり、絶対に守りたい愛し子だった
「うん!わかった!ロジャーおじ様がまた来るまで大事にする!」
「……ありがとう」
「……?ロジャーおじ様?」
ロジャーは泣きそうに顔を歪めローを力強く抱きしめた
ローは少し不思議に思いながらも嬉しそうにロジャーの抱擁を受け止めた
扉の向こうで啜り泣く声はローには聞こえなかった
それから数ヶ月が経ち、海賊王"ゴール・D・ロジャー"がローグタウンにて処刑された
あれから7年がたちローは9歳へとなっていた
何年か前に妹のラミが生まれ、ローは幸せだった
ただ1つ、ロジャーの死についてだ
ロジャーが死んだのは7年前
その時はまだローは2歳でロジャーの死についてよく分からなかった
だがもう9歳へとなるといやでも察する
ローは元々頭のいい子供だロジャーが死んだことくらいもうとっくの昔に知っている
だからこそ、ローはやりきれない思いをしていた
「ロジャーおじ様……」
ローはロジャーから受け取った航海日誌をギュッと抱きしめ眠りについた
……少し前から不思議な病気が流行り始めた
父様も母様も忙しそうにしていた
妹のラミはまだ幼く、ローがしっかりとしなければいけない
それは辛いけどローは"兄様"だから我慢しなくては行けない
(大丈夫……俺、我慢できるよ)
これが、あの悲劇の1年前
そして今から16年前
ついに悲劇は始まった
珀鉛病によって次々と人が倒れ、死にいった
周辺国から見捨てられ、王族も逃げ出したこの国にはもう、戦う選択肢しか残されていなかった
レストとミラはそんな国を見捨てず、最後まで戦い抜いた
病院が焼かれ、妹も失い、たった一夜にして全てを失った少年は希望を失っていた
だが
「……あっ」
その手に残されたものはあの日、ロジャーに託された航海日誌
普段から持ち歩いていたために燃えずに済んだものだ
「ロジャーおじ様……うん。そうだよな。こんなところで……終わってたまるか!!」
こうして、1人の少年の決意が生まれた
──────フレバンス滅亡の少し前
「フレバンスのことはどうする」
「どうするとはどういうことだ」
「このままフレバンスを放置していたら我々の思惑が世間にバレてしまう」
「とは言ってもたかが伝染病で国一つ滅ぼすのは我々の信用に関わる」
「ではどうするか」
1つの部屋に5人の老人が集まり"フレバンス"という国の扱いについて議論していた
「……そういえば、1つ気になることがある」
「なんだ?」
「フレバンスにはあのゴール・D・ロジャーがよく立ち寄っていたらしい」
「なんだと?まさか空白の100年について知っているものがいたらどうする」
「よく考えてみろ。これで"フレバンスを滅ぼす"口実が出来た」
五老星のうちの一人が海賊王と呼ばれた"ゴール・D・ロジャー"がフレバンスによく赴いていたことに気が付きこれでフレバンスを滅ぼす口実ができたと他の五老星たちも"フレバンスを滅ぼす"と意見が纏まった
「これでフレバンスの真実を知るものも、空白の100年を知るものも消える。一石二鳥ではないか」
そうして五老星は1つの命を差し出した
"フレバンスを滅ぼせ"と
とある海賊団の船
ニュースクーが運んできた新聞を読んだ大頭"赤髪のシャンクス"
いつものように新聞を受け取り新聞を開いた
そうして目に飛び込んできた情報に目を見開き体が震え始める
「……シャンクス?」
あまりにも様子のおかしいシャンクスに流石のウタも心配そうにシャンクスを気遣う
愛娘のウタに反応もできないほどシャンクスは動揺していた
次期四皇となるシャンクスがこれ程動揺した新聞の内容は"フレバンス滅亡"の記事
シャンクスは全身に異常な量の汗をかき呼吸も可笑しくなっていった
顔も心配になる程青白くなり震えすぎているせいで新聞のかすれる音が段々と大きくなる
「頭?頭!!!」
ベックマンやヤソップがシャンクスを揺さぶる
だがシャンクスはフレバンス滅亡の文字から目を離せなかった
やがてシャンクスの両目から涙がとめどなく流れ始めた
「な、んで……っ!!」
シャンクスの脳裏には何年も昔に出会ったレスト、優しかったフレバンスの国民、美しい国の景色……そしてかつての初恋の人ミラの姿が浮かんだ
シャンクスは新聞に顔を埋め肩を震わせ泣き始めた
大好きだった。暖かく幸せに満ちていた国だった
……なんで、フレバンスは滅びたんだ!!!
シャンクスの胸に言葉にならない激情が弾けた
フレバンス滅亡に疑問を覚えたシャンクスはフレバンス滅亡の原因を持てる全てを使い調べた
傘下の海賊たちも使いありとあらゆる情報を知ることが出来た
「……っ!!!!」
叩けば叩くほどホコリが出てきた
珀鉛病という伝染病のせいで滅びた……と表向きにはなっているがそれは違う
本当は珀鉛病など感染しない
なのに世界政府はそれを知りながら自分たちの闇を葬るためにフレバンスという国を滅ぼした
シャンクスの胸にドス黒いナニカが広がった
「……い」
「ゆる……い」
「許さない……っ!!」
あの気のいい国民たちを、ロジャー船長を見てくれてた心優しいレスト先生を、よくも俺の初恋の人を!!!!
許さない……っ!!殺してやる!!!!!
シャンクスはこの時世界政府に復讐することを誓った
(そのためにはこの忌々しくて仕方ない"血筋"だって利用してやる!!!!)
(覚悟しておけ……っ!世界政府!!)
こうして、人知れずシャンクスの世界政府への復讐は始まった
東の海のとある海賊団
「……!?嘘だろっ!?」
「ハギー船長?」
「たのむ……嘘だと言ってくれ……っ!」
ハギーは顔面蒼白になりながらフレバンス滅亡の記事を読んでいた
ハギーもシャンクスと同じくフレバンスという国が好きだった
だからこそ、嘘であって欲しかった
「派手に……滅びやがって……っ!!」
ハギーは行き場のない怒りを胸に歯を食いしばった
グランドラインのとある島
グランドラインにあるシャボンディ諸島という国に住んでいる元ロジャー海賊団副船長レイリー
いつものようにニュースクーから新聞を受け取り読んだ
そうして飛び込んできた"フレバンス滅亡"という文字にゆっくりと目を見開いていく
あまりの衝撃に手を震わせ新聞をくしゃりと握りつぶす
「なぜ、フレバンスが……っ」
口を震わせて顔を青くしながら記事を読んだ
それだけでこの世の闇を知り尽くしたレイリーは何となく察してしまった
「ああ……すまないっ、ロジャーっ!!まもり、きれなかった……っ!!」
レイリーは膝から崩れ落ちて年甲斐もなく泣き喚いた
「すまない……すまないっ!!」
泣き崩れる老人の姿は誰にも見られることなく静かに時は進んで行った