黒歴史SSまとめ④

黒歴史SSまとめ④

シャボンディ諸島②


3人の船長は張り合いながら戦闘を続けた

海兵の頭と胴体を切り離した

そしてローは海兵の頭をまるでボールのように跳ねさせ不敵に笑う

(なんだ、案外拍子抜けだな……この程度ならわざわざ覇気を使うまでもないか)

「撃てぇー!」

海兵は砲弾やら銃弾やらを撃ってきたがルフィが瞬時に飛び出し自身の指を網のように変形させ受け止め砲丸投げの要領で敵に投げつけた

砲弾が効かない三船長にひたすら砲撃を続けていく



そのまま3人はひたすら海兵たちをなぎ倒して行く

その強さは名を挙げたばかりのルーキーとは思えないほど圧倒的なものだ

ルフィが腕を巨大化させた

まるで張り合うかのようにキッドも武器を寄せ集め巨大な手のようなものを作り出した

ローは油断している海兵たちのバラバラな体を面白おかしく組み立てた

その横でキッドとルフィは敵を思い切り殴り飛ばした

とんでもない爆音が響き渡り麦わらの一味、キッド海賊団、ハートのクルー……そしてレイリーたちは出てきた

「なんだそりゃ麦わら屋……締まらねぇな」

「そうか?」

「これでひとまず陣形もクソもねぇだろ」

ルフィは技の反動で体が小さく縮んでいた

海兵もここで諦めるほど甘くは無い

それでも海賊たちを捕まえようと砲撃を開始する

「ふっ……それじゃあな麦わら」

「お前に一目会えて良かった……だが次に会ったときは容赦しねぇ」

「あ?」

ローはキッドの言葉を黙って聞き届けた

「ふーん。ワンピースはおれが見つけるぞ」

でもその言葉にキッドもローも目を見張る

しししっ!とルフィは何が面白いのか笑う

(ワンピース……ロジャーおじ様が見つけ、そして……手放した財宝……)

ローはロジャーからワンピースの話は聞いたことは無い

と、言うよりロジャーはワンピースのことを教えるつもりは一切なかった

なのでローであれワンピースの正体は知らない

そして棒立ちのキッドに向け武器を振り上げた海兵は飛び出してきたキラーに斬られた

「おいキッド!何を突っ立てる!!」

「なぁキラー……おれたちの通ってきた航路じゃワンピースを手にするなんてこと口にすると大口を開けて笑われたもんだ」

「その度におれは笑ったやつらを皆殺しにしてきたがな」

「だがこの先はそれを口にする度胸がないやつが死ぬ海だ!」

「新世界で……会おうぜ!!」

ルフィは黙って最後まで聞き、ローはそれは楽しそうに嗤った

「行くぞお前らァ!」

それを皮切りに海賊と海兵の戦闘は始まりを告げた

「トラファルガー・ロー!」

「あ?」

「さっきはよくも同胞をぉ!!」

体格のいい海兵はローに襲いかかるが……

「ベポ」

「アイアイー!!」

ベポはローの命令通りに敵を薙ぎ倒していくがローはそんなベポに見向きもしないでただ1人大人しくしてるままの巨大な男に近づく

巨大な男を見上げローは不敵に笑った

そのままローは巨大な男の爆弾を外してやった

奴隷だった男は不思議そうにローを見た

「何故だ……」

「ふっ」

奴隷の男を解放したローに海兵たちがどよめく

「おれと来るか?海賊"キャプテン・ジャンバール"」

ジャンバールは目を見開き、その後襲いかかる海兵を一掃していく

「その名を呼ばれるのは久しぶりだ……!天竜人から解放されるならぁ!喜んでお前の部下になろう!」

「ふっ……半分は、麦わら屋に感謝しな」

そのままロー率いるハートの海賊団の戦闘は苛烈を極めた

一方レイリーは麦わらの一味に連れられあの場を離れたがローと少ししか話せなかったことを悔いていた

(だがあの子もしばらくここに留まるだろう……その時に話せばいいか……)



ようやく交わった3つの歯車

その内の歯車2つは"運命"に振り回され続けることになる

それも彼ら"D"が背負うべき"宿命"の1つなのかも知れない


「キャプテン!あれ……!」

「あ?……!?」

ローはシャチが指さした先を見る

そうして目に映った影に目を見開き立ち尽くした

その場にはキッドと七武海"バーソルミュー・クマ"がいた

「何故七武海がこんなところに……!」

「トラファルガー・ローか」

「!!おれを、知ってるのか」

そのままクマは口を大きく開きローに向けビームを放った

ローはそのビームを上手いことよけキッドの横に立った

「ちっ!邪魔すんじゃねぇトラファルガー!」

「ああ!?なんだとユースタス屋!!!」

「喧嘩しないでキャプテン!!」

目が会った瞬間から喧嘩を始めるローとキッド

キラーは首を振り溜息をつき、ベポはローを何とか落ち着かせた

普段はそこまで短気では無いが1度煽られてしまうと乗ってしまうクソガキメンタリティーのローはキッドと絶望的に相性が悪かった

そのことに気がついたペンギンは頭を抱えてしまう

そんなペンギンの肩にそっとシャチは手を置いた

「……トラファルガー・ローはいつもこうなのか?」

「ん?ああ……いつもはこんなんじゃないけどああ見えてキャプテンは案外短気なんだ……売り言葉に買い言葉って言葉あるだろ?そういうことだ」

「そ、そうか……」

そう言って虚空を見つめ始めるペンギンにジャンバールは苦労しているんだろうなと察した

そして先程のシャチのようにペンギンの肩に手を置いた

「その同情が嬉しいのと同時に辛い……!!」

「……」

そっとジャンバールはペンギンの背を撫でてやる

こんな会話をしている内にもローとキッドは競い合いながらクマを相手にしていた

相手にしているクマはビームを出したりして好き勝手に暴れている

ジャンバールはふとクマはニキュニキュの実の能力者であることを思い出した

───はて、ニキュニキュの実の能力はこんなものだったか……とジャンバールは不思議に思った

そしてそれはローも同じことを考えていた

(……おかしい。なんなんだこの違和感は……!)

ローはなんとも言えない違和感を感じ続け不愉快な気分だった

「おい、ユースタス屋」

「ああ!?なんだ!!!」

「おかしいと思わねぇか」

「……?」

ローは自身が感じた違和感をそのままキッドに話した

「あいつの体……人間と思えねぇ程硬ぇ……例えるなら……そうだな、鉄を斬りつけてる感覚だ」

「そしてもう1つ……あいつはニキュニキュの実の能力者だ。おれの知ってる限りニキュニキュの実の能力は手についている肉球でありとあらゆるものを弾き返す能力……」

「なのに今目の前にいるクマはニキュニキュの実の能力でないビームを吐き、体が異常に硬い……」

「極めつけには……"肉球がついていない"」

その言葉にキッドはハッとなり、改めて今目の前にいるクマを見る

確かに言われてみればおかしい

何故言われなければ分からなかった

「それに……いいや、なんでもねぇ」

「ああ?」

(こいつはまだ覇気を知らねぇ……そんな奴に言っても無駄か)

───今目の前にいるこいつは……"人間の気配"がしねぇなんて

クマとの戦闘は苛烈を極めた

でかい図体の割に素早い動きでこちらを翻弄し、ようやく攻撃を当てたと思えば鋼鉄のような体に阻まれ大したダメージを負わせられない

連携を取ろうにもキッドは言うことなんぞ聞く訳もなくローの苛立ちは留まるところを知らない

そして遂に我慢の限界が来た

「おい!!!いい加減にしろユースタス屋ァ!!!」

「あ"ぁ"!?」

そんな物言いにキッドは青筋をたてローにメンチを切った

ローはキレたいのは自分だ馬鹿野郎!!!と思いつつも冷静に物を言う

「闇雲に突っ込んでもコイツには勝てねぇ!!おれに策がある!!手を貸せユースタス屋!!」

「……ちっ!しょうがねぇ!策ってなんだ!」

そう言ってキッドは背後からローを襲おうとしたクマを殴り飛ばしローと背合わせになる

「……やけに素直だな。てっきり反発されるかと思った」

「ああ!?お前が策があるって言ったんだよな!?」

「そうすぐにキレるな血管ぶち破れて死ぬぞ」

「コロスぞテメェ!!!!」

キッドはローの散々な言い分に流石にキレてしまった

正直そいつは1発ぶん殴ってもいいぞキッド

「おれの能力を使う。策はこうだ」

「……」

キレたいのは山々だがここは一時的にでもローと組んだ方がいいと感じたキッドはローの策に付き合うことにした

そんな2人の船長を見たキラーとペンギン(保護者たち)は"最初からそうしてくれ……"とうんざりしていた

「おいクマ野郎!!どこに向けてこうげきしてやがる!」

キッドが空中からクマに攻撃を仕掛ける

だがクマは素早い動きでキッドの懐に潜り込みキッドに向けビームを放つ

だがそのビームはキラーの攻撃によって微かに軌道を変えられキッドが作り出した巨大な鉄の腕に当たった

辺りに鉄屑が舞い散る

だが瞬時に半透明な青いドームが辺りを包み鉄屑がペンギン、シャチ、ベポ、ジャンバールとすり替わる

唐突なことに体が追いつかないのかクマは判断を誤った

固まって動かないクマの隙をつきペンギンは槍をクマに突き刺し、シャチは剣を横に振るい、ベポは頭を蹴り飛ばした

ジャンバールはクマの頭を鷲掴んで地面に叩きつけた

だがクマは頑丈でまだ動こうと足掻いていた

その瞬間クマを掴んでいたジャンバールがローと入れ替わり鬼哭をクマに向け突き刺した

「注射ショット!!!」

その刃が、クマの首に突き刺さる

とてつもない爆音と爆風が当たりを包み込む

ローは鬼哭をクマに突き刺した後その場から飛び上がりジャンバールの横に着地した

「……お前のその能力……とてつもないな」

「当たり前だろ」

その言葉にローは若干照れ臭くもドヤ顔をしていた

ジャンバールはそんなローを見て"見た目の割に案外子供っぽいんだな……"と思っていた

パラパラと砂煙が蔓延しているバトルフィールド

誰もが終わったと思っていた

だが

「……!?いやまだだ!!全員構えろ!!!」

「……?トラファルガーお前何言って……!?」

砂煙から巨大な物陰が動いた

立ち上がった"サイボーグ"は壊れた箇所から電気をビリビリと迸らせ、赤い光を目から放っていた

「なんだコイツ……っ!化け物か!?」

「余所見するなユースタス屋!!下手したら死ぬぞ!!」

「ちっ!そんなこと分かってる!」

キッドとローはクマからの攻撃を避けつつ口喧嘩を繰り返していた

キッドは何度か隙をついて攻撃をしていたがクマはそれを予測したかのように避けてお返しと言わんばかりにビームを叩き返した

ローはキッドを瓦礫と入れ替えキッドを攻撃から避けさせた

だが今までのダメージが蓄積していたのなクマはひび割れた体から電気を漏らしギチギチと体から音を鳴らした

「……なるほどな。ようやく違和感の正体がわかった」

「ああ?正体ィ?」

「コイツは人間じゃねぇ……大方七武海バーソロミュー・クマを素体としたサイボーグだろうな」

「サイボーグ……なるほどな。通りでこんな硬ぇわけだ」

キッドとローは横並びに地面に着地し人間の挙動ではなくなったクマ……もとい"パシフィスタ"を眺めていた

(赤髪屋が言っていた世界政府が開発した新兵器"パシフィスタ"……)

「厄介なことになったな……」

(……使うつもりはなかったがこのままだと全員ジリ貧だ)

「おいユースタス屋」

「ああ?」

「よく見とけ。これから新世界に行くのなら覚えといて損はねぇ」

「お前、何言って……」

ローはそっと鬼哭を構え切っ先をクマに向けた

そのまま目を閉じゆっくりと深呼吸をした

そして目を開き鬼哭を持つ手に力を込めた

「……"武装硬化"」

キィンとローの腕と鬼哭の刃が黒く鈍く輝く

そのままグッと脚に力を込め一気にパシフィスタに近づき鬼哭をパシフィスタの喉元に向け突き刺す

「注射ショット!!!」

流石に武装色を纏った攻撃に耐えられなかったパシフィスタは轟音を上げて爆発した

爆風で辺りの土を巻き上げながらパシフィスタはこと尽きた

「!?なんだあれは……!」

爆風と土煙に目を細めながらもキッドはローが使った覇気に驚愕していた

トンっと軽やかに地面に足をついたローはキッドに振り返りながらこう言った

「これが"覇気"だ。今使ったのは"武装色の覇気"……」

「新世界に行くのならしっかり覇気を鍛えてから行け」

「でなきゃお前……死ぬぞ」

と鬼哭を肩に構えながらローは冷めた目で言い放った

「覇気……?」

「覇気ってのは……あー、なんだ。全人類全員が持ち合わせてる潜在能力みたいなもんだ」

ローは困惑するキッドに覇気の説明をしていく

キッドは多少困惑しながらも話を正確に理解していきローの説明が終わる頃には覇気についてある程度理解し終わっていた

「……大体はわかった」

「……!今の説明だけでわかったのか。馬鹿そうに見えてお前案外頭良いんだな」

「んだとこの野郎!!!!」

キッドは煽ってきていると勘違いしているが実際は一切悪気は無い

ただローは無自覚天然ボーイなのでこれが煽りになっていると理解していないだけだ

「ちっ!コイツ倒し終わったんだからお前との協力関係もこれで終いだ!!!じゃあな!!!」

「おいキッド!!!」

キッドは額に青筋を浮かべながらズンズンと怒りながら船に戻って行った

そんなキッドの様子を見てローはポカンとしながら見送った

「……なんでアイツあんな怒ってんだ?」

「キャプテンのおバカ!!!!」

キッドとローの戦闘が終わった頃麦わらの一味は……


「仲間1人も……!守れない……っ!!」

"本物"のバーソロミュー・クマによって一味は分散

この日、麦わらの一味はこのシャボンディ諸島で完全崩壊した


流石に疲労が溜まっていたローはその後何とかポーラータング号に戻り休息を取っていた

そして目が覚めニュースクーが運んできた新聞により麦わらの一味が完全崩壊したことを知った

何となく麦わらの一味を気に入っていたローは少し残念に思いながらも特に気にする様子もなくシャボンディに目を向けた

ローはふとレイリーのことを思い出し会いに行くことにした

もしかしたらロジャーの話で盛り上がれるかもしれないと航海日誌を持ち見聞色の覇気でレイリーの居場所を探った

「……あそこか」

レイリーの気配を察知しローはクルーに引き止められる前に即座に移動した

「……あれ!?キャプテン!?」

クルーがローの不在を知ったときにはもうローはレイリーの元にいた


カランコロン

耳馴染みのいい音がした

レイリーは酒を飲みながら後ろにいる人物に声をかける

「……まさか、お前からここに来てくれるとは思いもしなかった」

「……聞きたいこともあるしな」

青年は酒を煽るレイリーの横の椅子にズカリと座り込んだ

「お前の手配書を見た日からずっと会いたかったよ……」

「……」

「フレバンスが滅んだ日からずっと私は後悔していた……」

レイリーの話を青年は黙って聞いていた

「もう、あの惨状から生き残った者なんて居ないと思っていた」

「でも生きていてくれた……"生き残ってくれた"」

「……生きてくれて、ありがとう……ロー」

「……どういたしまして」

ローは頭を撫でるレイリーの手を振り払うことは無かった

「……あんたに、聞きたいことがあるんだ」

「……なんだ?」

そっとローは頭を撫でてくるレイリーの手をそっと下ろさせてレイリーと向き合った

「ここに来る前、赤髪屋と白ひげ屋にあった」

「……ああ」

「……2人とも、おれは父様に似てると言ってくれたんだ」

「……」

レイリーは黙ってローの話に耳を傾ける

ローは段々と顔が下を向いていき遂には俯いてしまった

「でも、分からないんだ。おれがやってることは本当に医者なのかって」

ローは太腿の上に置いていた手を握りしめる

「赤髪屋も白ひげ屋ももしかしたらおれに気を使ってそう言ってくれたのかもしれない」

「……おれのやってることは父様みたいに立派な医者でもなんでもない、ただの自己満足なんじゃないかって……っ!」

ローは海賊になってから自分のやりたいことを見失ったことが何度かあった

治した相手から罵倒されたり、臓器提供者の遺族から人殺しと罵られたこと

その度にローは自分のやっていることと父であるレストと比べてしまい苦しんでしまっていた

レイリーはローがこんなに悩んでいるとは思いもしていなく軽く目を見開き言葉を詰まらせた

だが直ぐに緩く顔を緩めローの固く結ばれた拳にそっと手を置きローの顔をあげさせた

「……ロー。本当にお前は優しい子だ」

「やさ……しい?」

「ああそうさ」

レイリーは顔を上げさせていた手を肩に移しローの揺れている心を表したような迷子のような瞳から決して目を逸らさなかった

「優しくなかったらそうやって心を痛めることも、迷うこともなかった」

「……」

「私は医者では無いからお前が求めるような答えを出すことはきっと出来ない」

「でもこれだけは言える。その心は決して無くしてはいけない。ロー、今のうちにいっぱい悩んで、いっぱい考えて、いっぱい人を助けるんだ」

「今はまだお前が思う医者にはなれていないかもしれない。それでもきっといつか自分の思う立派な医者になれる」

「自分を信じろ。ロー。お前は、医者だろ」

その言葉にハッとローは目を見開く

自分を射抜く力強いその瞳に心が震えた

(……ああ。そうだよな。おれが自分のことを信じられなくて誰を治すんだ)

「……そうだな。ありがとう。冥王屋……おかげで吹っ切れることが出来た」

そう言ってレイリーを見上げるその目は迷いは一切なかった

レイリーはそんなローの様子に満足したかのように笑っていた

(シャンクスの言う通り、ローはレストによく似ている)

レイリーはそっとローの頬を撫で、その姿にレストの幻影が重なって見えた

「あ、そうだ。なぁ、麦わら屋たちはどうした」

「……それは」

「私から説明するわ」

今まで静観していたシャクヤクが煙草を吹かしながら説明役を買って出る

「ああ、助かる……?あんた誰だ」

「事の始まりはこうよ」

「だから誰だよあんた」

ローの言葉を無視してシャクヤクは説明を始めた

ローは最初誰だこいつ……と思っていたが横からそっとレイリーが答えてくれたから疑問は消えた

そこから話に集中してようやく麦わらの一味にあったことを知った

「……なるほどな。そんなことがあったのか」

「いやはや大将1人足止めすることしか出来ないとは私も歳をとったものだ」

「足止めできるだけ十分だろ」

ローはレイリーから差し出されたウイスキーを煽りながら話を続けていた

今日初めて会ったはずなのに昔からの知り合いのように話が弾む

そのことにローは少し嬉しかった

だが今日の新聞を読んでいたシャクヤクが声を上げた

「……これ」

「ん?どうしたんだねシャクヤク」

「火拳のエース公開処刑……場所はマリンフォードみたいね」

その言葉にローはバッと目を見開きグラスをカウンターに叩きつけた

「……っ!?ちょっと見せてくれ!!」

「ロー?」

いきなり豹変したローを驚いたようにレイリーは見詰めた

だが直ぐにローは白ひげと懇意にしていたことを思い出した

大方ローはエースを気に入っていたのだろう

レイリーは頬をポリポリとかいた

ちょっとしか話してないがローはロジャーによく似ていた

恐らくこのままマリンフォードに突撃するんだろうなと察した

「……黒ひげ、マーシャル・D・ティーチが王下七武海に任命……火拳のエースがマリンフォードにて公開処刑……」

ローは大きく目を見開きタラタラと冷や汗を流していた

海軍に捕まったときはまさか処刑されるとは思いもしておらずつい大袈裟に反応してしまった

白ひげのことだからエースを助けにマリンフォードで戦争を仕掛けるだろう

エースのことは気に入ってるしそれなりに上手くやっていた

麦わらの一味がこうなった以上気に入った人物がいなくなるのは避けたかった

「……」

「行くんだろう?」

レイリーは残りの酒を一気に飲み干しそう言い放った

「……ああ。もう、手遅れにはなりたくないんだ」

そう言って前を見詰めるローの瞳は決意に満ちていた

「そうか。気をつけて行くんだぞ」

「分かってる」

そう言ってローはバーを出て行った

「……いいの?止めなくて」

「ああ。あの子なら大丈夫さ」

「それに……」

「いいや、なんでもない」

「なによニヤニヤして」

レイリーは口元を緩め笑った

途中で言葉を飲み込んだレイリーにシャクヤクは溜息を付きつつ呆れたように笑った


───ローには頼もしい守護霊がいるからな

『おれに任せとけ!相棒!』



「あ、キャプテン!今までどこ行って……」

「ペンギン。今すぐ船を出せ」

ローはペンギンに船を出すよう指示した

ペンギンは唐突なことに目を白黒させその場に棒立ちになった

「船を出すってどこに……」

「白ひげ屋のとこだ」

「ハァ!?」

ローの唐突な行動にペンギンは声を荒らげてしまう

その声に反応したクルーたちがなんだなんだと集まってくる

「なんでそんな急に……ってうわ!?」

ローはペンギンに持ってきた新聞を投げ渡す

ペンギンは多少慌てながらもあ何とか丸まっている新聞をキャッチして新聞を読み始めた

他のクルーたちも気になって新聞を覗き込んだ

そして新聞に書かれていることを見て目を見開いた

「火拳のエース……公開処刑!?」

「そういうことだ」

ローは白ひげのビブルカードを確認しつつ白ひげの電伝虫にコールをかける

「まさかアンタ……火拳の公開処刑にカチ込むつもりなんですか!?」

「?そうに決まってるだろ」

ペンギンは絶句した

己の船長はここまで破天荒だったかと

だがこの様子のローに何言っても無駄だと察し頭を押えながらハクガンに出航命令を出した

「……いいのか?」

「……ああ。もう、諦めるしかない」

そう言って宙を見つめるペンギンの目には光が点ってなかった

そんな調子で白ひげのとこに辿り着いたロー

クルーたちを引き連れ堂々と白ひげの本船を練り歩く

因みに白ひげの病気を治してからハートの海賊団は白ひげ海賊団、又その傘下からは丁重に扱われており、顔パスで本船に乗り込むことが可能だ

ジャンバールはまさかローが四皇と知り合いとは思いもしておらずおっかなびっくりしながらローについて行った

「よう白ひげ屋」

「……グラララララ!よく来たなトラ小僧!!」

「おい、酒は程々にしろって言っただろうが。こんなに飲みやがって」

「悪いねい。何度言ってもオヤジが言うこと聞いてくんねぇんだ」

ローは白ひげに横に転がってる酒樽を見て呆れたようにため息をついた

「……それで、何の用だトラ小僧」

「……あんたんとこの2番隊隊長火拳のエースについてだ」

「……」

ここから厳しい交渉になる

それでも、これ以上誰か大切な人を失いたくは無い

「新聞を読んだ。これから火拳屋が処刑される」

「あんたらはマリンフォードに火拳屋を救いに行くんだろ?」

「何が言いてぇトラ小僧……」

白ひげは眼光を鋭くしてローを睨んだ

後ろにいるクルーはあまりの迫力に後退りをしてしまった

だがローはそれに一切怯えることなく白ひげの目を真っ直ぐ見つめた

「おれも、連れてってくれ」

ブワァンととても強い覇王色がローにぶつけられる

直接ぶつけられたわけではないクルーやマルコたち白ひげ海賊団のクルー全員後退りするレベルの覇王色

だがそれにローは冷や汗1つかくこともなく白ひげを見つめ続ける

「テメェ……それがどんなことか分かってるのか」

「ああ」

「下手したら死ぬんだぞ」

「分かってる」

「何故、一緒に行きたいんだ」

「……」

ローは少しだけ目を閉じた

閉じた先で見たのは大好きな人"コラさん"が雪の中に倒れ伏せ、息絶える姿

ローは少しだけ呼吸を震わせ、また目を開けた

「……もう二度と、大事な人を失わないためだ」

「……グラララララララ!!わかった!同行を許可しよう!」

その言葉を合図に白ひげは重いぐらいの覇気を飛散させた

ローは緊張が解けて今冷や汗をかき始めた

ホッと息を吐いた瞬間背中にドンっ!と衝撃が走った

「すげぇなロー!あのオヤジに許可を取らせるなんてな!」

「さすがローだな!」

「ちっ!やめろビスタ屋、イゾウ屋!!」

ビスタやイゾウにもみくちゃにされたローは何とか引き剥がそうとするも筋量の差からそれは不可能だった

「よいよい。全くその無茶は誰に似たんだか」

「なんだよ不死鳥屋!!!頭雑に撫でんな!!!」

こうして同行を許可されたローはマリンフォードに突入するまで只管可愛がられた


遂に、世界の行く末をかけた戦争が始まる

勝つのは混沌"海賊"か、それまた秩序"海軍"か

新時代を迎えるのは果たしてどちらなのか



「……サッチ屋が殺された?」

「そうだよい。その事に激怒したエースが船を飛び出して、この結果だ」

「……そうか」

ローはそっと目線を下に下げた

なんだかんだいいながらローはサッチのことを気に入っていた

梅干しやパンが嫌いと言ったら無理に食べさせることなく代わりの物を用意してくれたし、たまに船にやってくると好物を多めに作ってくれたりと可愛がってくれた

ローは優しげに笑うサッチの顔を思い浮かべ帽子の鍔を掴んで深く被りこんだ

「……悲しんでくれて、ありがとうな。ロー」

「……」

マルコは帽子の上からローの頭を撫でた

ローはその手を振り払うことなく、受け入れていた

「サッチ屋の遺体は……」

「海に流してやったよい……アイツは自分が死んだら遺体は海に流して欲しいってずっと言ってたからな」

「……そうか」

ローは渡された食事にようやく手をつけた

話し込んだせいでとっくに冷めきった食事は、何故だかとてもしょっぱかった

「そろそろか……」

ローはコーティングされたモビーディック号の中でそっと鬼哭カチャンと鳴らしていた

ローは白ひげの船に乗り込んでからずっと考えていた

何故自分はエースをここまで気にかけるのだと

そこで気づいた

似ているのだ

己が叔父と慕い、可愛がってくれたロジャーに

なんでそう思ったのか、自分でも検討がつかない

それでもローは本能的な部分でそう感じた

そして懸念はもう1つ、……ドフラミンゴだ

ドフラミンゴは王下七武海の内の一人であり、ローの恩人であるコラソンを殺した張本人

このままこの戦争に参加したら十中八九かち合うことになる

だが、それでもローは良かった

これでエースを救えるのならと

(ロジャーおじ様……見ててくれよ。絶対助けるから)

『ああ。ロー、お前ならできる。自分を信じろ』

ローはハッと目を見開き後ろに勢いよく振り向く

そこには誰もいない

ローはそっと手を置かれたような気がした右肩に手を添え、意を決してドアを開けた

ドアを開けた先には白ひげ海賊団が甲板に並び前を向いていた

白ひげ海賊団が全員目に決意を宿し構えている様は、精悍で、それでいて……とても頼もしかった

「……覚悟は出来たかトラ小僧」

「ああ。そんなもの……とっくにできてる」

白ひげはローの目を横目で見て、フッと笑った

「それならいい……スゥ」

「野郎どもォ!!!!腹ァくくれぇ!!!!」

「うぉおおおぉぉおぉおお!!!」

「今からおれたち白ひげ海賊団は!!!」

「エースを救いに!!海軍と全面戦争を仕掛ける!!!!!」

「全員死ぬ気で戦えぇぇぇ!!!!!!」

「トラ小僧ちょっとこい」

「?なんだ」

ローはマリンフォードに突撃する前に白ひげに呼び出された

ローは少し疑問に思いつつも素直に呼び出しを受け入れた

「エースについて、話しておくことがある

「火拳屋について……?」

白ひげは話すことを躊躇しているようだったが、やがて重い口を開いた

「エースはロジャーの息子だ」

「……は?」

ローは目を限界まで見開き数拍置いて自然と言葉が溢れた

「ちょっと待て!!火拳屋がロジャーおじ様の息子ってどういうことだ!!ロジャーおじ様は一言も息子がいるだなんて……!!」

だがローはふとロジャーがこう言っていたことを思い出した

『もしおれに子供ができたら、仲良くしてやってくれ』

ローはその場に立ちつくした

だが、もしそうならルージュはどうなった?

海賊王の子供だなんて世界政府が認めるわけが無い

そのことは己が1番よく知っている

「……じゃあ待てよ……もし火拳屋がロジャーおじ様の息子だとしてルージュおば様はどうなったんだよ!!!」

「……」

問い詰めると白ひげは完全に押し黙ってしまった

その反応からローは全てを察してしまった

そういえば昔、南の海で妊婦狩りが起きていた

当時自分は幼くそれがどういう意図なのかを察することが出来ず、今の今まで妊婦狩りのことすら忘れていた

「……うそだろ……っ」

ローは俯きダラダラと脂汗を流していた

白ひげは黙ってローを見つめていたが、遂に口を開いた

「……改めて聞くぞ。トラ小僧」

「!」

「これを聞いてもなお、お前はエースを救いに行くか?」

「……」

そっと、それでも力強くローは握り拳を作った

正直いきなりの話すぎて頭がついていけていない

それでもエースがロジャーの息子と言うのなら、尚更助けに行きたい

「見くびるなよ白ひげ……っ!おれは、1度決めたら必ずやり遂げる!!」

「……!!グラララララ!そりゃあ悪かったな!」

その答えに満足した白ひげは自身の得物を肩に構え立ち上がった

「話はこれで終いだ。……覚悟は出来てるか、トラ小僧」

「ふんっ!舐められたもんだ。この程度でビビってられるか」

ローは不貞腐れたように鬼哭を持ち上げ白ひげの横に並び立つ

「グララララ!そう不貞腐れるな。少し揶揄っただけだろう」

白ひげは拗ねるローの頭を一撫でし白ひげ海賊団の本船であるモビーディック号の船主に乗った

「さぁ、始めるぞ!!!」

「「「「「「おう!!!」」」」」」



遂に物語の線は交じりあった

ただ正史との違いは、ここに1つの"異分子"が紛れ込んでいること

この異分子によって起きる歪みは一体、何を巻き起こすのか

一つだけ言えることは、この異分子がこの物語の鍵になることのみだ

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