黒歴史SSまとめ⑧
頂上戦争④「どうするロー。闇雲に戦ってちゃあこの2人には勝てねぇ」
「ああ分かってる。無理に倒そうとしなくてもおれたちは逃げる時間を稼げばいいだけだ」
ローは横目でオーズの方を見て、そこまで距離が離れていないことに人知れず焦っていた
その焦りが、命取りにならなければいいが
「火拳屋。まずは黄猿を殺るぞ。青雉に対してはお前の能力と相性がいい。黄猿さえ戦闘不能にすれば後は何とかなる」
「ああ分かった!」
「あーらら。もしかしておれってなめられてる?」
会話が聞こえていた青雉は頭をかいて能天気にそう言い放った
弁明するとローとエースは決して青雉をなめている訳では無い
寧ろ認めているからこそ後回しにするという選択をした
1人を倒して1人に集中する。2人なりに合理的な判断をした
そう。理論的には間違っていない
ただ……それで勝てると言っている訳では無いことを2人は重々承知の上だ
「気を抜くなよ、火拳屋」
「ああ」
たらりと冷や汗が頬に伝う
ポタリと汗が地に落ちたその時、ローが動いた
「room!!!」
「「!?」」
青雉は先程居た所よりも数km離れた辺りに瞬間移動をした
急いで元いた場所に目を移すとそこには、今にも鬼哭に突き刺されそうになる黄猿がいた
「これは考えたねぇ〜。でも、こちらの方が早い」
一瞬でローの背後に回った黄猿は容赦なくローを始末しようとする
だがローはニヤリと口角を上げた
「おいおい……"一人"、忘れてねぇか?」
「!」
黄猿はようやくエースの姿が見当たらないことに気がついて目を見開いた
後ろから風を感じ後ろを振り向くと、そこには
「掛かったな!大将黄猿!!!」
眩しい笑顔を浮かべる"豪炎"が拳を振り上げていた
ドガァン!と爆音が響き黄猿は盛大に吹き飛んだ
パラパラと叩きつけられた壁から埃が落ちてくる
「よっしゃ!やったぞロー!」
「ナイスだ火拳屋!これで後は青雉に集中出来る!」
「嘘だろ……大将が、やられた!?」
「マジかよ……信じられねぇ……」
「お、おい!怯んでないで早く黄猿さんの手助けに行くぞ!」
「で、でもよ……黄猿さんがやられる相手に、おれたちが敵うのか……?」
「そ、それは……」
ハイタッチをしてはしゃぐエースとローに対し、この戦争において最大の戦力である黄猿がやられたことに臆して一歩後ずさってしまう
青雉は目を見開いて黄猿が吹き飛んだところを凝視していたが、"何か"を見て直ぐに冷静さを取り戻した
「こりゃ一本取られたな。ただのルーキーだと思って侮ってたらこっちがやられる」
「後はお前さえやれば!」
「おれたちの勝ちだ!」
青雉は2人に対する警戒度を上げ本気で迎え撃つ
エースとローは青雉が本気で叩き潰しに来たことを察して一層気を引き締める
青雉はたった一歩だけでエースとローの前に瞬時に移動して、ローに向け手刀を繰り出した
「っ!?はやっ……!」
「ロー!大丈夫か!?」
「ああ、何とか平気だ!」
ローはギリギリのところで反応が出来たために少し頬が切れただけで済んだ
血が流れそうになるが青雉が能力を使い凍える程冷たい手のおかげで血が凍り自然に止血ができた
だがこの一撃で青雉との力量差を理解出来た
これなら、何とか出来るかもしれない
ただし黄猿と同じ戦法を使ったところで通じるわけが無い
そこでローはあることを思いついた
───自分を囮にしたらいいじゃないかと
「火拳屋、作戦がある」
「……お前、……いやなんでもねぇ。作戦ってなんだ?」
エースは何かを感じ取ったものの直ぐに気の所為だと首を振った
ただこちらを振り向かずに言葉を続けるローの様子がどこかおかしいのも事実だ
まさか……と思いつつも命をかけた戦いにそのようなことを気にしている暇など無い
何かあれば自分が守ればいい……そう言い聞かせてローの作戦に乗ることにした
「おれが何とか青雉の気を引く。その間に火拳屋は青雉に特大のブツをくれてやれ」
「わかった。……無茶、すんなよ」
「!……ああ。肝に銘じる」
ローは少し驚いたように目を見開いた後にフッと柔らかく笑った
その笑顔に、何か含みがあるような気がした
(ああ……全く、なんでこういう時に限ってアイツは勘が良いんだろうな)
(……集中しろ。チャンスは1回だ。この1回に、全てを賭ける)
ローは煩いぐらい鳴る心臓を落ち着かせるために深く息を吐き前を睨みつけた
青雉はローが何かを仕掛けてくると分かり辺りを警戒する
だが予想に反してローは何もしてこない
青雉は何だな拍子抜けしたもののあちらが来ないならこっちが行けばいいと"青雉から"攻撃を仕掛けた。仕掛けてしまった
「そっちが来ないなら、こっちから行くまでだ」
(っ!やっぱり、早い!それでも……やらなきゃいけねェ!!!)
ローはこちらに飛び出してきた青雉をしゃがんでかわし、"敢えて"覇気を使わずに青雉を鬼哭に突き刺して地面に固定した
青雉はその気になれば逃れることは出来る
だがローの手は未だに鬼哭の掴み手を掴んでいる
それ即ち、ローがその気になれば鬼哭に覇気を纏わせ青雉に致命傷を与えることが出来るということ
青雉はやらかしたと冷汗をかいた
「はは……ははは!かかったな青雉!」
「あらら……こりゃやらかしちまったな」
ローは何も考え無しで青雉をここに固定した訳じゃない
本当ならば、隠しておきたかった奥の手
使うつもりなどなかった。それでも、これを使わなければ勝つことは出来ない
「少し、痛いけど……我慢して耐えろよ!!」
────
『"流桜"?』
『ああ。ロー、武装色と流桜の違いは分かるか?』
『わかんない……』
『そうかそうか!』
『いいかロー。武装色の覇気は見えない鎧を纏うイメージだ。一方流桜は余分なエネルギーを相手に直接流し込むイメージだ』
『流す……?』
『試しに見せてやる!』
そう言って、眩しい笑顔で頭を撫でてくれた貴方を今でも鮮明に覚えています
貴方が教えてくれたその力で今、
「大事な人を守ることが出来る!!!!」
「っ!?うぐぁぁぁぁ!!!!」
ローはグッと鬼哭を握りしめ青雉に全力の流桜を流し込んだ
青雉はまるで内部から破壊されているかのような痛みに耐えきれず声を上げた
尋常じゃない程の悲鳴に海兵も海賊も関係なく動きを止めた
ただ一部の人間だけは、ローが使った力の正体を察して一様に驚愕していた
「トラ小僧……アイツ、流桜を……」
「ハァハァ……どうだ、渾身の一撃だぞ……これは、流石のお前でも効くらしいな……」
「う、ぐっ……」
スッと鬼哭を青雉から抜き出しローは血を吐いて動くことが出来ない青雉を見下ろしてそう呟いた
これで暫くは動けないだろうとアタリをつけてローは背を向けた
その油断がいけなかった
「ああ。効いたよ……今のは確か、流桜ってやつか?」
「っ!」
ローは背後から聞こえた冷たい氷のような声に顔を青ざめて冷や汗を流す
ゆっくり後ろを振り向くと、口から垂れる血を拭い何事も無かったかのように立ち上がる青雉の姿があった
「な、んで……立ち上がれるはずないだろ……?だって流桜で……」
「ああ。効いたさ。直前で一部分だけ氷にして衝撃を逃がしてなかったらな」
「そんなことが出来るのか!?」
「まぁな。これでも自然系なもんで」
パキパキと首を鳴らし一歩ずつローに近づく
ローはあの一撃で体力を消耗しきってしまい逃げる体力は残っていなかった
ローは冷や汗を垂らしながらもどうにか出来ないかと辺りに目を回していく
そうしてあるものが目に付いてニヤリと笑った
「流石は海軍大将様だ。ぽっと出のルーキー程度相手にもならねぇか」
そう言ってローは両手を上げてまるで芝居のような口振りをする
青雉は突然ローが不自然な行動をしたことに眉を顰めた
「おれじゃあアンタに勝ち目はねぇなァ」
「ああ。その通りだな。だから大人しく捕まってもらうぞ」
「そうだな……"俺一人じゃ"勝てねぇよな。なぁ!火拳屋!」
「!!!しまっ……!」
「ああ!後は任せろ!!!」
────炎帝!!!!
青雉どころかローまでを覆い隠すような巨大な火の塊
ローが青雉に気を取られている間、悟られないように少しづつ、少しづつ力を溜め込んだ
そして今、最高の瞬間にそれは放たれる
「うわぁ!?」
「ぎゃあ!!!」
「してやられた……!」
エースは炎帝を放った後直ぐに移動をしてローを炎帝の影響を受けない場所まで運んだ
炎帝の威力を凄まじく青雉どころか周りにいた海兵たちまで巻き込んで辺りを燃やし尽くす
その様子はまるで太陽に焼かれる星屑だ
「わりぃ、火拳屋……助かった」
「気にすんなって!お前のおかげで炎帝も使えたんだしよ!」
「……そうか」
(おれは、助けられてばっかだな……あの時も、そうだった)
目をつぶって思いに耽けるローの脳裏に浮かぶは命をくれたあの人の笑顔
自身を抱えるエースの温かく優しい腕に体を預け悔しそうに顔を歪める
エースはそんなローの様子を伺い見て何かを察し眉を下げた
「……ロー、みんなのとこに行くぞ」
「……ああ」
ピクリと、何かが動いた
「「!!!」」
ドガァン!!!と凄まじい爆音を立てて何かが弾けた
二人の前でオーズが脚を何かに貫かれ船から手を離し倒れる
オーズが何かに貫かれるたった一瞬だけ二人の横から目に見えないスピードで何かが横切った
ヒヤリ、と冷気が漂う
二人は目を見開き顔を青ざめてゆっくりと後ろを振り向く
そこにはゆらりと立ち上がりこちらを見る青雉と、何事も無かったかのように"無傷"で立つ黄猿の姿があった
「な、んで……」
「おれの、全力の技なんだぞ……」
ゴキゴキと首を鳴らし気だるそうにする青雉は殆ど溶けて意味をなさない"巨大な氷のドーム"を完全に破壊した
「あー。ちゃんと効いたよ。咄嗟にバリア貼ってなかったら今頃おれはドロドロに溶けてたさ」
「全く〜。本当に好き勝手やってくれるね〜。後でサカズキになんて言われるか」
二人は何も答えない。否"答えられない"
だってそうだろう
渾身の一撃だったのだ。その渾身の一撃をいとも容易く受け流され目の前に立たれている
この圧倒的な力の差を前に、二人は動くことが出来なかった
そんな二人を他所に黄猿と青雉はこれ以上エースとローを野放しにするのは不味いと判断して始末しにかかる
黄猿と青雉の手が認識される前に二人の顔を掴もうとしたその瞬間
「そうは!!!」
「させるか!!!」
銃弾とその銃弾より早い人獣姿のマルコが二人を助けにやってきた。武装色を纏った弾丸は青雉の肩を貫き、マルコの鉤爪は黄猿の肩から腰を切り裂いた
ハッとエースとローは泣きそうな表情でマルコを見た
「マルコ……!!」
「わりぃ不死鳥屋……!足止めするって言ったのにこんなザマで……!不甲斐ねェ……!!」
「いや二人はよくやった!オーズは今ハルタたちが治療してくれてる!ただ船はオーズが治るまで動かせねェ!!!その間に二人は船に乗ってろ!!!」
「でも……!」
「でももクソもねェよい!!!お前たちは生き残ることだけを考えろ!!!!」
必死な形相でエースとローを生かそうとするマルコにエースは覚悟を決めたかのように顔を引きしめ、未だ動くことが出来ないローを抱え上げてオーズの元へ走っていく
「おい!!火拳屋!!!不死鳥屋はいいのか!?」
「うおっ!?暴れんなって!!心配しなくてもマルコなら大丈夫だ!!!マルコの言う通り、今は生き残ることだけを考えるべきだ!!!」
ローだって頭の中ではわかってる。それでも、守られるばかりは嫌だった
「逃がしてたまるか!!!」
「困るね〜。海賊王の息子に逃げられたとなるとこっちが大火傷になっちまうからね〜」
二人を追いかけようとする青雉と黄猿に威嚇するかのように放たれた二発の弾丸
その二つの弾丸は的を外れたが、それは態と外されたものだとわかった
銃弾が放たれた場所を見ると「次は外さない」と言わんばかりのイゾウと目が合った
「末っ子"たち"が世話になったな……」
───ここからは、兄貴が相手になるよい!!!
蒼の炎を纏う不死なる獣は、"宝"に手を出した不届き者に牙を剥いた
「よ、っと……」
エースは言われた通りに船に乗り込み休息を取る事にした
ローは少し不服ではあるもののここは言うこと聞くべきと分かっているのか大人しくしていた
「エース!トラ男!」
「エースさん!ローくん!」
ジンベエはルフィを抱えながら二人に駆け寄り、そっとルフィをエースの横に降ろした
ルフィは安心したように二人を見詰め、怪我はしつつも無事なことに胸を下ろした
「エース、大丈夫か?」
「ああ!なんとかな……時間を稼ぐとか言ったのに結局マルコとイゾウに助けられちまった……」
「……エース」
「ん?なんだジンベエ」
肩を落とすエースに険しい顔をしたジンベエが歩み寄る
エースは少し不思議そうにしたものの素直に顔を上げる
「っ!?」
「海峡屋!?」
バシン!!とジンベエはエースの頬を思い切りぶった
ローはまさかぶつとは思っておらず目を見開き固まる
エースは叩かれた右頬を抑え唖然とジンベエを見た
「お前さんは……お前さんは何をやったのか本当に分かっておるのか!!!」
「!」
「一人で突っ走って捕まった挙句に、また突っ走って……どれだけわしらが心配したと思っとる!!!!」
そうやってエースの肩を掴み言葉を零すジンベエの瞳は潤んでおり、どれだけ心配させたのかわかった
「ジンベエ……おれは、」
言葉を続けようとしたエースをジンベエはギュッときつく抱きしめ、涙ながらにこう言った
「無事で、良かった……っ!」
「!……っ!心配、かけてごめん……っ!!」
───助けに来てくれて、ありがとう……っ!!!
そう言って泣きながらジンベエに抱きつくエースを見たローは肩の力を抜いて見守った
未だに決着の付かない赤犬と白ひげ
ゴポゴポと溶岩を溢れさせながらも赤犬は冷静に戦局を眺めていた
互いに決定打となる攻撃が無く平行線が続く戦闘
このままでは埒が明かないと赤犬は思った
白ひげの目的は船が海に運ばれるまでの時間稼ぎ
───ならば、その船を壊したら一体どうなる?
答えは簡単。逃げる脚が無くなる
だが白ひげがそんなことを許してくれるはずもなく、今も尚皇帝の如く構えていた
「……厄介じゃのォ」
「あ〜らら。隊長お二人さんが相手か」
「ちょうどいい機会だし、二人とも捕まえちゃうかい〜?」
「ふん!舐められたもんだ!」
「ああ。全くだよい」
そう口では言いつつも、青雉も黄猿も余裕は余りない
時間が無さすぎる。ここで逃がしたら海軍は大目玉どころではなくなる
そのためにはなんとしてでも、ここで全員捕縛しなくてはならない
「……おれが時間を稼ぐ。その内にお前が何とかしろ」
「クザン〜。それはちと他人任せ過ぎないかい〜?」
「しょうがないだろ!おれの能力はお前みたいに万能なわけじゃねぇんだから!!光の速さで動けるボルサリーノなら何とかなるだろ!!!」
「しょうがないねぇ〜。じゃあわっしが何とかするよ〜」
「最初からそうしろ!!!!!」
青雉はあまりにもイラついたために黄猿を一発ぶん殴った
その様子にマルコとイゾウは「なんだ仲間割れか?」と思ったが直ぐにこちらに構えた青雉と黄猿に警戒態勢を取り直す
次の瞬間
───黄猿が消えた
「な!?」
「消えた!?」
マルコとイゾウは黄猿が一瞬で消えたことに驚きを隠せずにいた
そうして黄猿がどこに消えたのか
それを察して顔を青ざめる
「お前らァ!!!!早く逃げろォォォ!!!」
「なんだマルコのやつ?」
「なんか必死だけど……」
顔を真っ青に何かを叫んでるマルコに白ひげ海賊団は怪訝に思った
それでも長年の付き合いでなにか不味いことになっていると察することだけはできた
「オーズ!もう大丈夫か?なんかやべェことになってるみてェだから早く逃げるぞ!!!」
「お"う!」
けれど、もう一歩遅かった
「もう遅いよぉ〜」
「なっ!?黄猿!?」
「だって黄猿がいた場所はあんなに遠かったのにこんな一瞬で来れるわけ……っ!」
白ひげ海賊団は黄猿の悪魔の実の能力が何かを思い出し、もう逃げられないことを察してしまった
エースもローも体力の限界が近づいてきている
……何も、出来ない
「クソ!!!!待ってろ!!今い……」
「だから、行かせねェって」
「ちくしょう……!!青雉が邪魔で、助けに行けねェ……っ!!!」
マルコとイゾウは青雉に足止めされており白ひげ海賊団のクルーたちを助けに行くことが出来ずに、時間を稼がれていた
奇しくもそれは、ローとエースが使った手とよく似ている
つまるところ、やり返された。ただそれだけだ
「もう逃げ場なんて、どこにもないんだよ〜」
「っ!?……させねェ"!!!」
「オーズ!!!」
バゴォン!!!と地面が揺れるほどの衝撃波
船は大破するかと思われた。それでも
「絶対"……!船はごわさせねぇ"!!!」
オーズは身を呈して船を守った
どんなにボロボロになろうとも。みんなを守るために
「……本当に、困るねぇ〜。弱者を甚振る趣味はないんだが」
───でも、仕方ないよね〜?ここは戦場で、お前は海賊なんだから
「「「「「オーズ!!!!」」」」」
オーズはどんなに黄猿に痛めつけられようとも決して船を離そうとはしなかった
船に乗っている船員たちはオーズの巨体で外を見ることが出来ない
ただ凄まじい爆裂音と振動で果てしない威力の攻撃がオーズに放たれているということ
「だ、いじょうぶ……!みんな"はがならずおれ"が守るから……!!」
オーズは安心させるために無理して笑った
正直限界はもうとっくに来ている
それでもみんなを守るため、安心させるために笑う
そんな健気なオーズに皆一様に涙を浮かべた
「しぶといね〜。もういい加減に離したらどうだい〜?」
「ぜっだいに嫌だ!!!」
「……そうかい」
黄猿とて無抵抗の相手を甚振りつけたいわけじゃない
本当はこんな無意味な争いなんぞ一刻も早く終わらせたかった
だからこそ黄猿は戦うことを辞めない
「……すまないね。これも、"正義"のためなんだよ」
バゴォォォン!!!!一際大きい爆音が響き渡りオーズは血を吐く
オーズの腕から船がゆっくりと離され地に落ちてゆく
まるでスローモーションのようにオーズの巨体が倒れる
ドシンと地面を揺らして倒れたオーズは動かなかった
「うわぁ!?」
「オーズ!!!!」
バァン!と甲高い音を響かせて船は落下し中にいるものたちは揺れに耐えきれずに倒れたり尻もちをついたりした
「……っ!!オーズ!!大丈夫かオーズ!!!」
「おい……嘘だろ…?オーズ……!?」
「おい動いてくオーズ!!!頼むから逃げてくれ!!!」
───オーズ!!!!
悲痛な叫びは、オーズには届かない
「……っ!?ルフィ!!!」
「!まて火拳屋!!!!」
エースはルフィが船の外に投げ出されたことに気がつき外に飛び出した。ルフィはテンションホルモンの効果が完全に切れてしまい動くことが出来ない
「えー…す……」
「大丈夫かルフィ!!!待ってろ今すぐおれが……」
「敵に背中を見せるとは随分余裕が無いね〜。火拳のエース」
「しまっ…!」
「ちっ!あのバカ!!!」
"room"と2人を移動させようとしたローの右肩を何かが凄まじいスピードで貫いた
「っ!?うぐっ……!」
「「「「「トラ男!?/ロー!?」」」」」
ローは右肩を押えフラりとよろける
そんなローをハルタが急いで支えた
「ロー!?大丈夫!?」
「うっ……ああ…へい、きだ……」
「嘘つけ!!そんなに冷や汗を垂らしてるのに平気なわけないでしょ!?」
痛みからハルタに寄りかかり冷や汗を垂らし続けるローに白ひげ海賊団の焦りは募ってゆく
「ようやった!ボルサリーノ!!!」
「っ!?」
赤犬はこの瞬間を待ち続けていた
ようやく垂れてきた蜘蛛の糸を赤犬は掴んだ
白ひげはいきなりとんでもない量の溶岩を浴びせられ、少し戸惑いながらも全て薙ぎ払った。だが、溶岩が無くなり前を見ると、つい先程までそこにいたはずの赤犬がいなかった
「なっ!?」(まさかマグマ小僧……!)
そう。あの溶岩は白ひげを仕留めるものじゃない
白ひげの"視界を奪うためのもの"でマグマで白ひげの視界を遮った隙に赤犬は流体化し、一直線にエースとルフィの元へ向かった
「……っ!逃げろォ!!!エース!!!麦わらの小僧!!!!」
「!?オヤジ……?」
「もう!!全てが遅い!!!」
ルフィを抱えながら目を見開くエースの元に、溶岩を垂らしながら現れた赤犬は唐突のことに体を動かすことの出来ないルフィとエースに、容赦なくその正義の鉄槌を今……
振り落とそうとしていた
「魚人空手!!!鬼瓦正拳!!!」
「「ジンベエ!!!」」
だが間一髪のところでジンベエが助けに入り、赤犬を吹っ飛ばした
しかし今の一撃でジンベエの拳は溶岩で焼けてしまい、戦うことはできなくなってしまう
「お二人さん!!無事か!?」
「おれたちは平気だ!でも、ジンベエ……!お前、手が……!」
「なぁに!こんなもの大したことない!そんなことよりも早う逃げるんじゃ!!!」
「ようやってくれたのぉ……裏切り者……」
ジンベエは背後から聞こえてきた恨みが籠った地を這うような低音に目を見開いた
タラりと冷や汗が垂れるものの気丈に振る舞い赤犬を挑発する
「……なにを勘違いしとるのか分からんが、わしは最初からお前さんらの味方になったつもりはない。わしが七武海になったのも全ては同胞を守るため。だがもうお前さんらに着く理由もなくなった!!!」
───わしは、王下七武海を抜けさせてもらう!!
「……そうけ。なら、お前もわしの徹底的な正義の元、焼け落ちるんじゃなァ!!!」
「っ!!」
ジンベエはエースをルフィごと抱え怒れる赤犬から逃げ出した
赤犬の溶岩は執念深くジンベエたちを追う
だがジンベエは疲労からか段々赤犬に追いつかれて来てしまい、膝を着いた
「ジンベエ!!もういい!おれを置いてってルフィだけても逃がしてくれ!!」
「ならん!!わしは絶対に二人を逃がしてみせる!!!」
───例え、この命に変えても……!!!
「ジンベエ……」
眉を下げ泣きそうになるエースの瞳に、迫り来るマグマが写った
「!」
「逃げろォ!!!ジンベエ!!!」
「オヤジさん……!」
赤犬の溶岩を纏った拳がジンベエを貫くかと思ったその一瞬で白ひげは能力を使い、赤犬とジンベエの間に亀裂を作って時間を稼いだ
声を荒らげて凄まじい形相で逃げるように指示する
ジンベエは白ひげの言葉通りにエースとルフィを抱えて逃げ出す
「やってくれたなァ!!!!マグマ小僧!!!!」
怒りに身を任せ一歩ズシンと歩み出した白ひげ
溢れ出る怒気に赤犬どころか白ひげ海賊団も海兵も関係なく後退る
「っ!?」
だが白ひげの脇腹を何かが突き刺す
それは長く、太い氷だった
そんなことが出来るのはこの場でただ一人
「ゴフッ……青雉か……!」
「それ、抜かない方がいいぜ。その氷には棘が無数に生えてる。無理に引き抜こうとすると肉が抉れるぞ」
「……っ!」
血を吐きながらも何とか氷を抜こうとするも、青雉曰く腹に突き刺さる氷は無数に棘が生えており引き抜こうとすると肉を抉る羽目になると
「オヤジィ!!!!」
「おれのことは気にすんじゃねェ!!!お前たちは逃げることだけを考えろ!!!」
喉を枯らす勢いで自身を案じる息子たちに血反吐を吐きながらも白ひげは立ち上がる
まさかまた立ち上がるのは思っていなかった青雉は目を見開いた
「あらら。まだ立つの」
「舐めんじゃねぇぞ青二才が……!」
───おれぁ、四皇!!!白ひげだぞ!!!
「ジンベエ!!」
「大丈夫じゃ!絶対、わしが逃がして……」
「逃がさんと言ったはずじゃ!!!」
背中を向け逃げ惑うジンベエの背後に立つ、正義を背負う怒れる番犬
"しまった……!"と顔を振り向くジンベエの右胸を、今度こそ赤犬は貫いた
「うっぐ……!」
「「「「「ジンベエ!!!!」」」」」
血を吐いて片膝をついたジンベエ
白ひげ海賊団は信じられないようなものを見たように目を見開く
赤犬は心底興味を無さそうに悶え苦しむジンベエを見下ろした
「ジンベエ!!!ジンベエ!!!お前、血が……!」
「わし、は……大丈夫じゃ…。それよりも、すまんエースさん……ルフィくんが……」
そう言ってルフィに目を移したジンベエに釣られエースもルフィの方を見る
ルフィを見たエースは目を見開いて青ざめる
「ルフィ……?おいルフィ!!!!」
「幸いにも、傷は浅いはずじゃ…!今すぐ治療をしたらなんとか…っ!!」
「ジンベエ!!!後ろだ!!!!」
鋭いビスタの声に後ろを勢いよく振り返ったジンベエとエース
フツフツと溶岩を湧き出させ、マグマを冠する悪魔の実を食べた人間とは思えないほど冷めた瞳をした赤犬と目が合った
またやられると本能で理解したジンベエは全身でルフィとエースを強く抱き締めた
エースはジンベエが犠牲になるつもりと察し全力で暴れ回るが、ジンベエの力は強く離れることが出来ない
「騒がしいのォ!!!コイツを殺した後、お前さんも同じ場所に送ったる!!!!」
また、赤犬の拳がジンベエを貫くと思った瞬間
「ROOM!!!!」
ブワンと青白いドームがジンベエを囲い、赤犬の拳を宙をかき、ジンベエは固く閉じていた瞳を恐る恐る開け、背後から感じる気配に目を見開いた
「ローくん!?」
「はや、く逃げろ海峡屋!!!ここはおれが食い止める……!!!」
貫かれた右肩からポタポタと赤黒い血を垂らし、息も切れて満身創痍なローにジンベエは無茶だと思った
「無茶言うんじゃない!!!お前さん、その怪我で戦ったら……!!」
「そんなことぐらい分かってる!!!!」
ローが声を荒らげるとは思いもせずジンベエはつい言葉を止めてしまう。ローは息切れを起こしながらも必死に言葉を紡いでいく
「おれだって、そんなことぐらい分かってる……でも見てるだけなんて、いつか絶対に後悔する……そんなのは"もう"二度とごめんだ…!!」
そう言ってローは震える体に鞭を打ち鬼哭を赤犬に向ける
「だから、行け!!!海峡屋!!!」
「……ようわかった!!!だが死んではならんぞ!!!」
その言葉に目を見開いたローはその後フッと笑い、振り返らずに言葉を返した
「……ああ」
ジンベエはローから背を向けて船まで走り出した
「またお前か……!トラファルガー・ロー!!」
「悪いが、ここを通す訳には行かねぇ!!!」
「なら、何がなんでも通してもらうけぇのぉ!!!!」
赤犬はローの周りに溶岩を流して逃げ場をなくした
まさかいきなり仕掛けてくるとは思いもせず、ローは反応に遅れた結果、溶岩を纏った赤犬の巨大な手に喉を掴まれて地面に叩きつけられてしまった
「うぐっ!!」
ジュウとローの首が赤犬の溶岩により焼かれてしまう
ローの反応が遅れた理由はもう1つある
それは、"疲労"だ。疲労によりローの判断力が鈍ってしまい本来なら避けられる攻撃すら避けられなくなってしまった
「お前に構ってる暇は無いんじゃ……!!お前を殺す前に、白ひげ海賊団の脚を奪うことが先決じゃ
!!!!」
「!?待て……!テメェ何する気だ!!!」
赤犬は巨大なマグマの腕を作り出し、それを白ひげ海賊団が乗っている船に向ける。ローはその意図を察し止めようとするも、それでも赤犬がローを抑える腕の力が強すぎて動けなかった
「ようみちょれ……!白ひげ海賊団がマグマに沈むところを!!!」
「やめっ!」
───犬噛紅蓮!!!
───ああ、やられてしまう
白ひげ海賊団が……オーズが……
……いいや!!まだだ!!!
「オーズゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
ローは息を深く吸い込みオーズの名を大声で呼んだ
ジンベエとエースは唐突なローの大声に走りながら振り返り、白ひげ海賊団と海軍、赤犬は驚いたようにローを眺めた
だってオーズは既に事切れている。なのに、オーズの名を呼ぶとは実に滑稽だと
それでもローはオーズの名を呼び続ける
「頼む起きてくれオーズ!!!!お前の力が必要なんだ!!!!」
「さっきからうるさいのう!!!!ちぃと黙っとれ!!!」
「ぐっ……!」
赤犬は鬱陶しくなりローの体をさらに強く抑える
ローはそれでも真剣に、オーズに呼びかける
スゥと息を全力で吸い込んで、全力でオーズの名を力強く呼んだ
「オ─ズ────ゥ!!!!!」
その瞬間、ピクリとオーズの指が動いた
「オオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
獣の咆哮と聞き間違えてしまうほどの雄叫び
ローは目を輝かせ、残りの人間たちはオーズが生きていたことに目を見開いて立ち竦む
さて、ここで一つ話しておこう
水の中は地上よりも衝撃が伝わりやすい
その速度は凡そ約1500m/se c
ローの母艦は潜水艦
これが示すことはそう即ち
「合図が来たぞ!!!浮上しろ!!!」
黄色い鯨が、やってくる合図をより早く報せること