黒歴史SSまとめ⑥
頂上戦争②「スクアード。お前誰からそんなことを聞かされた?」
「……」
スクアードは目を逸らした
だがその目線は赤犬に向いていた
「……センゴクか」
白ひげは1度センゴクの方に目線を移し目を釣り上げた
「衰えねぇなァ!!センゴク!!」
センゴクは世界最強の男に怒鳴られても一切気にする事はなく冷たい瞳で白ひげを眺めていた
「……なるほど。お前は騙されたってことだよい。スクアード」
「な!?そんなはずはねぇ!だって……!」
「アホンダラ!!テメェが信じるもんはテメェで信じろ!!たった1人の言葉に惑わせられるな!!!」
「……!」
「そうだ……そうだよな親父さん!!」
「おれたちは親父を信じてる!!!」
その言葉を皮切りに傘下たちの揺るぎは消え去った
ローは白ひげのそんなカリスマ性に改めて尊敬の念を向けた
スクアードは白ひげの言葉で目を覚ましたらしく、俯いたまま動こうとしなかった
「マルコ。スクアードを離してやれ」
「でも親父!」
咎めるような目をした白ひげに渋々マルコはスクアードを離した
白ひげはそっとスクアードを起こしてやりそっと抱きしめた
「全く……バカ息子め海軍なんかに騙されやがって……」
「おやっさん……おれっ!」
「それでも」
白ひげは泣き出したスクアードを痛いぐらいに抱きしめた
「馬鹿な息子を……それでも愛そう」
「……!」
それを眺めていたローは頭にとある言葉が浮かんだ
『おいロー!愛してるぜ!』
その愛は、ローが知っているものとよく似ていた
「お"やっさん……っ!おれ……っ!」
「もういい分かってる」
白ひげはスクアードをもう一度強く抱きしめた
そっと泣き崩れるスクアードの頭を撫でてやりマルコに預けた
「やってくれたなァ!!!センゴク!!!」
ブワァン!と辺りに強力な覇王色が流れる
だが歳のせいかそれは全盛期のそれよりも弱くなっており全体の2割ほどしか海兵の意識を持っていくことしか出来なかった
それでもかなりの数が減り、益々白ひげ海賊団の勢いは強まっていく
「トラ小僧!!!」
「!」
「おれも暴れるぞ!!!エースを助ける準備をしておけ!!!」
「……!!嗚呼!!いくぞオーズ!!!」
「まがせろ!!!」
オーズはローに影響がないように丁寧に、それでいて早く立ち上がり、ローは体勢を立て直した
白ひげ海賊団を内部分裂させるための作戦は裏手に取られ、逆に士気を上げる羽目になってしまった
センゴクは歯を噛み締め目の前に佇む"皇帝"を睨みつけた
だがそんなセンゴクとは逆にガープは少しだけ、そのことに安堵していた
海兵としては抱いてはならぬ感情
だが、1人の"祖父"として"孫"を救ってくれる存在に縋る他なかった
「……気を引き締めろ!!!」
「暴れ出すぞ……っ!"世界最強"の男が!!!」
「もう遅いぞ!!老いぼれェ!!!!」
得物を構えた白ひげがモビーディック号から飛び降りる
そうして上から見下ろすセンゴクに向けて、敵対してくる海兵に向け能力を放つ
「ハァ!!!!」
「油断するなよ!!!その男は世界を滅ぼす力を持っている!!!」
世界が揺れる
たった1度能力を使うだけで沈みかねない力
「これが……」
「世界最強の力……!」
「ローぐん!どうなってんだ?」
「ちょっと待て……!スキャン!!」
ローはオペオペの実の能力の一つである"スキャン"を使い、マリンフォードのことを調べ回った
たった一つの違和感
だがローは己の勘を信じ、慎重に調べ回る
「……っ!?これは……」
「?どつじたんだ?」
「……この地下に回路がある。これは恐らく……」がローがオーズに説明しようと口を開いた瞬間
「……っ!やむを得ん!!!包囲壁を展開しろ!!!」
センゴクが下にいる海兵に指示を出した
そうしてゴゴゴゴと巨大な壁が何個も上がってきた
その様子に何も知らない海賊たちは唖然と見上げた
まるで処刑台を守るかのように立ち塞がる巨大な巨大な壁
流石の白ひげでもこれを全て破壊し、エースを助け出すのは至難の業
悔しそうに歯噛みをする白ひげを見て鼻を鳴らすセンゴク
だが
「……!?おい!!一箇所だけ壁が上がってないぞ!!」
1人の海賊が指さした先
その1部分だけ不自然に壁が浮かび上がっていなかった
その理由は
「油断したな!!おれがいることを忘れたか!?」
「トラファルガー!?」
そうローはあの一瞬で回路に巨大な瓦礫を移し歯車を止めてみせた
今地下にある壁を押し上げるための歯車は瓦礫に邪魔をされ回転が止まってしまっていた
唖然とこちらを見つめてくるセンゴクにローはニヤッと笑う
「ざまぁみやがれ!!!海軍!!!」
「トラファルガー!!!さっきから好き勝手しよって!!!!」
「待てサカズキ!!!!」
赤犬はローの機転についに我慢の限界が来た
怒りのままに赤犬は能力を使い、マリンフォード全土に巨大な溶岩の塊が降ってくる
「うおっ!?逃げろぉ!!!!」
「早くこっちに!!溶けちまうよ!!」
「ちっ!room!タクト!!!」
海賊や味方のはずの海軍も逃げ惑う
ただ1部の実力者は降り注ぐ溶岩を己の力のみで振り払う
ローも余裕は少し無くなったもののまだ冷静に溶岩を捌いていた
「……!!しまっ!」
だがオーズを守ることにも集中していたローは一つだけ溶岩を捌ききれなかった
「ローぐん!!」
「!?オーズ!?」
だがオーズは即座にローを手の中に閉じ込め己が盾になろうと溶岩に背を向けた
周りの白ひげ海賊団と傘下たちはオーズに逃げろと叫んでいた
「オーズ!!!おれのことはいい!!早く逃げろ!!」
「ロー!!オーズ!!」
「フッフッフッフ。どこに行くんだ?」
「ちっ!!」
助けに行こうとしたイゾウとビスタはドフラミンゴに足止めをされていた
他の者たちもローとオーズを助けに行こうと駆け出した
だが周りにいた海兵たちに阻まれ刻一刻とローとオーズに溶岩が迫りゆく
『大丈夫。おれが守るよ』
「「「「「!?!?」」」」」
ローと白ひげ海賊団の脳内に唐突に走った声
海兵たちはいきなり動きを止めた海賊たちを怪訝そうに見ていた
ローはオーズの指の隙間からこちらに迫ってくる溶岩と"とある船"が見えた
「……!モビー!?」
そう
誰も動かしていないのにひとりでにモビーディック号がオーズたちに向け走っていた
海兵や海賊たちを押しのけ一直線に
「どうなってんだ!?誰がモビーを動かしてる!?」
「知らねぇ!!誰もモビーに乗ってないはずだ!!」
「じゃあなんで!!!」
騒ぎ立てる海賊たちに対して白ひげはただ静かにモビーディック号の行く先を見守っていた
そんな白ひげにマルコが傍にそっと降りてきた
「……オヤジ」
「……ああ。分かってるマルコ。アイツも、おれたちの"家族"だ。家族の決意を無駄になんか出来ねぇさ」
マルコは白ひげの目尻に光る何かを見たが、そっと目を逸らし自分も目元を手で押さえた
「うおっ!?」
ついにオーズに溶岩が落ちる、そう思ったとき
オーズの背中を巨大な船が押しのけた
オーズはコケた拍子に手の中からローを出してしまった
ローは尻もちを着きつつオーズが押された先をバッと見る
そこには身を呈してオーズとローを守ったモビーディック号の姿があった
「なんで……」
『……ごめんな。お前ら』
『おれはこんなことしか出来なかった』
『お前たちみたいに戦えるわけでもない。ただ運んでやることしか出来なかった』
『それでも、おれはお前たちのことを大事な"家族"だと思ってた』
『おれ、は……もぅ、ダメだけど……』
『エース、のこと……頼んだぞ……』
ポロポロと気がつけばみんな泣いていた
この言葉は海賊たちだけではなく、その場にいる全員が聞こえていた
ある者は面白いものを見たと言わんばかりに笑っていた
ある者は船の決意に関心を持った
ある者は四皇の船にクラバウターマンが宿っていたことに驚愕した
ある者たちは"家族"が旅立つことに涙を流した
『悪いな……ニューゲート』
『おれは先に逝くよ……』
「……今までおれたちを運んでくれてありがとう」
「……ゆっくり休め……モビー」
『……お前たちと旅をした時間は、とても楽しかった』
『この海から……ずっと見守ってる』
四皇エドワード・ニューゲートの船であり、家族であり、家であるモビーディック号は……
この瞬間、広大な大海に眠りに落ちた
家族を1人失ったことにより失意に飲まれる海賊たち
それでもここは戦場だ
海兵たちはここぞとばかりに勝負をしかけてきた
「……お前たち!!!いつまでもクヨクヨしてるんじゃねぇ!!!本当にモビーのことを思ってるなら!!!今こそ!!!戦うべきだ!!!モビーの思いを決意を!!!無駄にするな!!!」
「!……お前ら!!行くぞ!!」
「「「「「「おぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
白ひげの言葉にさらに勢いづいていく白ひげ海賊団
そんな狂気にも似た熱意に図らずとも海兵たちの熱も高まっていく
「意地でも海賊たちを通すな!!!」
「続けぇぇぇぇ!!!!!」
まだまだ乱戦は続いてゆく
ローも溢れ出る涙を拭い開いた瞳には、もう迷いなど浮かんでいなかった
「行くぞオーズ!!!」
「お"う!!!」
ローはオーズの肩に飛び乗りオーズもさらに決意を固め前を睨みつける
「一か八かだ……!オーズ!!その氷塊を、叩き割れ!!!!」
「まがぜろ!!!」
オーズはローの言葉の通りに氷河を叩き割る
その巨体から放たれる拳はいとも容易く分厚い氷河を粉々した
「うわぁぁぁぁ!!!!」
「逃げろぉ!!!」
だがその拳はちゃんと計算された場所に落とされており海賊の被害はなかった
「オーズ!その叩き割った氷塊をあそこに投げ入れろ!!!」
「わがった!!!」
「……!トラ小僧のやつ、無茶しやがる!!」
その意図を理解した白ひげは楽しそうにグラララと大口を開けて笑っていた
そう
今オーズが投げ入れた巨大な氷塊は、処刑台の麓まで続く果てしなく頑丈な橋になっていた
「これで処刑台まで通れるようになった!!!早くそっちに!!!」
「おう!!ありがとうロー!!」
「お前ら!!ローとオーズが道を作ってくれた!!!エースを助けに行くぞ!!!」
「「「「「おう!!!」」」」」
「海賊たちを処刑台に近づけさせるな!!!なんとしてでも阻止しろ!!!」
「「「「「おおぉぉおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
これを機に海賊たちは海兵を巻き込みつつも処刑台へと続く道を駆け下りた
「……っ!お前に構ってる暇はねぇ!!!ここを通してもらうぞ!!ドフラミンゴ!!!」
「フッフッフッ!!楽しくなってきたじゃねぇか!!なぁ!?白ひげ海賊団!!!」
「鬱陶しい!!!」
未だにイゾウとビスタはドフラミンゴに苦戦を強いられていた
流石は王下七武海と言えようか
四皇幹部であるイゾウとビスタを相手に善戦していた
だがそれでも決定打がある訳でもなくこの2者の戦いは勝負がつかなかった
「うぉぉぉぉ!!!」
「ジョズ!!!」
「ちっ!!!」
だがそこにジョズが乱入してきた
「2人ともここはおれに任せて行け!!ドフラミンゴはおれが引き受ける!!」
「助かった!!じゃあ任せるぞ!!!」
「おれたちはエースの元に行く!!!」
「ああ!」
そうして2人はエースを助けに駆けて行った
「ちっ……!余計なことしやがって……!」
「ここから先は、1歩も行かせんぞ!!!」
「あーらら。こりゃヤバいんじゃない?」
「困るねぇ〜」
「あのガキ……!なんてことしてくれよったんじゃ!!!」
三大将たちは流石にマズイと思い相手にしていた海賊を後回しに処刑台へ集まった
三大将がたどり着いた頃には海兵と海賊たちが処刑台から少し離れた位置になだれ込んでるところだった
「なにしちょる!!!早く始末せんか!!!」
「もう戻ってやがったのか赤犬のやつ……!」
「どうする?ローぐん」
「……いや、目的はもう果たした。オーズは後方から瓦礫を投げたりしておれたちを援護してくれ」
「わがった!!……ローぐんは?」
「おれは前線で戦ってくる」
そう言ってローは海賊と海軍の抗争に身を投げた
オーズは少し戸惑いたがらもローの言う通り瓦礫を集め後方支援をし始めた
(……今三大将たちはあっちに集中しておれを警戒していない)
(行くなら……今だ!!!)
マルコは空中から戦場を観察し大将たちは乱戦状態になっている処刑台前に集中しており、こちらの警戒が疎かになっていた
そこをつき、マルコは一気に滑空をしてエースの元へ急いだ
「!まずい!!不死鳥が処刑台に!!!」
「誰か止めろ!!!!」
「もう遅いよい!!!!」
「マルコ!!!」
だが
「っ!?うぐっ……!」
「!!マルコォ!!!!」
そんなマルコを殴り飛ばした男がいた
「……これ以上のおいたは、流石に見過ごせん」
まるで不気味なぐらい落ち着いており、じろりとマルコを睨みつけていたのは
「わしは"海兵"として、お主をここに通すわけにはいかん」
横目でガープの姿を見たセンゴクはそっと目を逸らし戦場を眺めた
ガープのぐちゃぐちゃになった心情を感じ取ったのはこの場でセンゴクただ一人
「ガープ中将!!!」
「ガープ中将が動いた!!!これなら絶対大丈夫だ!!!」
海兵たちはガープが動いたことに活気ずいて海賊に負けないぐらいに勢いが増した
マルコは殴り飛ばされながらガープの手が微かに震えていたことに気がついた
(……アイツ)
「ジジイ……」
エースは目の前で背を向けるガープの背を見つめた
悠然と構えているように見えるがその拳が、その背中がまるで何かに怯えている迷子のように見えエースは唇を噛み締めた
横に並び立つセンゴクはガープの表情に黙って背中を叩いた
「しっかりしろガープ」
「……ここに立っているということは覚悟をしてきたんだろう」
「……うっさいわい」
ガープは拳を握りしめすぎて血がタラタラと垂れていることさえ気づくことは無かった
「不死鳥のマルコが落ちてくる!!!早く準備を!!!」
「今やってる!!!」
(……なんだ?)
戦場を駆け抜けるローは海兵たちが何かを準備しているのを見かけたものの何をするつもりなのかは分からないから下手に手を出して体力を使うのは悪手だと判断し放置をしていた
マルコはまた羽ばたき空から援護をしようと立て直そうとした
「今だ!!!」
そこに大砲から放たれた1つの手錠
ローはそんな手錠がやけにゆっくりになって見えた
「……!!!」
ゾクッと背筋を走る悪寒
ローはその気配からあの手錠が海楼石であることを察した
「!?逃げろォ!!!不死鳥屋ァ!!!!!」
「?ロー?」
マルコはローの声に反応して動きを止めてしまった
そうして目に映るのは高速でこちらに迫る嫌な予感をさせる手錠
その手錠から迸る嫌な気配にマルコはそれが海楼石だと気づき直ぐに避けようとする
だがその手錠は弾丸のように早くもう避けることは不可能
「マルコ!!!!」
ようやくそのことに気がついた周りがどうにかしようとする
だが周りにいた海兵が妨害してきて上手くいかず刻一刻とマルコに近づく海楼石の手錠
もう皆がダメだと思ったその瞬間
「シャンブルズ!!!!」
「っ!?ロー!!!!」
気がつけばマルコは地面に降りていた
ガチャン!とローの腕に手錠がハマってしまった
「うぐ……っ!!」
保っていられないサークルがノイズが走ったかのように歪み消え去り、海楼石により力の入らないローはそのまま重力に従い地に落ちていく
そんな場面を信じられないような目で全員目を見開きただ唖然とローが落ちてゆくのを見ていた
そんなローを助けるために飛び出した影が2つ
「「ロー!!!!!」」
「「ロー!!!!!」」
飛び出したのはイゾウとビスタ
イゾウがローを姫抱きにしビスタがイゾウが着地する場所を確保した
そのままイゾウはローを抱えたまま地面へ降り立った
「大丈夫か!?ロー!!!」
「意識はあるか!」
「うっ……イゾウ屋……ビスタ屋……」
かなり憔悴しているものの意識はあり、辛そうに呼吸を繰り返していた
イゾウとビスタはそんな痛々しいローの姿に眉を下げ心配した
その3人の元へ凄まじいスピードの何かがこちらに飛んできた
「ロー!!大丈夫かよい!?」
「マルコ!?」
マルコは人獣姿の形態で海兵たちを蹴散らし一直線にローの元へやってきた
まるで般若のようなマルコの表情にイゾウはゲッ!と眉を顰めた
ちなみにローはソッとビスタに手で目隠しをされマルコの鬼のような形相は見ずにすんだ
「馬鹿!!!なんでこんな無茶をした!!」
「……不死鳥屋」
マルコは自分を責めていた
自分がもっと周りに気を配っていたらこんなことにはなっていなかったのではないかと
そうしたら、ローはこんな目に遭わずにすんだ
自分がもっと……!!!
マルコの心の内でグルグルと自責の念が渦巻いた
そんなマルコの心情にローは微かに使える見聞色の覇気で感じ取った
「不死鳥屋……おれ、は大丈夫だから……」
「嘘つけ!!そんな苦しそうに言ってるくせに……!」
「不死鳥屋」
「……っ」
ローはじっとマルコの目を真っ直ぐ見つめた
マルコはローの視線に息を詰まらせた
「こう、かい…してるなら……おれの、ぶんまで……」
「!」
「ぜったい、かいろうせきの手錠は……はずすから……」
────後は、頼んだぞ
そう言ってローはドンッとマルコの胸を叩いた
マルコはじわりと涙を浮かばせたが直ぐに拭い、イゾウたちに背を向けた
「……おれは、行ってくる。ローのことを頼んだ。イゾウ、ビスタ」
「ああ。分かってる」
「暴れて来い、マルコ!!!」
不死鳥は青い焔をはためかせ戦場を駆けて行った
「うっ……フゥ…フゥ…」
「……大丈夫か?ロー……」
「やはりさっきのは強がりだったか……」
イゾウは辛そうに呼吸を繰り返すローの顔を心配そうに覗き込んだ
ビスタはそっと汗ばむローの額を拭ってやった
ビスタの言う通りさっきマルコに言っていたことは強がりであり、本当はすごく苦しく、辛い
それでもマルコを追い詰めないためにも優しい嘘をついた
「ふ、しちょうやなら……きっと、おれのぶんまで……」
ローはイゾウの腕に抱かれながら先程よりも、より熱くより強く戦い続けているマルコを見た
暴れられないことに少し残念に思いつつローは微笑んだ
だが海兵たちの勢いは止まることなく海賊たちを足止めしていた
あと一歩処刑台まで届かない
まるで巨大な壁のように立ち塞がる三大将
どうやって切り抜けるか思考を回しているうちに空から何かが飛んできた
「……!?」
「な!?エースの弟!?」
「どこから来たんだ……!?」
びしょ濡れになりながら鋭い目付きで三大将を睨みつけるルフィ
ローは驚愕し目を見開くが、それでも愉しそうに口元を歪めた
「やっぱり……お前はイカれてる……」
───麦わら屋
「エースを返してもらうぞ!!!!」
「うおォォォォ!!!!!」
ルフィは持っていた軍艦のマストを振り回し三大将に投げつけた
だが覇気も何も纏わせていないただの大木は直ぐに叩き壊された
だがルフィの目的は単なる足止め
マストを囮に処刑台に走り出した
「おぉ〜と。こんなもので足止めをさせられると思ってるのかい?」
「うわぁ!?」
だがすぐさまルフィは黄猿に蹴り飛ばされた
幸い、舐められているのか覇気は使われておらずただゴムの遠心力でぶっ飛ばされただけで怪我はあまりしていなかった
「ああもう!!!なんだよ!!!おれはエースを助けたいだけなんだって!!!」
「いや、だから止められてんでしょ……」
青雉はルフィの自分勝手な言い分に呆れたように言葉を返した
ルフィはまた走り出そうと立ち上が……ろうとした
「……あれ?」
だがまるで体が死んだように動かず転がっているだけだった
ルフィはそれでもエースを助けようと力を入れる
それでも体は動かない
そうして先程まで動けていたのは革命軍幹部イワンコフの能力のおかげであることを思い出した
「ちくしょう……!あともう少しだってのに!!」
(……何してんだ、麦わら屋のやつ)
「……イゾウ屋、ちょっといいか?」
ローは様子のおかしいルフィに気が付きイゾウに頼みルフィの元へ運んでもらった
イゾウはビスタを連れ言われた通りにルフィの元へやってきた
「おい、エースの弟。お前どうしたんだ?」
「転がってるだけなら邪魔にならないところに転がっとけ」
イゾウはローに負担がかからないようにそっと腰を下ろしルフィの顔をスっと覗き込んだ
ビスタはルフィの体力に限界が来たと思い、せめて邪魔にならない場所にルフィを移動させるかと考えていた
「ちげぇ!頼む!イワちゃん呼んできてくれねぇか!?」
「「「イワちゃん????」」」
3人はルフィの言う"イワちゃん"が誰か分からず揃いも揃って首を傾げた
「イワちゃん……って誰だ?」
「おれが知るか」
「とりあえず大声で呼べばいいか?」
「アホ、そしたらおれたちがここにいることがバレるだろ」
どんなに思考を回してもやはりイワちゃんが誰か分からない
イゾウはもう面倒くさくなって大声でイワちゃんを呼ぼうとするがビスタに止められた
だがローはふと"イワちゃん"とやらに何かピンと来た
「……もしかして革命軍幹部のエンポリオ・イワンコフのことか?」
「そうだ!!早くイワちゃんを呼んできてくれ!……えっと、トラファル……トラ男!!!」
「「トラ男!?」」
イゾウとビスタは奇天烈なルフィの渾名に目を飛び出させて驚いた
一方そんな2人を他所に独特な渾名をつけるローは特に何も思っていなかった
Dの血筋なのかは分からないがこの2人は尋常じゃない程のマイペースだった
「そうしてやりたいのは山々だが……生憎おれはこのザマだ」
そう言ってローはまだ動かしにくい腕を上げルフィに海楼石の手錠を見せた
ルフィはローに海楼石の手錠をハマる瞬間を見ていなかったため驚いたように目を見開いた
「トラ男お前海楼石の手錠ハマってるじゃねぇか!ドジだなぁ」
「お前に言われたくねぇぞ麦わら屋ァ!!!ゴフッ!」
いきなり声を荒らげたローは思い切り噎せて死にかけていた。イゾウはアワアワしながらローの背中を撫でてやり、ビスタは呆れながらも"この2人なんか似てるな……"と思っていた
「……ゴホッ」
「大丈夫か?ロー……」
「いきなり声を荒らげるからだ。少し落ち着け」
「ああ…悪い……」
そしてローはルフィと向き合い一言
「まぁ何とかなるだろ。そこに転がってろ」
「何とかなるわけねぇだろうが!!!!!」
今度はルフィが目を吊り上がらせ怒鳴った
サムズアップしてそんなことを言うローにイゾウは頭を抱え、ビスタは遠い目をした
イゾウは"なんでこの子いつもは賢いのに、たまにこんなこと言うのだろうか"と思っていた
「麦わらボーイ!!!」
「麦わらボーイ!」
(((何だこの化け物!?)))
こちらに走り寄ってきたイワンコフに3人は驚愕して目を見開いた
ローは存在は知っていたが実際に見たのは初めてだったせいで固まって動けなかった
イゾウとビスタはまさかイワンコフがこんな人間なんて思いもしていなかったせいで完全に化け物と認識してしまった
「全くヴァナータは!!ヴァターシの能力が切れるときのことを考慮しなさすぎだッキャブル!!!いつ倒れるからヒヤヒヤして見てたわ!!」
「わ、悪ぃイワちゃん!!」
「……コイツ結構ちゃんとしてんな」
「オイ、失礼だろイゾウ」
(コイツの能力なんなんだろう……)
見た目のインパクトはさておき、イワンコフの中身がちゃんとしていたためイゾウは見た目とのギャップに少し驚いた
ビスタは本人が目の前にいるというのに失礼な物言いをするイゾウを軽くチョップしといた
一方ローはもうインパクトがありすぎる見た目に慣れたのかそれとも考えることを放棄したのか、イワンコフの能力について考え始めた
「頼むイワちゃん!!おれを治したやつをもう一回やってくれねぇか!?」
「なっ!!おバカ!!マゼランの毒を治すためにヴァナータはもうかなりの寿命を縮めてる!これ以上テンションホルモンを注入すると寿命が……!!」
「寿命……!?」
「……能力にデメリットは付き物。しかしあの歳で寿命を犠牲にするとは中々生き急いでるな」
「……寿命。そうか……寿命を使えば……」
イゾウとビスタは寿命を犠牲にしてこの場にいるルフィの覚悟に感服した
だがそれと同じぐらい若くして寿命を犠牲に戦いに身を案じているルフィに眉を顰め複雑そうに見た
ローはこの戦いで自分の限界を感じていた
そうして寿命を犠牲にしたら能力が強くなるのではないかと思い、思考の片隅に仕舞っておいた
「それでもいい!!おれは、絶対にエースを助けなきゃならねぇ!!!だから、頼む!!!」
「麦わらボーイ……」
イゾウとビスタは押し黙りイワンコフとルフィの会話を見守り始める
ローは倒れても尚エースを助けようとするルフィの姿に、何かを見出した
「……ああもう!!わかったキャブル!!ただしこれが最後のテンションホルモン!!!これ以上は投与できない!!」
「ああ!分かった!」
そうしてイワンコフは指を注射器のようにし、ルフィに最後のテンションホルモンを打ち込んだ
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「うわぁ!?ホントに復活した!?」
「ちょま!?揺らすなイゾウ屋……!うっぷ!」
「ロ─────ッ!?」
イゾウはいきなり大声を出して飛び上がったルフィに驚き思い切り立ち上がってしまい、そのせいでイゾウに抱えられたローは体がついて行かず嘔吐いていた
ビスタは目を飛び出させ急いでローを回収した
「イゾウ!!!!急に動くな!!!」
「イテッ!あ……わ、悪いロー」
「いや……気にするな」
「ヴァナータたち一体何してるの!?!?」
ビスタはイゾウの頭を軽く小突き怒鳴った
イゾウはビスタに言われようやく殴られた理由を理解し、平謝りを繰り返していた
そんな3人の様子を見てイワンコフは"なんか想像と違う……"なんて思ったり思わなかったり
「イワちゃん!おれ処刑台まで行きたいんだ!どうにかなんねぇか!?」
「安心しッキャブル!!それなら策はある!!カミナリ!!」
「了解です。イワさん」
モサッとイワンコフの紙から"女"が出てきた
イゾウたちは突然見せつけられた光景に固まって動けなくなってしまったが、ルフィサイドたちはもう慣れたのでそんな程度で狼狽えるわけはない
「では、行きます。着いてきてくださいルフィくん」
「ああ!頼む!!」
カミナリは悪魔の実の能力で手をハサミに変えチョキチョキと地面を切り裂いていかれ、切られた地面は裏返され処刑台まで続く巨大な橋へとなった
「なっ!?能力者か!?」
「地面が橋に…!」
イゾウとビスタは能力者であることにまず驚愕し、まさかそういう用途に使うとは思いもしなかったために信じられないものを見た気分だ
「助かった!じゃあ行ってくる!」
「待て麦わら屋!!もし処刑台に行けたとしても火拳屋には海楼石の手錠が!!」
「鍵なら持ってる!!」
「「「いやなんで!?!?」」」
イゾウ、ビスタ、ローはまさかルフィが海楼石の手錠の鍵を持っているとは思いもせずつい目を飛び出させて大声で叫んだ
その裏には海賊女帝がいることを知るのはもう少しあとの話……
「エース!!」
「ルフィ!!」
駆け上がる己と愛しい弟
つい昔まで泣き虫で弱くて守らなくては直ぐに死んでしまいそうだった弟はもうこの場にはいない
いるのは、たった1人だけに"なってしまった"兄を健気に救おうとする男
エースはいつの間にかこんなに立派に強くなったルフィを見て何か熱いものが胸に込み上げてきた
そんなルフィに立ち塞がる一人の男
「いくらお主でも!!ここを通す訳にはいかん!!」
「「爺ちゃん!?/ジジイ!!」」
立ち塞がったのは"英雄"ガープ
一人の海兵として、英雄は海賊に立ち向かう
例え……血が繋がっていようとも
「そこどいてくれ爺ちゃん!!」
「断る!!どうしてもここを通りたいのなら!わしを殺してから行け!!!」
「ヤダよ!!!おれ爺ちゃんとは戦いたくねぇ!!!」
ガープはその言葉に大きく目を見開き息を飲んだ
……ルフィなら、なんの躊躇いもなくエースを救うために戦うことを選択すると思っていた
(何故じゃ……何故なんだルフィ……!ルフィにとってわしは、恐ろしくて仕方ない存在のはずなのに!)
ガープの誤算は一つ
ルフィが己を恐れて戦ってくれると信じていたこと
ルフィはガープのことを少し恐ろしくも思っていたが、自分を愛してくれていることは痛いほどよく分かっている
この世にただ一人の大好きな"祖父"と敵対なんてしたいわけが無かった
「……っ!!わりぃ爺ちゃん!!!そこ、退いてくれ!!!」
それでも家族の情を持って攻撃を躊躇ってしまうとエースを助けられない
ルフィは"海賊"として"英雄"と決別することを、選択した
振りかざされた右腕
"海賊"と"英雄"は互いに拳を構える
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「来い!!!"麦わらのルフィ"!!!!」
二人の拳がぶつかる瞬間、ガープは歯を食いしばり何かをこらえるルフィの表情に昔のルフィを思い浮かべてしまった
ガープはそっと目を閉じてルフィの"愛ある拳"を黙って受け入れた
ルフィは震える拳を抑えてエースの元へ駆け上がる
ルフィの目元に浮かぶ輝く光は誰にも見られることはなかった
「ガープ中将!!!」
「……あかんなァ」
───爺ちゃん、やめられんかった
祖父"英雄"は孫"海賊"との決別を、最後まで選ぶことが出来なかった